――3年ぶりとなるアルバム『Wonderful world』を完成させた今の心境を教えてください。

2020年にアルバム『Breath of Bless』と配信シングルを3曲(「幸せの黄色い風船」、「自分じゃないか」、「僕のwonderful world」)をリリースさせてもらったんです。とういうのも、急ピッチで出すことを宣言し、約束していたので後戻りはできなくて(笑)。それからコンサート活動に入り、落ち着いてから、従来の楽曲を作る生活に戻ったんです。なので、3年振りとは言え、この期間にあまり休んだことはなかったかもしれないですね。その流れでアルバム制作に入ったと同時に、コロナ禍が始まって、得体のしれないものの中で音楽活動をする恐怖感がありました。でも、だからこそ“何をやるべきか”ということを自分に突きつけた時期でもあったんです」

――そこで最初に浮かんだのはどんなことでしたか?

「すぐに「僕のwonderful world」のメロディ―が浮かんだんです。真っ暗な世の中で、いま自分が考える温かいサウンドを歌うことを、自分の喜びにしたいと思ったんですね。さらに、その気持ちを共有できたら、こんなに素敵なことはないって思ったんです。あれから3年が経ち、その「僕のwonderful world」が曲となり、アルバムタイトル『Wonderful world』になったのは運命的なものを感じています」

――「僕のwonderful world」の歌詞は、ものすごく希望に溢れる言葉が並びますよね。あらためて、“こういうことが書きたかった”ということを再確認できたのではないでしょうか。

「本当に、そう思います。いきなり船が沈む光景から始まり、自分が祈った瞬間、アラームが鳴って夢だと気づく…という歌詞なんですが、曲を作った時は、あまりにも暗いんじゃないかって思っていたんです。でも、何度も聴いていくうちに、入り口にはこういう言葉が必要だと思いましたし、この言葉があるからこそ、非日常から日常に入っていく光景が上手く描けたんじゃないかなと思っています」

――コロナ禍という非現実的な状況下の中、生まれる言葉に変化はありましたか?

「まだコロナ禍が収束しない中で、僕たちは新しい暮らし方を知りましたよね。こういうことが起こったとしても、それに向かっていく生活スタイルを僕たちは作ることが出来たんです。100年前のパンデミックも、医療は今よりも発達はしていなかったと思うんですが、僕らと一緒で、ちゃんと乗り越えたから、今があると思うんです。その上で、簡単に使ってしまいがちな、“希望”、“愛”、“勇気”などの言葉をすごく意識しました。この言葉は、たくさんの人たちが使ってきましたが、今僕らが暮らしている今の世の中にこそ、あらためてこの言葉が必要だと思っていて。やっぱり、愛、勇気、希望というのは歌のベースだと思うんですよ」

――それは、何十年も歌を書き続けてきたなかで、もっとも大事にしているものですか?

「そうですね。だからこそ、迷うことなく、その言葉を使うことが出来ました。今も使っている最中です」

――違う言葉で表現しようとか、あえて使わないようにしようという時期もありましたか?

「僕の中ではないですね。とはいえ、愛、勇気、希望という言葉は、あまり多用してもダメなので、楽曲のフレーズとして必要な時に、しっかりと使うようにしています」

――今回は、「太陽と埃の中で」と「PRIDE」をあらためて歌われていますが、なぜこの2曲を選曲されたのでしょうか?

「この2曲は自発的ではなく、“歌ってみたらどうですか?”とお話を頂いたんです。この2曲は、CHAGE & ASKAの曲のなかでもすごく人気曲で、みなさんが大事に聴き続けてくれていた曲なんです。だからこそ、手を付けちゃいけない気はしていたんですね。でも、僕がすごくかわいがっている亀田興毅が「PRIDE」をすごく好いてくれていて、彼のYouTubeのサイトのテーマソングにしてくれいたんです。さらに、お笑いの15年選手の方達の場所を提供するときに、“テーマ曲でいいものはないか?“と聞かれたときに、僕から「太陽と埃の中で」をオススメしたら、すごく喜んでくれたんですよ。そういったありがたいきっかけを頂いたことを受けて、この2曲を、あらためて歌い直すことが出来ました」

――アーティストの方々にお話を聞くと、“過去のアルバムをあらためて作り直したい”という声をよく聞くのですが、ASKAさんもそういった意識はありますか?

