──ニューアルバム『MANSTER』と『MANTRAL』が、2枚同時リリースされました。それぞれ14曲が収録されていますが、そもそもアルバムを2枚同時にリリースしようとしたきっかけを教えてください。
尾崎雄貴(Vo./Gt.)「1年前、まだ曲ができていない段階で"アルバムを2枚同時に出そうか"って話をしていて。だから、曲がたくさんあるから2枚同時に出すことになったわけじゃなく、2枚出すために曲を書いていった形です。ちょうど今朝、Galileo Galileiのプロデュースをしてくれている、ポップ・エトセトラのクリストファー・チュウからLINEが届いたんですけど、"2枚同時リリースは今どき珍しいね"って」
──確かにアルバムの2枚同時リリースはなかなかないです。
雄貴「そうなのかもしれないけど、僕らとしては"2枚出したいから、2枚作ってみよっかー"って感じですね。何かを狙って2枚同時にリリースしたわけではないし、曲作りでも何でもそうなんですけど、思いついて自分がやりたいと思うからやっている。そんな感じで2枚のアルバムができていったなと思います」
──みなさんは、アルバムの2枚同時リリースについてはどんな捉え方をしていますか?
尾崎和樹(Dr.)「一番最初に2枚同時にリリースしようという話になったとき、メンバーの誰か一人でも"2枚同時はきついでしょ"って思ったら、なかなか進められない。そこでメンバー全員が"いっちょやってみっか!"という心持ちになれる、今だったらできるって思えることの強みを今回は感じました」
岩井郁人(Gt.)「シングルコレクション的なアルバムも多いと思うんですけど、個人的にはそれだとワクワクできなくて。だからこそ、今回のアルバムもシングルコレクション的な作品ではなくて、アルバムのために書き下ろした28曲が、14曲ずつ収録されています。僕らは音楽で冒険している感覚で作品を作っているので、リスナーは咀嚼するのに時間はかかるかもしれないけど、ワクワクしながら長く楽しめる音楽にしたい。そういう思いを形にした2枚になったと思います」
岡崎真輝(Ba.)「アルバムを2枚同時にリリースするのは珍しいかもしれないけど、それでも自分たちがやりたいことをやれている今の状況、環境がまずはあります。今のチーム、スタッフの方たちのGalileo Galileiに対する応援体制が素晴らしいというか、僕らがやりたいと思ったことを否定する人がいなくて、何事も全力でサポートしてくれる。だからこそ、自分たちがやりたい音楽を世に届けられる。それはファンの人たちも望んでいることだし、健全な状態だと思うので、今回は自分たちのそういった強みが出たなと思っています」
雄貴「誰かに書かされるのではなく、自分が書きたいと思って書いた曲をダイレクトに届ける。そういう理想的なスタイルを実現するシステムが、今のGalileo Galileiはできていると思います。生活のために曲を書いてるってわけではないし、生活のためにこの4人が集まってるわけではないねって、それが強みだなと思いますね。だから、2枚作りたかったら作って出す。理由はなくてもいいんです」
──それができるのは、自分たちの直感、衝動を信頼しているからこそだと思います。
雄貴「そうですね。今、メンバーで草野球チームを作ろうとしてるんですけど、"やろうよ""いいね"って話になって、特別な理由も疑問もなくやり始めようとしてる。急に野球にハマって、アルバム制作中にスタジオの近くにある公園でキャッチボールしたり、変化球の練習したり、息子の友だちの小学5年生ぐらいの子どもたちとも野球したり。それは楽しいからやってるわけで、音楽と一緒だなって思います。公園にいたら花の中に土ぼこりの匂いがして、ご飯の匂いがしてきて、日が暮れてきて、久しぶりに帰らなきゃって感覚になって、『MANTRAL』に収録している「カラスの歌」が生まれたりもしました。『MANSTER』に収録した「SPIN!」は変化球の練習をしてたことがきっかけでできた曲だし、野球が好きだ好きだって言ってたら、北海道日本ハムファイターズの本拠地であるエスコンフィールド HOKKAIDOでライブができることになったり。そういうことは、いったん活動を終了した2016年以前のGalileo Galileiにはなかったことで、すごくありがたいことで感謝しているし、今の自分たちを信用する裏付けのようなものにもなっています」
──アルバムのために書き下ろされた全28曲は、どのように生み出されていったのでしょうか?
