――今回の『TOWN BEAT』はノンフィクション作っていう印象がありました。非常に気骨を感じる作品で。

「本当ですか?割とどれも軽い気持ちで書いたんですが(笑)」

――そして高樹さんの演奏と打ち込みの楽曲が多いですね。

「そうですね。ドラムは1曲以外生音なんです。いつもだったらベースはプレーヤーに頼むんですけど、今回は「素敵な夜」を山本 連くんに、「歌とギター」を千ヶ崎くんにお願いした以外は自分で弾いてるんです。結構楽器をいっぱい弾いたなって感じがしますね」

――ご自分でやる意図はどういうところでしたか?

「例えばドラムを録ってベースを録ってとなるとその間に作業が進められないとか、あるいは作業を進めたけどもあとからベースを録ったことによっていろんなことの辻褄がおかしくなって他の楽器を直さなきゃいけないみたいなことが発生するから、なるべく早いうち基本のとこを作って。あとは結局デモテープだったり譜面だったりを渡して弾いてもらうので、そうすると自分で弾いたほうが早いかなみたいな……単純にね(笑)。で、今までちゃんとやってなかったんですけど、新たにベースを2本買い揃えて。家に2本あったのかな?だから4本あるものをとっかえひっかえしてやりましたね。死ぬほどパンチインっていうか、大変でしたけど(笑)」

――ベースって意外と鳴らないって言いますよね。

「粒を揃えるのが難しいというか、ポジションによって鳴り方が違ったりとか指のタッチで結構音色が変わったりするんですね。だからここはいい感じに鳴ってるけどここはなんか弱いとかそういうのが発生するんで、粒を揃えるのはやっぱり素人には難しかったですね。プロの人はその辺がスムーズに鳴ってるんで、これはもうちょっと練習しないとだなと思いましたけど」

――前作はBREIMENやLAGHEADSのメンバーが全面的に参加していたので、そこは大きな違いなのかなと。

「そうですね。ただそのハーモニーの中でどういうふうにベースがあるかとか、その主旋律との絡み方とかも結構計算してデモテープを作るので、それがそのままほぼ反映されてるので、まあ満足度は高いですね」

――『TOWN BEAT』のテーマはどういうところからなんですか?

「そもそも1曲目の「ルールダンサー feat. 小田朋美」って曲がいわゆるモータウンの「恋はあせらず」のリズムパターンなんですよね。仮タイトルで「モータウンビート」ってつけといたんですけど、モータウンって絶対サウンドもモータウンに引っ張られるから良くないと思って、「MO」を取って「TOWN BEAT」っていう仮タイでずっと作業したんですよ。で、いざそのアルバムのタイトルを決めようとなった時、今回は割とリズミカルでノリのいい曲が多くて、だったら『TOWN BEAT』でもいけるのかななんて思ったのと、歌詞の内容も割と日常的なものがモチーフになってるものが多くて、シティってよりもタウンって感じがしたので、詞の面でもサウンドの面でもどっちにも『TOWN BEAT』っていうのは合ってる言葉かなと思ってそうしたんですけどね」

――シティとタウンの肌触りの違いってなんでしょうね。

「規模感じゃないですかね。シティは例えば六本木、渋谷、新宿とか人はわんさかいてエンターテインメント的なものもあってというイメージですけど、タウンとなると暮らす場、生活する場という印象ですかね」

――「ルームダンサー」がきっかけということですけど、非常にこの歌詞が面白くてですね。自分にも心当たりのある風景な気もするんですけど。家の中で誰も見てない状況で踊るみたいな(笑)。

「ははは!そういう投稿みたいなのをInstagramだかXあたりのSNSで見たかもしれないですね。踊ってるところが撮られてたとか誰か入ってきたとか、まあそういう面白映像みたいなものを見たのかもしれない。まあ、その辺からだったような気がします」

――これはすごい穿った見方なんですけど、いわゆるシティポップみたいなものがすごく流行って、でもシティポップと思ってなかった世代の人の反発があったりするじゃないですか。

