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――さかいさんのルーツミュージックを詰め込んだ『Yu Are Something』ですが、タイトルの“You”を“Yu”に読みかえると、“僕ってすごいぜ!”みたいな感じでしょうか?

「まあ、そうなっちゃいますかねえ……というのは冗談で(笑)。どちらかというと“俺、けっこうがんばってるよな”って感じで、自分に言ってるニュアンスのほうが強いですね。収録曲のタイトルは「You’re Something」になってますけど、これも誰かに向けてというより、心の叫びとして自分に言ってる感じなんです。広い意味での応援歌ですね」

――自分、がんばってるなあ……と。

「がんばってますよ。僕だけじゃなくて、みんながんばってる。別に夢なんかなくても、生きてるってだけで、人はがんばってると思います。専門家の人が言ってるのを聞いたんですけど、15年くらい前からかな、本でもテレビでも“夢を持とう”とか言われ過ぎて、その結果、自分のやっている仕事がちっぽけだと感じてニートになる人が増えたという説もあるらしいんです。で、僕はミュージシャンという仕事柄、夢が叶ったっぽい感じに見られますけど、売れようが売れまいが同じことやってますから。そういうのって、うちの父親を見てても思うんですよね。父は漁師なんですけど、魚ってどれだけがんばっても獲れる量は決まってて。でも、それに対して別に絶望とかしないんです。毎日淡々とがんばってる。僕もそれと同じで、毎日淡々と自分の歌をやるだけ。それも聴いてくれる人がいなかったら、ただ作って終わるだけのことですから。どれだけ成功しても、なんか不幸な人もいません?」

――確かにそういう人もいるかもしれませんね。

「そういう人たちって、たぶん自分との決着というよりは、他人と比べてっていう人が多い気がするんですよね。って、いま話したようなことをいろいろ考えた結果、自分の精神状態も含めて、なかなかがんばってるぞ、と(笑)。それが「You’re Something」に繋がったんですよね」

――どんなに好きなことでも、仕事となると多少はイヤなことも含まれてきますもんね。

「そうなんですよ。それは好きなことだろうが、そうじゃなかろうが同じで、イヤだからと言って投げ出さずにやっている時点で偉いと思うんですよ。だから、僕も偉いと思うし、毎日淡々と働く人はかっこいいと思う。働いて、税金と年金と保険料を払う。それ以上に大事なことってないと思うんです。僕はそういうことを歌っていきたいし、その中に、ちょっとキラッとしたり、ドキドキしたりする、大人のときめきが含まれるといいなあという願いを込めていて。だから、「You’re Something」もそうだし、今回のアルバム自体も、自分の応援歌なんですよね。僕は音楽を作ってないと生きていけないから。そういうアルバムができたなって思ってます」

――アルバムとしては3年ぶりですが、制作期間は?

「まず、足掛け2年くらいかけてデモを作って。で、レコーディングもやっぱり足掛け2年くらいかけてやっていました」

――収録されているのは13曲ですが、デモは全部でどれくらい作られたのでしょう?

「モチーフも含めたら、50曲とか60曲とかじゃないですかね。あ、でも、他の曲がダメだったってわけじゃないですよ。収録されているのは13曲ですけど。僕とコアなスタッフとの意見を照らし合わせて、2019年のいま、世に出したいと思う曲だけを選んだ感じです」

――そして、今作ではジョン・スコフィールドやジェイムス・ギャドソン、レイ・パーカー Jr.といった海外のレジェンド級のミュージシャンのほか、国内からもZeebraやサイプレス上野、土岐麻子など、かなり豪華なゲストが参加されています。こういった構想は制作前からあったんですか?

「毎回そうなんですけど、コンセプトみたいなものはないですよ。そのとき時にいちばんかっこいいというか、自分が聴いてもらいたいメロディ、言葉、サウンドを詰め込むっていう。常に思っているのは、トレンドを超えた音楽がやりたいってこと。トレンドをあまり知らないっていうのもありますけどね(笑)。でも、いまを感じるもの。古いだけじゃなく、先人たちが作り上げてきたソウルミュージックやジャズ、ポップスを、自分の耳で消化し、それを自分の言葉と自分のメロディに置き換えているという感じです。それは、これまでもいまも変わらないですね」

――いまやりたい音楽を追求した結果として、本作のかたちになったということですね。ちなみに、この人といっしょにやりたいというのはさかいさん自身が決められたんですか?

