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encoremode
2021.02.26

アッシュ・ペー・フランス 村松社長インタビュー 連載・企業トップによるリレーメッセージ「コロナ禍を経て、セール時期見直し問題について語る」 Vol.3

新型コロナショックは、2020年のファッション小売業界に激震をもたらし、3~5月休業時の在庫のECへの振り向けとマークダウンによる販売、秋冬の生産調整、21年春夏の仕入れ抑制など、先行き不透明な小売市場の不安定感を反映した対応が求められた1年だった。さらに生産から店頭までのファッションサイクルの在り方について、世界的に著名なデザイナーやラグジュアリーメゾンなどからも、改めてサステイナブル、SDGsの課題のひとつとして、適正な生産と在庫の在り方を模索すべきとの提言も出され、業界全体の意識も高まっている。 こうした状況下で、以前から問題視さている「欲しい物が欲しい時に揃っていない」「本来のシーズンに合っていない」などの矛盾点をはらんだ「セール時期の見直し」についても、適時適品適量を理想とするMDの構築に向けて喫緊の課題となってきた。 『encoremode』では、年初からこのテーマで企業トップに意見を求め、リレーメッセージとして長期連載していくことにした。 連載第3回は、アッシュ・ペー・フランスの村松孝尚代表取締役社長。

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──「セール時期の見直し」についてのお考えを聞かせください

「会社というよりも私自身の考えになりますが、そもそもセールをするべきではないという考え方です。うちは買い付け、セレクトがメインですから数の調整も可能ですし、それに最初からセールする為に物を買い付けているわけではないという思いが強いですね。もちろん、この問題に関して意見を聞かれる事もありますが、正直なところ興味がなく、どちらかというと”何をお客様に提案するべきか?”という部分に軸足をおいてます。とはいえ、このコロナの現状だと、社内で”在庫を現金化しないで次があるのか?”という財務チームが頑張ってセールしてくれているわけで、だから、とりあえず会社がゴロンと回っている状態です(笑)。気持ち的には”セールしてください”とは心からは言えない。でも、それを言ってたら社員の給料も払えないですしね。とりあえずは、会社は会社、俺は俺という関係で前に進んでいくしかないと思っています。」

──では、どんな部分に興味があるのでしょうか?

「コロナはもうあるし、パンデミックなわけですから、”どうセールしていくか?”や”どうコロナを乗り切る?”ではなく、パンデミック後の2年後、3年後、5年後に”どういう姿で立っているのか?”という部分ですね。それぞれが出来る所で、出来る時間帯で文化復興をやっていく、というのが結論ではないかと考えます。そういう考えから”パンデミックの後にルネッサンスが来る”という主張を、社内にも社外に対してもしていますよ。」

──ルネッサンスとは、具体的にどのようなものをイメージされているのですか?

「まずは”パンデミックの後にルネッサンスが来る”という言葉を発した時に、みなさんの頭の中に瞬間的に浮かぶ物事があると思うのですが、それって希望なんですよね。この言葉を発することで希望が生まれる、それが本質です。 具体的には、アートや音楽など文化や芸術、カルチャーが日本だけではなく、世界的に発展していくだろうと考えています。つまり、いま不要不急とされている物事が、一番大事になってくる。しかも、1~2年の話ではなく。例えば、14世紀や15世紀のルネッサンスでいうと100~200年とか、振り返ってみると、それくらいの期間、続いていたわけですから。これから起きる事はもちろん分かりませんが、長く芸術に目覚める、人としての自分に目覚める、そういう時代にスライドしていくという意味のルネッサンスですよね。」

──単なるコロナの反動ではなく、それがきっかけで本質的にそういうものを求める時代になっていくという事でしょうか?

「元々そういう方向に向かっていた時代が、このパンデミックではっきりと露呈したという事だと考えています。スペイン風の後にもそういう傾向はありましたし、歴史的に見てもそういう流れがあるのは事実です。そこに希望を持てば、人として、企業としてのあり方も含めて、明らかにステージが変化するはずで、そこに向かっている状態。 そのためには、まずは生きていないといけないので、なんとか頑張って生きて、次の時代に入っていきましょうという、そういう話ですね。」

──企業のトップとして、「どういうスタンスで、どういうメッセージを発するのか?」は大切ですよね。しかし、「現実の現場は?」という部分ですと、商業施設のセールの時期などもあると思うのですが、そのあたりはどのようにお考えですか?

