──メジャーデビュー・シングル「なにやってもうまくいかない」を含む、5曲入りの1st EP「間一発」が完成しました。10年以上の音楽活動を経て、メジャー初のEPをリリースする心境は?
「これまでやってきたバンドっぽい曲だったり、今までチャレンジしたことのないピアノと歌だけの楽曲だったり、とにかくジャンルがさまざまで、共通点は“meiyoらしさ”だけというEPができあがったと思っています。もう13年ぐらい音楽活動を続けてきて、初めてメジャーからEPをリリースするということ、それによって5曲まとめて自分の曲を聴いてもらえることがとてもうれしいです」
──「間一発」というタイトルに込めた思いは?
「まず、直感で漢字3文字のタイトルがいいなと思ったんです。そういう、何か縛りがあったほうが面白いアイデアが浮かぶんじゃないかと思ったんですよね。それで、20個ぐらい漢字3文字のタイトル候補があった中から選びました。ほかには、悪趣味とか一大事、金字塔という言葉が候補だったりしたんですけど」
──中村一義さんの1stアルバムのタイトルが『金字塔』でしたよね。
「そうそうそう!かっこいいですよね、1stアルバムで『金字塔』って」
──いろいろな候補の中から「間一発」が選ばれたということですが、本来は間一髪ですよね。“髪”ではなく“発”なのはなぜ?
「まず最初は、31歳でメジャーデビューしたということが“間一髪”だったなと思ったんです。たとえば、何かのオーディションなどにデモテープを送ろうと思っても、対象年齢が24歳までだったりして、そもそも送れなかったりすることもあったんです。だから、31歳でデビューって、僕の中ではギリギリ間一髪だったなという気持ちが強い。ただ、それでタイトルが「間一髪」だとひねりがないので、このEPの真ん中からmeiyoらしさをドンと一発ぶち込んでやろうという気持ちで、「間一発」というタイトルに決めました」
──「間一発」には、既発曲の「なにやってもうまくいかない」、「チャイニーズブルー」、「クエスチョン」のほかに、「レインボー!」と「あとがき」というふたつの新曲も収録されています。それぞれの楽曲について、制作過程を紐解いていただけますか?
「もともと「レインボー!」は、「なにやってもうまくいかない」の2週間ぐらい前に作った曲なんです。去年の6月ごろだったと思います。ボーカロイド曲に挑戦したいなと思って、いろいろとボーカロイドを聴いたんですけど、その中に鏡音リン・レンという双子の男女ボーカロイドユニットがいたんです。「レインボー!」は、その2人に歌ってもらうことを想定して作りました。実際に鏡音リン・レンのバージョンも制作したので、僕のYouTubeチャンネルを遡ると、そのバージョンもアップされています。歌詞は、リン・レンが男女だということもあって、単純に男女の恋愛を歌ってもつまんないなと思って書きました。世の中にはいろんな人がいるし、女同士だったり男同士で恋愛する人もいるし、心が女性の男性も、逆に心が男性の女性もいる。そういうことを考えてたら、誰もが平等に幸せだったらいいのにな……って考えてしまって。そこから、恋愛しないことも含めてすべてを肯定したいという気持ちになって、「レインボー!」を書きました」
──その「レインボー!」を自分で歌おうと思ったのは?
「単純に好きな曲だからというのが、大きな理由です。それと、最初のデモは自分で歌って、それをボーカロイドに歌わせてみた結果、人間が歌ってもよかったな、やっぱり自分で歌ったほうがいいかもって(笑)。そういう紆余曲折って、けっこうあります」
──もう1曲の「あとがき」は、ピアノと歌だけの楽曲で、詞曲ともにエバーグリーンな魅力を持ったナンバーです。
「EPの最後にふさわしい曲、最後を締めながらフラットに戻れる曲が欲しくて作った曲です。ピアノとボーカルだけという今までやったことのないスタイルに挑戦したんですけど、こんなにシンプルな楽曲は初めてだったので、すごく新鮮でした。僕の素というか、情けない一面をちょうどいい感じで聴いていただけるんじゃないかと思います」
──歌詞でも、EPのラストにふさわしい曲という部分を意識した?
「この曲は、大好きなアーティストが亡くなってしまったことについて歌っているんですけど、そのアーティストにそっと供えるような曲にしたいなという気持ちで書きました」
──大好きなアーティストというのは?