雄貴「前作の『Bee and The Whales』は再始動して最初のアルバムだったので、"Galileo Galileiってこうだったよね"って、自分たちに対してもファンに対しても確認する意味を持って作っていきました。その結果、おかえりって言ってもらえる作品になったと思います。今回はそういうことを一切考えずに、自分たちのスタジオに日々集まって、時には野球の試合を見ながらビールを飲んで(笑)、"今日は何もできなかったね"って日もある中で、普段通り過ごしてたらできていった感じです。僕らは、同じバンドのメンバーである前に、メンバーそれぞれがすごく深いところでつながっている友だちだなと思うんですよ。和樹は僕の弟なので、2人でいろいろ経験してきたこと、幼少期の記憶とかもあるし。だから、メンバー同士で話が尽きないんですよね。そうした会話や関係性が僕の中で楽曲に変換されて、曲が日々できていく感覚を今作では特に感じました。僕らの場合、先に歌詞を書くことはないので、まず楽器を持って弾いて、あーだこーだしゃべって、"この音、夕暮れっぽいね"とか"北欧神話感があるね"って音に感じていることが自然にサウンドに乗っかっていく連続。それが起こり続ける中で、気づいたら28曲ができていた感じです」
──アルバムタイトルの『MANSTER』は“Human”と“Monster”、『MANTRAL』は“Human”と“Mantle”、“Neutral”から作り出された造語です。
雄貴「アルバムを2枚作ろうよって話をしたときに、タイトルを先に考えちゃおっかって。今は、メンバー同士で人生についての話をよくするんですよ。活動終了前は、音楽の話ばっかりだったのに。活動終了前に音楽の話ばっかりしていたのは、音楽に対して真摯で真面目な自分たちを信じていたので、あえてなるべく音楽に対して真面目であろうとしていたからなんだと思います。もちろん今も音楽に対して真面目なのは変わってないんですけど、違うのは音楽の話をしなくてもメンバー同士が通じ合っていること、見えているものがあるということ。それが前提になっているからこそ、メンバー全員が人として自分たちの人生にやっと立ち返ることができて、一人の人間として生きられている。その意識が不思議と音楽に出てくるんだよな……って実感しているのが、今のGalileo Galileiの状態なんです。だから、“Human”から“MAN”という言葉を使いたいなと思っていろいろ考えて、『MANSTER』と『MANTRAL』というタイトルにしました。いろいろ考えたとき、自分も含めて人間には多様性があって、ある人のことをとても丁寧な人だと思っていたけど、ふとした瞬間に丁寧とは真逆の行動を目撃したりする。その行動を見てそれが本性だと思ってしまうことがあるけど、本性っていっぱいあると思うんですよ。他人を意識して見せる姿が表で、本性が裏という、単純な話じゃなくて。人間は表と裏だけじゃなく、いろんな“化けの皮”を被ったいろんな“本性”がある。それを『MANSTER』では表現しました。その一方で、家でパンツ一丁で寝っ転がってる自分は本性とか表と裏という意識がなくて、何も考えずにぼーっとしてるニュートラルな状態。で、そういう状態のときってなぜか小学校のときに先生に言われたことを思い出したり、"小学校の頃にいたあいつ、今は元気かな?あいつと公園でこんなことあったな"って考えたり。そういう状態の自分が僕は気に入っていて、『MANTRAL』では過去の記憶とかをイメージして作りました。だから、今回の2枚で僕らがやったのは、人間性の中にあるたくさんの側面のうちの2つを音楽で表現すること。"人間って本当にわからないよね。だから2枚出しちゃったよ"って、そんな感じかもしれないです」
──ここまでの話を聞いて、今のGalileo Galileiは、“この4人でいること”にこれまで以上に大きな意味があるんだなと、強く感じました。きっと絶対にたくさんあるとは思うんですけど、楽曲制作やライブなど音楽に関係する場面以外で、4人でいるといいな、面白いな、楽しいなと感じたエピソードを教えてもらえますか?
