1961年のアート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メセンジャーズの初来日公演は、日本に爆発的ジャズ・ブームをもたらしました。雑誌のグラビアにジャズマンが取り上げられ、ごくふつうの音楽ファンまでもが「ファンキー・ジャズ」に酔いしれたのです。その影響は間接的にですが当時まだ中学生だった私にもあって、いわゆる「ジャズ喫茶ブーム」が興り、それが今日の私の職業ともなっているわけです。
ブレイキーはビ・バップ時代から活躍したドラマーですが、1954年に録音された『バードランドの夜Vol.1』(Blue Note)のセッションで、一躍ハード・バップの仕掛け人としての存在がクローズ・アップされました。当時の新人、クリフォード・ブラウンを前面に押し立てた快演が冒頭に収録した「クイック・シルヴァー」です。アルトのルー・ドナルドソンも畢生の名演です。
そして後に、この演奏でピアニストを務めたホレス・シルヴァーと「ザ・ジャズ・メッセンジャーズ」というバンドを結成しましたが、それが2番目に収録された「ニカの夢」です。しかしシルヴァーとブレイキーはその後決裂し、新規に「アート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メセンジャーズ」を結成します。彼らの名前が知れ渡ったのは、来日時のメンバーでもあるリー・モーガンと、音楽監督を務めたベニー・ゴルソンの力が大きい。とりわけ、彼らがパリのクラブ「サンジェルマン」で行ったライヴ・レコーディングは、興奮で失神者が出るほどの騒ぎでした。「モーニン・ウィズ・ヘイゼル」がその時の記録です。
その後テナー奏者にウェイン・ショーターが加わり、モーガン~ショーターの2枚看板は大人気。『パリのジャム・セッション』はその二人が活躍する名演です。そしてしばらくモーガン~ショーター時代とも言える、ザ・ジャズ・メッセンジャーズの黄金時代が到来するのですが、『ザ・ビッグ・ビート』(Blue Note)『ライク・サム・ワン・イン・ラヴ』(Blue Note)はその時期の傑作群です。ちなみに来日時のメンバーもこのレコーディング・メンバーでした。
アート・ブレイキーといえばなんと言っても「ザ・ジャズ・メッセンジャーズ」のリーダーというイメージが浸透していますが、いわゆる「名盤」のサイドマンとしてもブレイキーは大活躍しています。つまり、一ドラマーとしてもたいへん優秀なのですね。そんなブレイキーの一面が垣間見える「隠れ名盤」が、ソニー・スティットと共演した珍しいアルバム『ア・ジャズ・メッセージ』(Impulse)です。
そして「ザ・ジャズ・メッセンジャーズ」はメンバーが入れ替わっても素晴らしいということが良くわかるのが『フリー・フォー・オール』(Blue Note)です。トランペッターがフレディ・ハバードに変わり、トロンボーンのカーティス・フラーが加わった3管セクステット。音楽監督兼テナー奏者のウェイン・ショーターが大活躍です。
リー・モーガンに始まりウェイン・ショーターなど、ブレイキー・バンドは新人発掘においても注目され続けてきました。1980年代に入り、脅威の新人トランペッター、ウィントン・マルサリスの登場です。アルバム『フィーチャリング・ウィントン・マルサリス’80,81’』(Break Time)は、まさにその時の記念碑的作品です。アルトのボビー・ワトソンとテナーのビル・ピアースが加わった豪華な3管セクステットの再来でもあります。同じ時期の名盤として、もう1枚『アルバム・オブ・ジ・イヤー』(Timeless)がオススメです。
文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)
USEN音楽配信サービス 「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」
東京・四谷にある老舗ジャズ喫茶いーぐるのスピーカーから流れる音をそのままに、店主でありジャズ評論家としても著名な後藤雅洋自身が選ぶ硬派なジャズをお届けしているUSENの音楽配信サービス「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」。毎夜22:00~24:00のコーナー「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」は、ビギナーからマニアまでが楽しめるテーマ設定でジャズの魅力をお届けしている。
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