12月17日、音楽レーベル「EPISTROPH」による一夜限りのセッションライブが昭和女子大学 人見記念講堂で開催された。レーベル初となるホールセッションである。正直、出演者同士のピープルツリーとこの配信のアーカイブのリンクを貼っておしまいにしたい。それぐらいオーディエンス各人の耳と目で確かめてほしい意表を突くセッションの連続に、異なる人間が音と音で会話する素晴らしさに圧倒された3時間強だったのだ。

SOIL&“PIMP”SESSIONSの社長がオープニングDJを行うという豪華な時間に三々五々、オーディエンスが集まってくる。高い位置に設えられたDJブースは「教祖感が味わえて見晴らしがいい」らしい。彼のMCでいよいよライブがスタート。オープナーはレーベルの若手筆頭であるkiki vivi lilly。メンバーは渡辺翔太(Pf/Key)、安藤康平(Sax)、熊代崇人(Ba)、守真人(Dr)。グランドピアノで披露される「AM0:52」など、生バンドアレンジが新鮮。レーベルのファンならこのメンバーが後にどうスイッチされていくのか想像できたかもしれない。そこがこのセッションライブ、最大の醍醐味だ。

2番手はkiki vivi lillyのプロデューサーでもあり、WONK作品やライブもサポートする、つい今しがたまでkiki vivi lilyのステージにいた安藤康平ことMELRAWのステージが、ラウドロックバンドと錯覚するソリッドなギターリフ、重い低音でスタート。主役でバンマスのMELRAWはロックスターばりにサックスで“歌い、叫び”ながらステージを駆ける。メンバーの熊代はそのままベースを担い、岸田勇気(Key)、松浦千昇(Dr)、そして後半のセッションバンドでも出ずっぱりの活躍を見せることになる小川翔(Gt)が振れ幅の大きいMELRAWの音楽を支える。そして、活躍といえば、MELRAWもセッションを仕切るキーマンっぷりを見せることになる。最もプレイヤーとの接点が多いからなのだろうが。

そこからは、EPISTROPHに所属するビートメイカー、Phennel Koliander、Dhrma、Ballheadの3人による「Table Beats Session」が展開。90’sヒップホップとエレクトロがミックスされ、飛び道具も随所に飛び出すセッションはWONKの橋渡しのようで、実は勝負を仕掛けている。

ビートが残る中、WONKが登場。長塚健斗(Vo)がここまでのアクトに大きな拍手を、とバトンを繋ぐ。WONKがどんな布陣で来るかもこの日の見どころのひとつだったが、ギターレスで、トランペットにWONKの1stアルバム『SPHERE』に参加し、活動初期からのファンにはたまらないPatriq Moodyが参加している。1曲目はWONKとして初めてできたナンバー「Feelin’ You(Y.N.K)」。センターで総統感を出す荒田のヒップホップマナーのビート、温かい江﨑文武のエレピ、支えることに徹する井上幹のベースの上をPatriqのフレーズが滑らかに駆ける。続いても初期ナンバー「ido」、音源でもPatriqをフィーチャーした「RdNet」では彼のソロパートも存分に味わわせてくれた。映画1本見るような体感が残る。しかし、WONKがたった3曲なの?という不満はシームレスに始まったこの日の主眼、「EPISTROPH SESSIONS BAND」でもWONKがホストバンドを務めるからに他ならない。このバンドのメンバーはWONKプラスMELRAW、kiki vivi lilly、そして小川翔である。

セッションの口火を切ったのはシンガーソングライター&ギタリストのReiだ。ブルーズルーツでそれをアップデートした彼女は自身のソロはもちろん、バンドにもソロプレイの司令を飛ばす。火花が散るようなインプロを決め、黄色いストラトを背負い去っていくReiはまるでサムライのようだった。長塚の「ちょっとヤバすぎ。こんなに飛ばすと思わなかった。社長(荒田)、不安そうな顔してる」と、素を吐露するのも納得。一転、ウッドベースを弾きながら歌うレアなスタイルのアーティスト、石川紅奈(soraya)が登場。以前からWONK井上幹がリスナーだったことから今回初めて共演が実現したという。穏やかなナンバーではMELRAWのフルートが光る。

長塚が「King Gnuから新井和輝!」と呼び込むと、一段と大きな拍手が起こるが、遠慮がちに「お邪魔しております」と控えめな新井。MELRAWが「俺と和輝といえばちょっと懐かしい曲をお届けしましょう」と、若手ジャズシーンで切磋琢磨し、ご存知のようにmillenium paradeでも活動をともにする二人が磨き上げられた「Black Bird」のカバーを披露。新井のジャズ/フュージョンや現代音楽的解釈のフレージングにオーディエンスが息を呑む。新井、江﨑、MELRAWのインタープレイも熱を帯びていく。可笑しかったのはベースを新井に交代した井上幹がセッションを“見る”ためにステージに現れたことだ。この辺りがショーというよりセッションのニュアンスが強く、さらに言えばミュージシャン個々のキャラクターが伺える部分でもある。

