──“あたし”に改名して、デビューから1年経った心境から聞かせてください。

「自分の中ではすごい早さで過ぎていきましたね。それほど長くはなかったんですけど、2020年から “現役女子高生あたし”“元・現役女子高生あたし”として“歌い手”として活動してて。2022年に改名して、新しいことに挑戦するためにオリジナル楽曲を投稿し始めて。立て続けに新しいことばかりが続いているので、まだ1年経った感じがしないし、未だに新しい気持ちでやってます」

──振り返ってみると、ご自身にとってはどんな1年間でしたか?

「オリジナル曲は、作曲してくださった方がいて、チームで動いてるので、すごく素敵な作品になったんですけど、みんなに受けてもらえるかどうかが少し心配だったんですよ。でも、“この曲いいね!”っていうコメントをくれる方もいるし、なんなら“歌ってみた”ではなく、オリジナル曲から知ってくれた子こともいて。すごく嬉しい気持ちでいっぱいです」

──改めて、“歌い手”とての活動を始めたきっかけもお伺いできますか。何よりも、会話の中でも使う“あたし”というお名前が気になっています。

「母親がフィリピン出身で歌手活動をしていて。日本語の曲はあまりやっていなかったんですけど、ジャズからボサノヴァまで、幅広くなんでも歌っていたんです。小さい頃から音楽が当たり前にある環境で育ってきたので、何となく“音楽をやりたいな”と思っていて、高校のときに軽音楽部に入部したんです。そのまま順調にバンド活動をしたり、大会に出たりしていたんですけど、高校2年の終わりぐらいにコロナ禍になってしまって。バンド活動が全くできなくなってしまったときに、部活の顧問の先生が“YouTubeに音楽をあげてみなよ”って言ってくれて。それからYouTubeに上げることになったんですけど、名前をどうしよう?って考えたときに、ぱっと思いついたのが“現役女子高生あたし”っていう名前で。“なんでか?”って言われたら難しいんですけど、あたしが歌って、あたしが世に発信するなら、あたしだろう、みたいな(笑)。改名するタイミングでは、これも単純な理由なんですけど、オリジナルを始めるっていうことで、本当の意味で、あたしらしい言葉で、あたしらしい音楽を発信できたらなっていう思いで、“あたし”になりました」

──最初から顔を出さずに活動してますよね。

「そうですね、出していないです。ネットで活動するんだったら、別に顔を出しても、出さなくても、どっちでもいいよなっていうのがあって」

──ちなみにどんなバンドだったんですか?

「学生のバンドなので、メンバーがやりたい曲を持ってきて、それをカバーするっていうことをずっとやっていました。ドラムの子はback numberさんが好きで、ベースの子はMrs. GREEN APPLEさんが好きで、ピアノの子とギタヴォの私はボカロが好きだったんですよ。好みはバラバラだったんですけど、バンドの曲とボカロの曲をいっぱい持ち寄って、みんなでやっていました」

──“あたし”さんのルーツはボカロですか?

「そうですね。小学校の頃にボーカロイドに出会ったんですけど、ボーカロイドの中でも一番最初にちゃんとハマったのは、カゲロウプロジェクト(自然の敵P/じん)だったんですよ。だから、ずっとカゲプロの音楽を聞いていて。それ以外のボカロ曲もずっと聞いていましたし、今もボカロが好きで、ボカロPのきくおさんの曲をよく聴いています」

──オリジナルから始まってるんですね。どんな曲だったんですか?

「「傷」という曲で、傷ついて始まりました(笑)。当時は、きっと気分が沈んでたんだと思います。コロナ禍で何もできなくて、家に引きこもってたら、いつの間にか曲ができてました。その後で、“歌ってみた”の投稿を始めたんですけど、最初はとってもびっくりしましたね。顔も名前も知らない人たちに“いいね”って言われる感覚が初めてで。YouTubeが先で、その後にツイッターを始めたんですけど、最初の“歌ってみた”の投稿動画が“400いいね”くらいいって。こんな見ず知らずの人に400人もいいと思ってくれるんだってびっくりしたし、すごく嬉しかったです」

──2021年1月に投稿した「グッバイ宣言/Chinozo」の“歌ってみた”動画はYouTubeだけで530万回以上も再生されてます。これが高3の冬ですよね。もう音楽の道に進む決心はついてましたか?

「ちょうど進路に迷った時期なんですけど、こうやって評価してくれる人がいるなら、続けてみようかなって思って。高3の時点ではもう、音楽の道にいこうと思ってましたね」

──同年の10月に“(元)現役高校生あたし”名義で「碧の宵」は配信されてます。

「高校卒業後の1年目です。初めてドラマ「東京報知食堂」のタイアップをいただいて歌った曲なんです。自分で歌詞を書いたりはしていないんですけど、めちゃくちゃ嬉しくて。個人的な話をすると、家にテレビがなかったんですけど、さすがにリアルタイムで見た過ぎて、テレビを買いました(笑)」

──あははは。リアルタイムで見てどう感じました?

