歌うために生まれてくるというのは、こういうことを言うのだろう。沖縄は石垣島が輩出したシンガー、石垣 優。「歌っていると体が整う。歌わないと内臓から崩れていくのが自分でわかる」と語り、何よりその歌が聴く者の心を整えてくれるのだから、音楽の神がいるのであれば、彼女が選ばれたひとりであることは間違いない。

――やなわらばーの解散は、デュオとしてやりたいことは、やり切ったということだったのでしょうか?

「それぞれ考えが違うところもあるとは思いますが、私はやり切ったというのとは違いました。それは、プロになる時に二人で決めた、“東京国際フォーラムのホールAでライヴをする”という目標を達成していなかったからです。最終的に、ホールCではできましたけど。お互いもうすぐ40歳になるんですけど、結婚した相方はやはり、“子供が何人ほしい”とか、音楽以外の自分のあるべき姿も考えますし、ふたりで1年ぐらい話し合っていたんですね。目標を達成するために頑張るとなると、犠牲にしなければならないことも出てくるし、“どういう自分たちであるのが幸せなのか?”と。その結果、解散という結論に至りました」

――そうだったんですね。

「私は引き続き、同じ目標に向かって、ひとりでどうにかやっていこうと。そして目標がかなった時には、スペシャルゲストでもいいですし、相方を迎えて1、2曲限定でやなわらばーとして二人でステージに立つとか、そういうのもありだと思っています」

――なるほど。

――5月にリリースされた、ソロ第1弾デジタル・シングル「花ひら」では、ご自身で作詞も手がけていますね。

「はい。作家さんにも、お力添えをいただいて。ソフトドリンクのCM曲だったんですけど、前回のCMにもやなわらばーの曲を使っていただいていたので、どういうものを求められているのか、なんとなくわかっていました。大きなテーマとしては、親子愛なんですけど、親子だけに限定しないで、恋人同士にも友達同士にも当てはまるような曲にしました」

――6月にリリースされた第2弾シングル「つよがり」、7月リリースの第3弾「最後の恋」は、作家さんの作詞と作曲によるものでしたが、内容をすり合わせたうえで作っていったのですか?

「その通りです。たとえば「つよがり」を作詞してくださった(西野)蒟蒻さんは、ほかの曲でもご一緒して面識がありますし、私の人となりを知ってくださっているんですね。歌詞が上がってきた時に、何も言っていないのに、この部分は私のことだなってわかりました。改めて、自分で選んだ道なんだから、覚悟してやっていかなきゃと思いましたね。背中を押してもらった気がします。「最後の恋」は、20年後、30年後にも歌えるような、今から育てていく曲を作ろうというところから生まれました。私も加山雄三さんのように、年を重ねていっても、胸を張って歌いたいんです。そして同じように、自分で納得がいかなくなったら、きっぱり辞めるつもりです。「最後の恋」は曲調も歌詞の内容も、今はすごく大人っぽく感じますが、年齢を重ねていきながら、意味が変わってくるんだろうなと思います」

――続く8月リリースの第4弾「あなたが変えた今日」も、作家さんとの共作で、ご自身が作詞されています。大切な人とのつながりを感じさせる内容ですね。

「そうですね。ソロになり1年半思うような活動ができませんでした。そんな状況でも応援してくれている皆様に、インスタライヴを通してお礼を言ったら、“いつまでも待っているよ!”とか“あなたを初めて知りました。新曲を楽しみにしています”とか、たくさんメッセージをいただいたんですね。スタッフさんにしてもそうですし、たくさんの人に支えられていることを、もちろん知ってはいるんですけど、それをまた強く感じたので、そういう方たちに向けて書きました」

――元相方さんへの気持ちも、込められているのかな?と感じました。

「それもあります。解散してしばらくは、彼女に第二子が生まれたこともあって、連絡を取り合っていなかったんですけど、今は普通に取り合っていて、私がこの前、石垣に帰った時も、ほとんど一緒に遊んでいました。ちょうどまた連絡するようになった時期に、作った曲なんですよ。1度ライヴにも来てくれて、“立派だったよ!”って言ってくれたんです(笑)。だから、(東里)梨生への“ありがとう。頑張るよ!”という気持ちも込めています」

――バラードはバラードなのですが、曲調がこれまでとは違いますよね。

「そうなんです。挑戦でした。ちょっとMISIAさんにも通じるような壮大な曲で、個人的にMISIAさんは大好きで、カラオケで歌ったりもしているんですけど、自分の曲になったらどう歌っていいかわからなくて、すごく緊張しました。これも歌い続けることで育っていって、どんどん自分の曲になっていくと思うので、楽しみです」

――そして、8月にリリースされた第5弾「光はココニ」も、歌詞が共作で、内容は実体験だそうですね。

「そうなんです。私は18歳で島を出て、都会に住んで22年目なので、もうこっちのほうが長いんですよね。自分で決めたことなので、そこはまったく後悔していないんですけど、ひとつだけ辛いのが、大切な人の最期に立ち会えないことが多いことなんです。この曲では、おばあちゃんのことを歌っています。私の両親は船屋さんで、夜中の2時3時まで仕事をしていたので、学校が終わったら、おばあちゃんの家でご飯を食べて寝て、眠っている間に親が連れて帰るという生活をしていたんですね。だから私は、おばあちゃんを“育ての親”と呼んでいて、おばあちゃんも孫がたくさんいる中で、私には特別な想いがあったようなんです。そのおばあちゃんが“もう危ない”という連絡が来て、翌日、石垣に帰ったんですね。意識がなくて寝ているだけだって聞いていたんですけど、顔が見たいから。それで夜、飛行機で会いに帰ったら、おばあちゃんが起きていて、“優だよ。わかる?”って聞いたら“わかるわかる”って」

