――アルバム『DYEING』は、アーティスト活動20周年を記念した1枚。どんな思いで、このアルバムの制作に臨みましたか?

20周年が、ちょうどコロナ禍に入ってしまったので、本来だったらもう少し前にリリースする予定だったんですよ。でも、ギリギリ20周年というタイミングに間に合って出すことができたのは嬉しいです。もちろん新曲もありますけど、20周年のアルバムだからこそできるカバーもしたいなと思っていたんですね。だから、今まで僕が関わってきたアニメや舞台の中で思い出のある楽曲、気に入っている楽曲をカバーさせていただきました。さらに、そのときに共演していた仲間にもスペシャルコーラスで入っていただいたので、本当に20周年のお祭りっていうイメージのアルバムになったんじゃないかと思います」

――『テニスの王子様』の原作者・許斐剛先生にもアルバムジャケットのイラストを描き下ろしていただいていますしね。

「そうなんですよ!先生はとてもお忙しい方なんですけど、“KIMERUのためなら”ということで引き受けてくださったので、20年のおつきあいがあったからこそ実現したことだと思います。でも、僕はもう少し似顔絵的なものがくると予想していたんですね。ところが実際は、ものすごく細かくて超気合いが入ったイラストが届いて。しかも、このイラストの中にも僕の20年が詰まっているんですよ。よく見ていただくとわかるんですけど、懐中時計の周りに描かれてるモチーフって、実は僕が今まで演じて来た役なんです」

――すごい!ちゃんとそれを許斐先生が取り入れてくださったんですね。

「そうなんです。先生が僕のことを調べてくださったみたいで。だから、ファンの方の中には、このイラストを見て泣いた方もいらっしゃったらしいんですよ。僕も本当に嬉しかったので、今、このイラストをポスターにして額に入れて飾ってあります(笑)。それに「calling」(アニメ『遊☆戯☆王VRAINS』オープニングソング)や「OVERLAP」(アニメ「遊☆戯☆王デュエルモンスターズ』オープニング曲)を収録することが決まってから、(原作者の高橋和希)先生が亡くなってしまったニュースを聞いて...。それだけに“レコーディング頑張ろう!”って余計思いました」

――Premium Editionに限定収録されたその「OVERLAP」はアコースティックバージョン。このアレンジもステキですね。

「僕も好きです。ライブでアコースティックバージョンで歌ったときに好評だったので、今回のアルバムにボーナストラックとして入れてみようと思ったんですよ。『遊☆戯☆王』は海外でも人気があるので、たぶん「OVERLAP」が、僕の20年の中で一番いろんな方が聴いてくださっている楽曲ですしね」

――「OVERLAP」ではIKUOさんが、「défendu aube」と「宙ノ翼」では吉岡佑さんが、そして通常盤に限定収録された「Cadenza」では鎌苅健太さんがスペシャルコーラスで参加。これも豪華ですよね。

「ありがたいです、本当に。もともとは僕ひとりで歌って、コーラスも自分でやろうと思っていたんですけど、20周年だし...ということでみなさんに声を掛けさせていただいたら、喜んでOKしてくださいました。ただ、舞台で歌っていないコーラスラインをお願いしたので、みなさんレコーディングでは悪戦苦闘していたんですけど(笑)。特に「Cadenza」に関しては、舞台(Live MusicalSHOW BY ROCK!!』)では、鎌苅健太が歌っていたんですよ。僕が演じたのはギタリストの役だったので。だから、ボーカリストから楽曲を奪い取ったと受け取られたらイヤだなって思ったんですね。それだけに、そこは鎌苅くんにもしっかり説明しましたし、“今回はコーラスじゃなくて、スペシャルコーラスだから!”って言って、ボーカルの僕と同じくらいの音量を出しているんです(笑)」

――確かに、ほぼデュエットですよね(笑)。

「そうなんですよ!吉岡佑くんもIKUOさんもそうなんですけど、今回のスペシャルコーラスに関しては、ツインボーカルくらい音量を上げちゃっています(笑)。でも、そうやってみなさんがスペシャルコーラスとして参加してくださったおかげで舞台をご覧になった方たちにも新しい楽曲としてお聴きいただけるんじゃないかと思いますね」

――今回のアルバムにカバー曲を収録するに当たり、その“新しい”という感覚はKIMERUさんご自身にもあったんじゃないですか?

