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「ジュルナルクボッチのファッショントークサロン」by SMART USEN



──「セール時期の見直し」についてのお考え、その賛否と理由をお聞かせ下さい

「ずばり賛成です。 コロナ云々の前から、一部百貨店やデベロッパーも含めて動きを見せはじめていたので、代表の眞岸(洋一)も、数年前からセール時期の後ろ倒しを提案もしつつ、賛同もして、売り上げが下がってでも正常に持っていこうとしていました。しかし、展開ブランドが多く、販路となる出店先が幅広い会社ですので、意思統一となるとなかなか難しい。 ただ、路面店など、我々の判断基準の元で動ける店舗に関しては、少しずつ後ろ倒しを実行しています。」

──的確な時期はいつ頃と考えますか?

「出来る限り後ろに倒したいので春夏のセールは8月末、と本当は言いたいのですが、旬の時期を逃すと物が売れない現実もあります。本当はセールをやらないのが一番良いのですが、なるべくタイムリーにやるのであれば、一部マークダウンを行い少しずつ小出しにしていく形ですかね。お盆明けくらいが理想ですが、春夏は8月をひとつのターゲットにしていきたいです。 秋冬に関しては1月が的確かと。」

──8月と言われた方は初めてですね。大半のみなさんが7月でした

「もちろん秋物の立ち上がりを早めたい思いもあり、そのバランスが難しいのですが、ただ早めに開催する顧客に対してのセールが本当にいいのかは疑問視しています。一番は、良い時期にプロパーでルックを渡せる事が一番のサービスだと思っているので、顧客にセールで販売するという概念はなるべく無くしていきたいと思っています。」

──確かに8月は理想的な時期だと思うのですが、現実的な部分で今年はどうされますか?

「現実的にやはり7月の中旬くらいですかね。昨年は持ち越せる物は今年に持ち越したりして、抱えている在庫はまだまだありますし、恐らくGW開けに袖物の一部セールをして少し軽くしながらも、大きなセールとしては、7月中旬くらいがメインになると思います。 秋冬物に関しては、正月1月でいいと考えます。」

──セール時期の見直しを進めるために何をすれば良いと考えますか?

「どちらかというとセールをしないためなのですが、とにかく作る物の量を減らしていくということでしょうか。我々は、人前に出るための服や、モチベーションが上がる服を作り続けたい。だから、希少価値の高い服として、作ること自体を変えながらやっていきたいと考えます。それに、常に店頭が変わるとか、お客様のモチベーション的に買い物に行きたくなるような、そういうサイクルでものを作っていく。だから、早めの予約販売、そして受注販売という、この癖付けをしていこうと。現状、ECではトライアルしていますが、早めにルックを出して反応を見てから進めることが重要かなと。 そして、ソールドアウトしても深追いせず、お客様にとっても買われた服がセールで出ているのは一番ショックだと思うので、我々から先陣を切って止めていけたらと考えます。だから、プロパー店に関しては、基本的にセールはやらない方向に動いています。」

──商業施設との関係はいかがでしょうか?

「もちろん、足並みを揃えることも大切ですので、そこはサンプルセールで対応をしたり、ワンラックだけスペシャルプライスみたいなことなど、楽しみにされているお客様のために出来ることをしていきます。企業間で考え方についての違いもあると思いますので、そこはお互いに話をしながら進めたいという感じですかね。」

──適時適品適量を実現していく政策はありますか?

「弊社は、もちろん商品を一からすべて作っていますし、生産タームが長い会社なんです。特に靴は半年前に仕込んでって、かなり強烈な商売ですよね。だから、半年前に仕込んで海外で大量に作るというサイクルから、原価率を上げてでも国内生産に切り替えて、小出しで出来るものづくりをする、そういうスパンに切り替えはじめています。 生産タームを引きつけながら、リスクのない形で、カプセルコレクション的なMDに組み直して、毎月コレクションを発表しながら、SNSで全国の店舗スタッフ向けに動画配信することをこの1年間やっていて、さらに店頭が変わらないとお客様も店舗に来る動機が無いですから、短サイクルにすることで毎月店頭を変化させていく。ただ、ものづくりを短サイクルにするということは、それイコール原価が若干上がり、ロットも積めない。そこはECでの売り上げを上げる努力するという意味も含めて、少しずつ会社として変わり始めています。」

