──まずは、Galileo Galileiの活動再開が実現した経緯から教えてもらえますか?

尾崎雄貴「何かこれといった特別なきっかけがあったわけじゃないんですよね。例えば実家に帰省して、何気なく押し入れをのぞいてみたら、昔すごく大事にしていたものがそこから不意に出てきたような感じ(笑)。その瞬間に“もう一度、やってみようかな”みたいな直感に近いものがあったというか……僕の頭の中に、活動再開に向けてのイメージがはっきりと浮かび上がってしまったので、それをまず岩井くんに伝えることにしました」

──まず、岩井さんに、だったのですね。

尾崎「Galileo Galileiの活動を2016年に終了して、僕のソロプロジェクトであるwarbearを経てBBHFでの活動をしていく中で、岩井くんはサポートで参加してくれたり、レコーディングでは共同プロデューサーという形でも関わってくれたりしていたんです。Galileo Galilei活動再開のことも、BBHFのライブで確か福岡に行った時、夜更かししながらそんなことを考えていたらいてもたってもいられなくなって(笑)。同じホテルに泊まっている岩井くんの部屋に押しかけて、一緒にやろうと訴えたんですよね。その後も何度か話し合いを重ねました。岩井くんがOKしてくれなければGalileo Galilei再始動の話はないなと思っていましたし、岩井くんがOKしてくれそうになったタイミングで他のメンバーにも話をしました。それでようやく再始動の準備が整った感じでしたね」

──岩井さんは、最初に尾崎さんからその話を聞いたときにどう思いました?

岩井郁人「めちゃめちゃ驚きました。僕だけでなく、他のメンバーもまさかGalileo Galilei再始動なんてことは起きないだろうと思っていたのではないかと。真っ先に声をかけてくれたことは素直に嬉しかったのですが、すぐに引き受けるのは違うかなと思いました。僕自身、Galileo Galileiのメンバーだった時期もあったのですが、その後に脱退して他のバンドを始めたり、会社を立ち上げたりした経緯があったので。それに、もしやるのであれば、勢いに任せてやるのではなく、その後もずっと続けるための一番いい方法を模索したいなと。なので、雄貴との話し合いは幾度となく繰り返しましたね。実際にやろうと決まったのは去年の夏くらいでした」

──2018年にBird Bear Hare and Fishとして結成されたBBHFは、実質上Galileo Galileiの後継バンドだったわけですが、本人たちの中でどんな違いがあったのでしょうか。

尾崎「今回のアルバムを制作していても実感したことなのですが、Galileo Galileiというのは僕自身にとってのホームなんです。かれこれ7年、Galileo Galileiの曲を書いていなかったのですが、始めた途端に自分でもびっくりするくらい曲が生まれ、すぐにその世界に帰ることができたんです。それはやっぱり特別なことだと思うし、Galileo Galileiというのは僕がメンバーと作り上げているひとつの世界、コミュニティなのだなと再認識しました。Galileo Galileiという世界の中は“外の世界よりもきっと素敵だから、みんなも入っておいでよ”という気持ちでいるんですよね。僕らのファンを招き入れる場がGalileo Galileiというか……対してBBHFは、外の世界で個として音楽を奏で、それを個としてそこにいる人たちに届けているような感じ。Galileo Galileiのように、“この世界にみんなも入っておいで”とは思わないんです。そこはかなり大きく違うし、そういった違いが音楽性にも色濃く反映されていると思っています」

──今のお話を聞いていて、村上春樹の最新刊『街とその不確かな壁』もしくは、過去の長編作『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』の世界観を連想しました。Galileo Galileiは「壁」に囲まれた「完璧な世界」であり、BBHFは「壁」の外側にある現実世界のような。Galileo Galileiの世界観の方が、寓話的というかファンタジックな印象がありますね。

尾崎「確かに。もちろんGalileo Galileiでも痛みや恐怖は描かれているのですが、外の世界に比べて“絶対にこちらの方が素敵だから”という自信に満ち溢れている印象はありますね(笑)。それは楽曲だけでなくライブで作り出す世界もそう」

岩井「サウンド面でいうと、この4人で作っている時の関係性が色濃く出ているのがGalileo Galileiだと思っています。メンバーそれぞれが好きなものを日々紹介し合い、共有しながらそれを混ぜ合わせていくんです。さっきファンタジックとおっしゃいましたが、僕らの理想や好奇心を、まるでドローイングのようにキャンバスにぶつけながらひとつの作品を描き上げていく感じは確かにファンタジックともいえる。それに比べるとBBHFはもっと現実的というか。今の音楽シーンに対してどんな立ち位置で、どんな音を鳴らすかを考えながら音を紡いでいる印象がありますね」

尾崎「そうだね。BBHFよりもGalileo Galileiの方が、ルーツミュージックや今のシーン、トレンドに対してピュアに向き合っている感じがします。何がどう流行っていて、そこから影響された要素を自分の楽曲にどう反映させたら今っぽいか?とかどうでもいい。ただ好きだから、取り入れるみたいなことを、純粋にやっていたらこうなった」