「あります、あります。レコーディングをするときって、ものすごく新鮮な気持ちがあるんですが、まだ歌い慣れていないんです。でも、ライブをやり続けると、その曲をたくさん歌いますよね。そうすると、聴き手が共鳴するポイント、共有するポイントが波動で分かるようになるんです。そうすると、もっとそこを震わせたいと思いますし、もっと繋がりたいと思うんです。そうやって歌い方が顕著に変わってくるから、“歌い直しをしたい”というのはシンガーならみなさん思うことだと思いますよ」

――それを踏まえて、今回あらためてレコーディングをし直してみていかがでしたか?

「やりたいことがやれたことに、すごく満足感がありました。あとは、2人で歌っていたものを1人で歌うというのって、捉え方によっては誤解されてしまうことがあると思うんです。でも、それでも作品にしていくんだという強い気持ちを持ちながら歌っていました」

――「PRIDE」の歌詞をあらためてじっくりと読んでみると、ものすごい説得力があって、より深く感動しました。

「それが、30年ぶりに歌うことの意味ですよね。過去と、今と置かれている状況や環境が違うからこそ、曲って捉え方は変わりますからね」

――たしかに、そうですよね。でもだからこそ、歌う時に大事にしたいと思ったのはどんなところですか?

「「PRIDE」って、イントロが流れた瞬間、拍手が起きる曲なんです。だからこそ、あのイントロはなくしちゃダメだなって思っていて。でも、今の自分が歌うとしたらどうするか?と考えたときに、ホーンセクションから入っていくことが、今やりたかったことだったのかもしれません」

――歌詞、メッセージに関してはいかがでしたか?

「この歌を書いたときの光景って、今でも鮮明に浮かんでくるんです。<階段を登る>という歌詞がありますが、実在する階段ですしね。ただ、歌に込める想いは年々深くなるので、歌う時の気持ちの乗せ方は違っているような気がします」

――そして、新曲もたくさん収録されていますが、あらためて挑戦曲だったと思うのはどの曲でしたか?

「毎回挑戦は多い方だと思うんですが、アルバムのなかで人気が出るのは、「だからって」という曲かなって思っています。この曲には、自分の中の強さと弱さの二面性が出ているんですよね。きっと、みなさんも共感してもらえるんじゃないかなと思っています」

――これはどういった心境の時にかかれたのでしょうか?

「最近は日常生活とシンクロできるような歌詞を書こうと心掛けているんです。歌詞を書いて、いつのまにか寝ているということはしょっちゅうで…(笑)。そのシーンから入りました」

――ものすごく画が浮かびます。より日常的な実体験を刷り込んでいくことが増えているんですね。

「そうですね。前からそうではあったんですが、言葉の選び方をこだわったり、今の僕が歌うからこその言葉を大事にしています。これまでも数多くの曲を書かせてもらっているので、同じ表現はしないよう、少しでも違うような、それで今をしっかりと歌えるような…。自分の中にあるものを探している感覚です。そうしているうちに、以前に取り上げた言葉、引き抜いた言葉で歌詞を書いていて、新しいテーマになっているということも多くて。きっとこれはずっと繰り返すんでしょうね」

――なるほど。しかもこの曲は、強さと弱さが表裏一体となっていて、聞いていて勇気づけられる曲だと思いました。表裏一体としての表現方法が鮮やかだなと思ったのですが、書かれるときに大事にしたことはどんなことなのでしょうか?