「基本的に館の方針に従います。それは、従いたくないとか、喜んでとかではなく、当たり前の事として従うというスタンスですね。」

──価値のあるものを仕入れて、その価値を伝えて売っていくということは商売における基本的なスタンスだと思います。では、それをどう維持し、発展させていこうと考えますか?

「うちの会社内にはいくつかの事業があるのですが、まずは各事業のコンセプトをシンプルな言葉で短く明確にして、それを現場に自分で伝えにいきます。現状、コロナ下においては通勤するだけでもリスクですし、事務所の人たちはリモートとか出来ますが、お店の人間にとってはお店に来なければいけない。そのことに関しては当たり前だけれど感謝して、そして、お店の人たちにきちんと商品の価値を伝えていきます。原始的といえば原始的ですが、コンセプトを明確明快に伝える、伝え方も直接会う、そういう方法ですね。」

──例えば、店舗スタッフがSNSなどを利用してECに繋げている他社事例もあると思いますが、御社でもそのような動きはされていますか?

「お店にお客様が来られないケースが多いのも確かですので、もちろんそういう部分はやっています。SNSなどでの発信を含め、なおかつダイレクトな連絡なども利用して繋がりを強化する事で、普段からのお客様作り、顧客作りがしっかりできているという部分が、この状況下でも結果を出している理由のひとつですから。お店のスタッフはよくやってくれていると思っています。」

──この1年でEC化率が高まりました?

「それは一気に高まりました。この期間だけでいうと3倍くらいですね。もちろん今期は特殊だとは思いますが、ようやく20%が射程圏内に入ってきたところです。」

──やはり店頭の役割が大きいという想いが強いですか?

「社内でもEC事業部を置いてという考え方の人も当然いますし、もちろんそれは時代の流れとしても間違っていないと思います。しかし、私の気持ち的な部分でいうと基本的な戦略は絶対に店舗なんですよね。」

──在庫過多にならないようにするには需給をバランスさせる必要あると思いますが、仕入れの量はどのような予測で行っているのでしょう?

「確かに、先に需要を読めたら無駄が出なくていいのですが、残念ながらそれは結果でしかない。ですから、その辺りはアナログではありますが、長年の経験に基づいて、今年は減らそうとか、これはしっかり売っていこうとか、そういう感じでやっていくしかないですよね。ただ、うちの場合は、作る側に過剰生産するクリエイターがいないので、大量に仕入れることもできないという点があります。小さなビジネスの人たちとの取引、新しいクリエイションはそういうところからしか生まれてこないと考えています。」

──リモートによる海外買い付けは、難しさがありますよね

「弊社には海外に駐在しているスタッフが、現地のクリエイターのアトリエまで行ってやりとりしています。ただ、こちらとしては、画像で見ても質感が分からないのでやはり難しいですよね。指輪でもなんでもそこが重要ですから。」

──このコロナ下の状況で、仕入れへの影響は出ていますか?

「昨年はお店を閉めていた期間もあったので、仕入れ自体は減っている状態です。だから、今まである物をお客様に伝えて、しっかり提案できる機会になっています。うちは小売で、セレクトして買い付けているから、物を作っている、いわゆるアパレルメーカーさんとはリスクの在り方は違いますよね。」

──逆に巣ごもり需要で「HP DECO(エイチ・ピー・デコ)」などのライフスタイル業態は良いのでは?

「そうですね。でも、それもこういった状況を読んでの事業戦略のひとつなんですよ。実際は、きちんとリスクヘッジを考えています。25年前に神戸にお店を出したのも、阪神淡路大震災の直後で、”しばらく大きな地震は来ないのでは?”という考えからです。東京直下型の地震というのは、関東大震災以降もずっと言われていますし、もし東京が潰れたら神戸で、神戸でダメだったら福岡で、福岡がダメだったらニューヨークでという出店方法をやっています。だから、”指輪がダメなら皿”という、そういうリスクヘッジはしているつもりです(笑)。」

──皿も指輪も、村松さんの生活を彩る楽しみですよね

「そうです。”アート感のある暮らし”というのが、うちの会社のテーマでもありますし、”クリエイションが人を豊かにする”という考え方が、我々が扱うアイテムの基本ですから。」

──例えば、サステイナブルやSDGsへの取り組みはどのような事をやられていますか?