──なるほど。

尾崎「僕が今回一番驚いたのは、終了から7年というインターバルにもかかわらず、Galileo Galileiの楽曲たちをたくさんの人たちが大事にしてくれ、心の中でそばに置いていてくれていたことです。Galileo Galileiはみんなの心の中にあり続け、楽曲も一緒に成長しているのだなということがよくわかりました。さっきGalileo Galileiは僕のホームだと言いましたが、聖域と言い換えてもいいかもしれないですね。そこにどれだけたくさんの人を呼び込めるか、そのたちの人生にずっと残っていく音楽をどれだけ作ることができるか。それがGalileo Galileiとしての目的なのかもしれないですね」

──先ほどGalileo Galileiでも痛みや恐怖は描かれているとおっしゃいました。資料にも、「今作には“喜び”と“恐怖”を込めた」とありました。

尾崎「このアルバムを作っている間、僕はもうとっても楽しくて。メンバーもみんなずっと楽しいねって言っているくらい(笑)。最高にいい時間を過ごしたし、これからの展望についてもワクワクしているんですけど、その反動も強いんですよね。過ごす時間が楽しければ楽しいほど、こんな楽しいことがいつまでも続くはずがないという思いが湧き上がってくる。心通じ合う人たちと、満ち足りた時間を過ごした後に、一人きりになってふと寂しくなるような感じ。そういう激しい落差が今回もあったんですよね。特に歌詞を書くときは一人きりになるので、その落差を思い知らされるというか……と言いつつ、僕はその“恐怖”が嫌いでもないんですよ。例えばホラー映画も大好きなのですが(笑)、“恐怖”すなわち死にたくないという強い思いって、生きることに対する強烈なパワーだと思うんですよ。そういう二律背反というものは、僕が書く曲の中にも確実に内包されています。例えば2016年リリースのアルバム『Sea and The Darkness』で表現しようとしたテーマもそう。僕は常に感じている恐怖や不安というものを、ある意味では意図してちゃんと描こうとしていたのだなということを、改めて考えさせられたのが今回のレコーディングでした」

──今作には、ゲストボーカルとしてLAUSBUBの髙橋芽以さんが起用されています。彼女も北海道在住のアーティストですよね。

尾崎「彼女はwarbearで2022年リリースの「気球だよ」にもコーラスで参加してもらったことがあるんですよ。もちろんLAUSBUBの存在を知っていたし、高校の教室で演奏している動画とかネットで見かけていいなと思い、頭の片隅にあったんですよね。それでwarbearのレコーディングをしているときに声をかけさせていただいたのが最初の出会いでした。「気球だよ」のレコーディングでは、岩井莉子さんと二人でスタジオに来てくれて。二人ともGalileo Galileiを聴いてくれていたみたいで、僕らの作業を食い入るように見ていたのが印象的でした。彼女たちの、音楽に対するひたむきな姿勢にすごく感銘を受けたし、年齢も性別も違うのに同じタイプ!とこれほど思えるのは珍しいなと。そういう人たちに出会えたことも嬉しかったんですよね。今回も、同じように二人でわんわんスタジオに遊びに来てくれて、僕らの曲を心から気に入ってくれた状態でレコーディングに参加してくれたことを本当に嬉しく思います」

──歌詞も印象的な内容が多かったです。例えば「ファーザー」は、子供を持つ尾崎さんだからこそ書ける曲だなと思いましたし、息子として父親に向けられた視点、父として子供に向けられた視点が混じり合っているように感じました。

尾崎「ありがとうございます。僕は父のことを愛しているし、尊敬もしているんですけど、一緒に暮らす家族なので良くないところももちろん知っているわけじゃないですか。そういう感覚が、自分も父親になると重なり合ってくるというか。父との思い出がぐわーっと憑依してくる感覚があって、それが心地良かったり嬉しかったり、あるいは嫌だなと思ったりもして(笑)。メンバーにも“そういう経験ってある?”“どんなお父さんだった?”みたいに話を聞きました。子を持つ男たちによる父親談議が繰り広げられ(笑)、それがこの曲を作る上でのヒントにもなったし、書かねばというモチベーションにもなりましたね。メンバーの岡崎真輝くんは、この曲が一番好きだと言ってくれたんですよ。メンバーのそういう反応が何より嬉しいですね。ある意味ではメンバーに向けて書いたところがあるので。もちろん、聴いてくれたファンもきっとそれぞれの父親像があると思うので、どんな感想をもらえるのか今から楽しみです」

岩井「実は、今作のアートワークはメンバーそれぞれがキャンバスに描いた油絵で構成されているんです。インナースリーブにも曲ごとに絵を1枚ずつ添えているのですが、確か「ファーザー」は真輝くんの絵が添えられていて。それがもう、曲に対する感動を凝縮したような絵なんですよ」

尾崎「ね。岡崎くんは「ファーザー」を聴いて“こういう色彩が頭に浮かんだのか!マジか?”と思った」

岩井「今回、楽曲制作の中で“そうか、彼はこの曲にこう反応するんだ”みたいなのがお互いに見えて。レコーディングすることが、ある意味ではコミュニケーションでもあるんだなと改めて思いましたね」

──岩井さんは、アルバムの中ではどの曲が印象に残りましたか?