「僕はよく、“辻褄あわせ”と言っている作業をするんです。歌詞を書いているのは自分だから、辻褄が合わなくなるわけはないんですが、聴き手の方が何を歌っているかわからなくなるのがイヤなんです。だから、言葉に固執してしまうことがあればあるほど、そこはちゃんと合わせるようにしています。これはずいぶん前から、大事にしていることですね」

――それは、言葉の選び方や、聴き手に浮かぶであろう情景を整えると言うことですか?

「ちゃんと情景を整えてからレコーディングに入っているはずなんですが、歌っている最中に、“やっぱり違うな”って思うことがあるんです。そんなときは、その場で歌詞を書き変えることも多いですね。最終的に、レコーディングしているその時までが歌詞にかける時間になっています」

――歌詞を提供されることも多いですが、その時とはまったく違う感覚ですか?

「提供が多かった時期は、自分の修行だと思っていました。選んでくれることの喜びをちゃんと感謝で伝えなくちゃという想いがとにかく強かったですね。たとえば、アルバムの1曲として参加してほしいと言われたときに、アルバムのなかで1番いい曲だと言われてみたい、そういう曲を作りたいというこだわりを持って作っていました」

――今後も提供曲は聴けそうですか?

「もちろん。自分が歌わない歌もまだまだ作っていきたいです」

――その化学反応も楽しみにしていますね。さて、このアルバムがリリースされたことで、次は何を聴かせてくれるんだろうとワクワクしているファンがたくさんいると思います。今、抱えている次のプランを教えてください。

「僕はもう、決めているんですよ。60歳を超えて、自分の音楽スタイルを貫いていくためのテーマは、つねに“ありったけ”だと思っているんです。以前は、“ニューアルバムが出来ました、そのアルバムを引っ提げてツアーに出ます”というルートがありましたが、今回のライブでは新旧織り交ぜながら、常にありったけのステージをお見せできばいいなと思っています」

――ということは、過去の名曲もまた聴けるかもしれないということですか?

「それはもう、やらせていただきたいと思っています。楽しみにしていただけたら、嬉しいです」

(おわり)

取材・文/吉田可奈

RELEASE INFORMATION

ASKA 『Wonderful world』

2022年1125日(金)発売
DDLB-0021/4,400円(税込)
DADA label

『ASKA premium concert tour -higher ground-アンコール公演2022』Blu-ray+Live CD

2022年105日(水)発売
Blu-ray+Live CD(2枚)/DDLB-002011,000円(税込)
DADA label

ASKAインタビュー
『 ASKA premium concert tour higher ground アンコール公演 2022 』Blu-ray+Live CD

ASKA全国ツアー『ASKA premium concert tour higher ground アンコール公演』のグランドフィナーレ(2022年4月13日東京国際フォーラムホール A)を完全収録したBlu-ray+Live CDがついに完成。「今だけ、今しかできないライブ」がパッケージされた作品についてASKAに聞いた。
インタビューはこちら >>>
(2022年10月5日記事掲載)

LIVE INFORMATION

ASKA&DAVID FOSTER PREMIUM CONCERT 2023

出演:ASKADAVID FOSTERASKAバンド&Get The Classics Strings
日程
2023年316日(木) 横浜 ぴあアリーナMM
2023年319日(日) 西宮 兵庫県立芸術文化センターKOBELCO大ホール

ASKA&DAVID FOSTER PREMIUM CONCERT 2023

『ASKA Premium Dinner Show 2022』

12月5日(月) グランドハイアット福岡
12月20日(火) ザ・プリンス パークタワー東京
12月22日(木) リーガロイヤルホテル広島
12月26日(月) リーガロイヤルホテル(大阪)

U-NEXT

ASKAのライブ映像とミュージックビデオを配信中!

「billboard classics ASKA PREMIUM SYMPHONIC CONCERT 2018-THE PRIDE-」
「ASKA CONCERT TOUR 12>>13 ROCKET」
■「ASKA CONCERT TOUR 2019 Made in ASKA -40年のありったけ- in 日本武道館」
「自分じゃないか」「幸せの黄色い風船」「僕のwonderful world」
■歌になりたい

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