古橋 彩(ふるはし・あや)FURFURチーフデザイナー

文化服装学院アパレルデザイン学科卒業後、2006年「FUR(ファー)」を立ち上げ、デザイナーとしてデビュー。リブランディングを重ねながら、2021年にブランド創立15周年を迎えた。

デザイナーの自己表現から、着る人が喜ぶ服作りへ

古橋さんはブランドの立ち上げ時からデザインをしてきました。この間、ブランドの母体も変わり、服の表現も大きく変わりましたね

「私はデザイナーのチダコウイチさんが手掛けていたブランド"OUT OF ACTION(アウトオブ アクション)"のアシスタントデザイナーとしてキャリアをスタートしました。その中のレーベルとして、チダさんがディレクター、私がデザイナーというユニットで2005年に立ち上げた"FUR(ファー)"が、現在の"FURFUR(ファーファー)"の始まりです。08年春夏から東京コレクションに参加し、その年の秋冬から"furfur"に改称してブランドとして本格始動しました」

かなりストイックな服作りをしていた印象があります

「当時のコンセプトは"不完全なもの、はかないものへのいとおしさ、ぼろぼろで歪んだ服の中にあるエレガント"。お客様のためというよりは、私たちの自己表現として、トレンドも関係なく、手作りの一点物など他にない世界観を表現しようとコンセプトをストイックに追求していたんです。小さなコミュニティーの中に熱狂的なファンがいるというイメージのブランドだったと思います。現在は当時では考えてはいなかったカワイイとか甘いという要素も入れたフェミニンな表現になっています。私の中ではそれに対しての違和感はなく、素直にお客様に喜んでいただきたいという気持ちなんですね。結果として、以前とは全く異質のブランドになっています」

「furfur」時代のコレクション(JFW 2012年春夏コレクションより)

2013年にマッシュスタイルラボに入って、マッシュホールディングスの近藤広幸社長をディレクターに迎え、リブランドしました。やはりこの頃から服作りに対するスタンスが変わっていったのでしょうか

「そうですね。コンセプトも、ターゲットも、ブランドロゴも一新しましたから。ブランド名は小文字の"furfur"から大文字の"FURFUR"になり、コンセプトは"Feminine Mode Wears(フェミニン・モード・ウェアーズ)"へ。フェミニンであることが絶対条件になったということです。それまでのファーファーには、女性を女性らしく素敵に演出するという考え方そのものがなかったので、一から叩き直されたというか。生地や色の選び方、コーディネートなども学び直しました。フェミニンさの中に力強さがモードとして表現され、全身をファーファーでコーディネートせずに1点だけを取り入れても着る人を輝かせる"単品力"を持った服。そこに"今っぽさ"がどう表現されているか。そういう考え方で、お客様の顔を思い浮かべて服作りをするようになりました」

テーマを抽象化、デザインの広がりを生む

とくにこの数シーズンは、クリエーションに磨きがかかってきたと個人的には感じています

「商品に対する反応は人によって違いますし、自分自身の反省点も毎回あり、修正、改善の連続です。というのも、リブランディングをしながらも根底では"人と違ったファッションをしたい"という、他者へのアプローチとして服を作っていたなと思うんです。その表現が"ちょっと変わっていて面白い"と評価されてはいたんですけど、お客様の視点で見たときに"誰が着るんだろう""リアリティーがない"と22年春ごろに実感したんですね。コロナ禍で海外に行けない状況だったので旅をする気分を味わってもらえるよう、"WORLD’S PATTERN MIX(ワールド・パターン・ミックス)"をテーマに世界の柄を刺繍などで表現したコレクションです。分かりやすいテーマで面白い表現ができたのですが、それ以上には広がっていかないんですよ。ディレクターと話し合い、テーマのあり方から変えていくことにしました。それからは具体的なワードではなく、空気感や気分を表すようなワードを選ぶようにしています」

「WORLD’S PATTERN MIX」。シノワズリや更紗、ロシアンタペストリー、アメリカンキルトなど世界各地で古くから伝わる柄や技法を洋服に落とし込み、ミックスコーディネートで提案

ということは、22年夏物からテーマのありようが変わった?

