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encoremode
2021.03.17

ルックホールディングス 多田 社長インタビュー 連載・企業トップによるリレーメッセージ「コロナ禍を経て、セール時期見直し問題について語る」 Vol.5

新型コロナショックは、2020年のファッション小売業界に激震をもたらし、3~5月休業時の在庫のECへの振り向けとマークダウンによる販売、秋冬の生産調整、21年春夏の仕入れ抑制など、先行き不透明な小売市場の不安定感を反映した対応が求められた1年だった。さらに生産から店頭までのファッションサイクルの在り方について、世界的に著名なデザイナーやラグジュアリーメゾンなどからも、改めてサステイナブル、SDGsの課題のひとつとして、適正な生産と在庫の在り方を模索すべきとの提言も出され、業界全体の意識も高まっている。 こうした状況下で、以前から問題視さている「欲しい物が欲しい時に揃っていない」「本来のシーズンに合っていない」などの矛盾点をはらんだ「セール時期の見直し」についても、適時適品適量を理想とするMDの構築に向けて喫緊の課題となってきた。 『encoremode』では、年初からこのテーマで企業トップに意見を求め、リレーメッセージとして長期連載していくことにした。 第5回は、ルックホールディングスの多田和洋 代表取締役社長。

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──「セール時期の見直し」についての賛否をお聞かせください

「見直した方が良いと思います。じわじわとセールの早期化が進んでいる状況なので、一定のレベルで歯止めをかける必要がある。理由は大きく3つあり、年間通してここまでセールやバーゲンの様な雰囲気は、定価に対するお客様の信頼度が下がってしまうというのが一つ目。2つ目はセールやバーゲンに依存して在庫を処分するという状況が良くない。しかもそのセール自体の盛り上がりも昔ほど大きくない。さらに最終的に残った商品は廃棄することになりますが、その廃棄量を減らすべきという昨今の時代の流れを考えると、セールやバーゲンに依存している状況は決して良くない。そして最後に、経営者としての立場から、セールを繰り返していくと利益率が落ちていきますから当然、企業収益が悪化してくる。 以上、 三つの観点から考えても、セールやバーゲン依存からの脱却を果たすためにも時期の見直しは必要だと思っています。」

──時期はいつが適切だと考えますか?

「春夏物は7月、秋冬物は1月、これが現実的に考えて、変えられる時期なのではないかと考えています。細かい日程に関しては館次第でいい。少なくとも”6月12月はやめよう”という部分は守っていきたい。油断していると6月中旬、もしかしたら上旬にだってなりかねない。過去には春夏物は8月といわれていた時代もありましたから。 春と夏のセール時期を分けるという考え方もあるが、こと春夏商品に関しては春と夏の違いを消費者にどこまでわかってもらえるか疑問です。春夏とひとくくりにした方がわかってもらいやすい。」

──一方、秋物立ち上がりを夏物で立ち上げてきているブランドもあり矛盾しているようにも思いますが

「これについては各社の考え方次第だと思います。 ファッションのサイクルは、実需より早めなのは仕方がない事なので立ち上がりの時期に定番的な商品を展開する事は必要かもしれませんね。晩夏としても着られるし初秋としても着られるような比較的息の長い商品です。ただ、今季に関しては業界全体に品番等を減らして絞り込みを進めているように感じています。」

──御社の適時適品適量に関する取り組みについて教えてください

「弊社の場合、ナショナルブランドについては、生産調整などブランドごとに細かく運営しています。一方、”IL BISONTE(イル ビゾンテ)”や”Marimekko(マリメッコ)”など主力であるインポートブランドについては、実際に販売する時期の半年以上前に先行で大量に発注しなければなりません。ですから期中の細かなフォローは不可能です。正直、適時適品適量の仕入れシステムではないですね。ただ、基本的にセールはしない。しても一部だけという、運営を確立しています。 インポートブランドに関してはとにかくプロパーで売り切る。どうしても売り切れなければバーゲンで最後まで売り切る。とにかく物を残さない。実際、弊社グループのプロパー販売比率は80%とかなり高く、商品の廃棄率も1%以下に収まっています。昨年はコロナの影響でプロパー比率は少し落ちましたが。 今後はナショナルブランドにおいてもセールをしない定番として認知されるようなラインを育てていきたいと考えています。」

