──今年の8月で音楽活動5周年を迎えますがどんな心境ですか?
「まず、“ここまで続けてこれたのがすごいなぁ”っていうのが一番の感想ですね。7年前くらいに漠然と上京してきてからずっと、頭の片隅には“いつまで続けられるのかな?”っていうのがあって。楽曲を制作したり、ライブに出演したりする日々の中で、“何年やれるのかな?”ってずっと思っていました。ここ2〜3年はリリースもたくさんさせていただいているんですけど、“ここまでやれたのがすごいなぁ”って思います」
──“そんなに長く続けられないのではないのかな?“と思っていたんですか?
「18歳の時に上京して、すぐにコロナ禍になったんですね。コロナ禍になる前にライブで歌わせていただく機会はあったんですけど、ゼロに等しいぐらいの期間が1年以上あって…。その当時はライブもなくて、どういうふうに音楽を届ける機会を得ればいいのかわからなかったですし、“どうなるのかな?”って不安が大きかったです。ずっと泣いていました…」
──何に対する涙でしたか?
「なんて言ったらいいんだろう?…自分の不甲斐なさに対する涙なのかな? 曲を作って録音して…スタジオ帰りにも泣いていましたし、次の朝に聴いて、自分で絶望していました。その繰り返しだったんですけど、ありがたいことに当時のマネージャーやディレクターさんにすごく恵まれていて救われました。当時の自分は、本当に“みんな、敵だ!”って思っていたんですよ」
──あはははは。尖っていますね。
「だから、誰とも目を合わせないっていう(笑)。すごく内向的だったので、そのお二人の存在は大きかったです。“音楽になりそうなちょっとしたピースを吸い取ってくださっていたなぁ“っていう思いがあります。”本当にいろいろあったなぁ“っていう感じです」

──最新アルバム『awkwardness(アークワードネス)』にはそんな5年間の歩みを振り返るような楽曲が収録されていますね。
「このアルバムを制作する前から、“5周年”という話をしていました。このアルバムが大きなターニングポイントになりますし、“なってくれればいいな”と思っていたんです。デビューミニアルバム『無垢』(2020年8月リリース)やミニアルバム『世存』(2021年12月リリース)の頃からたくさんのことを吸収して、いろんなものを見て…。改めて、ここからまた、“自分から生まれる曲が変わっていくこと“を表現したいという想いでした」
──デビューミニアルバム『無垢』をリリースしたのは、Ranさんが二十歳になる直前、19歳の時ですね。
「10代の頃はいろいろ思い悩んだりとか、“不安を抱えていたんだな“って思います。悪い言い方をすれば、1つの出来事を捉え過ぎていました。今、振り返ってみると、そう思いますけど、本当にその当時に思っていた感情を赤裸々に表現している1枚だと思います」
──約1年半後に1stアルバム『世存』をリリースしています。“世存”と書いて“セゾン”と読む…“セゾン”には季節という意味もありますし、いいタイトルですよね。
「ありがとうございます。嬉しいです。シンプルに言うと、“世の中に依存する“っていう意味で作ったんです。家族や恋人、友達といった人だけでなく、例えば、食べることや本を読むこととか。いろんなこと…”それがないとどうなっていたんだろう?“って思うことが多くて。そういうことを切り取った1枚という意味を込めてつけました」
──ご自身にとってはどんな作品となっていますか?
「かなり満足度が高いミニアルバムです。『無垢』は、ディレクターの方といろんなお話をしながら、楽曲の制作していって。自分の良さである“言葉が好き”っていうところをもっと深めていこうというお話をして作った1枚でした。配信リリースしていて曲も含まれていますが、すごく一貫性があるいうか…すべてに1本の線が通ってるような1枚になったと思います」

──最新アルバム『awkwardness』の1曲目「予感」はまさに<ことば>というフレーズから始まります。
「1つの言葉でも聴く人によっていろんな捉え方ができるというか…歌詞を読むことでその人のものになるということを意識して書いた曲です。2024年12月くらいから制作をし始めて。最初は、“私、こんなにハキハキと書けるんだ!”って思いました」
──この<あたし>は誰ですか?
「珍しく、自分自身です。さきほどから“5周年”って何度も言わせていただいていているんですけど、表面的には、“これからアルバムを作るのが楽しみ”っていう想いがあったんですけど、内面的には、すごく不安でもあって…。“売れなかったらどうしよう?”とか、“期限に間に合わなかったらどうしよう?”とか。去年の12月から今年の1月にかけては、本当にヤバかったんです。“まず、この曲ができないと何も始まらない”って思って、その時期の自分はずっと睨んでいました…」
──周りを? 自分を?
