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「ジュルナルクボッチのファッショントークサロン」by SMART USEN



──おふたりの出会いはいつごろだったのでしょうか?

窪 浩志(以下、窪)
「きっかけは15年くらい前のエスモードジャポンの卒業審査会だったかな」

宇津木えり(以下、宇津木)
「時期はうろ覚えなんですけれど、ふたりとも審査員で席が隣だったんです」

窪「その時に初めてお話しました。もちろん僕は大尊敬している方でしたので(笑)」

宇津木「いえいえ(笑)」

窪「宇津木さんは、まだ"FRAPBOIS(フラボア)"にいらっしゃった頃だったような。僕がメンズのディレクターになって、そこから"BEAMS BOY(ビームス ボーイ)"を立ち上げたくらいです。ビームス ボーイは、アメリカンカジュアルから始まったのですが、スタッフの中にヨーロッパのモードなスタイルが好きなスタッフが増えて、スタッフの私服が変わった時期があったんですね。例えば、アメリカンカジュアルに"何そのパンツ?"みたいなパンツを合わせていて、それがサルエルパンツだったんですよ。スタッフにブランド名を聞くと"フラップボイスって何?"みたいな(笑)。"それフラボアというブランドなんです!"って。それでフラボアを知って、お店に行って、服を見た時に"この人、天才だ"って。僕がやられてしまったんです」

宇津木「ありがとうございます(笑)」

窪「スタッフの中でフラボアは流行ってまして、それがビームスボーイのオーセンティックな物とマッチングして、新鮮でしたよね。"こういう柔軟なことをやっていかないとな"と学びました。それがあってからのエスモードジャポンの審査員のタイミングでしたので、僕が"出会ってしまった"と(笑)」

宇津木「お名刺をいただいて、この人がビームスボーイの人なんだって(笑)。でも、当時香港でもフラボアをやっていたので香港出張が多かったのですが、出張の時って意外と時間があるので、香港のビームズボーイをよく拝見していました。カジュアルで洗いざらしの素材を使っていたりして、"こういう素材を使えて良いな"って」

──審査員で出会った後は、どんなお付き合いをされていたのですか?

窪「実はそれっきりで、そこからは僕はファンのまま(笑)」

──この15年くらい、交わりはまったくなかったということですか?

窪「僕個人は"Final Home(ファイナル ホーム)"でエイネットと取引はしていたので、その頃に東コレの招待もいただいて、"mercibeaucoup,(メルシーボークー、)"のショーを拝見していました」

宇津木「そうだったんですか?ありがとうございます(笑)」

窪「それが本当に素晴らしいショーで。毎回楽しみなんですよね」

宇津木「"何かしないと"と思っていたので(笑)」

窪「えりさんの作品って、ポップなのですが意外とエレガントだったりして。そういうギャップがあるから、変に裏切られて"すごい"と。シーズンになったら、お店に伺って拝見していました。ただの服バカなので(笑)」

──宇津木さんはいかがですか?

宇津木「メルシーボークー、を辞めてから時間が出来て、そして今回こういう状況になって、改めてインスタグラムをしっかり見ていたら"窪さんが私のことをフォローしてくれてる"って(笑)。それから最近の窪さんの活動をチェックしていました」

──お互いにインスタをフォローしてからという感じなんですね

窪「もちろん僕はメディアでずっと拝見していました。そういえば、僕は6年前から神戸芸術工科大学で客員教授をやってまして、元エスモードジャポンの方がそこで現在、先生をやられていて、僕も学校でお世話になっているのですが、一昨年に宇津木さんの講義のポスターが貼ってあって、"あっ、宇津木さん!来てる"と思ってました(笑)」

宇津木「私、一年に一回、その当時講義で呼ばれていたんです」

窪「実はリアルではそれほど会っていないのですが、僕の中では親近感が勝手にあります(笑)」

宇津木「最近は、窪さんのインスタをよく拝見しているので、私の方でもすごく親近感があります(笑)。でも、面白いですよね、インスタとかって。あれで見ていると親近感が湧くんですよ」

──そういう中で今回、宇津木さんは新しいブランド「eriutsugi(エリウツギ)」を立ち上げましたが、まずはどのようなブランドなのでしょうか?