「この人とこういうことをやりたいっていうのは常にあって、まだまだ実現していない人も20人くらいいます。でも、今回参加してくれたジョンスコはいちばん好きなギタリストですね。もう、次回作も1枚全部ジョンスコでやりたいくらいです(笑)」

――ジョン・スコフィールドは「桜の闇のシナトラ」と「Magic Waltz」の2曲に、スティーヴ・スワロー、ビル・スチュアートとのトリオで参加していますね。

「これはもう、夢の共演ですね。僕、ふだんから聴いてる音楽が、ジョン・スコフィールド、ビル・エヴァンス、ハービー・ハンコック、スティーヴィー・ワンダー、ダニー・ハサウェイ、マイルス・デイヴィスあたりなんですよ。そういうのもあって、スタジオに入って、ジョンスコがギターアンプにシールドを挿して弾き出した瞬間から、僕の知ってるジョンスコだ!って。その瞬間、これはすごいセッションになるなって感じました」

――憧れの方たちとのレコーディングはいかがでしたか?

「特に「桜の闇のシナトラ」はコードも難しいというか、1コードなんですけど、楽器の人はソロが取りづらいし、ボーカルも絶対歌えないだろうっていう、わけのわからない曲なんですよ。なので、最初のサウンドチェックでは、みんな“何を求めてるんだ?”って感じで。でも、僕的にはそれをしたかったんですよ。何も考えないでやるとどんな感じになるんだろう?って。で、僕がみんなに言ったのが、“ニューヨークに咲く日本の桜をイメージして演奏しましょう”と。そこからですね、いきなりみんなの演奏に火がついた」

――伝えたのはそのイメージだけですか?

「そうです。でも、超一流の人ってそんな感じなんですよね。それでもう、僕がイメージしたとおりの“ニューヨークに咲く桜”になりました」

――確かに、この曲からは海外の人が思い描く日本の和、日本の禅みたいなものを感じました。

「そうなんですよ。ニューヨークのマンハッタンのハーモニーと、日本の和。いちばん離れてそうだけど、その融合をやりたかったんですよね。ギターも、ジョンスコのアルバムでは聴けないジョンスコが聴けて、なおかつジョンスコっていう、なかなか聴けない音になってると思います」

――それにしても、その言葉だけでバチッて合うのはすごいですね。

「そうですね。本当に奇跡のようなセッションで、その後、スティーヴ・スワローから熱いメールが届きました」

――どんなメールがきたんですか?

「アルバム聴いたよって。我々がやった2曲、素晴らしい出来になったねって。また絶対いっしょにやろうみたいな。あと、レコーディングの現場では、あんまり緊張しすぎるのもダメだと思って、和気あいあいとした雰囲気を心掛けていたんですけど、それに対しても、あんなふうに家にいる気分にさせてくれたことは忘れてないよとも書いてありました」

――それは感動しますね。実際、相性もよかったんでしょうね。

「よかったですね。僕、自分が好きな人に好いてもらう自信はあるんですよ。逆に、自分が好きじゃない人に嫌われる自信もあるし(笑)」

――後者は別として(笑)、やっぱりその人を好きな気持ちって相手に伝わりますよね。

「伝わりますね。あと、僕はけっこう影響を受けやすいんですよ。だから、今回の曲でも、音のインターバルとか、音の積み重ねとか、ハーモニーとか、ジョンスコが自分を感じるようなフレーズを弾きますから。でも、自分の好きな人に似ちゃうのは仕方ないですよね。歌だって、何人かの寄せ集めのものを自分の声で歌ってるって感じですし」

――それは、ご自身の感覚として?

「はい。ボーカルという楽器の観点からすると、オリジナリティなんていうのは、たぶん1、2%しかない。声帯は100%自分のものだけど、歌い方であったり、ロングトーンの伸ばし方とかハーモニーは、先人からもらった知恵と知識の集合体だと思うんです。それが自分のフィルターを通って、最後にちょこっとだけ出る2%くらいの“汁”が大事なんです。それが、さかいゆうである意味ですから」

――なるほど。

「だから僕、けっこう勉強家なんですよ。オリジナリティに頼らないというか、人の曲をカバーすることや音楽を聴くことっていうのが、自分の人生の中で98%くらい大事。基本的に僕はミュージックラバーだから、聴いてるだけで十分なんですよ。でも、それでもどうしても書きたい、自分にしかできないことをやりたいっていう最後の2%があって、そこで音楽をやってるんです。だから、今回の13曲も、いつも聴いてる音楽が自分に影響を与えてくれて……って、3年で13曲だったら2%にも満たないか。1%くらいですね(笑)。1曲作るまでに、何千曲もの音楽を聴いているので」