――そういうの、あるんですよね。良かったですね。

「すごく嬉しくて、“明日の朝また来るね”って別れたら、その朝に意識がなくなって。私はずっとついていたかったんですけど、生放送があったから帰らないといけなかったんです。そしておばあちゃんは、私が飛行機に乗った時に、亡くなりました。それからずっと、後悔していました。まあ、スムーズに行っても到着まで半日かかるので、仕方のないことなんですけど、命を賭けて育ててくれた人の最期に立ち会うことができなかったので。妹のようにかわいがっていた犬のチビちゃんの最期も、同じような感じでした」

――こればっかりは、仕方がないと思います。

「そしたら、おばあちゃんやチビちゃんの夢をしょっちゅう見るようになったんですよね。10年以上も経っているのに。そこで、それは身近に感じることができているということでもあるし、逆に幸せなことだなって思ったんです。“強い後悔から生まれる幸せもあるんだな”って。そう気づいた時に、歌詞にできるかもしれないと思いました」

――だからこその楽曲タイトルでもあるんですね。

――ここまで早くも5曲ですが、さらに9月16日には第6弾「未来へ」がリリースされました。これは一転してアップビートなポップ・ナンバーで、歌声からは石垣さんの芯の強さみたいなものを感じました。

「歌詞は作家さんと一緒に書いたのですが、曲は自分で書きました。実は、やなわらばーの時にすでにメロディはできていたんです。今回、沖縄ろうきんさんのTVCMで楽曲を使っていただけるということで、何曲かお渡しした中からこの曲を選んでいただいて、自分でもビックリでした(笑)。CMのイメージが“未来への希望”だったので、歌詞では前向きに進んでいく気持ちみたいなものを表現しています」

――それにしても、1カ月に1回どころか、3週間に1回のリリースというのは、ものすごいペースですね。

「私はもう、ずっと歌っていたい人なんです。ライヴも週に1回はしたいぐらいで。だから今の環境は、とても健康的ですね。歌っていると、体が整うんです。逆に歌わないと崩れていきます。自分で自分の内臓の状態が崩れていっているのが、わかるんですよ。それが、歌うと正しい位置に納まる。体も心も健康になるんです」

――今後ソロでは、よりパーソナルなことを歌った楽曲が多くなるのでしょうか?

「やなわらばーの時は、たとえば色にしたら青とか、けっこう強いキャラクターがあったので、それに沿わないものはこぼれていってしまっていたんですよね。そこが強さでもあり、弱さでもあると思っていました。でもソロになって、「光はココニ」みたいに本当にパーソナルなことも歌えるし、作家さんに提供していただいて、ひとつのストーリーを歌うこともできる。その両方を表現していきたいと思っています」

――もしや、第7弾も考えているのですか?

「頑張って制作したいと思います(笑)。とにかくオリジナル曲を増やしていって、来年ちゃんとしたCDを作りたいと思っています」

――ソロとしての今後の展望を聞かせてください。

「私の歴史とかとは関係なく、40歳の女性として、皆さんが自分の人生を重ね合わせられるような歌を歌っていきたいですね。と言いつつ、私にも22年間のキャリアがあるので、それがあったからこそ歌える歌も歌っていきたいです。今まで出会えなかった方々にも出会いたいですし、決して沖縄を捨てたわけではないので、沖縄が好きな人にも引き続き聴いていただけるように、引き出しを増やして活動していけたらと考えています」

――ワンマン・ライヴ「石垣 優 Live 2022〜RESTART〜」では、どんな姿を届けたいですか?

「ようやく新たな一歩を踏み出し始めている状況の中で、歌うということ、集まってくれる人や、支えてくれるスタッフさんがいるということ、そういう一つひとつが、20年やってきたことなのにすごく感動的で、“こんな奇跡ってないな”って思いながら、今活動しています。その気持ちを歌で伝えたいし、私の覚悟も歌に込めたいと思います。第2の音楽人生のスタートに、立ち会っていただけると嬉しいです」

(おわり)

取材・文/鈴木宏和

LIVE INFORMATION

石垣 優 Live 2022 〜RESTART〜

日程 20221016日(日)
1st.show open 2:45pmstart 3:45pm
2nd.show open 5:30pmstart 6:30pm
場所 コットンクラブ東京

石垣 優 Live 2022 〜RESTART〜

RELEASE INFORMATION

石垣 優「未来へ」

2022年916日(金)配信

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石垣 優「光はココニ」

2022年826日(金)配信

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石垣 優「あなたが変えた今日」

2022年85日(金)配信

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石垣 優「最後の恋」

2022年715日(金)配信

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石垣 優「つよがり」

2022年624日(金)配信

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石垣 優「花ひら」

2022年520日(金)配信

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