――タイアップ曲に目が行きがちなメジャー1stアルバム『PALETTE』ですが、新曲もふんだんに収録されていて。eillさん自身はこのアルバムの全体像はどう仕上がったと思いますか?
「最初、シングルカットの曲を書いていって、アルバムタイトルは最後の方につけたんですけど、ほんとにいろんな色の曲を作ってきたなと思っていて。なのでひとつのパレットにいろんな色を乗せていくような感覚で作ったアルバム『PALETTE』という形になりました」
――アルバムタイトルを知った時にシンガー・ソングライターの人のタイトルだなと感じて、実際にこれまでよりシンガー・ソングライター色が強い、ジャンルでくくれない感じがしました。
「うれしいです。それはまさにそんな気持ちで作ったというか、ひとつの色に縛られるのではなく、いろんな色の私があるから、それがeillというアーティストなんだっていうのをすごく肯定できたアルバムになったなと思ってます」
――それは曲を作っていく中で、自分はジャンルに縛られるアーティストじゃないという自覚が出てきたのか、それとも曲が出揃ったところでそう感じた?
「いま思うとどっちもかなと思っていて。毎回、曲を作るたびに何かを目指して作っているわけじゃなくて、自分から自然にメロディとか曲のイメージが降りてくるのと、あとやっぱり私自身の性格もあっちこっち気持ちが動く性格なので、それも音楽に反映されてるのかなと思いますね」
――今日はアルバムの新曲についてお聞きできればと思うんですが。1曲目の「いけないbaby」がかなり斬新な始まり方で。
「そうですね。外で歩きながら録ったボーカルからスタジオのボーカルに繋がるんですけど、このアルバムに誘うような感覚というか。1曲の中でそうなるように考えてるんですけど、この曲を1曲目に持ってくることで、アルバム全体にすっと入っていくような感覚になったなって思います」
――イヤホンやヘッドホンで聴いてこそ分かる仕掛けで。
「そうですね。ぜひそういうニュアンスで聴いてほしいと思います」
――環境音が入ってるところからトラックに変わる変わり目がすごく面白いので。
「うんうん。そうですね。また外で聴くと、聴いてくださる方がいる環境音とまた混ざり合って不思議な感覚になるというか、それもぜひ体験してみてほしいなと思います」
――そもそもなんで外で録ろうと思ったんですか?
「いろんな曲にいろんな環境音を録って入れてるんで、“何入れようかな”と思った時に、“もうなんか自分の歌も外で録っちゃえ!”みたいな感じで録って(笑)。スマホに付けて録音できるマイクで、そのまま録って、歌直しとかもせずにそのままの私の鼻歌みたいな歌を最初にイントロのような形で付けました」
――この曲はメロの展開も面白いです。
「そうなんです。同じメロが何度も出てくるという感じで。なので、同じメロディなのでいろいろな聴かせ方したくて、転調とかいろんなギミックを使って作りました」
――メロディが同じであるせいでオケが変わると時間の経過を感じるんですよね。
「確かにそれはすごく意識しました。なんか熱がこう……どんどん少しずつ熱くなっていくような感覚で作ったっていうのはありますね」
――この曲の中でもeillさんが特に気に入ってる展開はありますか?
「この曲、生ドラムと打ち込みのミックスなんですけど、フィルが入ってるのに、“ブレイクビーツ行くんかい!”みたいなところもあったり、そういう遊び心も入れたりして、すごく素敵なアレンジになったところが、私のお気に入りポイントです(笑)」
――トラックの変化もだし、ブリッジがあることによって時間や気持ちが変わっていく役割を果たしてますね。
「熱が高くなったのかな?と思ったら、一回冷静になるんだ……みたいな。その感じはトラックありきだと思っていて、今回のツアーもいつもいっしょに回るメンバーが全員レコーディングに参加してくれているんです。それぞれに“ここはこの人のパート!”そんなふうにできたのもすごくうれしかったです」
――ほんとにナイスアイデアでしたね。そして「23」はeillさんの実年齢で。以前「20」もありましたが、これはシリーズになっていくんですか?