荒田がさらにゲストを呼び込む。WONKメンバーとは様々なフェスやライブで接点があり、NY拠点で活躍する黒田卓也(Tp)である。音で世界と対峙し、魅了しているプレイヤーのレベルを一音で理解させる凄まじさ。黒田と新井をフィーチャーした「Blue in Green」はこの日の白眉であった。さらに次の曲はボーカルが必要だが、ボーカリストはどこに?という荒田の振りから、黒田が客演しているホセ・ジェイムズに扮した“ニセ・ジェイムズ”=長塚が現れる。アフロヘアに白いメッシュまで入れた凝りように笑いを禁じえない。黒田とホセの「Promise In Love」をカバーし、美声を聴かせたニセ・ジェイムズ、さすがファンだというだけある見事な歌唱だ。

グッと本格的なジャズ~ソウルのセッションムードが醸成されたところに、この日最強の違和感とキャッチーさをまとったマハラージャンが登場。緊張しているかと思いきや(していたのかもしれないが)、場を盛り上げることに徹して、踊る踊る。ニセ・ジェイムズをして「自分より派手な人が出てきた」と悔しがらせる。ギターの小川はマハラージャン・バンドのギタリストでもあり、キャッチーな「セーラ☆ムン太郎」ではナイスなツインギターを聴かせ、大いに沸く。そして最後のゲストはKIRINJI=堀込高樹。「「あの娘は誰?」とか言わせたい」ではkiki vivi lilyのトーキングボーカルがフックに。ギター&ボーカルのミュージシャンは総じて全員ギター巧者でもあり、「Rainy Runway」ではタイトなカッティングで彼のアイデンティティを発揮していた。

ここまでも音楽的なレンジの幅広さとゲストの豪華さに魅了されてきたわけだが、EPISTROPH SESSIONSの“らしさ”は実はこの日登場したミュージシャンが入れ代わり、立ち代わり“土俵”に乗る、WONKの「Cyberspace Love」スペシャルライブバージョンだったのだ。長塚の「最後はこの曲やんなきゃダメだろう!」の一声から、演奏が始まり、同時に「WONKが立ち上げたレーベルですけど、MELRAW、kiki vivi lilly、そして(小川)翔さんも参加してもらっている、このものすごい幸せなセッションを来年も続けていこうと思います。最高なんですよ!EPISTROPHは」という謝辞に拍手が鳴り止まない。期待値は高まるが「どうなるかな、この曲」と展開の読めなさをそのまま口にする荒田。

江﨑の柔らかなピアノに乗り、まずは黒田とPatriqのトランペット・コンビが登場。そう。全員がぼやっと集合するのではなく、最後までソロイストとしてセッション勝負するのがこのライブの特徴であり、見せ場なのだ。その進行を仕切るMELRAWもすごいとしかいいようがない。続いてマハラージャンを呼び込むと、先程よりさらにギタリスト然とした、クラプトンばりのソロを弾く。そしてMELRAWに「そこ、3人いちゃいちゃしてて」と指示された江﨑、渡辺、岸田はピアノ、キーボードでゆるくインプロを展開している。ビートは続いているのだが、このタイミングで守と松浦が加わり、荒田はしばし小休止。新井が登場して、トレブリーなエフェクトをかましたベースソロでソリッドに攻める。石川、掘込のソロのタイミングではトリプルドラムになっており、さしずめ“ドラマー杯”を見ているような個性とフィジカルの強さを見せつけられる。ドラムメインのターンではなんとヒューマンビートボクサーのBATACOが参加し、人力シーケンサーの如き多彩なビート&サウンドを放ち、さらにもうひとりビートのターンに投入されたのはPhennel Koliander。「これいつまでやったらええん?」と、DJブースから聞いてくるのも可笑しかった。さらにはReiが膝を付き、体を折り曲げて絞り上げるようにソロを弾き、オーディエンスを虜にしていた。ステージ上をよく見ると、日本のグラフィックデザインの第一人者である、佐藤卓がパーカッションで参加。ステージに掲げられたEPISTROPHの新しいロゴのデザインを依頼した縁で出演に至ったそう。

「Cyberspace Love」後半の転調からは、全員がオンステージ。客席はまだシンガロングすることはできないものの、チアフルなムードで、真剣勝負と遊び心満載なセッションの真髄を体感したオーディエンスは3時間超えのライブをスタンディングで揺れながら、踊りながら堪能していたのだ。特定のアーティストのファンであるだけでなく、誰かを入り口にこの広大なピープルツリーに出会ったリスナーもEPITHTROPH SESSIONSの一員だと言えるだろう。このシーンがこれからも続くことを願ってやまない。

(おわり)

取材・文/石角友香
写真/木原隆裕、Kosuke Ito

LIVE INFOEPISTROPH SESSIONS(アーカイブ配信)

2022年12月25(日)23:59まで
※購入は12月24日(土)21:00まで
LINE UP/WONK、MELRAW、kiki vivi lily、KIRINJI、マハラージャン、新井和輝(King Gnu)、黒田卓也、社長(SOIL&”PIMP”SESSIONS)、石川紅奈(soraya)、Rei、etc.

イープラス

DISC INFOWONK『artless』

2022年5月11日(水)発売
POCS-23021/3,300円(税込)
EPISTROPH / Virgin Music Label and Artist Services

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