宇津木「"誰でも、いつでも、いつまでも心地よい服を"というテーマで、"着る人、作る人が楽しい気持ちになる、そんな服を作りたい"というところから始まったブランドです。環境のことも考えて、洋服を大事にする部分から、シーズンレスで一枚一枚を予約発注で作るスタイルにしています。今までは大量に作って、売って、残ったらセールか、最終的にはさよならをしないといけない、そんなやり方を変えたいと思って、春夏コレクションと秋冬コレクションも定番的にして、シーズンレスで長く売っていく、必要な物を必要な分だけ作って提供するという形にしました。サステイナブルをブランドできちんとやっていきたいなと。時代によっては色を変えることもありますが、基本的にはずっとある物を提供していきます」

窪「えりさんのタイミングは自然だと思うんですよね。ずっと思っていて、今ここに来て形にした。その流れが自然ですもんね、ライフスタイルもそうですし」

──窪さんの感想はいかがですか?

窪「SDGsが国連で採択され6年目になるのですが、ファッション業界はやっと昨年くらいから具体的な動きがでてきて、商売としてもサステイナビリティを掲げないとやっていけない流れが出来始めていますよね。宇津木さんはそういう感じではなく、それが分かられていて、準備してから始められたという感じだと思いました。かなりコンパクトなコレクションにされるということで、どのように集約して、シーズンレスだったり、定番的なものをどのように表現していくのか?という部分は楽しみですよね。 ただ、最初は正直分からなかったのですが、改めて見たら、宇津木ワールドの中のベーシック部分なんですよね。ポップなんですけれど飽きなくて品がある、そしてエレガントなんですよ」

宇津木「エレガントにしたかったんです」

窪「テキスタイルも色もそうだし、差し色も散りばめ方が適度なんですよね」

宇津木「ありがとうございます(笑)」

窪「派手過ぎないバランスに、大変な時間を掛けてコンパクトにされたんだろうなと」

宇津木「歳を取っちゃったんですよ(笑)」

窪「年を重ねたんじゃないですか(笑)」

宇津木「基本的に新しいことが好きで、ずっと楽しいと思ってファッションをやってきたのですが、2014年に自然栽培の畑に目覚めて、そこから環境の循環というか、世の中の循環を知って、"服作りもそうしていきたい"と思ったんですよ」

──サーキュラーエコノミー(循環型経済)に基づいて、ファッションを当てはめた実践ですね

窪「今回、エリウツギを始められてから作り手の部分に入り込んで、例えば、プリント工場で箔プリントの調合までSNSで紹介されていましたよね。それまではそういう部分まで入り込んでなかったんですか?」

宇津木「実は入り込みたかったのですが、会社の考え方とか環境とか、色々と大きい部分もあって、なかなか入り込めなかったんです」

窪「宇津木さんのインスタグラムのストーリーズを拝見していると、ものづくりの部分に入り込んでいるのがリアルに伝わってくる。それを見ているとやはり欲しくなっちゃう(笑)」

宇津木「とにかく、思ったらやらないと気が済まないんですよ(笑)。ただ、生地もなるべく生地幅で目一杯取るようにパタンナーさんが工夫してくれて、余った部分がちょうどポケットになる様なデザインを考えたのですが、実際に工場にお願いした時に、綺麗に美しく仕立てるには、バイアスの見返しの部分だったり、裁断の荒裁ちがないと綺麗に仕上がらないと。多少は捨てる部分がないとそういうものは出来上がらない、ギチギチにやっても美しいものは作れないことを、今回は学ばせていただきました」

──休符がないと音楽が成り立たない。それと一緒なんでしょうね

窪「弊社においては、2年くらい前まではセールを見込んだ仕入れを行っていましたが、それでも残った洋服はファッション系の専門学校に寄付して、解体して、リメイクの授業に使ってもらったり、卒業制作のショーに使ってもらったりしていました。 この春からはそれも減らせるようにMDもより精度の高い発注をして、適正な数量にしている状況ですね。商業施設も"世の中そうだよね"という事になりはじめて、セールも後ろ倒しになり始めていますし、オンシーズンに買いたい服がプロパーで回る事の実現を、今年から徐々に出来るようになると思います」