「何歳で書こうと決めてたわけじゃないんですけど、23歳って私にとってメジャーデビューした歳でもあって、まわりの友だちは就職したりだとか、大人になるって言い方をしたら“大人って何?”ってなると思うんですけど、みんなも私も大人っていうものになっていく階段をしっかり上り始めた感覚があったんです。なので、このときの心境を曲にしようと思って書きました。でも、またたぶん気持ちが変わるときがきっとくるのかなって……。その時にまた書きたいなと思ってます」
――今回の「23」もアンセミックというか、アレンジがハードですよね。
「そうなんですよ。「20」のサビのリフとかをもじってたりするんですけど、それを感じさせないパワーというか、その頃の何百倍にもなってるし、バンドメンバーからの絆も入れてるし、私自身の心の強さのレベルも上がったかなと思えるというか、この3年間でいろんなことがあったからこそ、すごく強くなれた私が1曲として、アルバムの中に入ったなって感じですね」
――リアルを捉えてる曲だと思います。ちなみにeillさんが想像してた23歳と現実は違ったりしますか?あんまり意識しない年齢かもしれないけど。
「でも、思ったよりもちゃんとし始めたなと逆に思ってて。きっともっといろんな人に当たり散らして、いろんな人のせいにしたりして生きていくのかなと思ってたんですけど(笑)。やっぱり自分とちゃんと向き合えてるんじゃないかなと最近は思います」
――二十歳の頃とのいちばん大きな違いはなんでしょうね?
「やっぱりこう、未来が見えない、自分のことも分からない、だから今を生きようって、二十歳の頃は思ってたんですけど、23歳になって、自分がやりたいこととか、この人生でやってみたいこと、そういうものが明確に見えてきて、そうなるとやっぱり永遠ってないのかもしれないって気付いて。だから今を生きるんだ、生きなきゃいけないんだみたいな、そんな気持ちに変わったっていうか。自分のことをすごく知った、いろんな自分と出会った感じがします、この3年間で」
――「20」のときの友だちとはいまどんな感じなんですか?
「それこそミュージックビデオにはその頃の友だちがみんな出てくれてて。「20」を撮ったときにお腹に赤ちゃんがいた子がいたんですけど、その子は子どもが2歳になって。母になってやっぱりすごく強くなった。人として言うことも全然変わったし。あとはネイルをやってる友だちは当時は特にやりたいことなかったけど、ネイルの学校行って勉強してみたりとか。音楽をいっしょにやってる子たちも事務所とかレーベルに入って本格的に活動していくっていう姿になって。私もメジャーデビューをして、みんなそれぞれ前に向かってずんずん歩いて行ってて。それもなんだろな?すごいことだなと思うっていうか。みんなすごく楽しそうで、苦しいこともあるけれど、人生を歩んでます」
――かっこいい曲で、どこかビヨンセのビーチェラのときのマーチングっぽい感じもありますね。
「確かに確かに!あの、大勢で歌っている感じというか、いっぱい人がいる感じですよね」
――ああいうのもかっこいいですよね。ライブであんな感じでできたらかっこいい(笑)。
「がんばります。この曲、ひとりで歌うんで(笑)。J’Nique Nicole(ジュニーク・ニコール)さんにコーラスをしていただいているので、ちょっとゴスペルっぽくボーカルはアレンジをしたんですね。ライブは一人で歌うし、お客さんがいっしょに歌えないので、ツアーに向けてその熱量をどうやって出そうか考えてます」
――アルバムタイトル曲の「palette」が非常にポップで。ほんとにいまのeillさんを表現してる感じがしたんですが。
「この曲は『PALETTE』っていうアルバムタイトルを決めたあとに最後に歌詞を書いたんです。それこそもうレコーディングの当日まで、ずっとスタジオで歌詞書きながらレコーディングをして。「palette」で私が伝えたいこと、何色になってもいいんじゃない?みたいな。そんな言葉をしっかりと残せた曲になったなと思いました」
――今、個人の多様性を発信できるようになってきているので、聴く人にも向けても「どんな色でもいいんだよ」というふうに伝わる気がして。
「確かにそういう曲であってほしいと思います」
――そしてアルバムだからこそのアプローチだと思うんですが、「ただのギャル」、これは最高ですね。
