通算6枚目、そして7枚目となる新作『MANSTER』『MANTRAL』は各14曲入りで、1人の人間の中に存在する感情や性質、多面性を全28曲で表現した作品だった。『MANSTER』には他者から見たときの人間の性質、『MANTRAL』にはニュートラルな人間性をテーマに制作された楽曲を収録。タイトル「MANSTER」は「人間=Human」と「モンスター=Monster」、「MANTRAL」は「人間=Human」と「マントル=Mantle」という言葉から彼らが生み出した造語である。いうまでもなく今回のツアータイトルの「M」も、この2枚のアルバムの頭文字から名付けられたものだ。

ツアーファイナルの会場であるZepp Hanedaに到着すると、まるで舞台のようなステージ上の豪華なセットに驚かされる。中央には玉座が鎮座し、前方に向かってレッドカーペットが伸びている。向かって右、ギターアンプの前にはキャンドルが灯された晩餐会用のテーブル置かれ、さらにステージ背面のバックドロップには、「KING M」の肖像画が掲げられている。

オープニングパートは演劇「~M王暗殺~」。戦乱の世を平定し、北海大陸を統一した英雄、その名声を国中に轟かせていたM王の物語。M王に扮した尾崎雄貴。王の信望篤く、しかし静かな野心を秘めたフミティ将軍に岩井郁人。知恵に優れ、王に仕えつつも妖しい術を繰るオチャ大臣に岡崎真輝。王の実弟ながら城付きの料理長という身分に甘んじているカズケウス殿下こと尾崎和樹……今宵、王と王国の繁栄を祝う宴が催されようとしていた。「遠方から呼び寄せたあの楽隊と吟遊詩人たち。素晴らしい演奏であった。しかしなぜにあのアンコールという無粋な文化があるのかのう」そんなM王のモノローグに導かれ、王を取り巻く愛憎劇が幕を開ける。

実は、この2枚のアルバムをレコーディングしていた時から、バンド内では「ライブで劇をやろう」という話で盛り上がっていたことを、この日のMCでリーダーの尾崎雄貴(Vo、Gt)が明かしていた。そこからアルバム制作は劇ありきで進み、実際にこの日のライブはメンバー自身が演技をしつつ、2部構成で行われた。

「~王国での宴~王の弔い~KING M」と題された第1部は『MANTRAL』からの楽曲を中心に、「~M王復活~」と題された第2部は『MANSTER』からの楽曲を中心にセットリストが組まれていたことからも、この日のライブと2枚のアルバムは密接に連動していることは間違いない。

「僕はいつも歌詞を書くとき、自分自身のことをそのまま書くのではなくファンタジーに昇華して曲にしています。今回、Galileo Galileiというバンドの17年の道のりや、メンバー同士の関係性、そういったものを表現する手段として“ファンタジーにしたらどうだろう?”と。そこから劇を思いついたんです。……きっとここにいるみんなは、一体何を見せられてるんだ?と思っただろうけどね」そう言って雄貴は笑う。

確かに、何の予告もなく始まった演劇に、観ているこちら側は少なからず面食らってしまったことは事実だ。が、アーティストがこうやって自分たちの思いつきを自由に形にし、それを「ファンはきっと大きな心で受け止めてくれるだろう」と信じられる環境が整っているのは、本当に稀有で恵まれていることだと筆者は思う。

たとえばビートルズが架空のバンド、サージェント・ペッパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンドと名乗り同名のコンセプトアルバムを作り上げたのも、その直後に行き当たりばったりのバスツアーを収録したフェイクドキュメンタリーの先駆けのようなTV番組「マジカル・ミステリー・ツアー」を製作したのも、バンドのふとした思いつきを形にできる環境にあったからだろう。

前置きがすっかり長くなってしまった。この日のライブは暗殺されたKING Mの葬儀で、極東の国、ジパングのバンド、Galileo Galileiが追悼公演を行うという設定でスタート。お馴染みのサポートメンバーであるBBHFのDAIKI (Gt)、大久保淳也(Sax、Key)を迎えての6人編成で、小曲「KING M」を亡き王に捧げた後「MANTRAL」を演奏、めくるめくシューゲイズサウンドで会場を埋め尽くした。間髪入れずに「リトライ」「若者たちよ」とアルバム『MANTRAL』からの楽曲を畳みかけ、メンバー紹介をしてから「あそぼ」の弾むようなイントロを奏でると、フロアからは大きな歓声が沸き起こる。