──適量においては、発注精度を高めるという課題に対してAIやデジタル化などがあると思うのですが、その点について教えてください

「いくら定番といっても売れなければ仕方がないので、そこは今まで蓄積したデータと経験、それと直感で、可能な限り精度を上げていく努力をしています。しかし、正直AIなどのデジタルを使ってというほどの事ではないと思っています。アパレル業界はとかくアナログと言われがちですが、未来なんてなかなか予測できないですよ。占い師でもあるまいし(笑)。 基本はやはり蓄積したデータと経験から学ぶ事、それを元に直感を働かせる。直感というのはビジネスセンスが必要ですから、そういったセンスを持った人材を要所要所に配して極力精度を上げていっています。このコロナ禍の現状においても仕入れのコントロールが効いているので、一定の成果は出ているのではないでしょうか。とはいえ、シーズンによって当然当たり外れがありますので、今後もずっと学習しながらやっていくしかない。AIで売れ筋が予測できるなら誰も苦労しないですからね(笑)。」

──ナショナルブランドの場合、需要予測は重要になってくると思いますが

「ナショナルブランドは、蓄積したデータからの需要予測や生産のコントロールを自社で全てやっています。ただ現状はナショナルブランドの市場が大変厳しい。どうしても予測との差が出てしまうのが現実です。このコロナ禍では、ミドルからシニア層のお客様はなかなか店頭に来ていただけない。かといって若い方ほどECも利用されない。今は精度をあげた需要予測をしつつも想定よりも控えめな発注を心がけています。」

──現状、ナショナルブランドは抑えて、その分をインポートでカバーするバランスでしょうか?

「これは各ブランドの状況によります。堅調なブランドについては、しっかり在庫を持って売上を取る。そうでないブランドについては手堅い運営に徹します。もちろん需要の精度を高めるのも大事ですが、何よりも我々サイドが「これを売りたい」「買って欲しい」という、主体性を持ってアプローチする事が重要だと考えています。意外とそういう商品の方が売れますからね。」

──ECはどのような状況でしょう?

「ECは全体的に堅調です。2020年のEC化率が20%、前年の倍に上がっています。だからと言って実店舗を閉めてECにウエイトを置くような考え方ではなく、実店舗もECも双方着実に伸ばしていくことを方針としています。特に昨年に関しては、緊急事態宣言により休業していた実店舗に変わってECが上がったと考えています。これは日本だけではなく海外についても同じ様な状況です。」

──平常に戻った際、適当と思われるEC化率はどの程度でしょうか?

「EC化率というのは、実店舗の売上が下がれば上がるものでしょう。我々は現在、ECについては売上額に軸足を移して考えています。中計で掲げた2023年のEC売上目標は70億ですが、昨年の実績はコロナの影響もあり68億の進捗です。本年は昨年の伸び程は見込んでいませんが2桁増を目標にしています。」

──実店舗における役割は、今後どのように変化していくと考えていますか?

「実店舗というのは、お客様との最大の接点の場でもあり、且つ収益の源なのでしっかりと伸ばしていかないといけないと考えています。2016年にスタートした店舗とECの相互ポイントサービスLOOK MEMBERSHIP(ルックメンバーシップ)は、2023年の会員数の目標を100万人としているなか、昨年末の時点で70万人を達成している状況です。このサービスによりECと店舗の買い回りの利便性向上や当社の展開しているブランドの認知度向上にも繋がっており、EC、店舗双方にプラスのメリットが出ています。また、昨年より店頭発信のSNSを活用したライブコマースもスタートさせています。 店舗の業績に応じたインセンティブ制度は以前からありますが、今後もしっかりとスタッフのモチベーションを高めていきたいと考えています。」

──企業として行っているSDGsの取り組みを教えてください

「捨てるものを減らす。これを一番に考えています。最終的にはリサイクルを交えながらも、限りなく廃棄物をゼロにしていく。アパレルが現状抱えている問題として、そこはしっかりやっていきたいと考えています。 また、今回のコロナですべての社員のPCをデスクトップからノートへ変更しました。在宅勤務する際にデスクトップを担いで帰る訳にもいきませんし(笑)。会議においてのペーパーレス化に向けて動いています。 また、CSRの一環としてピンクリボン活動に長年携わっていますが、今後は困っている人に力を差し伸べられるような、人に優しい活動にも取り組んでいきたいと考えています。 すべてを一斉には出来ませんので、まずはやれるところをやっていくことが重要だと考えています。」

