17時の開演時刻をわずかに過ぎたころだった。会場に流れていたBGMの音量が一気に大きくなる。会場を埋め尽くしたファンたちから、拍手がわき上がる。そしてステージ上のスクリーンに都会の一角で暮らす男の部屋が映し出される。楽譜を束ねる手。その手で開けられる冷蔵庫。薄暗い部屋から見下ろす夜の街。やがて、スクリーンの後方にメンバーのシルエットが浮かび上がる。会場を満たしていたオーディエンスの期待感が最高潮になったその瞬間、ライブがスタートした。
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1曲目は、最新アルバム『Editorial』収録にして5thシングルの表題曲でもある「Universe」。転がるようなピアノのフレーズが高揚感を生み出し、会場にはファンのハンドクラップが響き渡る。続く「HELLO」では、スクリーンが4分割され、4人のメンバーが楽しそうに歌い、演奏する姿が大きく映し出された。
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3曲目は、ソウルフルなホーンで幕を開ける「宿命」。ボーカルの藤原聡の語りかけるような歌声とドラマティックなサウンド相まって会場の熱気も高まってゆく。そして、「宿命」の演奏を終えると、この日最初のMCに。藤原は、「ライブという日常が帰ってきた」とファンに感謝の気持ちを伝え、「会場の一人ひとり全員に、もれることなく伝わるように」とこの日のライブにかける思いを表明する。そんなMCの中で発せられた、「かけがえのない音楽の時間」という藤原言葉には特に大きな拍手が巻き起こった。ここにいる誰もが、“ライブという日常”を待ち望み、今ここで「かけがえのない音楽の時間」を過ごそうとしているのだ。
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MCに続いて披露されたのは、1stフルアルバム『エスカパレード』の1曲目を飾っている「115万キロのフィルム」だった。ピンスポットライトに、ピアノと藤原の姿が照らし出される。ファンファーレのようなホーンが鳴り響く。最後のフレーズをピアノだけで歌い上げ、ファンに向かって深々とお辞儀をする藤原。ステージは暗転し、会場に静寂が訪れた。ほどなくドラムのカウントがスタートし、「Shower」「みどりの雨避け」「Bedroom Talk」と、最新アルバムからの楽曲が立て続けに演奏される。短い展開を経て、「Laughter」の重厚なサイケ感が印象的なイントロが聴こえてきた。
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ステージ上方から幾筋のライトが、メンバーたちを照らす。壮大なスケールを感じさせるサウンドとメロディーがじっくりと展開され、高らかに<ラララ>と歌うコーラスパートではゴスペルのような力強さと、祈りにも似た思いが伝わってくる。「フィラメント」では、ギターのイントロが鳴り始めた瞬間、手拍子が起こる。10曲目には、今回のツアー中に発表された時点での最新曲「Anarchy」が披露された。「Anarchy」の余韻が残る中、再びMCへ。
「ここまではじっくり聴いてもらう曲が多かったけど、ここから先は熱い音楽の力と手と心の力を使って、最後まで楽しみ尽くしてやろうぜ!」という言葉をファンに投げかける藤原。その言葉に応えるように、これまで以上に手拍子の音が大きくなる中で、「Stand By You」がスタートした。曲中でも、一糸乱れぬクラップが響く。続くヒゲダン流ディスコティックナンバー「ペンディング・マシーン」でも、クラップは途切れない。軽快なポップチューン「ブラザーズ」では、メンバーたちのテクニックをたっぷりと堪能することもできた。
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14曲目の「ノーダウト」では、ラテンテイストのイントロからぐっと引き込みつつ、「ストップ!」の掛け声とともにルーツレゲエへと展開し、ファンを楽しませる。以降も、ステージ前方から火柱が上がる中でエモーショナルな歌とサウンドを聴かせた「FIRE GROUND」、スモークの演出も印象的だった「Cry Baby」、アカペラの多重ボーカルが胸を打つ「Editorial」、スローナンバー「アポトーシス」が続けざまに披露される。そして、「次が最後の曲です」という藤原のMCのあとは、アルバム『Editorial』のラストを飾る「Lost In My Room」で、渾身のパフォーマンスを見せてくれた。歌い終えた藤原は、「世界はクソみたいな悲しみで溢れてるけど、絶望しながらも、闇に飲まれながらも、どうか生きてください」とファンにメッセージを放ち、「いい夜を!」という言葉を最後に投げかけた。
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メンバーがステージを去ると、スクリーンには映画のエンドロールのように、メンバーやスタッフのクレジットが流れていく。その映像が終わると、すかさずアンコールを求める手拍子が起こる。その手拍子に導かれるように、スクリーンにはライブ冒頭で流れた映像が巻き戻されていく。やがて、メンバーたちがステージに姿を現し、会場はさらに大きな拍手で包まれる。アンコールの1曲目に披露されたのは、大ヒットを記録した彼らの代表曲「Pretender」だ。そして、初期の名曲「異端なスター」と続け、ラストの「I LOVE…」では、この日もっとも大きなハンドクラップが鳴り響き、メンバーとファンが一体になる。この日、最初のMCで藤原が言った「かけがえのない音楽の力」が、そこには確かにあった。
(おわり)
取材・文/大久保和則
写真/TAKAHIRO TAKINAMI
MEDIA INFO「Official髭男dism one - man tour 2021-2022 - Editorial -」@さいたまスーパーアリーナ オンラインライブ
※アーカイブ配信は5月8日(日)23:59まで
Official髭男dism one - man tour 2021-2022 -Editorial- セトリプレイリスト
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LIVE INFOOfficial髭男dism SHOCKING NUTS TOUR
9月28日(水)リンクステーションホール青森(青森市文化会館)
9月29日(木)リンクステーションホール青森(青森市文化会館)
10月13日(木)名古屋国際会議場センチュリーホール
10月14日(金)名古屋国際会議場センチュリーホール
10月25日(火)日本武道館(東京)
10月26日(水)日本武道館(東京)
10月29日(土)日本武道館(東京)
10月30日(日)日本武道館(東京)
11月4日(金)フェスティバルホール(大阪)
11月5日(土)フェスティバルホール(大阪)
11月16日(水)旭川市民文化会館(大ホール)
11月17日(木)札幌文化芸術劇場 hitaru
11月28日(月)ふくやま芸術文化ホール リーデンローズ 大ホール(広島)
11月29日(火)ふくやま芸術文化ホール リーデンローズ 大ホール(広島)
12月6日(火)福岡サンパレス
12月7日(水)福岡サンパレス
12月13日(火)オーバード・ホール(富山)
12月14日(水)オーバード・ホール(富山)
12月21日(水)仙台サンプラザホール
12月22日(木)仙台サンプラザホール
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DISC INFOOfficial髭男dism「ミックスナッツ EP」
2022年6月22日(水)発売(予約/購入)
CD+Blu-ray盤/PCCA-06136/3,300円(税込)
CD+DVD盤/PCCA-06137/3,300円(税込)
通常盤(CD)/PCCA-06138/1,650円(税込)
ポニーキャニオン