「リリースする曲が変なものにはなってほしくないから、ずっと目を光らせていたような感じです。“果たして、これで本当にいいのか?”って。“でも、時間も迫ってきているから仕上げなきゃいけない”って感じで、曲の全てを睨んでいました」
──ここで描かれている<居心地わるさに>というのはどんなものですか? 『awkwardness』のテーマの1つだと感じています。
「気まずいときですね。歌詞にもなっていますけど、毎日、生活をしていて、やっぱり腑に落ちないことってあるじゃないですか。“なんで?”と思っても、吐き出すところがなかったり、自分の中で解決しなきゃいけなかったりする…。そういう瞬間です。あと、私、友達と一緒にいる時に、ふとしたことで“…あ、そういう人なんだ”って感じちゃうと、もう帰りたくなっちゃうタイプなんです。それはプライベートの場面ですけど、お仕事の時とか、きっといろんな場面であると思います。そこで、<居心地わるさに 袖まくる仕草>を…」
──でも、<そんなことばかり 気にしていたいよ>と続きます。
「人のそういう瞬間だったり、自分のことも他人のことも気にしなくなったら“終わりだよなぁ”って思うんです。それくらい豊かに生きていきたいっていう気持ちもあることを表現しています」
──ネガティブな感情もありつつ、<あたしの空は晴れてる>っていう予感はあります?
「あります! “明るく終わんなきゃいけない”っていう気持ちもあって。でも、この曲のテーマとして、“好き”っていう想いで何かを頑張れたり、ずっと続けられたりする…そういうところを書きたかったんです。良くないことや足りないことばかり考えちゃって、自信をなくしてしまうけど、それでもその仕事…私だったら“音楽が好き”ってことで今日も頑張れますし、“明日も頑張りたい”っていう想いはありました」
──Ranさんの“音楽が好き”っていう想いは変わっていないですか?
「音楽に対してハートの数はずっと変わっていない気がします。小学生の頃にAKB48にハマって、渡辺麻友さんが好きになって、歌って踊っている女の子たちを熱心に見るようになって…。中学生になって友達とカラオケに行く機会ができて、“もっと歌が上手くなりたい”と思うようになって、ボーカルスクールに通い始めました。そこで、阿部真央さんの音楽に出会い、阿部真央さんに憧れてギターを始めて、作詞作曲も始めて。その時から変わっていないです」
──アルバムのタイトルは…?
「なかなか決まらなくて、最後につけました。 “違和感”とか、“ぐちゃぐちゃしている”とか、“あっちこっちしてる”みたいな意味のタイトルをつけたくて、和英辞典とかでいろいろ調べてたりして。結局、最後は字の並びが“かわいい!”って思って決めました。“違和感”や“ぎこちない”とかって、いろんな単語があるので、“意味で決めいてたら決まらない!”と思って。でも、その時、“awkwardness”が光って見えたんです。“不器用”とか、“ぎこちなさ”とか、そういう意味です」
──ピアノバラード「あなたと」では<間違いだらけだ>と泣く日々が描かれています。これも、“ぐちゃぐちゃしている”感情ですよね?
「2023年12月に配信リリースした曲なんですけど、この当時、全部が嫌だったんです。さきほど、“音楽に対してのハートの数は変わっていない”って言いましたけど、そこは確かに変わってないんです。でも、プライベートとか、個人的な出来事とか、大人の話も、全部がもう最悪でした。本当に毎日毎日、朝まで飲んで…そこでしか解消できなかったんです。でも、その時に思い浮かんだのが、毎回、ライブに来てくださるファンの方のことだったんです。“自分にできることは何もないかもしれないけど、今ある現状とこれまでのことを赤裸々に曲にしたい“と思って、そのファンの人たちに向けて歌詞を書きました」
──この<あなた>はファンやリスナーのことだったんですね。
「そうです。初めて言いましたけど。あはははは」
──素敵です。ライブに来てくれる人たちへの感謝ですよね。
「私、本当にずっと自信がないんです。だから、変な言い方ですけど、“応援してくださる方って本当にすごい“って思っていて。私の曲をいいと思ってライブに来てくださる方もいれば、”私よりも曲に対する解像度が高いんじゃないか?“って方もいらっしゃって。だから、毎回、会うたびに”ありがとう“って言っていますけど、それだけじゃ表せられないくらいの本当に大きな愛があるんです」
──“あなたと明日も一緒に生きたい”と歌っていますからね。それは“ありがとう”以上の気持ちだと思います。また、<東京>という歌詞も出てきますが、Ranさんにとって、東京はどんな場所ですか?