「そうですね。今回のアルバムタイトル『DYEING』は、僕は“染める、染められる”っていう意味でつけたんですよ。アーティストとして活動する際は、みなさんをKIMERUの色に染めるイメージでやっていますし、舞台に関しては作品や演出家に染まるイメージでやっていたんです。今回のアルバムには、舞台の楽曲も入っているし、アーティストとしてのKIMERUの楽曲も入っている。だから“染めて染められて”みたいなイメージがありますし、舞台でやってきた曲に関しては、僕色に染めるというコンセプトで作りました。舞台で歌っていたときは、当然キャラクターとして歌っているんですね。それを“どこまで自分色に戻すのか?”ということを考えた結果、大体半々。キャラクターとして歌っていた癖も残っていますし、それを完全に消す必要はないなと思ったんですけど、今回は役ではなく僕自身として歌う。それだけにKIMERU半分、キャラクター半分っていう感じにはこだわってレコーディングさせていただきました」

――そこがファンの方も新鮮でしょうね。

「はい。“あ、KIMERU色が出ているな!”って聴いていただけると思います。」

――そういったカバー曲もあれば、KIMERUさんとしての新曲もある。だから、全9曲(Premium Editionと通常盤を合わせると全10曲)とはいえ、盛りだくさんな印象がしました。

「僕も濃厚なものを作ったなと思います。変に数で勝負したくなかったんですよ。最初は“1516曲をバーン!と入れるのもいいな”って思ったんですけど、そうすると今までの経験上、作業に追われがちなんですね。それよりはひとつひとつ丁寧に集中して作ろうと思った結果、それぞれ9曲になったんです」

――新曲の中の1曲、「ムラサキ」がリード曲。和のテイストが印象的ですよね。

「実はこの曲、ある俳優の方をモチーフにしているんです。その方が日本っぽい舞台に出ているので、その雰囲気も入れました。歌詞は僕が書いているんですけど、イメージは、その俳優さんとファンの方たちとの駆け引き。だから、一見、恋をしている曲に思えるんですけど、僕の中では推し活の曲なんですよ(笑)。それでMVも幻想的なものにしたんです。その俳優さん本人には“君のために作った”っていうことは伝えていて、タイトルを考えてくれたのも、その人。ただ、最初は「DESIRE」っていうタイトルだったんですけど、もう僕の曲に「DESIRE」があったので(笑)、“別のタイトルに変えてほしい”と戻したら「ムラサキ」っていうものがきたんですよ」

――サウンド自体はハードなんですけど、その中に和のテイストも入っているし、ミステリアスな雰囲気もある。それだけに、とても聴き応えがありました。

「僕自身、いろいろなイメージを作曲家の方に伝えたんです。普段はあまり口を出すタイプじゃないんですけど、この曲に関しては、その俳優さんのイメージがありすぎて。だから、たくさんオーダーをさせていただきましたし、僕の曲の中に今まで和っぽい曲がなかったので、ガッツリそっちに振りたいというのもありましたね」

――今は“推し活”をしている方が多いので、いろいろな人に当てはまりそうですよね。

「リアル恋愛ではない、そことはちょっと違う感じの想いを書きたくて作りました。だから、聴いてくださった方それぞれの“推し”を思い浮かべていただきたいですね」

――「ムラサキ」のように具体的なイメージがあると作りやすいですか?

「作りやすいです。まず、言葉がバーッと出て来るんですよ。僕の場合は曲先が多いので、そのメロディに合わせて、その言葉をパズルのように組み合わせていくっていう感じです。そういう意味では、今回収録されている新曲は、イメージがあって作っている曲ばかり。だから、狙いを定めて作っていますね」

――2曲目に入っている「追憶」も、亡くなった仲間を思う曲とのことで。

「はい。滝口幸広くんのことを思って作りました。この曲を作ろうとしていたとき、急で亡くなってしまって...。ただ、せつなくなるのはイヤだったんですよ。だから、ガッツリヘビーなサウンドになっていますし、そこに恋愛要素も入れて、彼をオマージュさせてもらったんです。そうしないと、この曲を歌ったときに辛くなりすぎる。そう思ったので、モチーフにはしているんですけど、だいぶ脚色させてもらって作りましたね」

――親しくなさっていた方なんですね。

「はい、とっても。彼が亡くなった年には、3作品で共演しましたし、家も近かったんですよ。だから、毎回家まで送ってもらったり、一緒に温泉に行ったりもしていましたね」

――こうやって楽曲という形にすることは、滝口さんも嬉しいんじゃないかと思います。

「そうですね。亡くなったあと、ご家族とも、すごく仲良くなったんですよ。でも、まだ彼のことを曲にしたことは伝えていないので、ちゃんとこのアルバムを持って伝えに行きたいと思っています」