「赤い公園の津野米咲さんです。いちばん好きなアーティストと言っても、過言ではないと思います。でも、これについてはわかってくれる人だけわかってくれればいいというか、聴いてくれる人それぞれでいろんな捉え方をしてほしいので……うーん、説明がむずかしいですね。亡くなってしまったこととか、それから月日が経って今思っていることを、そのままつらつらとしゃべるように書いた感じです」
──詞曲とも、素晴らしい楽曲だと思います。
「ありがとうございます。僕はこういう曲がずっと書きたかったんですけど、なかなか機会がなくて、でも、今回はこの「あとがき」でやりたかった曲が作れたというか。ノリノリになれるとか、バンドっぽいかっこよさがあるとか、そういうこと以前にmeiyoの中心にあるものを聴いていただける。そういう曲になったと思います。これからも、メロディーとコード進行、歌詞だけでズンとくるような曲は作っていきたいなと思っています。「あとがき」は、感覚としてものすごく素直な気持ちになれて、歌詞がそうなりたがっているメロディーが生まれてきました。なので、これからもものすごく素直な気持ちになれたら、「あとがき」のような曲が書けるんじゃないかなと思います」
──インタビューの冒頭で「共通点は“meiyoらしさ”」という言葉がありましたが、また別の言葉で「間一発」を表現するなら、どんな言い方がふさわしいですか?
「抽象的な言い方になるんですけど、完成してから初めて通して聴いたときに、モノクロ写真のような印象を受けたんです。曲単位で聴くといろんなタイプの音楽性でカラフルなんですけど、5曲通して聴いてみると色がない感じがして。たぶん、作った自分がそう感じたのは、聴いてくれた人たちそれぞれに好きな色をつけてほしいからだと思うんです。色じゃなくて、数字でもいい。“この曲、7っぽいな”とか(笑)。本当にそれぞれの感覚で聴いてくれたらいいなと思います。だから、僕にとっては色を塗っていない線画のようなEPです。塗り絵みたいな感覚で聴いてくれたらうれしいですね」
──初のEPが完成して、気づいたこともありますか?
「「なにやってもうまくいかない」という曲でメジャーデビューしましたけど、今は“何をやっても大丈夫”って思ってるというか、そういうことはEPを作ってみて気づきましたね。こんなにいろんなタイプの曲が収録されてたら、1枚の作品として馴染まないんじゃないかと思ってたんですけど、意外とひとつの作品に仕上がったというか。バンドっぽいサウンドも、打ち込みの曲も、ピアノと歌だけの曲も、全部が“meiyoらしさ”だなって、やっと自分でも思えるようになりました」
──今回、EP「間一発」を完成させたことで、これからの自身の音楽に新たな理想や夢も生まれていますか?
「これからの理想としては、シンプルなデモをアレンジャーさんに渡したりして、自分の手を離れたところで曲をこねくり回されてみたいです。そのアレンジャーさんに、より多くの人に届くアレンジをしてもらったりする中で、僕が思っているポップス観と世界中の人のポップス観の融合にチャレンジしたいと思ってます。そうやって、もっと間口の広い作品を作っていきたいです」
──ポップミュージックの最大公約数を探していくというか……。
「そういうことですね。その上で、将来的な夢はミュージカルの音楽を作ることです。割と最近なんですけど、いろんなミュージカルを見て、ミュージカルって本当に素晴らしいなと思っているんですよ」
──前回のインタビューでは、「「なにやってもうまくいかない」は結果的に自分の半生を歌っている」と話していましたが、1st EPを完成させた今はどうでしょう?
「うまくいかないなって思うことはありますけど、あの曲を作ったときの気持ちよりは全然穏やかです(笑)」
──「なにやってもうまくいかない」を歌って、実際にそう思っていたmeiyoさんが、今は自分の音楽について「何をやっても大丈夫」って思えているんですもんね。
「何をやってもダメだと思ってたのに、今は確かに何をやっても大丈夫って思えてます。最終的には、「なにやってもうまくいかない」を歌わなくなるかもしれない(笑)」
──歌えない自分になるかもしれない?
「1ミリも思っていないことは歌えないっていう(笑)。そうなったら、僕の人生は最高ですよね!」
(おわり)
取材・文/大久保和則
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