岩井「「花束と水晶」ですね。僕らの楽曲制作のスタイルは、基本的にみんなで「わんわんスタジオ」に集まり、Macの前でセッションをしていくというスタイル。それぞれが持ってきたアイデアを肉付けする場合もあれば、プロジェクトを交換しあって個々でフレーズを足していく場合もあって。そうやってできたトラックに、雄貴の歌詞とメロディを吹き込んで完成させることがほとんどなのですが、「花束と水晶」は歌とアコギで録音したデモを最初に聞かせてくれたんです。その時の印象が強烈に残っていますね。アルバムの中でも、非常に重要な位置を占める楽曲になったと思います」

──そういう意味では、タイトル曲「Bee and The Whales」もアルバムの核になっていますよね。

尾崎「そうですね。アルバムの中で最後に作ったのがこの曲です。いつもアルバムを制作している時は、完成形が見えやすいよう曲順通りに並べておくんですけど、そこにフランク・オーシャンの曲を仮で入れておいたんです。“この位置にフランク・オーシャンの弾き語りみたいな曲が入ったら最高なんだけどな”とか思いつつ(笑)。ずっとパズルのピースが足りないような状態だったんですけど、最終的にイメージとは全く違う楽曲になりましたね。岩井くんのエレピから始まる曲で、Galileo Galileiらしい仕上がりになったんじゃないかと思います。「Bee and The Whales」というタイトルは、何も考えずにパッと思いついた言葉だったのですが、浮かんだ瞬間にアルバムとツアーのタイトルにぴったりだなと思いました」

岩井「今回は最後の最後まで1曲ごとに驚きの連続というか。これってアルバムとして収拾つくのだろうかみたいな」

尾崎「そうだよね。俺も途中くらいから“これ、大丈夫かな”と思った(笑)」

岩井「テーマやコンセプトは決めないで、とにかく曲を作り続けようとなって。そのうちにどんどんパズルのピースが埋まっていくような感じでアルバム用の曲が生まれていく。その中で「ファーザー」や「花束と水晶」「Bee and The Whales」のような、Galileo Galileiとしてすごく重要な楽曲が生まれていったのが印象深かったですね」

尾崎「僕、ドラマや映画を観ていて終盤が近づいてくると、観るのを辞めてしまうことがあるんですよ(笑)。“この世界が終わって欲しくない。ずっとこの世界に浸っていたい”と思うからなんですけど、今回のレコーディングの時もそういう気持ちに頻繁になりました。“アルバム制作、終わらせたくないなあ”って、岩井くんに何度も愚痴っていましたからね(笑)。「Bee and The Whales」が完成したことで、終わらせたくなかったアルバム作りをなんとか強引に終わらせた感じ。“はいはい、店じまいですよー”みたいな感じで(笑)。ツアーが始まったら、きっと今度は“ツアー、終わらせたくないなあ”という気持ちでいっぱいになると思います(笑)」

──最後に活動再開したGalileo Galileiの今後の展望を。

尾崎「Galileo Galileiは、自分たちが本当に大事にしているものを守り通すことがアーティストの責任だと思い、そこに躍起になった結果、お互い疲弊してバラバラになってしまったところがあると思っていて。でも、今の僕らにはそれを守り通すパワーをちゃんと持っているので、そのことをちゃんと見せていきたいというか。それは売れるということではなく、ずっと素敵でいたいということ。自分たちにとっても、ファンにとってもGalileo Galileiが一番素敵と思う部分を守り通したいと思っているし、それを信じてついてきてくれているファンを、今度こそがっかりさせるようなことは絶対にしたくないと思っています。一度は活動終了してしまった僕らだけど、それでもまだ信じてついてきてほしいです」

岩井「僕らがいて、ファンがいる。そういうシンプルな関係性さえあれば音楽は続けていけるんだということにも気づいたし、そこに余計なものを入れず、すごくシンプルな関係性をもっと強固にしていくためにも、このアルバムを携えてのツアーはすごく大事なものになるだろうと思っています。かなりいいライブができると思うので、是非とも遊びに来てください」

(おわり)

取材・文/黒田隆憲
写真/平野哲郎

LIVE INFOGalileo Galilei "Bee and The Whales" Tour 2023

2023年5月31日(水)Zepp SAPPORO
2023年6月6日(火)Zepp DiverCity
2023年6月8日(木)Zepp NAGOYA
2023年6月9日(金)Zepp NAMBA
2023年6月21日(水)Zepp FUKUOKA
2023年6月24日(土)Zepp HANEDA

Galileo Galilei オフィシャルサイト

DISC INFOGalileo Galilei『Bee and The Whales』

2023年5月31日(水)発売/配信
POCS-23032/3,520円(税込)
Virgin Music Label & Artist Services

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