こうげ・やすゆき

カンペールジャパン代表取締役社長。1973年生まれ。東京大学卒。アンダーアーマーやアシックスでマーケティングおよび経営企画の要職を歴任。2020年3月から現職。趣味はスポーツ全般で、トライアスロンではアイアンマン完走の実績を持つ。モットーは「明るく楽しく元気よく」。

未開のマーケットへのチャレンジ

カンペールのジャパン社が新体制になるタイミングで社長に就任されました

「シューズブランドは数多ありますが、カンペールはアイデンティティーが明確に差別化されています。"playful(プレイフル/遊び心あふれる)"というコンセプトが、商品や店舗デザイン、マーケティングコミュニケーションなど、全てのビジネス活動にDNAとして組み込まれているのです。その背景には"歩く"という行為、移動時間を楽しくしたいという創業者の思いがあります。以来、46年余り(ファミリービジネスとして靴製造を始めたのは1877年)、その姿勢を貫いてきました。しっかりとした根を持つブランドを日本で育てていくことにとてもやりがいを感じました」
 

遊び心と言えば、「ツインズ」シリーズは象徴的ですね

「靴なのに左右非対称のデザイン、そういうことを自然にやってしまうんです。他にもユーモアを利かせた商品はたくさんあります。伝統的な靴作りを基本にしながら、新たなデザインや機能を追求し、サステイナブルな素材を使うなど環境にも配慮しています。でも、どんどん売ろうということがないのです。良い意味で野心がないというか、本国の風土からか、質実なんですね。"プレイフル"を追求していく過程で、マヨルカ島からスペイン本土へ、ヨーロッパやアメリカへ、さらにアジアへとグローバル化していったというイメージです」

コロナ禍の昨年、マヨルカ島の本社に送った日本の全店舗のスタッフの写真をちりばめたクリスマスカード。「一緒に頑張ろう」のメッセージは世界の店舗で共有された
靴業界で初めて左右非対称のデザインを採用した「ツインズ」

日本ではどんな展開をしていこうと考えていますか

「カンペールは世界では性別・世代を問わず支持されていますが、日本では女性のミドル・シニア層が中心で、若者層や男性層の認知がまだまだです。日本での流通が百貨店の婦人靴売り場から広がったことによります。既存のお客様・販路を大切にしながら、今後のポテンシャルである未開のマーケットを開拓していきたい。接点開発として、ファッションビルや未出店エリアの有力商業施設でのポップアップ展開を強化し、SCへの出店、セレクトショップへの卸にも取り組んでいます。今年3月に出店した大阪のホワイティうめだ店ではメンズを拡充しました。来春には九州に開業するららぽーと福岡に出店予定で、若者層やファミリー層に向けたコンセプトショップにしていく計画です。セレクトショップについては、都内にはカンペールの靴を買える場がたくさんあるので、地方の店に焦点を絞っています」

ポップアップで新たな客層との接点作り(渋谷スクランブルスクエア)
ホワイティうめだ店ではメンズを増やし、男性客にも訴求

新たな販路で価格がネックになったりはしませんか

「確かに価格は高めですが、今の時代は追い風が吹いていると捉えています。消費の2極化が進んでいますが、良いものにはしっかりとお金を使う、安いものを二つ買うよりは良いものを一つ買う、サステイナビリティーを重視するといった価値観の広がりを実感しています。異なる販路でも、ブランドや商品の背景を正しく伝えれば、受け入れられる環境になってきている。挑戦する価値はあると思っています」

ブランドの価値伝達をしっかり、コツコツと

コロナ禍ではECが急伸しました

「当社もECのシェアは上がっています。とはいえ、伸びているから強化するという考えはありません。店頭でしっかりとブランドを伝え、一人でも多くのお客様に商品を体感していただき、好きになっていただく。この取り組みをコツコツと続けていくことが、カンペールのビジネスの根幹だと思うのです。その最前線にいるのがスタッフであり、ブランドの魅力や強みを熟知し、ストーリーとして伝えられる存在はやはり大切です。だからこそ、社員教育には力を入れています。私も時間があれば店舗に行って、スタッフと話しています。現場で起きていること、私が感じ考えていること、本国とのやりとりで得た知見など、様々な情報を共有しながらチームプレーで"これから"に向かっていける力を培っていきたい」
 

リアルの接客を重視する。その場となる店舗もプレイフルですね

「"カンペール・トゥギャザー"というプロジェクトによるものです。人に個性があるように、店舗ごとに個性があっていいという考えから2005年にスタートし、アートや建築、ファッションなどのクリエイターと店舗デザインを行ってきました。例えば新宿フラッグス店はデザインオフィスnendo、名古屋ラシック店と銀座松屋店は世界的に活躍するデザイナーであるアルフレッド・ハベリさんなど、海外ではバルセロナ店は建築家の隈研吾さんが設計しています。商品開発でも多様なコラボがあります。ブランドと親和性が高く、優れた感性を持つデザイナーと共に、"プレイフル"の世界観を広げていく取り組みです。また、本国のカンペールはアパレルも展開し、ホテルやレストランも運営しています。靴以外にもノウハウを蓄積しているので、ライフスタイル全般がビジネスドメインになる可能性があります。カンペールらしいライフスタイルの面白みを表現できるのであれば、日本でも新たな業態が生まれるかもしれません」

取材/久保雅裕(くぼ まさひろ)

隈研吾さんが手掛けたバルセロナ店
nendoの佐藤オオキさんが手掛けた新宿フラッグス店。コンセプトは「靴が空中を歩きまわる店」

久保雅裕(くぼ まさひろ)encoremodeコントリビューティングエディター

ウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長。杉野服飾大学特任教授。繊研新聞社在籍時にフリーペーパー「senken h(センケン アッシュ)」を創刊。同誌編集長、パリ支局長などを歴任し、現在はフリージャーナリスト。コンサルティング、マーケティングも手掛ける。2019年、encoremodeコントリビューティングエディターに就任。

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