「楽な場所ですね。私はすごく好きです。いいことも悪いこともたくさんあって。悪いことは忘れられる瞬間もありますけど、多分、これから先、私が曲を書いていく上で、ずっと孤独で考えなきゃいけない時間があると思うんです。それができる場所ですし、何よりいろんなインプットができて、いろんな視点が見える場所だと思います」
──その孤独っていうのは、嫌なものではないんですか?
「嫌なものではないです。嫌な時に作用する時もありますけど、結局、曲を書いて歌うのは私なので。どういうことを書きたいか、1人で考えるっていう作業にはとても向いている場所だと思います」
──上京したときはどんな心境でしたか?
「“やっと実家から出れた!”という気持ちでした(笑)。しかも、そのきっかけが音楽なのが嬉しくて。高校3年生の時に今とは違う事務所のオーディションを受けて、夏休みにオーディション合宿に参加して、2019年の3月には上京しました。今、考えるとちょっと怖いですよね? “デビューできる”とか、何も決まってないないのに上京しちゃって。ずっと会社のスタジオに行っていましたけど、何も考えていないようで、今思うと“怖いな”って思います」
──新山詩織さんとのコラボ曲「あの日」には19歳の時のことが書いてありますよね。
「詩織さんがどう思っていたのかはあまりわからないですけど…“10代の頃の自分に向けた曲が書きたい”っていうお話をして。“最悪だった”とか、そういうことではなく、“今なら、その当時の自分にどういう曲を贈るんだろう?”という話をしたのがきっかけです」
──ご自身は10代の自分にはどんなことを伝えたいって思いましたか?
「“今も昔も足元はずっとグラグラだよ“って(笑)。それに”必死に頑張って立とうとしている”って。私はずっと、物事を考えるときに、すごく悪い方に歪曲して考えていたんです。でも、もっと外に出て、いろんな人と話をして欲しいです。手元にある情報だけで終わろうとせずに、“自分はそれをどう思うか?“…そういう話を誰かとできたらいいなと、今は思います」
──ちなみに<あの日 抱いたあの夢も>はどちらが書いた歌詞ですか?
「私です! それこそ私、詩織さんを初めて見たのは中学生ぐらいの時だったんです。ドラマ『ラヴソング』の劇中歌で、福山雅治さんが書いた「恋の中」をテレビの歌番組で歌っているのを見て。そこからずっと…まだ学生だったのでYouTubeやApple Musicでリスナーとして聴いていたんです。そんな詩織さんと一緒に曲を作るなんて“夢みたい“と思って、こういう歌詞にしました」

──『awkwardness』には植田真梨恵さん、mihoro*さんとのコラボ曲も収録されています。コラボリリース三部作はご自身にとってどんな経験になりましたか?
「その人を経験するみたいな時間でした。詩織さんとの「あの日」では歌詞をリレー方式にしました。1番を私が書いて、2番を詩織さんに書いてもらったり、サビを交互に出してみたりして。“ここはこうしよう”みたいなやり取りをしていたんですけど、詩織さんは細部にまで“なんとなく”では終わらない方で…。そこのこだわりはすごく感じました。私は「予感」の歌詞をなんとなくひらがなにしたりとか、感覚でいくところも多いので、すごく刺激になりました。それこそ“考えを深める経験”でした」
──植田真梨恵さんとの「Lady Frappuccino」は英語とひらがなだけで構成されているユニークな曲になっていますね。
「この曲は真梨恵さんのお家に行って合宿したんですけど、真梨恵さんに“Ranちゃんはさ、めっちゃええ子やん。ちょっとさ、悪くいこうよ”みたいな話をしていただいて。今って、自分をより良く見せるいろんな方法があって。でも、結局は何をやっても満足できないっていう風刺の部分と、自分の底抜けの欲望の中でもがく感情を書いた曲です」
──「ドリアン」でコラボしているmihoro*さんは同世代のシンガーソングライターですね。
「mihoro*ちゃんとの出会いはいつだろう?…イベントで初めて会った時はお互いに人見知りだったので、“お疲れ様です”しか言わなくて。でも、2022年に『MRY〜夢にみた対バンTOUR〜』の開催が決まった時に、当時のマネージャーから“誰か呼びたい人いないの?”って言われて、真っ先に浮かんだのがmihoro*ちゃんでした。mihoro*ちゃんはAbema TVのリアリティショー『白雪とオオカミくんには騙されない』に出演していたから出会う前から知っていましたし、曲も聴いていて、同じ年でもあって。“多分、出てくれないだろうなぁ”と思って連絡したら、“福岡行きたい!”って言ってくれて。そこからの付き合いです」
──Ranさん初の主催対バンライブ企画『MNR〜夢にみた対バンTOUR〜』は、mihoro*とみきなつみとの3人で、2022年3月25日にRanさんの地元の福岡、4月1日に大阪公演が行われました。
「そのツアーで仲良くなったんです。それこそ、「あなたと」を書いた時は、本当に朝までずっと付き合ってくれていました。毎日、“今日はどこで飲む?”みたいな感じでずっと付き合ってくれて…それくらいの仲です」
──さっきの“飲まないとやってられない日々”の隣にいたのがmihoro*さん?