岡崎「今回のアルバムの楽曲で何本かミュージックビデオを制作していて、その中のひとつの「ファンタジスト」では自分たちで演出をして、美術を手作りしたんです。その準備をしているときに、高校の学校祭の準備をしていた感覚になって。"あの頃、このメンバーで学校祭の準備ができたら幸せだったな。でも、今こうして一緒にできてることが喜びだな"って、そのとき思いました」
和樹「基本、この4人で集まるとずっと話をしていて。最近あったことの話だったり、ニュースについて考えていること、ゲームやマンガの話まで。本当に黙っていることがなくて、話題を共有してるんです。そういうときに、みんないつでも"俺、こういう人間なんだよ"って自分のことを伝えようとしてくれてるなって感じるんです。それは、この4人でいてほかとは違うなって思います」
岩井「楽しいことがいっぱいあるから、いつでも楽しいんですけど、こないだちょっと泣きそうになったエピソードがあって。自分たちのスタジオには何個か部屋があって、そこで夕方5時ぐらいにゲームの野球盤で遊んでたんですね。これって小学4年生がやることだよなー思いつつ(笑)。そしたら、窓から西陽が木漏れ日のように差してきて、その状況でみんなで野球盤をしてる光景を見て、なんかエモーショナルだなー、ちょっと泣きそうになるなーって。今回の『MANSTER』は音楽的に冒険みが強くて、『MANTRAL』は郷愁的ですけど、今回の2作に限らず、みんなで森に行って秘密基地を作るような冒険性と、映画の『スタンド・バイ・ミー』的な郷愁を感じる世界観の中に僕らはずっといるんだと思うんです。何かと理由をつけて、その世界観の中にいる。きっと誰もがみんなそれをやりたくて、でもできなくて揺れ動いている。その揺れ動きも僕らは共有できるし、その世界にい続けようとするから曲が書けるし、音楽が枯れないのかなって、あの日の光景を見て思いましたね」
雄貴「ある種の少年性を持ったまま過ごせていることは、間違いなく自分たちの音楽の力になっていると思います」
──雄貴さんは、どんなときにこの4人っていいな、楽しいなと感じますか?
雄貴「人って、一人でいる時間って必要じゃないですか。でも、この4人はGalileo Galileiでいる時間も一人でいる時間に換算されてるんじゃないかな(笑)。そう思うぐらい、4人とも一緒にいるのが自然なんです。正直、僕は家族と一緒にいるときよりも素の自分だなと思う。それゆえに疲れないのかなって思うし、作業中でやらなきゃいけないことがいっぱいあるのに野球の配信を見ていて、ファイターズが大逆転したときは全員で叫び狂うんですけど、あの瞬間って最高に楽しいですね(笑)」
──4人が生まれ育った北海道を拠点に音楽活動を続けることについて、あらためて思いを教えてください。
雄貴「デビューした年に上京して1年で北海道に逃げ帰っちゃってるんで(笑)、東京で暮らすっていう経験はあんまりしてないんですけど、東京に限らず北海道以外で暮らす選択肢はメンバー全員ないんじゃないかな。ほかの場所で音楽を続けられる自信もないし、北海道で暮らして音楽を作ることが今は当たり前すぎて、それ以外の状況と比較すらできない感覚かもしれないですね」
──2枚のアルバムリリース直後の9月27日から、地元の札幌を皮切りに全国ツアー「Galileo Galilei Tour2024 Tour M」がスタートしました。10月は福岡、広島、仙台、名古屋、大阪をツアーし、10月25日にZepp Haneda(TOKYO)でファイナルを迎えます。
雄貴「Galileo Galileiにはファンが知ってくれているこれまでのストーリーがあって、そのストーリーをアルバムのテーマに照らし合わせた形で演劇を交えながら表現するライブです。演劇パートは自分たちで演じるんですけど、アルバム制作中に同時進行でプロットを考えていて、アルバムを余すところなく表現したライブになっているので、『MANSTER』と『MANTRAL』に少しでもピンときた人たちは、よりその2枚を好きになってもらえるんじゃないかと思います。自分たちで美術を制作して、僕の息子の周りの子どもたちにも出演してもらった「ファンタジスト」のミュージックビデオは、今回のアルバムとツアーにつながる内容になっているので、「ファンタジスト」のミュージックビデオを見てからライブに足を運んでくれたら、"そういうことだったんだね!"って答え合わせができるはずです。演劇を交えたライブは最初で最後になると思うので、ぜひ!」
(おわり)
取材・文/大久保和則
LIVE INFOGalileo Galilei TOUR M
9月27日(金)Zepp Sapporo
10月12日(土)Zepp Fukuoka
10月13日(日)HIROSHIMA CLUB QUATTRO
10月19日(土)仙台PIT
10月22日(火)Zepp Nagoya
10月23日(水)Zepp Namba
10月25日(金)Zepp Haneda
Galileo Galilei『MANSTER』DISC INFO
2024年9月25日(水)発売
POCS-23049/3,300円(税込)
Virgin Music Label & Artist Services
Galileo Galilei『MANTRAL』
2024年9月25日(水)発売
POCS-23050/3,300円(税込)
Virgin Music Label & Artist Services
Galileo Galilei『Bee and The Whales』DISC INFO
2023年5月31日(水)発売/配信
POCS-23032/3,520円(税込)
Virgin Music Label & Artist Services