「はい」

――そういうことも含めてシティポップに対する高樹さんなりの諧謔を感じたのが「気になる週末」で。

「「気になる週末」はあれですか、もしかしてシティポップに対するアンサー的な感じがしますか?」

――しましたね。

「あんまりそこは考えてなかったんですけど。曲調が明るいソウルというかね、まあ昔のキリンジっぽかったりするんですけど、冨田(恵一)さんにストリングスのアレンジをやってもらったりして。そういう軽い感じのソウルに何か歌詞を乗せようと思ってた時に、あまり抽象的なことを歌うよりもボーイ・ミーツ・ガールぐらいな明快なテーマみたいな――これはボーイ・ミーツ・ガールとちょっと違うけど(笑)――そういうものがいいと思って。割と明快なラブソングにしようと思ったんですよ、はじめは。だけどそれがどうもあんまり気持ちを相手に徹底的に伝えるみたいなものも鬱陶しいような気がして。あとあんまり面白みも感じなかったんですよね。で、もうちょっとどっちつかずの状態というかヤキモキしてる感じ(笑)……とかを描いた方が面白いかなと思ってそのまま作ったんですけど」

――そう考えると『TOWN BEAT』っていうアルバムの中にいろんな人が住んでるっていう風にも捉えられますね。

「地図ができそうで面白いですね。絵地図がね(笑)」

――そういう意味でもちょっとノンフィクションな気がするというか。

「ああ、もちろんノンフィクションではないんですけど(笑)。フィクションではあるんだけどなんかどっかにいそうとか、こういうこと起きてそうな感じがしますよね」

――気持ちやメッセージより具体的なものを見てる気持ちになるアルバムなんですよね。その全体像みたいなものは何曲かできてからですか?

「そう。歌詞がだいたい書き上がってからですかね。やっぱりそれまで何を作ってるのかわからないっていうか(笑)。まあこの曲だったら自分も作ってて楽しいし聴いてる人も楽しんでもらえるだろうなっていうある程度の基準があって、その基準をクリアしたものを実際の制作に取り掛かるんですけど。そのふるいにかかったものがこれらっていう感じですね。だから何かはじめから計画していたとか狙いがあってっていうことではないんですけど、ただ歌詞を書くにあたってテーマはともかくとして、比喩とか暗喩とか凝ったものにするんじゃなくて、話し言葉とか普通の書き言葉っていうのかな……日常的に普通にみんなが使ってる言葉を元にして歌詞は書こうみたいなことはぼんやり考えているんですよね。以前はいろんな比喩、暗喩を駆使してそれに対して聴く人がいろんな解釈をするって形だったと思うんですけど、今回は一個の比喩、言葉遊び的なことじゃなくて文脈で解釈の幅を持たせるっていうようなそういう方がなんか面白いのかなと思って。で、「素敵な夜」はV6に提供した曲なんだけど、それもそういう歌詞でなんかそういうものにも引っ張られたのかもしれないですね」

――「素敵な夜」がこのタイミングでセルフカバーで入るのは必然なんですね。

「なんですかね……“曲が足りねえ!”ってところはあるんですけど、実際は(笑)」

――なるほど(笑)。言葉選びという点では、先ほどの「気になる週末」の中にも“推し”とか“好きバレ”みたいな、いまどきの、でも2020年代を過ぎると使わなくなるかもしれない単語もありますね。

「“推し”はもしかしたら使われなくなる気がするんですけど、“好きバレ”は使われる気がするんです。なんでかって言うと、そういう状態を一言で表す言葉がないから。好きだけどあんまりそれが相手に伝わってほしくないっていうような状況って普通にあると思うんですけど、それをそれまで何て言ったのかな?と思いますよね、思い返すと。でも好きバレって言葉が生まれたことで”この状態好きバレなんだ””好きバレしたくない”とか”好きバレしたい”とか他にない言葉だから、勝手に定着するって僕は踏んでるんです。しないかもしれないですけど(笑)」

――ははは!あとパンキッシュだなと思ったのは「flush! flush! flush!」なんですけど。

「はじめトイレだけの話にしようと思ったんですけどね。まあ”ウォシュレット最高”ってだけで一曲書くのは途中から難しいなと思って。で、1番はそういうふうにして、それ以降はそのトイレの下で起こってることを歌うと広がりが出ていいかなと思ってそうしてたんですけど」