「すごく不思議な感覚でしたね。ドラマの最後に、クレジットで自分の名前が載ってるのが嬉しいし、びっくりして。録画してたのに、思わず携帯でも撮ったりしちゃいまいした」

──その後、“あたし”に改名して、本格的な活動を始め、2022年5月に「太陽観測」を配信リリースしました。

「一番最初の曲で、クリエイターマッチングプロジェクトの優勝曲なんですよね。これも自分が作ったわけでも、書いたわけでもないんですけど、すごく思い出深いし、今となってはとても大切な1曲になっています。ただ、当時は、ちょっと恥ずかしい話なんですけど、レコーディングになれてなくて。すごく、不安な気持ちでいて。その中でもしっかりと素敵な作品にしようと思って、とにかく頑張って歌ったことを覚えています」

──オリジナルとしてのデビュー曲がいきなり74万回再生も超えてますね。

「今まで“歌ってみた”でたくさんの人に聞いてもらったことはあったんですけど、オリジナル曲で、私発信の曲でたくさんの人に聞いてもらえるってのがめちゃくちゃ嬉しくて。…本当に単純な言葉にはなってしまうんですけど、嬉しい気持ちでいっぱいになりました」

──ちなみに週間USEN HIT J-POPランキングでも5位に入ってました。

「ありがたいですよね。さっきから、嬉しい嬉しいばっかりで申し訳ないんですけど(笑)、ずっと嬉しいんですよね。両親が私のSNSとか、その他もろもろをチェックしてくれていて。いち早く、“何万回再生いったよ”とか、“チャートに入ってるよ”っていう連絡をくれて、それも嬉しかったです」

──嬉しい以外にないですよね(笑)。第3弾のメロウなR&B「着心音」はさまざまなプレイリストで長期ランクインしてて。

「これまで「着心音」みたいな曲を、“歌ってみた”でほぼ歌ったことなかったんですよ。“歌ってみた”では超アップテンポだったり、超激しい曲だったり、とっても暗い曲を歌ってたので、自分の中では初めてのことで難しかったんですけど、すごく素敵な楽曲になったと思っていて。あと、今までの“あたし”を見てきてる人は、“あたし”から聞いたことない曲だと思うので、受け入れてもらえるのかな?とか、いろいろと考えたりはしてたんですけど、みんな、“いいじゃん!”と言ってくれたことも、やっぱり嬉しかったですね(笑)」

──第2弾「うぉーしゃーだんす」はジャズロックっぽいし、「うぉーしゃーだんす」「着心音」の2曲はトラックが全部、生音で録音されてるんですよね。

「そうなんです。オケのレコーディングに行ったときに、“マジやべえ”って思いました(笑)。言葉を選ばずにいうと、“えぐっっ”みたいな。テンションが上がりましたね」

──2022年は6曲のオリジナル曲を配信リリースしましたが、ご自身で転機になったなと思うような曲はありますか?

「やっぱり「着心音」ですね。「着心音」をリリースしてから、DMにちょくちょく恋愛相談が来るようになって。たぶん、私よりちょっと年下の中高校生ぐらいの子たちから、めっちゃ可愛い恋愛相談が来るんですよ。“どう話しかければいいかわかりません”とか、“夏祭りに誘おうと思うんですけど…”とか。第三者から見たら、普通じゃんって思うことでも、当人だとすごく焦るし、参っちゃうと思うんです。そういう歌詞が共感を生むと思っていて。みんなも自分と同じなんだって思うとすごく嬉しい気持ちになりますし、ファンの皆様からいい養分をいただいてます」

──(笑)MAISONdesを始め、フィーチャリングで呼ばれることも増えましたが、ヴォーカリストとして求められてることはどう感じてますか?

「“歌ってみた”もそうなんですけど、私はどんな人物も、どんな感情も、どんなお話も、“そういうことあるよね”って受け入れるタイプなんです。だから、何を求められてもめっちゃ嬉しくて、何を歌ってても楽しいし、何でも好きなんですよ」

──何でも受け入れてみるようになったのはどうしてですか?

「反抗期とか思春期のときに、どうしても親と揉めてしまう部分とかあったんです。中学生の頃から絵の教室にも通っていたんですけど、先生に、“人は人なんだよ”って説かれて、“確かに!”と思って。人は人だし、人を簡単に変えることもできない。だから、当事者の気分になるのは難しいかもしれないですけど、何でもいったん受け入れて、自分の中で解釈してみようっていう気持ちがそこで生まれて、こうなりました」

──(笑)そういう話を聞くと、全てを受け入れた上で、“あたし”さん自身がどう感じたのかっていう歌詞をもっと聞きたくなりますね。

「いっぱい書きたいです。今、20歳で、高校生のときとはもう考え方が違うんですよね。どんどん変わっていくものだと思っていて。でも、今の感情というのは、すごく大切だと思ってるので、今後変わるかもしれないですけど、今、思ってることをリアルタイムで書きたいと思っています」

──“歌ってみた”も継続してることにはどんな理由がありますか?

