Galileo Galileiの尾崎雄貴(Vo. /Gt. )主催の「Tsunagari Daisuki Club」は、そのタイトルどおり、尾崎雄貴と「つながり」のあるアーティストをゲストに招いて行なわれてきた。初回は2015年3月、THE NOVEMBERS、恋する円盤、POP ETCを迎えての開催だった。それから9年ぶりとなる同イベントのゲストは、尾崎が弟の和樹と活動を共にするBBHFだ。「Galileo Galilei VS BBHF」という、どちらのファンにとっても夢のような組み合わせとなった。

筆者が観たのは、ファイナルとなる東京公演。まるで格闘技でも始まるかのような対決ムードたっぷり――もちろん、彼らなりのジョークだ――のオープニングMCとともに現れたのは、トップバッターのBBHF。目も眩むようなストロボライトが点滅する中、まずは「Bird Bear Hare and Fish」名義の2018年リリースである1st アルバム『Moon Boots』から「ウクライナ」でこの日の幕が切って落とされた。この曲は、当時ウクライナで起きた「ある事件」がモチーフとなって生まれたものだが、まさに今あの国で起きている惨状を予言しているような歌詞に、なんとも複雑な気持ちになる。そのシリアスなメッセージを、静と動を行き来するダイナミックなバンドサウンドが際立たせているのも印象的だった。

続く「やめちゃる」は、現状に不平不満を言いながらもそこから踏み出せない人々――雄貴自身もそのひとりかもしれない――について歌った曲だ。燻り続ける鬱々とした思いを吹き飛ばすような、キャッチーかつ浮遊感たっぷりのサビメロ。それを歌う雄貴の伸びやかな声と、会場全体を包み込むウォール・オブ・サウンドが鮮やかなコントラストを成す。タイトなビートときらびやかなシンセが80Sテイストの「メガフォン」を、ステージを練り歩きながらオーディエンス一人ひとりに語りかけるように歌う雄貴。そして、照れ臭くなるほどストレートなラブソングであり、BBHFの代表曲「させてくれる」へ。抑制の効いたメロディと音数を絞り込んだミニマルなバンドアンサンブルが、会場の高揚感をじわじわと上げていった。

個人的にはプリファブ・スプラウトを思わせるメロディと、まるでミュージカルのようにセクションごとに変化していくドラマティックなアレンジの「死神」が印象的だった。何気ない日常を等身大の言葉で切り取り、美しいメロディに乗せた「僕らの生活」と、その後もBBHFの真骨頂というべき楽曲を披露。

「僕が生み出したバンド、Galileo Galileiをこの手で殺(あや)めに来ました」と、この日の穏やかな対決ムードに相応しくユーモアたっぷりに挨拶した雄貴。「“Galileo GalileiとBBHFを、同じステージで見たんだ”という滅多にないこの日の思い出を一緒に共有して、素敵な1日にできたらいいなと思っています。よろしくお願いします」と一礼すると、会場からはあたたかな拍手が起きた。

さらに「花のように」では、ガットギターを抱えて地声とファルセットを巧みに使い分けながら、胸のすくようなメロディを歌い上げ、オーディエンスのハンズアップを誘う。そして、「独りきりで音楽を聴くこと」の尊さや大切さを歌う「真夜中のダンス」、どこまでも駆け上っていくようなメロディが多幸感をもたらす「涙の階段」、全員でハンドクラップをして一体感をもたらしたゴスペル調のミドルチューン「疲れてく」と、立て続けに披露。

現在BBHFはレコーディング真っ最中で、今年中にアルバムとツアーを発表すると宣言し、その尽きることのないバンドのクリエイティビティに驚かされているうちに、再び「Bird Bear Hare and Fish」名義での楽曲「Work」を披露し、ステージを後にした。

続いて登場したのは、もちろんGalileo Galilei。「リジー」のお馴染みのイントロが流れ出した瞬間、フロアからは大きな歓声が沸き起こる。こうやってふたつのバンドを同じ条件で聴き比べると、どちらも雄貴が曲を書いているにもかかわらず、やはり全く違う音楽性であることを再認識させられる。

BBHFの楽曲は、雄貴の紡ぎ出すメロディを中心に据えて緻密にアレンジを構築していくのに対し、Galileo Galileiの楽曲は雄貴のメロディも歌声も、バンドアンサンブルの一部となって有機的に生み出されているように感じるのだ。もちろん、一概には言えないが、それはやはり、10代の頃から北海道の自宅兼プライベートスタジオにて共同生活をしながら曲作りをしていた、というGalileo Galilei特有の素地があるからかもしれない。