――めちゃくちゃ現在のことって感じです。

「そうですね。ちょうど書いてた頃になんて言うかな、クラウドワークス的なものが。まだそのクラウドワークスがやってるって公になっていないタイミングだったんですよ。政権に対してアンチなこと、批判的なこと書くといきなり批判がわらわら湧いてくるみたいなね。”これなんなんだろう”と思ってたんですけど、そしたら最近答え合わせが出ましたけど」

――SNSって本当に人の本性が投げ込まれるトイレだし、この歌詞はまさにそれが書かれてるという(笑)。でもスッと聴いちゃうとカッコいい曲っていう。

「そう、そういうパンクだったりファンクだったりする曲ですけど、そこに歌詞を乗せようとしたときに意外と真面目なこと歌ってもな、みたいなところないですかね。かと言ってただふざけてるだけでもつまらなくて、あまり無意味なこと歌ってもとも思うし、いつも悩むんですよね、その手の曲。「The Great Journey」とかもそうですけど、こういうニューウェーヴのファンク的なものってみんな何を歌ってるんだろう?と思って。結局そんな感じになっちゃったんですけど」

――「LEMONADE feat. 小田朋美」は、“レモネード”っていう言葉ってこんな意味もあるんだってわかったのって個人的にはビヨンセなんですけど。レモンを逆境に喩えてレモネードを作りなさいという。

「そうそう!僕もそれで知ったんで、まあ、そのまんま流用したんですけど」

――この曲があることによってさらに広がりますね。小田さんのボーカルでもあるし。

「これはアイドルマスター・シリーズに提供した曲ですが、書いといてよかったって感じですね(笑)。いや、どのタイミングでどういう形で自分でやろうかなと思ってて。ライブではもっとバンドっぽい感じでやっててどっちかというロック寄りな感じでやってたんですけど、同じような感じでやってもあんまり面白みないなと思って。ドラムンベースではないですけど、そういう感じ。基本的にはドラムは伊吹(文裕)くんでトラックは僕がやってるんですけど、Gaku Kanoくんっていう若いジャズの人――本当に学生ですかね(笑)――たまたま宇多丸さんのラジオで彼のライブを聴いて。音源を前からもらってたんですけど、そのラジオで”これあのKanoって人だ!”と思ってすごいいい感じだったんですよ。アイデアも豊富だろうからちょっとトラックを渡していろんな差し込みのシンセとかピアノとかいろいろやってもらえます?って感じで。だから基本こちらで作ってそういう彩りというか動きをつけるのは彼がやった感じです」

――そして「歌とギター」のリミックスが最後に入っていますが、前作以降の新曲として「歌とギター」がリリースされたときに納得と驚きが両方あったんですよ。これは本当に歌う人の曲なんだなっていう。

「そうですね。弾き語りのツアーの直後に書いたんで、歌詞を書こうって時に一番ホットなトピックだったから(笑)、その時自分の中でね。もうこれ以外に書くことがないなみたいな感じで書いただけと言えばだけなんですけど。今回収録するにあたって前のミックスはあれはあれで一つの正解だと思ってるんですけど、ほかの曲のミックスと並べた時にちょっと浮いちゃってるかなと思って。で、もう少しナチュラルなミックスにしようと思って。シングルを作った時は60年代的な音像を現代的にというところもあったのかな。ああいうコンプされた音がいいなと思ってたんですけど、今回他のラインナップの中だとちょっと浮くかもと思って柏井(日向)くんっていう別のエンジニアにナチュラルな感じにミックスをしていただいて。リミックスっていうともしかしたらお客さんがダンスっぽいバージョンになるんじゃないかって思うかもしれない(笑)」

