留学中の高校時代から自ら仕入れたスニーカーを販売
「オールウェイズ アウト オブ ストック」というブランド名は、「常に完売しているブランドにしたい」というキングマサの思いからネーミングされた。「今は売っていないものに惹かれる、ソールドアウトしている物が好き」というコレクターの心理が背景にある。
キングマサは子供の頃からファッションが好きで、とりわけスニーカーに夢中になった。高校はメルボルン、大学はロサンゼルスの学校に進んだが、「留学したのはスニーカーショップの店員と英語で話したかったから」という。オーストラリアの中でもメルボルンの高校を選んだのは、当時大好きだった「Supreme(シュプリーム)」を扱うスニーカーショップが1店舗だけあったから。高校時代に自身のブログ「HI-LIFE-SB(ハイライフ エスビー)」を開設し、オーストラリアでしか売っていないスニーカーや日本では完売になったモデルを自力で仕入れ、販売を開始した。そのセンスとスニーカー自体の希少性からブログは評判を呼び、カリスマコレクターとしてスニーカーヘッズに知られるようになった。

KING-MASA(キングマサ) ALWAYS OUT OF STOCKディレクター
京都市生まれ。15歳で海外に渡り、人生の半分近くを海外で経験。ストリートファッションやスニーカー情報配信サイト「HI-LIFE-SB」を運営し、多くのファンを集める。楽天ブログ時代は常に楽天ファッションランキング1位を維持、自身のHPに変わってからも1日の最高PVは20万アクセスに及ぶ。アメリカに貿易会社、日本にアパレルコンサル会社を設立、経営。これまでに多数のメディア出演のほか、ブランドのディレクションやスタートアップなどにも携わる。現在は自身のブランド「ALWAYS OUT OF STOCK」を軸に様々な取り組みを推進中。
ブログは大学時代も継続し、帰国後は扱うアイテムの幅を広げ、並行輸入したブランドのバッグなど小物・雑貨も販売した。「売れる物なら何でも扱った」ほどだったが、やがて「並行輸入で第三者が作った物を販売することに疲れてしまった」。そこでオリジナルTシャツの販売をスタートさせた。ところが、「全く売れなかった」。何とか売り切ろうと、Tシャツの原価に相当するスニーカーがもらえる抽選券を付けて提案。すると瞬く間に全てが売れたものの、この苦い経験から「もう自分では作らない」と思ったという。
スニーカーからファッションへ、「ALWAYS OUT OF STOCK」の萌芽
転機は2016年に訪れた。「出版社から本を出さないかと依頼を受けたんです。15年1月から16年4月に発売され完売になった希少性の高いスニーカーの紹介など、スニーカー好きが知りたい情報を集めた書籍『OUT OF STOCK SNEAKERS(アウト オブ ストック スニーカーズ)』を出版しました。これまでに5冊出しているのですが、その1冊目の出版記念でアトモスが運営していたスニーカーショップ『Chapter(チャプター)』でサイン会を開いたんです。そのときに、懲りずに記念Tシャツを作ったんですよ」。全部で200枚を製作すると、今度は10分ほどで完売した。そのTシャツにプリントしたロゴが「ALWAYS OUT OF STOCK」だった。

サイン会の会場でキングマサはある男性に声をかけられた。差し出された名刺には、バーニーズ新宿(21年閉店)の副店長の名があった。「マサさん、うちでも何か面白いことをやりませんか」――思いもよらぬ誘いだったが、キングマサ自身、「蒐集したスニーカーの博物館みたいなことをやりたいと思っていた」こともあり、話は一気に進んだ。同年10月にキングマサが所有する「NIKE(ナイキ)」のレアスニーカーを集積した展覧会「KING-MASA’S SHOESEUM(キングマサズ シュージアム)」が実現したのだ。展覧会はスニーカーヘッズをはじめ1週間で約1000人が集まる盛況となり、翌年には第2弾が開催された。
しかし、この展覧会でキングマサは「悔しさも経験した」。その原因はまたもやTシャツだった。クオリティーの高いボディを選んで製作したTシャツは評判も良かったのだが、「ハイブランドが並ぶバーニーズに、既存のボディにタグを付け替えたTシャツがある。そのことが恥ずかしかった」という。「イベントではなく、この店で名立たるブランドと並ぶ服を作りたい。僕は日本人だし、海外の人たちは日本の物作りにとても興味を持っている。メイド・イン・ジャパンのブランドを本気で作っていくと決めた」。ブランドとしてのオールウェイズ アウト オブ ストック(以下、A.O.O.S.)の始まりだった。


