――幼い頃からピアノとバイオリンを習っていたそうですが、その頃から将来は歌手になろうと思っていたんですか?

「歌は好きでよく聴いていたんですけど、楽器をやっていたこともあって、小さい頃はまさか自分が歌う側になるとはまったく想像していませんでした。でも、中学校の部活を決めるときに、私は音楽と同じくらい身体を動かすことが好きだったので体操部か、音楽だったら合唱部かなと思って、お母さんに“どっちがいいと思う?”って聞いたんです。そしたら“絶対に合唱部でしょ”って言われて。それで合唱部に入って、ソロ曲を任されて歌ったりするうちに“歌うって楽しいな”と思うようになったんですけど、それと同じ時期に、私が内気だったことを心配した母が、歌やダンスをやる地元のワークショップに通わせてくれたんですね。そこで初めてマイクを持ち、1人でステージに立って歌ったときに、明確に“歌手になりたい!”と思いました」

――高校では音楽科でオペラを勉強していたそうですが、清水さん世代だと、歌手になりたいと思ったら、学校で学ぶというよりオーディションを受けるという発想になりがちですよね?

「確かに(笑)。なんか、基礎はクラシックだなって思ったんですよね。特に母はクラシックが大好きで、音楽でもバレエでも、“何でも基礎はクラシックだから”と言っていて。私もピアノやバイオリンを習っていたし、中学で合唱部に入っていたこともあって、歌の基礎であるオペラを学びたいと思って、音楽科がある高校に入学しました」

――高校卒業後はニューヨーク・フィルム・アカデミー・シアターに留学したそうですが、一途というか、迷いがないですね。

「そうなんです。高校生のときに歌手になるのを目指して、自分の歌をSNSにアップしたり、テレビのカラオケバトルに出場したり、オーディションを受けたりするなど積極的にしていたんですけど、なかなか思うような結果が出なくて。それと同時に、“もっと歌がうまくなるにはどうしたらいいんだろう?”とか“自分には表現力が足りないな”とか、いろんな壁にもぶつかって…。そのときに、私が歌手になりたいって思った曲…初めて1人でマイクを持って歌った曲が『レ・ミゼラブル』の「ON MY OWN」だったんですけど、それを思い出して、“ここは原点に戻るべきなんじゃないか”と。ミュージカルだと歌だけじゃなくて、演技もダンスも含めた“表現”っていうものを幅広く学べるなと思ったので。ミュージカルと言えばブロードウェイ。ブロードウェイ、イコール、ニューヨークっていうことで、すぐに行くことにしました(笑)」

――ニューヨークから帰国したのが2020年。ちょうど新型コロナウィルスが流行し始めた頃と重なります。

「やっぱりすごく不安でしたね。コロナが不安だったこともそうですけど、それ以上に、自分がデビューできるのか。ニューヨークですごく大変な思いをしながらたくさん勉強してきたのに、それを発揮する場所がないっていう。ライブをしたくてもできないし、オーディションを受けたくても事務所に入ってないから話すら来ないし。“こんな思いをしてまで、なんで音楽やってるんだろう? 辞めちゃおうかな”って考えていたときに、母が“TikTokっていうのが流行ってるらしいよ。やってみたら?”と言われて、何気なく始めたことが大きな転機につながりました」

――TikTokへの投稿がスタッフの目に留まったのがきっかけで、2021年にディズニー主催のアルティメット・プリンセス・セレブレーションの日本版テーマソング「Starting Now ~新しい私へ」の歌唱アーティストに選ばれたんですよね。選ばれたときのことって覚えてますか?

「もちろんです。電話で連絡をもらったんですけど、えーっ!?って叫びました(笑)。まさか自分が選ばれるなんて想像していなかったですし、楽曲も、自分がイメージしていたのとはまったく違うものが来て。プリンセスたちのテーマだから、勝手にバラードっぽいのを想像していたんですけど、届いたのはアップテンポなカッコいいもので……最初は“歌えるのかな!?”って、心配になりました。しかも、歌詞を英語から日本語に訳すのも、私がやらせていただいて。訳詞も初めて、ディズニーとお仕事させていただくのも初めて、プロモーションとしていろいろな番組、いろいろな場所で歌わせていただくのも初めて。すべてが新しく、チャレンジの連続でした」

――その後、2022年4月にデジタルシングル「High Five」で念願のメジャーデビュー。それからちょうど1年が経ちましたがどんな1年でしたか?