――そう思うと、いままで自分が好きで聴いてきた人といっしょに作ることができて喜びもひとしおでしたね。

「自分の中では史上最高。自己ベスト。“自分の中で”ですよ――世間の上半期No.1とか、そういうことじゃないです(笑)――もちろん、これまでの作品も、そのときの自己ベストを更新しながらやってきましたけど、僕の中ではいままでの中でいちばん思い入れがあるというか。それこそ、夢がいくつも実現しましたし。しかも、いっしょにやるってところまでだったらひとつの奇跡としてアリだとしても、出来上がったものがよくなるかどうかはまた別の話だから。そこが今回、いちばんの奇跡でしたね。それができたのは、運もあるし、自分がそれまで培ってきたものもあるし。とくにジョンスコの場合は、ジョンスコがOKしてくれるかどうかがまず怪しくて。仮にOKしてくれたとしても、僕がニューヨークにいる間にスケジュールが空いてるかどうかも怪しい。でも、蓋を開けてみたらジョンスコのトリオが揃って、“なんだ、この奇跡は !?”っていう。しかも、すげえセッションになって、“俺、日本に帰った途端に死ぬんじゃねえかな”っていうくらいの奇跡でした(笑)」

――忘れがたい楽曲も今作には多いと思いますが、13曲の中で、さかいさん自身が、この曲を作るためにいままで音楽をやってきたんだって思える楽曲はありますか?

「「Magic Waltz」かなあ。意外と地味ですけど(笑)。でも、自分で聴いて“あ、さかいゆうっぽい”って思っちゃったんですよね。何も考えずに弾いてたんですけど、このピアノのタッチとかメロディ、それから言葉のチョイスとか。なんか、さかいゆうだなあと思って。歌い始めの部分とかもそうで、さかいゆうのモノマネをするんだったら、「Magic Waltz」がやりやすいと思います(笑)」

――たしかに、この曲にはさかいゆう的なシグネチャーが詰まってますね。

「かなり濃いですね。でも、さかいゆうっぽさを出そうと思ってやったことではないんですよ。さっきも言ったように、僕はオリジナリティを出そうと思って音楽を作ってないので。それよりも、その曲に対して大事だと思う音を弾きたいし、作りたいっていう衝動にピュアでいたいんです。それでも「Magic Waltz」には“さかいゆう汁”が出てるなと思います」

――さかいさんは今年デビュー10周年ですが。その記念すべき年にこうした作品を作り上げたことで、自分自身、これを得たと感じられることはありますか?

「得たものしかないですね。そのひとつが――あんまり言いたくないけど――自信。ふだんは自信なんてクソくらえって思ってるんですけどね。でも、ジェイムス・ギャドソンとレイ・パーカー Jr.とジョンスコが、レコーディングセッションで音楽的に喜んで演奏してくれてるっていうのが、“あ、俺、音楽やってもいい人間なんだ”と思わせてくれた。だって、自分が尊敬している人たちですからね。その人たちにいいと言ってもらえたら、これまでがんばってきた自分を褒めてあげたいというか、自分を信じていいんだと思えたというか。そういう意味での自信です。10周年なんて彼らに比べたらまだまだですけど、こういうアルバムを出せたことは本当にうれしいと思ってます」

――ちなみになんですけど、『Yu Are Something』はアナログとの相性も抜群だと思うのですが……

「出したいなとは思うんですけどね。いまのところその予定はありません。ぶっちゃけた話、アナログを出すにもお金がかかりますから(笑)」

――クラウドファンディングとかで十分行けるんじゃないですか?

「あ、いいですね!(隣にいたマネージャーに)それやらない?俺、8万字くらいの企画書書くからさ(笑)。本当、今回のアルバムは自分でもアナログで聴きたいと思うくらいなので」

(おわり)

取材・文/片貝久美子



■さかいゆう TOUR 2019 “Yu Are Something”
4月6日(土) キャラバンサライ(高知)
4月7日(日) 大阪国際交流センター(大阪)
4月22日(月) Zepp Diver City(東京)











さかいゆう『Yu Are Something』
2019年1月23日(水)発売
初回限定盤(CD+DVD)/UMCA-19060/3,800円(税別)
ユニバーサルミュージック
さかいゆう『Yu Are Something』
2019年1月23日(水)発売
通常盤(CD)/UMCA-10068/3,000円(税別)
ユニバーサルミュージック




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