「やったー!最高、いただきました(笑)」
――「ただのギャル」ってリフレインすると面白いフロウになるんだなって。「すごいギャル」でもいいかも(笑)。
「「ただのギャル」がタイトルってヤバいですよね(笑)この曲を作ったきっかけが、クラブとかで歌ってたデビュー前とかデビュー当時、なんかこう、“見た目ギャルっぽいのにほんとに自分で曲作れてるの?”みたいに言われて、すごいムカついたんですよ。“なめるなよ”と思って、それで“ただのギャルをなめるな!”って曲、だから「ただのギャル」ってつけたんですね(笑)」
――それはその人がただのギャルって思ってるだけですからね。
「うん。ほんとは私たち一人一人がすごいギャルなんだと思います(笑)」
――そういうことを書こうと思ったから当時のトレンドの感じなのかな?と思ったんですが。
「トラップがきたぐらいのときに、この曲を作っていて、でもそれ以降もトラップっていつもいるじゃないですか、音楽チャートに。海外の音楽聴いてもそうですし。だから話し合ったんですよね、“大丈夫かな、トラップ”みたいな。“いや、全然いるからいいでしょ”みたいな感じで、そこに一個プラスでくることはオペラ(笑)。私が“オペラを入れたい”って言って、トラップといっしょにして新しくしようって話をして、実際に歌っていただきました(笑)。あと、オートチューンをこれだけ使ったのも初めてなんですけど、楽しくてちょっとハマっちゃいました(笑)」
――素直な感じが出てて好きだなと思ったのが「honey-cage」で。この曲はすごくパーソナルですね。
「バレている!(笑)そうなんですよ。すごく私のボソボソ感があります。独り言感がすごくあるというか。そんな曲になりました(笑)」
――いい意味ではっきりした表現じゃなくて。
「確かに余白は結構残した曲かもしれないですね。ROMderfulさんにビートをいただいて、そこからメロディをつけたんですけど、私的には韓国のR&Bをちょっと意識した曲にしたいって言って、いくつかトラックをいただいて好きなのを選ばせていただいたんです。聴いてくださる方によって感想が全然違っていて。この曲はいろんな聴かれ方をするのかなと思いました」
――肌感覚というか、自分の好きな香りやテクスチャーについての歌詞もあるので、明確なメッセージじゃないけど感覚や温度感として伝わるものがあるなぁと。
「うれしいです。歌詞を書く時に、生々しくしちゃうと完全にその状況しか浮かばなくなるのがいやで。なので、「honey-cage」」は好きな彼なのか好きな人なのかわからないけど、言いたいことがあって、もうガマンできなくて、でもそれが言えてるのか言えてないのかわかんない、心の中で決めているだけで口には出してないのか、それとも口に出して心の中でほんとはそう思ってないのか、そこのボーダーラインは敢えて引かないように作ったのでうれしいです」
――好きな人への曖昧な気持ちと、自分が癒やされるものが並行して描かれているので、イメージしやすいんじゃないですかね。
「ペアーとジャスミンとか。でもこの曲をレコーディングしたときに、プロデューサーから“おまえは本当にわがままな女だな!何が言いたいんだ?”という感想をいただいて(笑)」
――そう言われたんだったら成功ですね。
「そうですね!女心ってわからないんですよ。恋をしているときは盲目なんですよっていう気持ちでしたけど(笑)」
――“なんなんだよ?”って男子は思うんでしょうね。
「男子からしたら怖いでしょうね、この歌詞(笑)」
――終盤にはピアノバージョンの「片っぽ - Acoustic Version」、そして「letter...」はアコギ一本ですね。
「シングルだとそういう楽曲もほとんど出したこともないので、すごく新鮮でした。ピアノの弾き語りは初めてでしたね」
――「letter...」はeillさんの決意表明にも思えました。
「そんな気持ちで書きました。いつも支えてくれるまわりの人だったり、ファンの方にファンレターをいただくんですけど、そのファンレターにはいろんなドラマが書いてあって、それに対して私は音楽でお返事をしたいなという気持ちがあって、お返事を書くような感じで書きました」
――「片っぽ - Acoustic Version」はピアノ一本だとスケールが大きすぎてベタになることもありますが、いい塩梅ですね。これはピアノと歌は別録りですか?