──会社としてやっていきたい事、ファッション業界として進言したい事などありましたらお願いします

「会社としては、末長く成長し続ける会社でありたいですね。そういう会社がアパレル業界に増えて、儲かる業界という認識に繋がれば、学生さんもアパレル業界を志望してくれるでしょうし、今後、業界全体も元気が出てくるのではないでしょうか。 昨今、”アパレル業界=危機”みたいな、ネガティブなイメージになっている部分もありますので、夢のある面白い業界にしていかないといけないと強く思っています。」

──確かに近年はネガティブなイメージが先行してしまいファッション的な面白さが欠落している感はありますよね

「難しい部分なのですが、シーズン性のない定番的な商品を増やすと必然的に面白い商品が減りかねない、ロスを恐れると突飛な商品を生み出しにくいというのは致しかたないことです。だから、あまり振れすぎず、良いバランスを保って、アパレル特有の緩さを持ち合わせながらいくのが良いと思いますね。なんでも難しく考えすぎてしまうと”それってファッションなの?”という事にもなってしまいかねない。弊社も、外部の方にしてみたら、時代を見てうまくやっているように見られがちですが、歴史を辿っていくと、相当無駄な事とかやっていますよ。実際に鬼のように失敗の山を築いていますから。その中でわずかに残った事業が今の主力として生きています。だからこれからも収益基盤をぶらさない範囲内で面白い物にもどんどんチャレンジしていきたいですね。」

──これからファッション業界を目指す若い人にメッセージをお願いします

「今は色んな面白い商品もありますし、頑張っているお店さんもたくさんあるので、”好きこそ物の上手なれ”ではありませんが、どんどんチャレンジして、ぜひアパレル業界の門を叩いてもらいたいと思います。そのためにも我々はしっかりとした業績をあげて、”アパレルに入っても頑張っていけそう”と思えるような会社にしていきたいですよね。当社グループもそういった意味では遊びの部分といいますか、”儲からないけれど面白いよね”みたいなところもしっかり残していきたいと思っています。」

──アパレル業界には、面白い方が多いというのも魅力のひとつですよね

「僕らの先輩なんて、給料が入ったらそのまま服に使うとか、無茶苦茶な人がたくさんいましたしね。もちろん、若い人に”そうなれ”とは言えませんが(笑)。」

──ありがとうございました



「夢のある業界にしていかないといけない」とファッション業界全体を元気にしていきたい思いを語る多田氏。



多田和洋(ただ かずひろ)

1965年生まれ。 1988年、株式会社レナウンルック(現株式会社ルックホールディングス)入社。
同社取締役執行役員ブティック事業部長を経て、2015年、同社代表取締役社長。現在は株式会社アイディールック理事、ルック(H.K.)Ltd .董事、Bisonte Italia Holding S.r.l.代表取締役、Il Bisonte S.p.A.取締役を兼務。

(おわり)

写真/野﨑慧嗣
取材・文/久保雅裕、カネコヒデシ





久保雅裕(くぼ まさひろ)
(encoremodeコントリビューティングエディター)

久保雅裕(くぼ まさひろ) encoremodeコントリビューティングエディター・ウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長。杉野服飾大学特任教授。繊研新聞社在籍時にフリーペーパー「senken h(センケン アッシュ)」を創刊。同誌編集長、パリ支局長などを歴任し、現在はフリージャーナリスト。コンサルティング、マーケティングも手掛ける。2019年、encoremodeコントリビューティングエディターに就任。

カネコヒデシ
カネコヒデシ メディアディレクター、エディター&ライター、ジャーナリスト、DJ。編集プロダクション「BonVoyage」主宰。WEBマガジン「TYO magazine」編集長&発行人。ニッポンのいい音楽を紹介するプロジェクト「Japanese Soul」主宰。そのほか、紙&ネットをふくめるさまざまな媒体での編集やライター、音楽を中心とするイベント企画、アパレルブランドのコンサルタント&アドバイザー、モノづくり、ラジオ番組製作&司会、イベントなどの司会、選曲、クラブやバー、カフェなどでのDJなどなど、活動は多岐にわたる。さまざまなメディアを使用した楽しいモノゴトを提案中。バーチャルとリアル、あらゆるメディアを縦横無尽に掛けめぐる仕掛人。







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