「より抽象的に"DANCE with SUNNY(ダンス・ウィズ・サニー)"をテーマにしました。陽だまりの中で踊り出したくなるような高揚感を表現したコレクションで、ワンピースやサマードレスなどを中心に展開しました。22年秋物は"SUGARY ADDICTION(シュガリー・アディクション)"。甘い依存症を意味します。夏物が甘さに寄り過ぎて物足りなく感じたので、ちょっと毒を含んだテーマを設定しました。魔女の世界とか、そういうイメージです。冬物ではその続編として"STRANGE TRANSLATION(ストレンジ・トランスレーション)"をテーマに、自然が内包する毒を独自に解釈して表現しました。フェミニンなドレスに、あえてアウトドア要素のあるバックパックをコーディネートしたりしています」

  • 2022年夏コレクション「DANCE with SUNNY」
  • 2022年秋コレクション「SUGARY ADDICTION」
  • 2022年冬コレクション「STRANGE TRANSLATION」

このほど23年春のコレクションを発表しましたね

「"Montage of Attraction(モンタージュ・オブ・アトラクション)"、この間で最も抽象的なテーマです。お客様は春のどんなシーンでどんな服を着たいのか、というところから考えました。やはり、新しく出会う誰かに自分のことを良く見てもらいたい、だからおしゃれをして出掛けたいのだと思うんです。そのときに、変わった服で自分を演出したいわけではなくて、きれいなシルエットや心地よい素材など、上品だけれど少しだけ個性があるものを求めているのではないか。そんな服を楽しむ様々なシーンをモンタージュしたコレクションになっています」

2023年春コレクション「Montage of Attraction」

どんな商品で構成しているのですか

「大変評判が良いのが、スリーウェイトレンチコートです。短丈のブルゾンとジレで構成しています。ブルゾン単体ではトレンドの短丈でコーディネートを楽しめ、ジレはボタンを留めればワンピースとして、前を開けてインナーと合わせればロングジレとしても着られます。メンズライクな色使いにこだわり、トラッドな雰囲気に仕上げました。昨年人気だったインターシャジャカードの猫柄ニットセーターは、今回は胸部分に3匹の猫を登場させました。猫の毛並みは長短のフェザーヤーン、顔は刺繍で表現し、立体感を持たせています。ニットでも全く異なる風合いで好評なのが、ダブルジャカードのカーディガンです。過酷な砂漠で真っ白い花を咲かせるゴーストフラワーの柄を編み上げました。ストレスフリーで、軽いジャケット感覚で羽織れます。また、カットワーク刺繍のシャツもお薦めです。カットワーク刺繍というと可愛らしいアイテムを想像しますが、あえて直線のみで柄を構成し、構築的なブラウスとキュロットにしました。細いはしご型のレースからの"控えめな肌見せ"が特徴です。
カットソー工場の残反をアップサイクルしたワンピースも、ぜひチェックしていただきたいですね」

  • ショートトレンチ、ロングジレ、ワンピースとして楽しめる「スリーウェイトレンチコート」
  • 昨年人気の猫柄ニットがバージョンアップ、「トリプルキャットセーター」
  • 「カットソー刺繍ブラウス」。袖はボリュームのあるパフスリーブで、身頃はコンパクトめに。キュロットとセットで
  • 「ブーケジャカードカーディガン」は少しシェイプしたボディーと袖口に向けて広がるベルスリーブによるシルエットも特徴
  • 「フラワー刺繍鹿子ワンピース」。超ハイゲージの高品質な鹿子の残反をアップサイクルしたカットソーワンピース