「早かったかな(笑)。でも、この1年で何よりうれしかったのは、自分がプロとしてやっとメジャーデビューできたことでした。これで自分を“歌手”って呼べるんだって。「Starting Now ~新しい私へ」のときは、あまりにも目まぐるしく環境が変わったせいか、自分が歌手なんだっていう実感があまりなかったんです。それがメジャーデビューしたことによって、やっとそう思えるようなって。今までの経験も、ちゃんと歌手になるためのものだったんだって、改めて自分を褒めてあげることができました」

アーティストビジュアル撮影時のオフショット

――5月17日にリリースされた「Home」は、清水さんにとって3作目のデジタルシングルです。デビュー曲「High Five」も、2ndシングル「Niji」でも共作で作詞されていましたが、今回の「Home」は初めて清水さんが1人で作詞を手掛けています。

「この「Home」の歌詞を書く一番大きなきっかけとなったのが、昨年の秋に父が亡くなったことだったんです。実は、「Starting Now ~新しい私へ」のプロモーションを行っていた時期から、父の体調はちょっとずつ悪くなっていて…。父を勇気づけるようにたくさん歌ってきましたし、自分自身を勇気づけるためにも歌を歌っていたんですけど、そのときに感じてきたことや、家族に伝えたいのに伝えきれなかった言葉を、改めて歌詞に書きたくて自分で書くことにしました」

――最愛のお父様を亡くされて、こうして歌詞にするには辛い部分もあったのでは?

「そうですね。父が亡くなったすぐ後にこの曲の制作が始まったので、なかなか気持ちの整理がつかなかったというか……“消化しきれないものをどうやって歌詞に書いたらいいんだ!?”っていう葛藤がありました。それに、家族に向けた曲を書くとなっても、うちはお父さんとお母さん、それから双子の兄の4人家族なんですけど、当時はどうしてもフォーカスが父にいきがちで。歌詞を書こうとするたびに父がいないという現実に向き合わなきゃいけない感じがあって、それもすごく大変でした。でもだからこそ、家族って当たり前のようで当たり前じゃないってことに、改めて気付いて。それを伝えたいと思ったんですけど、歌詞って正直で、“向き合いたくない!”っていうときはすごく抽象的な歌詞になるんです。できるだけシンプルな言葉にしようとするんですけど、言えないんですよね。気恥ずかしくて(笑)」

――家族に対する想いだから余計にですよね。

「そうなんです。しかも、それを歌にして不特定多数の方に聴いてもらうとなると、裸になった気分になるので、さらに恥ずかしくなるっていう。どうしたら自分の心を開けるだろうかって考えて、歌詞のほとんどの部分を三重の実家で書いたんですよ、実は。東京でも書いたし、移動の間とかにも書いたりはしていたんですけど、やっぱり実家で書いたほうがいいなと思って。“Home”を“ホーム”で書きました(笑)」

――完成した曲を聴いたお母さんやお兄さんは、どんなふうに言ってくれましたか?

「母はすごい泣いてました。そして、“ありがとう”って。お兄ちゃんは三重弁で“ええんちゃう?”って、わりと素っ気なく(笑)。でも、どちらの反応もお母さん、お兄ちゃんらしくて、すごくうれしかったです」

――「Home」を聴くだけで素敵なご家族だってことが伝わってきます。お母様の喜びようや、ちょっと照れ臭そうなお兄さんの様子が目に浮かぶ気がします。お父様は清水さんにとってどんなお父さんでしたか?

「父はすごく愛情表現が苦手な人でした。でも、人一倍愛情深かったです。なんか私、特別パパっ子だったわけでもなく、かと言って“パパ気持ち悪い!”みたいな反抗期もまったくなくて。ただ、思春期になる直前、小学校5、6年ぐらいのときに、急に父から距離を取られた記憶があって。そのときはすごく寂しかったんですけど、今思うと、それが思春期の娘に対する父なりの距離の取り方で、そういうのが父らしいなって思います。ただ、私への愛情は全然隠しきれてなかったですね(笑)。「Starting Now ~新しい私へ」のときも、TikTokのコメント欄やTwitterのリプ欄を私よりチェックしてましたし、父の本名のアカウントでファンの方のコメントに“いいね!”したりして(笑)」

――隠しきれていないどころか、ダダ漏れじゃないですか(笑)。

「そうなんです!(笑)なんか、母はライブがあったら絶対に観に来てくれる感じだったんですけど、父は音楽のことにあまり詳しくないっていうのもあって、高校生の頃も“美依紗って歌うまいの?”って、よく言ってたんですよ。でも、“美依紗がやりたいことをやればいい”と言って私の可能性を広げてくれたのは父ですし、留学に行かせてくれたのも父だったので。そこでの経験が今、こうしてお仕事で生かされているので、お父さんにはありがとうの気持ちでいっぱいです」

――「Home」を歌うたびにお父さんを近くに感じられるのでは?