「そうですね。ピアノは自分の家で録りました。この「片っぽ」って曲を書いたときの姿を見せたくて、歌いながらポロポロとピアノを録って、ボーカルはスタジオでそれを聴きながらスタジオでレコーディングした感じですね。でもちょっとびっくりしたのが、今回の「片っぽ- Acoustic Version」のレコーディングをしたときに、いつもより不安だったんです。いつものメンバーが弾いてるオケで歌うときの安心感ってこんなにすごかったんだって感じて。その時、いつもありがとうって思いました(笑)」
――シンプルなオケだからって、それを埋めるように歌うのも違うでしょうし、難しかったですか?
「難しかったですね。部屋の中で横で歌ってる感じをすごく出したくて。うまく歌いすぎても違うというか、もっと言葉を話すように歌うことを意識して歌いました」
――そしてラストを「HARU」という軽快な曲で終わろうと思ったのはなぜですか?
「どうしようか迷ったんですね。最後、「letter...」で終わるか迷ったんですけど、リリースが2月だし、もうすぐ春だし、ちょっとここで風を吹かせて終わりたいなと思って、「HARU」にしました」
――この曲が最後にあると確かに出かけたくなるなあ、って。
「うん。ルンルンした気持ちになってくれるかなと」
――1曲目の「いけないbaby」が夜の街にひとりって感じなので、時間が経過して、午前中ぐらいで旅にでも出たい!みたいに「HARU」がくるなと受け取っちゃいました。
「ほんとだ。夜を超えて朝になって、時間が経って、心入れ替えて、よし!お出かけしようって終わってる(笑)」
――このアルバムは名刺代わりの一枚になったんじゃないですか?
「最終的にそんなふうなアルバムになってくれてよかったなってすごく思ってます。「ここで息をして」でメジャーデビューして「hikari」「花のように」ってきて、「23」「プラスティック・ラブ」……アルバムどうしようかな?どんなふうになるんだろう?と思いながら作っていたので。でもそれを生かしてのパレット『PALETTE』、自分の色も見つけてのパレット「palette」っていうのはすごく良かった。これがメジャーの1stアルバムで良かったってすごく思いました」
――そしてこのアルバムを携えてのライブもありますね。ライブアレンジはこれから詰めて行く感じですか?
「そうですね。絶賛リハ中です。でも新曲なのにこんなにアレンジするんかい!ってぐらいアレンジをしたりしてる曲もあるので楽しみにしていただけたらなと思ってます」
(おわり)
取材・文/石角友香
写真/山川哲矢
LIVE INFOeill「BLUE ROSE TOUR 2022」
2022年2月6日(日)豊洲PIT(東京)
2月11日(金)なんばHatch(大阪)
2月12日(土)DIAMOND HALL(愛知)
DISC INFOeill『PALETTE』
2022年2月3日(水)発売
CD+Blu-ray/PCCA-06105/4,500円(税込)
CD/PCCA-06106/3,300円(税込)
ポニーキャニオン
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