――「追憶」は、ちょっとゴシックな雰囲気もありますよね。

「はい。僕は昔ヴィジュアル系が好きだったりもしたので、そういう要素をどんどん足して、悲しい色を熱さに変えました。そうしないと歌うたびに泣いちゃう。僕には他にもそういう曲があるんですけど、それをファンの子も知っているから、その曲を歌うたび、聴くたびに、僕もみんなも辛い気持ちになっちゃうんですよ。だから、この曲はそういう感じではなく、さりげなく彼への思いが入っているほうがいいなと思ったんです。それだったら歌い続けられますからね」

――今のエピソードをお聞きしなかったら、ゴシックなテイストもあるので、ドラキュラをモチーフにした恋愛ソングとして聴いていたと思います。

「そうですね。まさに、そういうヴィジュアル系の方が歌いそうな恋愛ソングとして受け取ることもできると思います。でも、歌詞は本当に僕と彼の日常の思い出だらけ。僕って、結構いろいろ言うタイプなので、彼には厳しく接していたところがあったんですよ。そんな僕が、ある舞台の公演でケータリングに並んでいるとき、“ああ、疲れた~”って言って、滝口くんに後ろから抱きついたんですね。そしたら彼が“うわっ、珍しい”って」

――まさに歌詞そのままじゃないですか!

「そうなんです。歌詞の<ふいに寂しくなって>っていうのは違うんですけど、僕が抱きついたことを滝口くんが“珍しい”って言ったのが、歌詞の1行目に来ている。だから、恋愛ソングとしても聴けますけど、僕自身は仲間としての思い出をもとに脚色させてもらっているんです」

――そういう自分の想いを楽曲に反映できるのが、アーティストのいいところですよね。

「そうですね。作品として形に残せるっていうことが、すごく嬉しいです。そうやって、この20年で感じたこと、体験したことをいろいろと書き留めたところはありますね」

――「life」も、まさにそういう1曲。

「僕の生きざま!っていう曲ですね。“ポジティブに生きていくぞ、イエーイ!”っていう(笑)。僕の周りって、首から下が動かなくなってしまった俳優や、交通事故にあっていまだに障害を持っている人が結構いるんですよ。だから、歌詞にも入れたんですけど、本当に五体満足で生きていられる時間って限られているし、自分がいつどうなるかなんて誰にもわからないと思うんですね。それだけに、いつ何があっても後悔しないよう、今をしっかり生きたいと思って僕は生きていますし、そういう思いをこの曲では出しました」

――楽曲のテイストもKIMERUさんがリクエストしたんですか?

「そうですね。こういう歌詞を書くので、こういうイメージの曲にしてほしいって発注しました。もうその段階で、箇条書きにした僕の詞は作曲家は渡していましたし。20周年ということで過去の自分も歌っていますけど、やっぱり今の自分も入れたかったんですよ。“今、僕はこういうふうに考えて、こういうふうに生きている”というのを節目に残しておきたかった。だから、それを書いたんです。もしかしたら5年後には全然違う考え方になっている可能性もありますけど、とりあえず20周年の今は、こういう考え方だよって」

――人生には限りがあるかこそ、その時間を有意義に過ごしたいということですよね。

「そうです。その思いが強いですね」

――だから、聴いているリスナーの方も励まされる楽曲になっていると思います。

「背中を押せたらいいなと思っています。僕はお手紙とかもいただくんですけど、それを読んでいると、結構マイナス思考の方が多いんですよ。だから、自分がモデルになって、ああいうふうにポジティブに生きたいなって思っていただけたらなと思っていますね」

――もう1曲の新曲「Endless」は、IKUOさんが作詞作曲した楽曲。ライブを意識した仕上がりになっていますね。

IKUOさんに“曲を書いていただけますか?”ってお願いしたら、“ぜひ!”って言ってくださったんです。最初は僕が作詞する予定だったんですけど、たまたまIKUOさんの時間が空いたので、“詞も僕がやっちゃおうかな?”って言ってくださったんですね。それで“だったら、僕のライブのイメージでIKUOさんプロデュースで書いてくださいませんか?”ってお願いしたんです。もともと“ライブっぽい楽曲がほしいな”と思っていましたし、IKUOさんは昔、僕のライブに出演してくださったりしていたので、僕のライブ感もよくご存じでしたから。そしたらスケジュールを合わせてくださって、レコーディングに立ち会ったり、最終的なエディットもしてくださったので、まさにIKUOさんプロデュース。しかも、コーラスもやってくださっていますからね」