「本当、すごく近くに感じます。実は、この曲を初めてステージで歌ったとき、号泣しすぎて歌えなかったんです」

――そうだったんですか !?でも、いろんな感情が溢れますよね。

「沖縄で開催されたイベントだったんですけど、まだリリース前だったこともあって、「Home」が生まれたきっかけをMCで話しているうちに感情が抑えきれなくなってしまって……1日2回公演だったうちの1回目はまったく歌えませんでした。でも、これが自分の素直な気持ちだったんだろうなって。すごい泣きたかったし、やっぱり辛かった。そんな自分の気持ちに気付けたのも良かったと思います」

――レコーディングは大丈夫でしたか?

「大丈夫でした!レコーディングはこの曲が歌えることというか、歌詞を書いて、歌を入れてみたいな、曲ができていく過程っていうのがすごくうれしくて、全然泣きませんでした。沖縄のイベントの2回目も、感情が溢れる前にグッと気を引き締めたので大丈夫でした(笑)」

こちらもアーティストビジュアル撮影時のオフショット

――「Home」はミュージックビデオも制作されたんですね。

「今回はワンカットで、その場で生歌唱しているMVになっています。そのアイデアを聞いたとき、なんとリスキーなことを!と思って(笑)。まだ「Home」を歌い慣れていない時期でもあったので、その場で歌って録音したものをミュージックビデオにするって、どうなっちゃうんだろうと思ったりもしたんですけど。でも、実際撮影してみたら、途中でカットがかからないから、最初から最後までずっと気持ちが続いている感覚があって。レコーディングのときとはまた違う解釈で歌うことができたように思います」

――生歌唱ということは、レコーディング音源を被せたりはしてないってことですよね?

「はい。なので、すごく生っぽい。息遣いもそのまま入ってますし、途中歩いたりもしてるんですけど、歩いたことによる声の揺れもリアルに感じられると思うので、レコーディングした音源とは違う歌の表情を楽しんでもらえたらうれしいです」

――そして、今年8月からはミュージカル『ビートルジュース』にリディア役で出演します。オリジナルは2019年にブロードウェイで上演された作品ということですから、ご縁がありますね。

「実は、劇中でリディアが歌う1曲があるんですけど、アメリカ留学中にレッスンで歌っていたんですよ。それを役としてちゃんと歌う日が来るとは夢にも思っていなかったので、すごいなって思いました。それに、役の設定的にも少し似ていて、私は父ですけど、リディアは母親を亡くしているんです。役をいただいたのも父が亡くなるのとほぼ同時期でしたし、作品のテーマも、コメディではあるものの、家族の大切さを描いたものだったりするので、本当にタイムリーで。しかも、劇中でリディアが歌うソロ曲のうちの1曲が「Home」ってタイトルなんです」

――わっ、鳥肌が!運命を感じちゃいますね。

「そうですよね。出会うべくして出会った役、私に与えられた役なんだってすごく感じたので、演じるのがすごく楽しみですし、本当に責任を持って演じなきゃなっていう気持ちでいっぱいです」

「オオカミ少年ハマダ歌謡祭」出演時のオフショット

――歌手としての活動とミュージカル女優としての活動、これからも両立していく予定ですか?

「そうですね。自分として歌うのと、役として歌うのとでは全然違うのですが、だからこそどちらもすごく魅力的に感じているので。どちらの美依紗も知ってほしいし、いろんな美依紗を見てほしいので、これからも両方続けていきたいです」

――アーティストとしてはどんな夢や目標を持っていますか?

「んー……どうだろう?父が亡くなってからは正直目の前のことにいっぱいいっぱいで、今は、やっと「Home」が完成したっていう気持ちが大きいです(笑)。でも、「Home」ができあがって、まずはやっぱりワンマンライブをしたいですね。ライブを通して自分の歌手としてのビジョンがより明確に見えるかもしれないし、可能性も広がりそうだなと思うので。自分の楽曲だけで“清水美依紗のライブ”っていうものを作り上げてみたいです」

――ゆくゆくはアルバムも?

「本当、いつか出したいです!でも、今はこの「Home」という曲が、たくさんの人に届いてくれることが一番ですね。家族に贈るバラードソングですけど、家族という言葉って、私はいろんな人に当てはまると思うんですよ。いろんな家庭環境や形があって、血の繋がりだけが家族ってわけでもないですし。家族じゃないけど、家族のように大切な人もいると思うんです。それは私にとってはスタッフの人だったり、ファンの方々だったりするんですけど、人によっては友達とか、ペットだったりすることもありますよね。そんなふうに、それぞれいろいろな感じ方で「Home」を聴いてもらえたらうれしいです」

(おわり)

取材・文/片貝久美子


DISC INFO清水美依紗「Home」

2023年5月17日(水)配信
ユニバーサル ミュージック

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