BBHFにもサポートメンバーとして参加していた大久保淳也(Sax. )による、軽やかなサックスフレーズと共に演奏されたのは「あそぼ」。〈だから 僕と遊ぼう〉というサビのメロディを雄貴が高らかに歌い上げると、高揚感は一気に上昇。さらに、音源ではAimerをゲストボーカルに迎えた2014年のナンバー「バナナフィッシュの浜辺と黒い虹」を疾走感たっぷりに披露すると、フロアの熱気は何度目かのピークを迎えた。

「改めましてGalileo Galileiです。なんかさっき、いっこ前のバンドがかなり殺気立ってましたが(笑)……僕らはね、音楽で争ってはいけないと思っているので、今日をきっかけに仲良くなりたいなと思っています」と、雄貴が挑戦者に対するチャンピオンの余裕を演じてみせると、会場は和やかな笑いに包まれた。

ティアーズ・フォー・フィアーズを彷彿とさせるポップなシャッフルナンバー「ノーキャスト」、尾崎らと同郷のテクノユニット、LAUSBUBのMei Takahashiがボーカル参加し話題となった「ピーターへ愛を込めて」と、昨年リリースしたアルバム『Bee and The Whales』から2曲を披露した後、「ここからは懐かしい曲を」と雄貴。2013年の名盤『ALARMS』から「フラニーの沼で」の轟音ギターをかき鳴らすと、あちこちから歓喜の声が上がる。さらに同アルバムから、アノラック色の強い「処女と黄金の旅」を音の塊のようなバンドサウンドを叩きつけ、狂おしいほどメランコリックなメロディが心にしみる初期の名曲「SIREN」を披露した後、「星を落とす」のシューゲイズサウンドで会場を満たし本編を終了した。

アンコールではBBHFのメンバーもステージに上がり、総勢8名でBBHFのフォーキーな名曲「黄金」を演奏。そして雄貴が日本語の歌詞を付けた、ザ・ビートルズの普及の名曲「Hey Jude」をカントリー風味のアレンジでカバーし、最後のリフレインをオーディエンスとともにシンガロングして再び会場は一体感に包まれた。

「僕はバンドで音楽をやりたい人間なので、ひとりじゃダメなんです。バンドをやることでメンバーの人となりが分かったり、いわゆる仲間や友だちとは違う、バンドメンバーならではの空気感を作っていくのが、僕にとって大事なプロセスです」

バンドをやる意義について、そう語る雄貴。「僕は岩井くんと『閃光ライオット』という大会で出会い、音楽をやっていなかったら出会わなかったであろう人たちと仲良くなって、こうやって楽しくやっていられることは、すごいことだなと思っています。だから……みんなありがとう!」と、ステージにいるメンバーたちに改めて感謝の言葉を述べると、フロアからも大きな拍手が鳴り響いた。

Galileo GalileiとBBHFが対決する形となった今回の「Tsunagari Daisuki Club」。尾崎雄貴がなぜふたつのバンドを並行してやり続けているのか、その意味や意義についてより深く理解し、それぞれのバンドが放つ魅力を存分に堪能することができた、非常に有意義な一夜だった。

(おわり)

取材・文/黒田隆憲
写真/Masanori Naruse



Galileo Galilei×BBHF「Tsunagari Daisuki Club」2024年3月21日(木)@EX THEATER ROPPONGI(東京)SET LIST

BBHF
1. ウクライナ
2. やめちゃる
3. メガフォン
4. 君はさせてくれる
5. 死神
6. 僕らの生活
7. 花のように
8. 真夜中のダンス
9. 涙の階段
10. 疲れてく
11. Work

Galileo Galilei
1. リジー
2. あそぼ
3. バナナフィッシュの浜辺と黒い虹
4. ノーキャスト
5. ピーターへ愛を込めて
6. フラニーの沼で
7. 処女と黄金の旅
8. SIREN
9. 星を落とす

Galileo Galilei×BBHF
EN1. 黄金(BBHF)
EN2. Hey Jude(ザ・ビートルズ)

BBHF HERE COME THE ICY DRAUGR「ドラウグの回帰」LIVE INFO

5月24日(金)cube garden(札幌)
6月2日(日)BIGCAT(大阪)
6月4日(火)LIQUIDROOM(東京)

BBHF オフィシャルサイト

LIVE INFOGalileo Galilei TOUR M

9月27日(金)Zepp Sapporo
10月12日(土)Zepp Fukuoka
10月13日(日)HIROSHIMA CLUB QUATTRO
10月19日(土)仙台PIT
10月22日(火)Zepp Nagoya
10月23日(水)Zepp Namba
10月25日(金)Zepp Haneda

Galileo Galilei オフィシャルサイト

BBHF「戦場のマリア」DISC INFO

2024年3月13日(水)配信

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Galileo Galilei「あえたね」DISC INFO

2023年10月11日(水)配信
Virgin Music Label & Artist Services

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Galileo Galilei『Bee and The Whales』DISC INFO

2023年5月31日(水)発売/配信
POCS-23032/3,520円(税込)
Virgin Music Label & Artist Services

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