宇津木「大きい会社がそういう風になっていけば、ファッションに関わるみなさんやお客さんの感覚も変わってくるでしょうね」

窪「それは捨てないためですよね。ビームスも45周年目を迎え、指標として売り上げだけを求めない経営にシフトしていっています。僕が思うのは宇津木さんのブランドみたいに、シーズンレスなブランドがもっとスタンダードになって欲しいですよね。例えば、麻の素材の重ね着で冬を過ごすとか、メリノウールの吸湿速乾で汗を吸って呼吸して出すみたいな、夏に着てみてその快適さを感じることが当たり前になっていかないといけないかな」

宇津木「天然素材ってやっぱりすごいですよね。シルクってオールシーズンじゃないですか。高級素材なのでなかなか使えませんが、うちのブランドでは徐々にやっていけたら良いなとは思っています」

──例えば、欧米だと夏前にダウンとか、革ジャンとか着ている人もいますしね

宇津木「日本だと変な人に見られてしまう、というのもありますよね(笑)。今の若い世代の方はあまり関係なく着ていますし、だんだん変わっていくと思いますよ」

──それこそがダイバーシティなのかもしれませんね

窪「そう思います」

──サステイナブルに関して、消費者にこうなって欲しいみたいな希望はありますか?

宇津木「私も消費者のひとりですし、自分もあれもこれも"欲しい"という人間ですから。贅沢になっていた部分を、たまには楽しんでもいいと思いますが、いつも5個買っていた物をひとつにするとか。ファッションの部分でもそういう考え方の方が、服を大事に着てあげられるのかな。自分でもそうなりたいと思っているんです。ただ、私の場合は農業というか食べ物から入ったから、考えられたのかもしれません」

──欲望のあり方の変化でしょうね。世界でもっとも貧しい大統領として話題になったムヒカ大統領の話で「貧しいとはお金が無い事ではなく、もっと欲しいと思うことが貧しい事」という、これは本質的な部分でしょうね。ただファッションは欲望を掻き立てる産業ですから

宇津木「そうなんですよ、オシャレが大好きで自分が着たい服を着たい(笑)」

窪「気分が上がりますしね。ただシーズンレスの物とか、ユニセックスの物とかを楽しんでもらう、今までなかった概念を知ってもらうこと、気づいてもらうことがひとつのステップなんじゃないですかね」

──ご自身の洋服などはどうされていますか?

窪「断捨離も考えましたが、個人的には思い入れのある物が多いので、売りたくなかったり。着ていない服は可哀想かなとは思いますが、だからといって着ないんですよね」

宇津木「私は何年か前に"あげる"って言って、メルシーボークー、で"宇津木さんの服プレゼント"企画をやりました」

窪「それは良い企画ですね」

宇津木「抽選で、お手紙も付けて、結構喜んでいただけました」

窪「お手紙付き(笑)」

宇津木「でも、あげちゃってから、"あれ、あげちゃったな"と思う時があるんですよ、たまに(笑)」

窪「でも、きっとあげなかったとしても着ないんですよね」

宇津木「ただ服を作られている方の姿とか背景とか、そういう部分を見たら捨てられない。だから、SNSを使って紹介して、長く着ようと思ってくれたらいいなと思うんです。私も以前の会社の時に、焼却の状態を見に行ったのですが、職人さんが作っている靴とか服とかがあって、作っている人、それに関わって縫ってくれた人が見たらショックだろうなと。だから、そういうのをSNSで繋がっている方には見てもらおうと」

──ものづくりの現場ですね

宇津木「オーガニックコットンって高いじゃないですか。だけど、あれも農薬を使わないことでとても大変な作業していて、それで手摘みですからね、だから高い。枯葉剤も撒かないから、環境だったり、働く人だったり、土とかには絶対良いはずなんです。そういう大変なことをやられている人たちがいるんですよね。だから、そういう素材をデザイナーが使うことによって、需要に回して、根付かせていかないといけない。そういう部分に気づき始めたので、なるべく使いたいと考えています」

窪「弊社ではサステイナブルな商品開発及び啓蒙に関しては、チームも作っています。それをどう取り入れて、どうアウトプットしていくのか。その考え方やフィロソフィー、新しい生活スタイルが消費者に伝わって、お客様の満足に変えていきたいですよね」