「LOVE LOVE LOVE」とリフレインする歌詞がビートルズの「All Need Is Love」を連想せずにはいられない、多幸感あふれるドリームポップチューン「カルテ」、雄貴と岩井郁人(Gt)がアコギに持ち替え、北海道の大地を彷彿とさせる雄大なサウンドスケープを展開した「カラスの歌」、眩い光に包まれ再びシューゲイズサウンドを展開した「UFO」と、さらにアルバム『MANTRAL』の世界へとオーディエンスを誘(いざな)ったあと、人気曲「ギターバック」を披露し第一部を終了した。


信頼していた側近フミティ将軍に暗殺されたKING Mが、棺桶の中から復活するという演劇からスタートした第2部は、その魔王と化したKING Mがみなぎるパワーを開放する様子を演奏で表現する設定でスタート。岡崎真輝(Ba)が繰り出すスラップベースと尾崎和樹(Dr)のタイトなドラムに導かれ、王冠を頭に戴いた魔王KING Mこと雄貴が「MANSTER」の妖艶なメロディを歌い上げる。

そして、アルバムの中でもとびきりハードな「CHILD LOCK」では、雄貴が激しくシャウトをすると、オーディエンスの熱気は急上昇。さらにダークエレクトロチューン「SPIN」、朋友ポーター・ロビンソンからの影響も窺える「ロリポップ」、そしてストレンジかつサイケデリックな「PBJ」と、アルバム『MANSTER』からの楽曲を息つく暇なく披露していく。

ライブ後半は、生きていく中でそこはかとなく抱く不安や恐怖をノスタルジックなメロディに乗せた「ブギーマン」、<君が悪い怪物になって暴れても 僕は一緒になって破滅にむかおう>と歌う歌詞が胸を打つ「ファンタジスト」と続け、『MANTRAL』から「オフィーリア」を挟み、レッド・ツェッペリンばりのヘヴィロック「ヴァルハラ」から、疾走感あふれるポップチューン「恋の寿命」で本編を終えた。

復活したKING Mを、彼の忌み嫌う(!)アンコールで再び棺に閉じ込めた後、「ここからはGalileo Galileiとして演奏します」と尾崎が告げ、「バナナフィッシュの浜辺と黒い虹」を披露。そして、他会場では披露してこなかったという「色彩」を演奏した後、「やさしいせかい.com」でこの日のライブに幕を閉じた。

この日のライブで2025年3月15日に東京ガーデンシアターでワンマンライブ「Galileo Galilei “あおにもどる”」を開催することを発表したGalileo Galilei。イラストレーターのアキオカが手掛けたツアーのポスタービジュアルも公開。ポスターにはこれまでリリースしてきた作品や楽曲のキーワードが散りばめられている。同時リリースした『MANSTER』を黒盤、『MANTRAL』を白盤と読み替え、次回のワンマン公演「あおにもどる」と深く連動した青盤を近日リリースすることも明かし、Galileo Galileiの世界観をさらに発展させていく今後の展開も目が離せない。

(おわり)

取材・文/黒田隆憲
写真/Masato Yokoyama

LIVE INFO

Galileo Galilei "あおにもどる"
2025年3月15日(土)東京ガーデンシアター

Billboard Live presents Galileo Galilei 「メリー!メリー!GG」
2024年12月4日(水)ビルボードライブ横浜(1stステージ/2ndステージ)

Galileo Galilei 忘年会~なまら北海道2024~
2024年12月21日(土)札幌cube garden

Galileo Galilei『MANSTER』DISC INFO

2024年9月25日(水)発売
POCS-23049/3,300円(税込)
Virgin Music Label & Artist Services

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Galileo Galilei『MANTRAL』

2024年9月25日(水)発売
POCS-23050/3,300円(税込)
Virgin Music Label & Artist Services

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