アーゴ / カデットはシカゴのローカル・レーベル、チェス・レコードのジャズ部門として1957年ごろに発足した、非常に個性的なレーベルだ。親会社のチェス・レコードは、1950年代にフィル・チェス、レオナード・チェスの兄弟によって設立され、もともとはブルースやリズム・アンド・ブルースが主力商品だった。

こうした親会社のカラーが反映された結果、ブルーノートやプレスティッジといったジャズ専門レーベルに比べ、かなりソウル色が強いのがアーゴ / カデットの特色だ。そうしたアルバムは黒人音楽ファンにとっては非常に興味深い内容なのだが、オーソドックスなジャズファン向きかというと、ちょっと違うような気もする。そこで今回は、一般ジャズファンからも支持されている名盤に的を絞って、ご紹介することにしよう。

レッド・ロドニーはチャーリー・パーカーとも共演した経験のある白人トランペッターで、筋金入りのバップ・ミュージシャンである。『レッド・ロドニー・リターンズ』はアルバム・タイトルが示すとおり、ビバップからほぼ10年を経た1959年に録音され、「陰影のハードバップ」とは対照的な、屈託のない明るさが聴き所。サイドのテナーも悪くない。

いつもの楽器アルトではなく、テナーを吹くソニー・スティットの『インター・アクション』は、同じくテナーのズート・シムズと共演した楽しいアルバム。共にテクニシャンだけに、明るく乗りの良い小気味よさは言うことなし。ケニー・バレルの『ア・ナイト・アット・ヴィレッジ・ヴァンガード』は地味な作品だけど、夜アルコールを片手にしんみりと聴くにはピッタリ。こうした渋好みの小傑作がアーゴ / カデットの持ち味と言ってよいだろう。

ドド・マーマローサもチャーリー・パーカーとの共演歴を誇る手練ピアニスト。あまりバリバリ弾きまくるタイプではないが、不思議なことに聴き飽きすることがない。少ない手数の音の中に、キチンと言いたいことが尽くされているからだろう。知られざる名盤と言ってよい。

テナーをアルトに持ち替えて吹く、冒頭の《ボヘミア・アフター・ダーク》が強烈な『ズート』は、ズート・シムズの代表作。いつもの楽器テナーに戻った演奏も含め、彼らしいゆとりとスリルのバランスが絶妙。特に趣向は凝らしていないが、自然体の魅力を切り取った傑作。

控えめながら聴くほどに味わいを増すタイプのトランペッター、アート・ファーマーの魅力を非常にうまく捉えているのが『アート』だ。取り立ててキャッチーなメロディが出てくるわけではないが、丁寧に一音一音を積み重ねてゆく中から、この人らしい人じんわりとした暖か味が醸し出される。これもまた渋好みながらアート・ファーマーの代表作に挙げたい。

ヴァイヴのレム・ウインチェスターがピアノのラムゼイ・ルイス・トリオと共演したカルテット。この説明だけでは演奏内容を想像し難いかもしれないが、楽器編成はモダン・ジャズ・カルテットと同じ。そしてサウンドも似ているが、もう少し爽やかであっさり目の演奏。《ジョイ・スプリング》《サンドゥ》など、クリフォード・ブラウンの愛奏曲を取り上げた企画が光る。これも地味ながら名盤と言ってよい。

総じてアーゴ / カデットのアルバムは派手さはないが、じっくりと聴き込むほどに愛着が増していくアルバムが多い。

文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)

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