宇津木「もう、やらざるを得ない状況ですよね。うちはこれから草木染めを始める予定なんです。それは私が昨年自分で育てたきゅうりの葉っぱを利用して、ただ100%の草木染めではなく、新しい草木染めをやろうと準備しています。そこではカマキリと毎日目を合わせていたり、きゅうりの葉っぱを食べているアゲハ蝶の幼虫がいたり、そういうストーリーがあるんですよ」

窪「そのストーリー、すごいですね(笑)」

──今回の対談を機にお二人にコラボレーションが生まれたら嬉しいですね

窪「恐れ多すぎて(笑)」

宇津木「こちらこそです(笑)」

──ありがとうございました



「僕は大尊敬している方ですから(笑)」と窪さん、「いえいえ(笑)」と宇津木さん

「えりさんの作品はポップなのにエレガント。そういうギャップがすごい」と窪さん

「サステイナブルも大切だけど、オシャレが大好きで自分が着たい服を着たい(笑)」と宇津木さん。

「作り手の部分に入り込んでSNSで紹介されていましたよね」と窪さん、「職人さんが作っている靴や服、作っている人、それに関わってる人がいることを知って欲しい」と宇津木さん。

パタンナーが工夫して作られたというパターンの型紙。

ショールーム内で販売されているバッグ類

定番がメインで受注発注スタイルのエリウツギ

ポストカードには、実際の職人の方が登場しているという。

表参道に位置するエリウツギのショールーム。



[section heading="窪 浩志"]

株式会社ビームス 取締役 開発事業本部 本部長
生年・出身 1962年・横浜市
学歴 逗子開成高校1981年卒業・高千穂大学1985年卒業
(株)ビームス 取締役 クリエイティブディレクター開発事業本部本部長
ディズニー・シー、セブンイレブン、東急ハンズ、横浜DeNAベイスターズ等の異業種とのコラボレーション多数、槇原敬之さんコンサートツアー衣装担当
日本ファッションカラー選考委員(JAFCA)
神戸芸術工科大学客員教授(KDU)
杉野服飾大学特別講師
ディズニープロダクツ オブ イヤー2008年 グランプリ受賞
アートワーク:2010年サンフランシスコSUPER FROG GALLERYにて『THE SURF SHOP』参加
趣味:音楽鑑賞、洋服、ジムでのワークアウト

[section heading="宇津木えり"]

女子美術短期大学衣服デザイン教室卒業後、エスモード・ジャポンに入学。
その後、渡仏しパリのステュデイオ・ベルソーに入学。 帰国後、いくつかのアパレル企業でデザイナーを務め、東京コレクション参加ブランドを経て、2020年8月に自身の名前でeriutsugiをスタート。
考える- Je reflechisをキーワードに着る人、つくる人、服までもが喜ぶようなものづくりで、さまざまな試みに挑戦していく。

(おわり)

写真/野﨑慧嗣
取材/久保雅裕
取材・文/カネコヒデシ





久保雅裕(くぼ まさひろ)
(encoremodeコントリビューティングエディター)

久保雅裕(くぼ まさひろ) encoremodeコントリビューティングエディター・ウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長。杉野服飾大学特任教授。繊研新聞社在籍時にフリーペーパー「senken h(センケン アッシュ)」を創刊。同誌編集長、パリ支局長などを歴任し、現在はフリージャーナリスト。コンサルティング、マーケティングも手掛ける。2019年、encoremodeコントリビューティングエディターに就任。

カネコヒデシ
カネコヒデシ メディアディレクター、エディター&ライター、ジャーナリスト、DJ。編集プロダクション「BonVoyage」主宰。WEBマガジン「TYO magazine」編集長&発行人。ニッポンのいい音楽を紹介するプロジェクト「Japanese Soul」主宰。そのほか、紙&ネットをふくめるさまざまな媒体での編集やライター、音楽を中心とするイベント企画、アパレルブランドのコンサルタント&アドバイザー、モノづくり、ラジオ番組製作&司会、イベントなどの司会、選曲、クラブやバー、カフェなどでのDJなどなど、活動は多岐にわたる。さまざまなメディアを使用した楽しいモノゴトを提案中。バーチャルとリアル、あらゆるメディアを縦横無尽に掛けめぐる仕掛人。









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