「ずっといてくれました。彼女は私の文句を全部一身に受け止めてくれていました(笑)。その時に、“でもさ、うちらって、人の気持ちもすごく考えるし、めちゃくちゃいいやつやん”って励まし合って。「ドリアン」は、その時を含めて、いつも会って話しているようなことを一連のストーリーにした曲になっています」
──「ドリアン」もダメな恋愛ではありますが、<それでも 明日も>と明日を見ていますよね。アルバム『awkwardness』が完成して、何か見えたものはありましたか?
「このアルバムを作るときには、自分が考えていることや自分がしたいことを具現化することにずっと注力をしていたんです。結局、“こうすれば売れる”とか、誰も分からない状況じゃないですか。そんな不確定要素の中で、“自分が思っていることを曲げたくない”ってずっと思っていたんだなって、最近、気づいて。自分が伝えたいこととか、“こうしたい”っていうこと。その流れに則ってやることを一番大事にしています。自分のこだわりを曲げずに、いかに深めるか?に気づけた制作を経て、今回、アルバムの曲順通りに聴いてみたり、ライブ映像のマスタリングにも立ち会いました。“普通、ライブ映像のマスタリングなんて行かないよ”って言われたんですけど、実際、いろんなことが見えました。何度も見ているうちに、改めて、レベルアップしている自分が見えたんです。この期間、過去いちで自分の曲を聴きました」
──ご自身で完成したアルバムを聴いて、どんな感想を抱きましたか?
「まず、“こんなに曲を書けるんだ”って思いました。ふふふ。最初にライブをやった時は、曲がなくて困っていました。でも、この5年間でいろんな曲をリリースさせていただいて、いろんな感情を歌っていく曲が増えています。それが一番嬉しかったかもしれないです。プラス、アルバムもデジタルリリースが当たり前の時代だと思うんですけど、“フィジカルで出したい”っていう想いも叶えていただいて。今までで一番、初めてと言っていいくらい、自分の意見を言いましたし、細部にまでこだわって作れたので、それがちゃんと伝わってくれればいいなぁって思います。ただ、まだ完成して間もないので、自分でもこのアルバムをもっともっと噛み砕いて、愛していきたいと思っています」
──“ターニングポイントにする“という強い意志を持って制作したアルバム『awkwardness』を経て、次に生まれてくる曲が変わってきそうですね。
「そうですね。少し怖い反面、楽しみでもあります。でも、今までやってきたことや芯の部分は変わらずにいたいというか…根本はそんなに簡単には変わらないと思うんです。ただ、今年は『Ran LIVE TOUR 2025 –awkwardness-』も控えていたり、来年に向けての活動ができています。新しいアルバムは完成したばかりですけど、もう次の制作に入ろうとしています。今までで一番、それこそ、未来に目を向けて過ごしているので、これからを楽しみにしていただきたいです!」

(おわり)
取材・文/永堀アツオ
RELEASE INFROMATION
LIVE INFORMATION

Ran LIVE TOUR 2025 –awkwardness-
2025年9月11日(木) 福岡 LIVE HOUSE Queblick
with 牟田紗代美 / 松尾知華 / 碧海 / rino
2025年9月13日(土) 名古屋 LIVE HOUSE CIRCUS
with 青いガーネット / ASANA / 里緒
2025年9月14日(日) 大阪 hillsパン工場
with 青いガーネット / 山口華穂
2025年10月10日(金) 東京 SHIBUYA TAKE OFF 7
ワンマンライブ