大のジャズファンであったノーマン・グランツが創ったヴァーヴは、「大人の作った大人のためのレーベル」という言い方が一番ピッタリ来る、良い意味での保守性で成功したレーベルだ。

グランツは1944年に「ジャズ・アット・ザ・フィルハーモニック・ホール」(略して「J.A.T.P.」)という名前のジャズ・フェスティヴァルを開催し、それをレコーディングすることからジャズ界に足を踏み入れた。そしてグランツは「クレフ」「ノーグラン」というレーベルを相次いで設立するが、それらは後に「ヴァーヴ」に吸収される形となる。

グランツには、大店の旦那がひいきの相撲取りを応援するようなパトロン趣味があって、ビ・バップのスター、チャーリー・パーカーにお金のかかる豪華なストリングス・アルバムを作らせている。即興を得意とするパーカーだが、メロディをストレートに吹いてもしみじみとした味わいを感じさせる表現力は、さすがと言いたい。

パーカーと並ぶバップの立役者、ディジー・ガレスピーがスタン・ゲッツ、ソニー・スティットと壮絶なアドリブの応酬をみせる『フォー・ミュージシャンズ・オンリー』は、“バトルもの”を得意とした、いかにもヴァーヴらしい作品。こうしたビッグネームの共演アルバムをヴァーヴは他にもたくさん作っている。

ヴァーヴの保守性が成功した例として、スィング時代の巨人アート・テイタムと、エリントン・バンドで鳴らした名テナー、ベン・ウェブスターの作品は、第2次大戦後の録音ながら古き良き時代の香りを伝える傑作。

グランツはお気に入りのミュージシャンの録音には特に力を入れた。中でもエラ・フィッツジェラルドとオスカー・ピーターソンは、自らマネージメントも買って出るほど熱心に後押しした。『ソングス・イン・ア・メロー・ムード』は、若き日のエラの可憐な歌声を見事にとらえている。

エラが黒人女性ヴォーカルのトップ・スターとすれば、アニタ・オディは白人女性ヴォーカリストの中でも屈指のテクニシャンだ。ヴァーヴには彼女の代表作が揃っているが、『ピック・ユアセルフ・アップ・ウィズ』は軽やかなアニタの魅力が引き立つ傑作。

ヴァーヴの看板役者であるオスカー・ピーターソンは、このレーベルに大量の吹込みを行ったが、ここではフランク・シナトラの愛唱曲をしんみりと弾いている『ア・ジャズ・ポートレイト・オブ・フランク・シナトラ』をご紹介しよう。ピーターソンに対するイメージが少し変わるかもしれない。

40年代末、クール派の巨人としてデビューしたスタン・ゲッツは、60年代に入りボサ・ノヴァで再び脚光を浴びた。『スィート・レイン』は再起後の代表作。同じくクール・ジャズの一員として鳴らしたリー・コニッツも、ヴァーヴ時代は次第にウォームな感触をたたえた演奏になっている。

ビル・エヴァンスはリヴァーサイドの録音が有名だが、ヴァーヴに移籍してからの傑作も多い。『モントルー・ジャズ・フェスティヴァルのビル・エヴァンス』は、新生エヴァンスの名を高からしめたアルバム。ウィントン・ケリーとウェス・モンゴメリーが共演した『スモーキン・アット・ハーフノート』は、大物同士の顔合わせの成功例。

そして最後は、モダンジャズ・ピアノの開祖バド・パウエルの最高傑作とも言われている『ジャズ・ジャイアント』。思わず身の引き締まる、天才ならではの壮絶な世界だ。

文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)

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