──その分プロパー消化率があがれば戻ってきますよね

「一時期は"生産ロットを大きくして、原価を抑える"みたいな時代もありましたが、いまはきっちりと物を見ながら、お客様の顔色を見ながら、ある程度原価もコントロールしながら、"プロパーでどう消化するか"という考え方に切り替わっています。 アパレル業界の稼ぎ時って、需要もあるし、金額も大きいから、どうしても秋冬がメインなのですが、ただ予測を外すと損失もかなり大きい。そういうこともあって、現在春夏の商売を重視しています。長い春夏シーズンの割合を増やして、元々40%対60%や45%対55%の商売をほぼ一緒にしていて、もしかすると今年は春夏の比重が大きくなるかも。 さらに今年は物が早く売れていて、ベーシックカラーよりも色物から売れていたり。お客様におけるシーズンのモチベーションが、少し前倒しになっているように感じています。だから、定番的な物をたくさん作るよりは、"今シーズンはこれ"というアイテムを小出しに出していく。とにかく、タンスに無い物でないと買っていただけない状況ですので、我々が普段やらないような色目やデザインに踏み込んでいますね。」

──需要予測をする上で、例えば、AIなどのシステムを取り入れていますか?

「ECに関しては、もちろんデータを駆使しながら施策を練ったりはしますが、やはり店頭に関しては、"世間が右に行ったら左に行け!"というのが眞岸の手法で、そして我々の提案に対してお客様の心が動くと思っているので、データに頼るというよりは、"世間を見ながら我々は逆に行く"という考え方が非常に強いです(笑)。 メーカーとして強い芯を持ちながら、我が道を行く、メーカーとしての強みを出すべきだろうと。そうでないと、お客様の心に響くような商品も提案できないですし、やはり勝ち残っていけない。 このコロナ禍によって、そこに拍車がかかったというか、原点回帰という感じで、もう一度強みを見出していこうという感じになってきています。」

──今までの経験値を生かしつつ需要予測し、短サイクルにしていくという方向ですね

「ECに関しては、前年のデータを生かして、先行予約をやり、ある程度予約のつき方での需要予測はやっています。ただ、ものづくりがそこに引っ張られてはいけないということですね。」

──昨年はイレギュラーだとは思いますが、EC化率はいかがでしょうか?

「コロナ前は20%を切るくらいでしたが、現状は25%くらい。この1年でそこまでは大きく伸びきれてないという認識で、まだ打つ手はあるかなと。会社としてももう少し伸ばしたいところですが、40%をひとつの目標値にしたいと考えています。」

──水上さんは現在、リアル店舗とECの両方を見られているのでしょうか?

「OMO(Online Merges with Offline)的にもどちらがどうというのはなく、ECファーストと旗を振っても、やはり店頭への意識が強い会社なんですね。そういうこともあり、営業部長として店頭とECの両方を見ることで、店頭EC関係なく両方がうまく連動するように組織や仕組みを作っているところです。正直、リアル店舗だけの責任者をやっていた時は、ECなんてまったく見ていなかったですし、逆に"お客様を取られる"とか言ったりしていた時代もありましたよ(笑)。ただ、現在は"ONE アバハウス"というテーマを掲げて、縦割りの組織を繋ごうと。"お客様が買いたい時に、いつでも、どこでも買える会社が一番良い"ということで、いま一番重要なのがリアル店舗からECへの送客で、評価基準もそういう形に切り替えたり、販売スタッフの意識をECに向けることをやっています。はじめて一年くらいですが、少しずつ送客のリレーが出来はじめていますね。」

──販売スタッフにおける、EC売り上げのインセンティブはすでに紐付けされている状況ですか?

「SNSに関しては、ショップブログというシステムを早くから作っていたので、その売り上げもお店にカウントしたり、そこの紐付けは意外と早くはじめていましたね。スタッフのSNSからの送客、売上比率が一定の割合に達し、意外と高い方だと思っています。OMOでの号令をかけてからまだ2年くらいなので、もっとアクセルを踏んでいきたいですし、何よりもスタッフの理解度も上がってきていると考えます。 会社としては、昨年からデジタルコミュニケーションという、SNSでの販売に特化した部署を作って、SNSの指導をしたり、ECと店頭を紐付けたりしているのですが、そこに関しては人もお金も集中的に投下して強化しているところですね。」

──このコロナ禍でお店の役割が変わってきたと思いますが、今後どのようになるとお考えですか?