自ら変化したことに対して、評判はいかがですか

「顧客様を招いた受注会の売り上げは伸びています。数字がついてきているという意味では、お客様から良い評価をいただいているのではないかと思っています。ただ、卸先やメディアなどチャネルごとに評価は様々です。それまでの"変わったことをするブランド"としての独自性やクオリティーに対する期待もあって、"すごく甘くなった""ちょっと物足りない"といったご意見もあります。今後の方向性としては、ある程度の規模感を持ったブランドにしていく計画なので、より広いマーケットへの発信を強めますが、"つまらなくなった"とは言われたくありません。"賛"も"否"も謙虚に受け止め、ファーファーらしくブレンドしていくことが課題です」

売り場のスタッフはブランドの表現者

ファーファーは現在、東京、名古屋、大阪を中心とした7店舗。ブランドの魅力を伝える大切な存在がスタッフです

「シーズンのテーマを理解し、お客様に商品とその背景にあるストーリーをしっかりと伝えてもらいたいと思っています。展示会や店長会でテーマの意味、デザイナーの思い、商品のこだわりなど詳しく説明しています。また、ファーファーでは期中企画を積極的に行っているのですが、その商品は現場のスタッフの意見やアイデアに基づいて作ることが多いですね。"この商品に合わせる、こんなものが欲しい"など、お客様との接点になっているからこその声なのでとても参考になります。他にも、VMD担当が定期的にスタッフから各自の取り組みを提出してもらっています。"シーズンテーマを連想させる色に髪を染めました"とか、"シュガリー・アディクション"のときには"砂糖菓子のようなネイルにしました"というスタッフもいたり。自分自身が表現者になってブランドを伝えてくれているんですね。本当にファーファーが好きで、ブランド愛が強い。私の元気の源になっているので、私からも気持ちを伝えられるように手紙でコメントを返すようにしています」

2023年春コレクションの展示会

店長会や展示会以外にも、現場とのコミュニケーションが結構あるということですね

「そうですね。コミュニケーションやモチベーションを高めるためにも、ディレクターからは"(スタッフを)頼ってあげなさい"と言われます。実際、話を聞く、相談することによって、スタッフは応えてくれるんです。例えば"次はこんな商品を考えているんだけど、丈はもうちょっと短いほうがいいかな。みんなにも聞いてもらえますか"と問いを投げると、私が思っていた以上にコメントが返ってきます。ファーファーでは今、サイズ展開を強化していますが、それも小柄なお客様が"かわいい服なんだけど、ウェストが大き過ぎて選んでいただけない"という声が多くあったことがきっかけです。現場の意見を聞きながら、通常のFや0サイズから着丈や袖丈などをリサイズした"00サイズ"が生まれました。ファーファーはマッシュの中でも顧客比率の高いブランドですが、それはスタッフがお客様をしっかりと理解し、接客していることの証しです」

変化・変容をしながら16年目の今を歩んでいる。今後についてはどんなことを考えていますか

「今年9月にルミネ新宿2に旗艦店を出店しました。これまでよりも規模感のあるブランドにしていくという意味で、次のステップに進んだと認識しています。より多くのお客様にファーファーの服を楽しんでいただけるよう、より今まで以上に成長して、会社にも社会にも貢献できるブランドにしていきたいと思っています」


写真/遠藤純、マッシュスタイルラボ提供
取材・文/久保雅裕

旗艦店と位置づけるFURFURルミネ新宿2店

久保雅裕(くぼ まさひろ)encoremodeコントリビューティングエディター

ウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長。杉野服飾大学特任教授。東京ファッションデザイナー協議会 代表理事・議長。繊研新聞社在籍時にフリーペーパー「senken h(センケン アッシュ)」を創刊。同誌編集長、パリ支局長などを歴任し、現在はフリージャーナリスト。コンサルティング、マーケティングも手掛ける。2019年、encoremodeコントリビューティングエディターに就任。

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