直営路面店から百貨店、商業施設、ファッションビル、ショッピングモールなど、さまざまなチャネルで店舗を展開しているタケオキクチ。
「多様なマーケットに店舗があるので、VMD上のデフォルトを設定していて、基本的にはあまり奇をてらわず、お客様自身で選びやすい環境を考えています」とは、タケオキクチのVMDを担当している春名克紀さん。
以前は、ブランディング上で打ち出したいアイテムを前に出して、そこに対して「反応してほしい」というスタンスのVMDだったが、「今はユーザー自身によって判断する時代。もちろん接客はしますが、ユーザー中心に買い回りできる店舗を目指しています」。
渋谷明治通り本店のVMDに関しては、「長坂常さんによる建築デザインなのですが、店舗全体がモジュールを積み上げたレイヤーになっている点と、デザイナー菊池自身の"背伸びして無理しない形に"という希望もあり、すべてに対して凹凸の高低差をテーマにしながらVMDを構成しています」と語る。
この秋冬のこだわりについては、「正直、かなりベーシックで抑えめです(笑)」と春名さん。
「ただ、VMDの編集方法でいうと、アイテム編集、カラー編集、スタイル編集というのがメインで、80年代はスタイル編集が中心、アパレル卸から小売りと呼ばれるようになったタイミングでサイズを広げるサイズ編集に。さらに、ファストファッションが出始めた時にアイテム編集に移行し、いまはカラーを軸としたスタイル編集が中心なんですよね。たまにクリエイティブなブランドで背景を見せるようなシーン編集などもありますが、基本的に今はアイテム編集が減っている状況だと考えています」。
この秋のトレンドについては、「柄」がキーワードになっていると語る。
「ラグジュアリーもそうですが、どこのブランドも全身柄などの柄だらけですよね。実際にお客様も柄を触られますし、買われていますから、このコロナ下ではあるけれど、タンス在庫にない物、持っていない物に対しての欲求があると感じています」という。
VMDに関しても「柄を引き立たせるための要素はある」と語るが、「ただアウターなどで柄を出すブランドではないので、ワンポイントだけですね。販路が広いということもあり、基本的にインナーや小物などのワンアイテムでの柄の訴求が強いです」。
また、タケオキクチはブランド的に代理購買の女性が多いそうだ。
「ブランドとしての認知度が高いという点もあると思うのですが、旦那さんや息子さんへ、もちろんギフトもそうですが、女性の代理購買が多いです。マーケティング上、そういった認知に対しても考えていかないといけないかな」という。
現状の店舗内BGMについてはUSENを使用している。
「ディレクターの要望を聞いて、僕がCDを選んでいた時代もありましたが、正直、現状はマーケットに合わせている状態なんです。例えば、SCだとビルボード的なBGMの方が人が入ったり、百貨店だとジャズの方が合っていたりと場所で分けていますね。空間全体のことでいうと、音の部分でのVMDはあまり意思がなく、マーケットインに対して合わせています」とのこと。
あらゆるチャネルで展開し、来客のタイプも違うからということだそう。
現在、会社の業務とは別に「日本ビジュアルマーチャンダイジング協会(日本VMD協会)」にて、ビジネスチームのリーダーをしている春名さん。
「僕自身は協会に入ってまだ4年ほどですが、空間デザイナーをはじめ、デコレーター、百貨店、ブランド、教員とさまざまな職業の方がいて、現在は2ヶ月に1回、60人ほどのメンバーでオンラインサロンを開催しています。リーダーにはなっていますが、年齢が若い方ということもあり、逆にたくさんのことを教えていただいている状況です」と協会の活動内容について教えてくれた。
今後のVMDの役割に関しては、店舗のメディア化を目指しているという。
「いまはスマホの画面がウィンドーなんですよ。店舗のメディアを通じてオンラインに飛んでもらう、いわゆるOMO(オンラインとオフラインの融合)ですよね。スマホと店舗がフィットしている方がユーザーにとっては便利ですから。ただ、日本のアパレルはOMOの概念がまだ弱いですよね。現状、EC担当はECだけ、店舗は店舗だけの売り上げを考えている状態。でも、ユーザーにとってはどちらで買ってもいいわけですよね。そのきっかけとして、我々VMDがデジタルデバイスを活かして、シームレスにできないかなと。もちろん、現状は僕も導入しているだけで、そこまで戦略的にできてはいないのですが。ただ、決めるのはユーザー、お客様ですので、彼らに対しての情報提供と、デバイスで映すビジュアルの選択肢をもたせられたらいいですよね」。
さらに「VMDをルージュだと思っている人が多いのですが、実は"ファンデーションである"と協会のメンバーが言っていまして、僕もそれに同意見なんです。下地の店舗設計の段階からVMDを考えていかないと、小売店舗は成り立たない。さらに商品アイテムの部分でも、デザインはしませんが、店舗のフェイスコントロールは大事なので、最近はその部分にも仕事として入っています。僕にとってVMDとは、メディア化とファンデーションなんですよ」と続けた。
スマホの普及とともに店舗のメディア化が急速的に進む現状。VMDの役割もDX化を含めて多岐に渡ってきているという事なのだろう。
写真/遠藤純
取材/久保雅裕(くぼ まさひろ)
取材・文/カネコヒデシ
春名克紀(はるな・かつのり)
株式会社エクスプローラーズトーキョー 企画管理部 マーケティング推進 VMD エキスパート
東京都出身。高校時代からTAKEO KIKUCHIの販売を経験し、卒業後まもなくワールドへ入社。
27歳で店長となり、いくつかの店舗を担当する。VMDになったのは33歳の時。以来VMD一筋のベテランスタッフ。
久保雅裕(くぼ まさひろ)(encoremodeコントリビューティングエディター)
ウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長。杉野服飾大学特任教授。繊研新聞社在籍時にフリーペーパー「senken h(センケン アッシュ)」を創刊。同誌編集長、パリ支局長などを歴任し、現在はフリージャーナリスト。コンサルティング、マーケティングも手掛ける。2019年、encoremodeコントリビューティングエディターに就任。
カネコヒデシ
メディアディレクター、エディター&ライター、ジャーナリスト、DJ。編集プロダクション「BonVoyage」主宰。WEBマガジン「TYO magazine」編集長&発行人。ニッポンのいい音楽を紹介するプロジェクト「Japanese Soul」主宰。そのほか、紙&ネットをふくめるさまざまな媒体での編集やライター、音楽を中心とするイベント企画、アパレルブランドのコンサルタント&アドバイザー、モノづくり、ラジオ番組製作&司会、イベントなどの司会、選曲、クラブやバー、カフェなどでのDJなどなど、活動は多岐にわたる。さまざまなメディアを使用した楽しいモノゴトを提案中。バーチャルとリアル、あらゆるメディアを縦横無尽に掛けめぐる仕掛人。