「店長会などで話しているのは、顧客を作る上でリアル店舗は非常に大事な存在なので、お店での買い物体験とか販売スタッフの感性、感覚なども含めて、ネットでは味わえない物事をやりながら、顧客作りを徹底してやっています。顧客を作るためなら店に出勤しなくていいので、お店にお客様が来店する動機作り、そして接点作りこそがまずは評価だと。現状は、接点作りをした者勝ちだと考えています。 あとは、試験的にお店に所属しない、外商的な販売スタッフを現在作っていて、そのスタッフが顧客に直接商品を販売しています。これは例えば量販店ではなかなか出来ないことですし、それが出来るのは我々の強みだと感じていて、だから他のスタッフにも店以外での顧客との接点作りを徹底してやっていこうと。 顧客を作れるかどうかは、最後は人との関係しかないですしね。店頭では体験とか、単品では見られない部分を提案しつつ、最悪店頭がなくても、そのスタッフがいれば物が売れるような、そういう教育をしていきたいと思ってます。」

──昔の訪問販売みたいなものですが、人との付き合いが少なくなってきた現在、そういうカルチャーがまた復活しはじめたということでしょうか?

「百貨店の外商も好調と伺っていますし、実はそういう声が多いみたいなんです。百貨店に関して言えば、高い物順に売れていくみたいで、旅行に行けない分、贅沢な買い物をして、気分だけでも上げたいと。そういう顧客が多くいるみたいです。」

──ライフスタイルの変化の兆しですよね

「弊社は、ものづくりが得意で、それを打ち出すのが下手というお家芸なのですが(笑)。だけど、これまで育ててきた顧客ビジネスが、ここからの活路になるのではと考えます。だからこそ、そういう外商的なビジネスも視野に入れていて、この事業は本気でやっていきたいですよね。」

──ありがとうございました



「現状は、顧客作りに力をいれていて、その接点作りをした者勝ちだと考えています」と今後の実店舗の在り方を提起する水上氏。



[section heading="水上雄一郎"]

株式会社アバハウスインターナショナル 取締役 営業本部長
1973年生まれ。服飾の専門学校を卒業し、1994年に新卒で入社。
一貫して販売職としてキャリアを重ね、各ブランド主要店舗の責任者、エリアマネージャー、執行役員店舗運営部統括部長を経て現職。
同社の名古屋地区販売を行う系列会社 株式会社ブラーグ代表取締役を兼務。

(おわり)

写真/遠藤純
取材/久保雅裕 取材・文/カネコヒデシ





久保雅裕(くぼ まさひろ)
(encoremodeコントリビューティングエディター)

久保雅裕(くぼ まさひろ) encoremodeコントリビューティングエディター・ウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長。杉野服飾大学特任教授。繊研新聞社在籍時にフリーペーパー「senken h(センケン アッシュ)」を創刊。同誌編集長、パリ支局長などを歴任し、現在はフリージャーナリスト。コンサルティング、マーケティングも手掛ける。2019年、encoremodeコントリビューティングエディターに就任。

カネコヒデシ
カネコヒデシ メディアディレクター、エディター&ライター、ジャーナリスト、DJ。編集プロダクション「BonVoyage」主宰。WEBマガジン「TYO magazine」編集長&発行人。ニッポンのいい音楽を紹介するプロジェクト「Japanese Soul」主宰。そのほか、紙&ネットをふくめるさまざまな媒体での編集やライター、音楽を中心とするイベント企画、アパレルブランドのコンサルタント&アドバイザー、モノづくり、ラジオ番組製作&司会、イベントなどの司会、選曲、クラブやバー、カフェなどでのDJなどなど、活動は多岐にわたる。さまざまなメディアを使用した楽しいモノゴトを提案中。バーチャルとリアル、あらゆるメディアを縦横無尽に掛けめぐる仕掛人。







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