ブランドロゴが無くても「A.O.O.S.」が感じられる服へ
当初は自身がスニーカーヘッズだったことから、スニーカーが好きな10~20代を対象に服を作り、新作はインスタライブなどSNSでローンチし、ECを軸にポップアップストアでも販売した。Tシャツで6000円程度など買いやすい価格帯だったこともあり、若い世代の共感を得た。
ただ、何か違うという思いが募った。自分がバーニーズでの経験を通じて描いたのは、コンセプトとする「ラグジュアリー&ストリート」の体現、つまり大人が着られるストリートウェアを作ることだろうと。そこで服作りの深化を図り、「シュプリームやステューシーなどいろんなブランドの服を着てきたけど、もう若い子たちのブランドじゃないよねっていう大人世代がきれいに着こなせ、ディテールの作りもしっかりとしているストリートウェアに照準を合わせていったんです」。当初はロゴが目立つアイテムがメインだったが、「ロゴが見えなくてもA.O.O.S.と感じてもらえる服を意識」し、●年●シーズンから素材、デザイン、パターン、縫製にこだわったメイド・イン・ジャパンによる服作りを強化。結果、生地作りから始めることも増え、Tシャツの価格が1万2000円以上に上がったのは象徴的だ。


これを境に客層は変化した。ブランドを始めた頃はポップアップストアへの来店客もキングマサを知っている若い世代が90%以上だったが、服そのものに興味を持って来店し、購入する30代アッパー世代がどんどん増えていった。これに伴って百貨店や大型セレクトショップでのポップアップも増え、キングマサの英語によるコミュニケーションも相乗し、ヨーロッパを中心とする訪日外国人客も急増した。1万~1万5000円だったポップアップの客単価は現在、春夏が3万5000円程度、秋冬が5万5000~6万5000円程度に上がっている。
B to Cでファンを増やしてきたが、20年にはオフィス兼ショールームを中目黒に開設し、卸も積極化。セレクトショップを中心に販路を広げている。
中目黒の高架下にある「オールウェイズ アウト オブ ストック」のオフィス兼ショールーム(24年1月からはショップとしても展開)
コレクションが並ぶ中目黒店の店内
オフィス兼店舗は新たなデザインの服が生まれる場でもある
1着1着にストーリー、感情を持って伝える場にも注力
コレクションは春夏・秋冬をそれぞれ6シーズンで捉え、シーズンごとに毎月、新作を「ドロップ」するスタイルを採っているのも、A.O.O.S.の特徴だ。取材時は25年春夏に当たるシーズン6がドロップ5に突入していた。
Tシャツは、ビンテージの丸編み機を使って低速で編み上げた柔らかな肌触りの天竺木綿製を中心に、スペイン産の甘撚り超長綿を度詰めで編み込んだスーピマコットン製なども揃う。「DOUBLE POCKET SUPIMA S/S TEE(ダブルポケット スーピマショートスリーブティー)」は、無地にすることで生地の風合いと質感を実感できるミニマルな1着だ。左胸に二つ重ねたポケットのデザインと、ラッフルチケット(慈善福引)を模したブランドカラーのオレンジのネームがアクセント。

Tシャツはキングマサ考案のメッセージも面白い。「BE LIKE WATER S/S TEE(ビー ライク ウォーター ショートスリーブティー)」には、「Be Like Water not Luxurious BUT VALUABLE for Life」のメッセージと、ステーキの上に水の入ったコップが載ったイラストがある。ステーキは贅沢さ、水は生きるために必要不可欠なものを象徴し、「水みたいな存在でいろよ」と語りかけている。「CASH BOX DROP S/S TEE(キャッシュボックス ドロップ ショートスリーブティー)」は、25年春夏のテーマ「Lazy Monday Morning」(憂鬱な月曜日)からの発想で、フロントに「What are you working for?」(何のために働いてるの?)の問いがあり、後ろを向くとシューズボックスから溢れるお金の絵が迫ってくる。「みんなちゃんと働いてお金を貯めて、隠しておけよ」というメッセージだ。
「BE LIKE WATER S/S TEE」
「CASH BOX DROP S/S TEE」(前)
「CASH BOX DROP S/S TEE」(後)
大胆な異素材の切り替えや立体的で大きなポケットなど、アンバランスをエッセンシャルなカッコ良さに収斂させるチャレンジもA.O.O.S.らしい。「WIDE FATIGUE PANTS(ワイドファティーグパンツ)」は、今季の人気アイテム。前後やポケットに表情が異なる2種類のナイロン素材を組み合わせ、立体感を生んだ。ポケットはフロントに大小3つ、バックには一般的なパンツよりも下に2つ配置した。裾のゴムコードでシルエットを調整可能。同素材の組み合わせによる「HUNTING 3B JACKET(ハンティング スリーボタン ジャケット)」とのセットアップも好評だ。
異素材コンビネーションは、ショーツにも生かされている。「TUCK BASKETBALL SHORTS(タック バスケットボールショーツ)」は、遠州産地で高密度に織り込まれた右綾ツイルのコットン生地と、横方向に伸縮性のある高密度のダブルサテン生地を切り替え、立体感を表現。気軽にはけるショーツながら、生地作り、染色、縫製に職人の手仕事を凝縮した。
「WIDE FATIGUE PANTS」
ワイドファティーグパンツとのセットアップで売れている「HUNTING 3B JACKET」
「TUCK BASKETBALL SHORTS」
「CRAZY STRIPE L/S SHIRT(クレイジーストライプ ロングスリーブシャツ)」は、クラシカルな2種類のストライプ柄コットン生地をパッチワーク風に切り替えたクレイジーパターンが新鮮だ。袖には袖まくり用のストレッチコード付き。背面の低めにデザインされたヨークはベンチレーション仕様となっている。
「なぜ、どうやってこのアイテムができたのか。服作りの背景=ストーリーが1着1着にある。工場の人たちもブランド設立時から応援してくれ、手間ひまをかけて形にしてくれています。みんながチームになって服という『歩くアート』を作っていて、それをお客様が着て出掛けることで出会いが生まれたり、会話が豊かになったり。そういうストーリーを伝えるために、ECだけでなく、インスタライブやポップアップストアを展開しているんです。単に売るのではなく、感情を持って伝え、コミュニケーションを図れる場作りは今後も続けていきたい」とキングマサは話す。
「GIVE AND GIVE」から広がるコミュニティー
中目黒のオフィス兼ショールームは店舗としても活用し、24年3月には大阪・北堀江に直営店「ALWAYS OUT OF STOCK OSAKA STORE」を出店した。大阪ストアの店舗空間は白を基調としてブランドカラーのオレンジを差し色に使い、キングマサの出身地である京都のエッセンスを散りばめた。売り場中央には枯山水を配し、ハンガーラックには竹を使用。畳敷きのVIPルームも設けた。カフェも併設し、京都の町家を彷彿させる犬矢来を設けたウッドデッキでドリンクを楽しめる。


