パブロというのは70年代のヴァーヴと言ってよいだろう。というのも、ヴァーヴのオーナー・プロデューサー、ノーマン・グランツは60年代に権利をMGMに売却し、スイスで悠々自適の生活を送っていたが、70年代に入りジャズへの情熱に再び火がつき、設立したのがパブロだからである。

とはいえ、パブロの成功は時代の波を巧く捉えることが出来たからだ。1960年代、ジャズはロックに押され、ジャズ・クラブは閉鎖の憂き目を見、ミュージシャンは生活の場を奪われヨーロッパに移住を余儀なくされるなど、ジャズ受難の時代でもあった。

ところが、70年代になるとフュージョンの前身であるクロス・オーヴァーが流行りだし、その反動でオーソドックスなジャズを望むファン層が息を吹き返す。大衆の動向を捉える興行師としての才覚も持ち合わせたグランツは、この機を逃さず、かつて付き合いのあったミュージシャンたちに声をかけ、立ち上げたのがパブロなのである。ちなみに、レーベル名の「パブロ」は、グランツがコレクションしていた画家、パブロ・ピカソから取っている。

パブロの功績の一つに、70年代ベイシー・バンドの演奏を記録していることを上げるべきだろう。実際70年代のベイシーは元気が良い。『オン・ザ・ロード』はこの時期のベイシー・バンドの魅力を余すところ無く伝えており、良い録音でベイシー・バンドを聴こうと思ったらパブロは外せない。また、ピアニストとしてのベイシーの魅力を伝える小編成での傑作も、このレーベルは多数録音している。

M.J.Q.では、洗練されたスタティックなイメージが強いミルト・ジャクソンだが、彼がリーダーとなると一転してソウルフルな表情を見せる。その名も『ソウル・フュージョン』と名づけられたこのアルバムは、いわゆるフュージョン・ミュージックとは何の関係もなく、ミルトのグルーヴ感に満ちた楽しい演奏が楽しめる傑作だ。サイドマンのピアニスト、モンティ・アレキサンダーの参加がトロピカルな味を出している。

70年代はハードバップ・リヴァイバルの時代でもあった。ズートはハードバッパーというより“スウィンガー”という言い方のほうが似合っているが、そのズートの隠れ名盤がこの『イフ・アイム・ラッキー』だ。ここでのズートは、心地よいスウィンガーとしての側面と同時に、じっくりと聴衆に語りかけるようにしてメロディを紡いでいく落ち着いた表情を見せている。特にアナログ時代のB面は彼の新生面を巧く切り取っており、彼の晩年の代表作といってよい。

ガレスピーの影響を強く受けたトランペッター、ジョン・ファディスの傑作が『ヤングブラッド』だ。しみじみとした味わいの《ラウンド・ミッドナイト》から、ガレスピー直伝のバップ・ナンバーまで、彼の魅力が集約されている。

日本でパブロの名前が知れ渡るきっかけとなったのが、アナログ3枚組みの『ジャズ・アット・ザ・サンタ・モニカ’72』だ。特に、エラがベイシー・バンドをバックに歌う《シャイニー・ストッキング》の面はジャズ喫茶のヒット盤となった。

渋いマニア好みのギタリスト、ジョー・パスもパブロでその実力が再認識されたミュージシャンの一人だ。かつての名盤『フォー・ジャンゴ』の再演企画である『サマー・ナイト』は、オリジナルを越えるできばえと言ってよい。

文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)

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