もともと婦人服ブランドの23区で営業を担当していたという前川さん。

会社として、オンラインと実店舗の複合化の意図もあり、新規事業系の新部署へ移動したのが2020年3月。
しかし、その後コロナウイルスの影響が本格化し、21年3月には現部署に移って、OMOストアの担当を始めたという。

「20年11月に、自社ECと連動した"クリック アンド トライ"というサービスを百貨店を中心に4店舗ほどトライアルで展開しました。その時は百貨店寄りのプライス感ということもあり、WEBで紹介しているものを中心に複数ブランドをミックスしたスタイリングで展開する形でした。

そこからお客様の購入方法が多様化していく中で、ショッピングセンターも含めてやっていく必要があるという事になり、21年4月にこのオンワード・クローゼットストアを、埼玉県羽生市のイオンモール羽生、愛知県名古屋市のmozoワンダーシティ、そして千葉のららぽーとTOKYO-BAYにオープンさせました」。

前川さんは、昨年11月に行われたトライアルの段階で「OMO型店舗は、実際に始めてみないと分からない」と感じたという。

しかし、この秋にはさらに10店舗オープンさせ、出店拡大を進めている。

オープンから約半年。

「"OMOストアって何?"となった時に、お客様が物に触れられる、試着ができる、スタッフと会話ができるなどのリアル店舗の良い点と、クリックひとつでいつでもどこでも買えるというEC、両方の良い部分がこの店舗で味わえるお店なんですよ。もちろん、理想ですし、そこを目指しますが、いきなりそれをやれるかと言えばやはり難しいですよね」とのこと。

リアル店舗だけで購入している客とECだけの客、そして両方で買っている客を分けた時に、過去の売り上げ状況の分析から、両方で購入する客の売り上げが一番多いという。

「やはり両方で購入されるお客様に向けた店舗を作ることです。それに向けて常にトライアルを重ねています」と前川さん。

店舗で展開しているデジタルサイネージは、きっかけのひとつだという。

「それがあるからデジタルという訳ではなく、いろいろなブランドを扱っているという提示なんです。例えば、サイト内に売れ筋ランキングコーナーがあるのですが、それをリアルにコーナーを作ることで来店されたお客様に伝えている。そこで新しいブランドに出会っていただければという感じですよね」と、バーチャル上のコンテンツをリアルで提案する意図について語った。

一方、20年11月から限定店舗でスタートさせた、店舗とECを繋ぐサービスのひとつであるクリック アンド トライ。
ECサイトをカタログ代わりに、実際に取り扱っていないブランドでも近くの店頭に取り寄せて、試着ができるというサービスだ。

「取り寄せた商品を気に入っていただければ、その場で買っても、後でECで買ってもいいというサービスなんです」。

ただ百貨店においては、店頭でスタッフが直接受け付けているケースが多いとか。

「サービスを始めた時は、お客様がご自身のスマホからご予約されることを想定していましたが、そこは想定外で、スマホ予約は増えませんでした。ただし、お客様が自然な流れで1週間以内にまた店舗にいらっしゃるスキームができるので、店舗のスタッフからすると良いツールだと思って使ってくれているようです」と思わぬ結果に驚いたようだ。

「今までは良い商品や素敵なアイテムでお呼びする、もちろんそれもあるべき姿なのですが、このサービスがフックとなったのは大きいですよね」と前川さん。

ズームを使ったオンラインと店舗でのリアルの接客が選択できるというパーソナルスタイリング。

「こちらは意外とリアルの接客も需要があって、ネットで接客して欲しいスタッフを指名できるのですが、毎回同じスタッフを指名するお客様もいて、リピートが多いんです」と前川さん。

本サービス導入によって、客がお店に入って来るのを待ち、そこにいたスタッフが対応するという今までの接客の形が、客がスタッフを選んで接客してもらいに来るという新しい形に変化したそう。

さらに23区のパンツの素材、ウエスト、丈、カラーを選択できるサービス、カスタマイズのコーナーも展開している。

「まだサービスを導入している店舗数が少なく、素材なども含めて、これからアップデートさせていきたいと考えています」と展望を語る。

現状について、「価格の低いものは積まないと売上高が取れないですし、その場で商品を欲しい方もいるので"それをどう対応していくのか?"や、スタッフの評価の仕組みの部分で"見えない部分をどう可視化させるのか?"、さらに説明しないと伝わらない部分が現状たくさんあり、お客様に対して"どう伝えるか?"など、課題も多く、まだまだ途上ですね」と先を見据える。

いまだ続くコロナ下。
今後、アパレル業界として、オンラインとリアル店舗を融合させたOMO業態での展開は必要不可欠となってくるだろう。
しかし、解決すべき課題も多く、さらに精度を上げるなど挑戦が続いている。

写真/遠藤純
取材/久保雅裕(くぼ まさひろ)
取材・文/カネコヒデシ

オンワード・クローゼットストア ららぽーと TOKYO-BAY

住所:千葉県船橋市浜町2-1-1 1F
TEL. 047-421-7170
営業時間:10:00-20:00

前川真哉第二カンパニー OMOストアDiv.

2006年オンワード樫山入社。入社より14年間、「23区」を中心としたレディスブランドの営業担当を務め、100以上の店舗を運営するチームのリーダーとして活躍。お客様と距離が近い現場で長年培った経験を基に、2020年に新規事業であるOMOストアの担当課長に大抜擢。デジタル化が進み、消費の選択肢が広がる中で、多様化するお客様に楽しんでいただける店舗作り・仕組み作りに尽力している。

久保雅裕(くぼ まさひろ)encoremodeコントリビューティングエディター

ウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長。杉野服飾大学特任教授。繊研新聞社在籍時にフリーペーパー「senken h(センケン アッシュ)」を創刊。同誌編集長、パリ支局長などを歴任し、現在はフリージャーナリスト。コンサルティング、マーケティングも手掛ける。2019年、encoremodeコントリビューティングエディターに就任。

Journal Cubocci

カネコヒデシ

メディアディレクター、エディター&ライター、ジャーナリスト、DJ。編集プロダクション「BonVoyage」主宰。WEBマガジン「TYO magazine」編集長&発行人。ニッポンのいい音楽を紹介するプロジェクト「Japanese Soul」主宰。そのほか、紙&ネットをふくめるさまざまな媒体での編集やライター、音楽を中心とするイベント企画、アパレルブランドのコンサルタント&アドバイザー、モノづくり、ラジオ番組製作&司会、イベントなどの司会、選曲、クラブやバー、カフェなどでのDJなどなど、活動は多岐にわたる。さまざまなメディアを使用した楽しいモノゴトを提案中。バーチャルとリアル、あらゆるメディアを縦横無尽に掛けめぐる仕掛人。

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