今後はA.O.O.Sのウェアを軸とするライフスタイルセレクトショップを構想する。その第一歩となるトライアルとして今年4月21日から5月20日にかけ、ギンザ シックスでポップアップストアを展開した。タイトルは「GIVE AND GIVE BY ALWAYS OUT OF STOCK」。キングマサが信条とする「GIVE AND GIVE」、見返りを期待せずに提供し続けることをコンセプトに、「A.O.O.S.のコレクションを軸として、僕が好きな人たちのプロダクトを集積したライフスタイル提案型セレクトショップという形で出店しました」。
アートディレクションはアーティストの小野川直樹が担当し、代表作の「折り鶴」をイメージした空間を創出。映画やドラマなどのアイウェアのスタイリングを手掛けるISSEI(イッセイ)のアイウェアブランド「Re:See(リシー)」がショップ・イン・ショップとして出店し、滋賀県の洋菓子店「CLUB HARIE(クラブハリエ)」と協業した特製バームショコラも販売した。他にもユニセックスブランド「KAOYORINAKAMI(カオヨリナカミ)」やアーティスト「Ryunosuke Art(リュウノスケアート)」、ソフビ制作会社「TOKYO GANG(トウキョウガング)」など多彩なコラボレーションを展開した。

このようなプロダクト、それを生み出す人々、そして顧客が交わるコミュニティーハブのようなセレクトショップを模索中だ。「ブランドに関わっている全ての人をハッピーにしたいという思いが根底にあるんです。僕の中で仕事は『私事』で、好きなことを好きな人たちとやっていきたい。その軸が僕の場合はファッションなので、他のコミュニティーともコラボレーションをしながらお客様がハッピーになるきっかけとなる場を作っていく考えです」とキングマサは話す。




一方、海外進出はブランドデビュー時から取り組んできた。ロサンゼルスのショールームと契約し、A.O.O.S.のコレクションを提案している。「日本ではデザインから縫製までチームで服作りを行い、現在はアーカイブを再構築して一点物を作ることにも取り組んでいます。洗いをかけてダメージ感を出したバンダナを刺し子でパッチワークしたデニムジャケットなど、いろいろ実験しています。そういった一点物や日本の素晴らしい技術を生かした新たなプロダクトを含め、海外にメイド・イン・ジャパンの価値を広め、また海外の素晴らしい物も日本に紹介していきたい」と展望する。
写真/遠藤純、オールウェイズ アウト オブ ストック提供
取材・文/久保雅裕

久保雅裕(くぼ まさひろ)encoremodeコントリビューティングエディター。ウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長。元杉野服飾大学特任教授。東京ファッションデザイナー協議会 代表理事・議長。繊研新聞社在籍時にフリーペーパー「senken h(センケン アッシュ)」を創刊。同誌編集長、パリ支局長などを歴任し、現在はフリージャーナリスト。コンサルティング、マーケティングも手掛ける。2019年、encoremodeコントリビューティングエディターに就任。