――やっぱりアーティストとお客さん、お互いの思いが一番ダイレクトに伝わる場所はライブですよね。

「そう思います。だから、僕はライブっていうのを大切にしているんですよ。お互いの顔が見れますし、音の響き方もお客さんがいるのといないのとでは全然違いますからね。配信もいいんですけど、それだと魔法がかからないじゃないですか?例えばライブだったら、音を外しても何も気にならないし(笑)お客さんやバンドとのセッションもできる。その空間を僕は楽しみたいんです」

――あの一体感がライブならではですよね。

「最近の僕のライブでは、叫ばなければ声出しOKにしているんですよ。だから、お客さんもマスクの中で歌っていたりしますし、ジャンプもしています。そうするとお客さんも浄化されるみたい。やっぱりライブで声が出せるのって、ストレス発散になるんですよ。もちろん状況によっては声出しは禁止になる可能性もありますけど、そのへんはその都度考えながらやっていきたいと思っていますね」

――「Endless」はエネルギッシュな楽曲ですし、“WOW WOW”の部分はお客さんも一緒に歌えるので間違いなく盛り上がりますよね。

「はい。状況が許せば、ぜひ“WOW WOW”は歌っていただきたいです」

――『DYEING』のリリースイベントや20周年を記念したライブ『KIMERU 20th Anniversary Fes 2022 DYEING』もありますしね。

「コロナ禍ということで、なかなか東京に来られなかったファンの方もいらっしゃるんですね。だから、リリースイベントで大阪や名古屋、福岡に行き、直接感謝の言葉を伝えられるのが嬉しいので、ひとつひとつ大事にやっていきたいと思っています。1119日のライブに関しては、ゲストが4人(良知真次、輝馬、吉岡佑、三津谷亮)来てくれるんですよ。それは“超歌劇(ウルトラミュージカル)『幕末Rock』”で共演した4人なので、『幕末Rock』のファンの方にも喜んでいただけるものにしたいと思っています。それだけにタイトルにもついている通り、まさにフェス。半分が今回のアルバムを引っさげた時間で、もう半分がゲストと一緒にお祭り騒ぎを展開するという感じですね」

――20周年を経て、今後はこういうことをしたいというのはありますか?

「やっぱりこれからもつながりは大事にしていきたいですし、今、自分が考えていることを大事にしていきたいと思っていますね。だから、その場その場の“今”を切り取っていけたらいいなと思っています。というのは、今回いろんな方のイメージで楽曲を作ったことで、対象があったほうが曲が作りやすいし、“思いをぶつけやすいな”って、より感じたんですよ。その結果、これからは自分の中で誰かに向けてとか、誰かを想像して書くというような楽曲の作り方をしていきたいと思うようになりました。そのほうが曲に対しても、こういう音を足してほしいというような具体的なイメージを伝えられる。そこは、今までより一歩先に進むことができた部分なので、それは続けていきたいですね。20年の中で、少しずつ少しずつ自分が変わってきているのを感じているだけに、この先どう変わっていくのかを、僕自身も楽しみにしています」

(おわり)

取材・文/高橋栄理子
写真/山本佳代子

RELEASE INFORMATION

KIMERU『DYEING』

2022年1026日(水)発売
Premium Edition/CDDVD盤(初回生産限定)
MJSA-01354~55,280円(税込)
マーベラス

©許斐 剛/集英社

KIMERU『DYEING』

2022年1026日(水)発売
通常盤
MJSA-01356/4,180円(税込)
マーベラス

リリースイベント

<インストアイベント>
10/26(水)東京
10/29(土)大阪
10/30(日)愛知
11/5(土)福岡
11/6(日)リミトーク (オンライン)
<『DYEING』発売記念パネル展示>
・10/25(火)~11/7(月) SHIBUYA TSUTAYA B2F

詳細はKIMERU HPにて

LIVE INFORMATION

KIMERU 20th Anniversary Fes 2022 DYEING

2022年1119 () 
第一部 Talk祭  OPEN 11:0011:30
第二部 Song OPEN 16:0016:30
会場:赤羽ReNY alpha
ゲスト(順不同/敬称略)
良知 真次、輝馬、吉岡佑、 三津谷亮

KIMERU 20th Anniversary Fes 2022 DYEING

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