「うちでは、過剰包装を止めたり、エアパッキンを新聞紙などの紙に変えたりとか、出来るところからはじめています。 大切なのは”本質的にサステイナブルな思考回路を持っているか?”という部分。 いま、色々なところでサステイナブルとかSDGsを言われますが、それ自体は、もともと皆さんの体の中に持っているものだと考えていて、20世紀はそれを押し込めてしまった時代なんです。だから、そこを少しずつ解放していけば、自ずといま出来ることをやるだろうし、”何をしなくてはいけないのか?”という部分も分かるはず。そして、そういう人が増えてきて、オセロゲームみたいに白がある一定の量を超えると全部白に変わっていくという、そういう瞬間が来るはずなんです。いまコロナ下で起きている物事は、白が少しずつ出てきている状態で、ある時にすべてが白に変わる、それがルネッサンスなんですよ。だから、すべては出来ることからやれば良いわけで、急に無理してやっても、それは本質ではないと考えます。」

──ありがとうございました



「パンデミックの後にルネッサンスが来る、この言葉を発することで希望が生まれることが本質なんです」と村松氏。



村松孝尚(むらまつ たかなお)

アッシュ・ペー・フランス代表取締役社長
1952年、長野県飯田市生まれ。大学卒業後、出版社勤務を経て1984年、東京・原宿にレディースファッションの店「Lamp」を開店。
翌1985年、アッシュ・ペー・フランス株式会社を設立、ファッションを中心に、インテリア、アートなど生活と文化に関わる事業を多角的に展開。日本全国に約60店舗を展開。
主力商材はヨーロッパや北南米、国内デザイナーファションと服飾小物。
また、合同展示会「rooms」など業界全体を盛り上げるための取り組みにも力を入れている。
企業理念は、「創造的であるということ、グローバルであるということ、“人が生きる”ということ」。
クリエイターの才能を発掘、育成、紹介し続けることで、服飾雑貨というファッションビジネスの新たな可能性を開拓、日本と世界に新しいマーケットを創り出した。
ファッションを中心に、インテリア、アートなど生活と文化に関わるさまざまな事業を展開。パリ、NY、など世界各地に独自のネットワークを持つ。
常に、人と創造性を大切にし、それをベースに新たな事業の創出に取り組んできた。人には必ずひとつ光り輝く才能がある、それを引き出し、見守っていくのが最大の仕事だと考えている。

(おわり)

写真/野﨑慧嗣
取材・文/久保雅裕、カネコヒデシ





久保雅裕(くぼ まさひろ)
(encoremodeコントリビューティングエディター)

ウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長。杉野服飾大学特任教授。繊研新聞社在籍時にフリーペーパー「senken h(センケン アッシュ)」を創刊。同誌編集長、パリ支局長などを歴任し、現在はフリージャーナリスト。コンサルティング、マーケティングも手掛ける。2019年、encoremodeコントリビューティングエディターに就任。

カネコヒデシ
メディアディレクター、エディター&ライター、ジャーナリスト、DJ。編集プロダクション「BonVoyage」主宰。WEBマガジン「TYO magazine」編集長&発行人。ニッポンのいい音楽を紹介するプロジェクト「Japanese Soul」主宰。そのほか、紙&ネットをふくめるさまざまな媒体での編集やライター、音楽を中心とするイベント企画、アパレルブランドのコンサルタント&アドバイザー、モノづくり、ラジオ番組製作&司会、イベントなどの司会、選曲、クラブやバー、カフェなどでのDJなどなど、活動は多岐にわたる。さまざまなメディアを使用した楽しいモノゴトを提案中。バーチャルとリアル、あらゆるメディアを縦横無尽に掛けめぐる仕掛人。





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