「元々、二次創作の文化がすごい好きで、ニコ動が好きで、ボカロ曲がすごい好きだから。好きだから、歌いたいし、好きだからやってるっていう感じです」

──アーティスト活動を始めたときに“歌ってみた”をやめようとは思わなかったんですね。

「思わなかったですね。今までの自分も別にあっていいと思ってるし。もちろん、余裕がなくなってしまったら、また考えなきゃいけないかもしれないですけど、今はまだ、やりたいことをやりたいなと思っています」

──第7弾「今回の炎上の件について」からは作詞も手がけてます。どんな思いを込めましたか?

「まず、絵を描いたんですよ。その絵を曲を作ってくれる方に送って、曲を作ってもらって、その曲に歌詞をつけるというやり方をしていて。当時、インターネットにむかついてたんでしょうね。インターネットにむかついた絵を書いたら、こうなったんだと思います」

──ダークな怒りの曲になってますが、楽曲を受け取ってどう感じましたか?

「“めっちゃかっこいい!”ってなりました。テンションがぶち上がりました。レコーディングには、むかつく気持ちを持って行ったんですけど、今までと違って、素材っぽい声が多かったんですよ。それは、“歌ってみた”でも結構やっていて。この曲に<ピエロ>っていう言葉が何回か出てくるように、サーカスみたいなごちゃごちゃした感じにしたくて。いっぱい面白い音を入れた曲になってますね」

──その後の第8弾「ちゅーして」は一転して、“推しの言動に一方的に一喜一憂する乙女心を歌った、思い込み激しすぎソング”になってます。

「これは、かわいい絵を描きました。私、初音ミクのちょっとわがままで、素直じゃないけど、たまに素直になる…みたいな曲がすごく好きで。具体的に言うと、「ワールドイズマイン」(ryosupercell)や「気まぐれメルシィ」(八王子 P)が好きなんですけど、それをどうしても書きたくてこうなりました。ちょっとわがままで、不憫で、好きな人にわかってほしいのにわかってもらえない、かわいい女の子。自分でいうのは恥ずかしいんですけど。Twitterでも“構って構って”ってやってしまうくらい、自分のそういう気持ちも表れてるんじゃないかなと思います」

──かわいい曲歌うときはどんなテンションで挑んでるんですか?

「もうこの歌詞のまんまですね。“構ってよ!”とか、“こっち見てよ!”みたいな、ちょっと拗ねたような気持ちで歌いました。私は、歌詞の主人公になって歌っていることが多くて。それは、オリジナルだけじゃなくて、“歌ってみた”の頃からそうなんです。それこそ、さっき言った、一旦全部受け入れるじゃないですけど、私は多分、恋愛したらそんなに束縛するタイプじゃないと思うんです。でも、束縛するような曲だったら、束縛する女の子を自分の中に入れたりして歌っています」

──「傷」から始まった人が「ちゅーして」にたどり着くとは…。

「びっくりです。私が一番びっくりしてます」

──(笑)そして、第9弾となる新曲「イベリス」はドラマ「4月の東京は…」の主題歌になっています。

「本当に嬉しすぎて、Twitterのスペース機能で、思わず口を滑らしそうになるくらい、もう溢れ出る想いでいっぱいでした」

──書き下ろしなんですよね。

「はい。原作の漫画を読ませていただいて。主人公たちが、すごくまっすぐなんですよ。第三者から見たら、“いや、もっといけよ”みたいな部分もあるんですけど、当人同士はもどかしい部分があって。同じ言葉を使ってしまうと、まっすぐな思いは変わらなくて、すごく美しい作品だなと思いました」

──原作を読んだ上でどんな曲を作ろうと思ってましたか?

「私の中で印象的なシーンがいつくかあって。あまり詳しく言い過ぎてしまうとネタバレになってしまうんですけど、例えば、<傘>とか、漫画の中で心に残った描写をちょっと散りばめたりしてますね」

──ピアノとヴォーカルだけではじまるバラードになってます。

「そうなんですよ。歌声が引き立つし、音数が少ないので、ごまかしがきかないし、今まで、“歌ってみた”も含めて、ここまでのバラードを歌ったことがなかったんです。すごく素敵な曲だなと思いつつ、私に歌えるんだろうか?っていう不安もあって。でも、家で練習して、レコーディングでも何回も歌わせてもらって。主人公を自分に落とし込んで歌うんですけど、まっすぐな思いだけではないじゃないですか。もどかしさがあったり、寂しさがあったりする。真っ直ぐなんだけど、恋愛してるときのごちゃごちゃ感をイメージして歌いました」

──タイトルにははどんな意味込めましたか?