――ハウスバージョンみたいな(笑)。

「そうそう!それちょっとちゃんと説明しなきゃなと思ってるんですけど」

――確かに配信シングルで出たときは強い感じがしました。ラストに入ってると全体的に皮肉や面白い部分がたくさんあるアルバムですけど、「歌とギター」が締まるというか。

「ははは!真面目な人がいたみたいな?”やっといた”って感じ」

――あと「ベランダ」のメロディが新鮮でした。

「そう。あんまりこういう日本的なっていうか東洋的なことやったことなくて。たまたま家でギター弾いててできたんですよね。はじめはもうちょっとボッサっぽかったんですけど、まあボッサでやってもなと思って。で、最近のラテンビートのものにアレンジ変えて、そうこうやってるうちにもうちょっとブラジリアンな感じでもいいかななんてやってたんですけど、冨田さんに聴かせたら「アフロっぽいね」と。聴く人によってはそういう風にも聴こえるんだ、と。とにかくそういう南半球の感じなんだけど、日本っぽいメロディが乗ると無国籍な感じが出て、ま、ティンパンアレイ的っていうかブラジルっぽいハーモニーなので、きっとストリングスとか木管とか入ったら綺麗だなと思って、今回久々冨田さんに管弦アレンジをお願いしたんですけど」

――冨田 勲さんの「新日本紀行」的なメロディにも感じました。

「ああ!確かに(笑)。あの曲いいですね」

――歌われてることは付き合いの長いカップルというか夫婦というか。こういう温度でそういう内容というのも新鮮で。

「どうしても日本的なメロディだから何て言うのかな、花鳥風月的な(笑)ことをね、テーマにはしたくはなかったんですけど、まあ花火だから日本的なテーマではあるかもしれないんだけど。でもそれをすごく日常の狭い空間、ベランダっていうね。そこから昔のこととか今目の前のことそういうこと視点がいくつかあるっていうのが作ってて面白いかなと思いましたね」

――場所がベランダっていうのも“TOWN”にかかってくるんですかね。すべてがまとまりますよね?ジャケットは都会的ですが。

「そうですね。でもこれも“TOWN”と言えば“TOWN”なんですよね、このぐらいの規模だとね。この安藤瑠美さんのアートワークにしようっていうのは割と早い段階で決まってて、安藤さんのジャケットの感じももしかしたら歌詞の内容とか引っ張られてるかもしれないですよね、無意識的に」

――また非常にライブが楽しみになる曲がいっぱい増えました。ツアーは7人編成なんですね。

「今回割とパーカッションがアレンジの中で効いてる曲があって、「歌とギター」も「ベランダから」もそうですし。なんでないと寂しいかもと思ってね」

――パーカッションがあると体感が変わりますね。

「そうなんですよね。本当はフジロックの時にパーカッションと思ったんですけど、エンジニアの人からブラスの方が効果がデカいっていう声があって、”そうなのか!”と(笑)」

――そんな裏話が(笑)。そこは意識して聴くと楽しいかもしれませんね。

(おわり)

取材・文/石角友香
写真/平野哲郎

LIVE INFO

■KIRINJI TOUR 2026
2026年1月12日(月)Zepp Fukuoka(福岡) _SOLD!
1月23日(金)名古屋ダイアモンドホール _SOLD!
1月25日(日)Zepp Namba(大阪) _SOLD!
2月11日(水)NHKホール(東京) _SOLD!
出演/堀込高樹(Vo, Gt)、小田朋美(Syn, Vo)、シンリズム(Gt, Cho)、千ヶ崎学(Ba)、宮川 純(Key)、松井 泉(Perc)、So Kanno(Dr、BREIMEN ※福岡、愛知、東京)、伊吹文裕(Dr ※大阪)

■J-WAVE TOKYO GUITAR JAMBOREE 2026 supported by 奥村組
2026年3月7日(土)両国国技館(東京)
出演/森山直太朗、竹原ピストル、TOSHI-LOW(BRAHMAN/OAU)、岸田 繁(くるり)、後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)、KIRINJI、藤原さくら、吉澤嘉代子

■2026 KIRINJI Live in Seoul
2026年3月22日(日)YES24 LIVE HALL(韓国 ソウル)

DISC INFOKIRINJI『TOWN BEAT』

2026年1月9日(金)発売
SCKN-0002/3,850円(税込)
syncokin

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