「イベリスってお花なんですけど、花言葉が、お話やキャラクターの性格にもすごいぴったりだなと思っていて」

──甘い誘惑、心を惹きつける、初恋の思い出という花言葉がありますね。“あたし”さんの初恋の思い出を聞いてもいいですか?

「覚えてるのだと、幼稚園の頃ですね。通園のバスで隣だった1個上の男の子がいたんですけど、家が近かったので、毎年、小学校あがるぐらいまではチョコレートを渡しに行ってました。受け取ってもらっていて、お返しもいただいたんですけどでも、成長するにつれて、恥じらいを覚えてしまって、あげなくなりました(笑)」

──<初恋みたいなトキメキ>というフレーズもあるし、歌声に少し甘さがあるので、そういう甘酸っぱい記憶も思い出したりしました。楽曲が完成して、ご自身ではどんな感想を抱きましたか?

「自分で言うのも恥ずかしいんですけど、めっちゃいい感じになったなって思いました。それに、映像がつくと、めちゃくちゃ素敵ですよね。自分の作品だけではなくて、ドラマが重なって、全てが合わさった感じというか。それが、すごい不思議かつ、嬉しくて。歌詞はお話にリンクさせている部分が多いので、ぜひ、ドラマを見進めながら聞いていただきたいなと思っていて。伏線回収ではないですけど、“あ、ここのことだ!”という部分があるので、ぜひ、そういう楽しみ方していただきたいなと思ってます」

──今後の活動はどう考えてますか?

「これまでは“歌ってみた”をやってて、今はオリジナル曲をやっていて。歌や歌詞、お話と一緒で、私は本当に何でも好きなので、やれることだったら何でもやってみたいなって思っています。お話することも好きですし、もちろん歌うことも大好きですし」

──もうライブもされてるんですよね。人前で歌うことは?

「高校生のときはギターを持ちながら歌っていたんですけど、この活動を始めてから何も持たずに、マイクだけを持ってライブをしているんです。最初は、“この空いた手をどうしたらいいんだろう?”ってすごく緊張して。まだ場慣れしていないんですけど、人前に立って何かをするっていうのはすごい好きなので、楽しくやっていますし、できることならこれからライブをたくさんやりたいです」

──そこで顔を見られるのは別にいいんですか。

「どっちでもいいんですよね(笑)。見たい方には見ていただければなと思ってます」

──何か大きな目標は立てましたか?

「何かをはっきり決めてしまうと、自分の場合、できなかったときにすごく落ち込むし、めっちゃ崩れちゃうんですよ。ほんとは何か1つの目標を作った方がいいとは思うんですけど、例えば、1年の目標を決めたり、すごい細かく計画を立ててしまうと、それが崩れたときにパニックってしまうので、はっきり決めずにやりたいことを全力でやって、いろんな人に聞いてもらえるようにいろいろと試行錯誤しながら活動したいなって思っています。今、できることを全力でやるっていうのが、自分の中での一番の目標ですね」

(おわり)

取材・文/永堀アツオ

RELEASE INFORMATION

あたし「イベリス」

2023年616日(水)配信

あたし「イベリス」

LIVE INFORMATION

MAISONdes LIVE #1

2023年7月21日(金) Zepp Shinjuku
17:30open/18:30start

act: Aqu3ra, asmi, あたし, 缶缶, こはならむ, 4na, ぜったくん, 泣き虫☔️, Pii, むト, meiyo, もっさ(ネクライトーキー)、yama, りりあ。
(追加出演者続々発表予定)

あたし

20歳、引きこもり気味の、歌ういい女。

2020年、現役女子高生あたし名義で歌い手として活動スタート。
高校在学中に投稿した「グッバイ宣言/Chinozo 【歌ってみた】」が500万再生を記録し注目される。

SDR「クリエイターズマッチングプロジェクト」で歌唱部門・チーム部門のW受賞をきっかけに、
クリエイティブレーベルMeMeMeetsに参加。TVドラマ『東京放置食堂』主題歌を担当。

2022年、あたし名義でのプロジェクトが始動、「太陽観測」でデビュー。
hmngがディレクションを務めたMVも話題を集める。
同年”SNSで最も使われる音楽”を生み出す架空のアパート・MAISONdesにzumiTaと共に入居、
「わかっちゃない」を発表。

2023年6月にTVドラマ「4月の東京は…」の主題歌を担当した「イベリス」をリリースした。

シンガーの母親から借りパク中のマイクで歌い続けている。

あたし

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