阿部真央がバンド形式で全国ツアーを行うのは、2018年11月から2019年1月にかけて開催された「阿部真央 らいぶNo.8」以来、実に3年8ヶ月ぶり。2020年春には全国ツアー「阿部真央らいぶNo.9」が予定されていたが、緊急事態宣言のため開催中止となり、今年6月2日に東京EX THEATER ROPPONGIで一夜限りのワンマンライヴ「阿部真央らいぶNo.9」を開催。そこで今回のツアー開催を発表。9月3日の札幌公演を皮切りに、東京、大阪、愛知、広島と回り、10月9日に福岡でファイナルを迎える。

阿部真央は今、変化の真っ只中におり、新しい表現方法を模索し、さらなる進化を遂げる過程にいる。阿部真央といえば、誰もがエレアコをかき鳴らし、独特の巻き舌でロックする姿が目に浮かぶと思うが、本ツアーのステージ上には、開演前から、彼女が弾きながら歌うためのエレピが置かれている。彼女のファンであればすでに知っていることだろうが、彼女は小学3年生から中学3年生までの約6年間、ピアノを習っていた。「長くやっていたけど、ピアノが嫌いだった」という彼女は、高校生になると同時にアコーステックギターに切り替え、路上ライブをはじめ、デビューへとつながるスタイルを獲得した。

そして、デビューから13年目となる2021年12月から、ギターで行ってきたソングライティングを、苦手だったピアノにチェンジ。自身のルーツに立ち返るかのように、ピアノで作った新曲「I Never Knew」「Saillig」をデジタルシングルとしてリリースし、今年8月26日には、キャリア初となる4曲入りのEP「Who Am I」をデジタル配信した。タイトルからも想像できる通り、今回のツアーは「Who Am I」の収録曲とデジタルシングル「I Never Knew」「Saillig」が軸になっている。そこに、デビュー前から歌ってきた「母の唄」や「ふりぃ」、「貴方の恋人になりたいのです」や「ロンリー」などのヒット曲を加えることで、シンガー・ソングライター、ヴォーカリスト、パフォーマーとしての新たな魅力を発見できるライブとなっている。

ステージ上であぐらを描いて歌ったファンキーなソウルナンバー「I Never New」。ローのハミングが銀の波を引き連れてくる「Sailing」。1曲の中だけで、ロックからスイートなR&B、王道ポップにレゲエシンガーと声色を変えていき、その歌声だけで豊かなグルーヴを生み出すソウルバラード「Don’t you get tired?」。支配的な関係からどうしても逃れられない、悲しい出来事を描いた「Who Am I」。

そして、「永遠に愛しますって誓いながら、さよならっていう曲です。世の中にはいろいろな別れがありますよね。別れは大体悲しさや寂しさを伴うものですが、離れ離れになっていくときに、やっとこの関係から解放されるんだなっていう清々しさを感じる別れもあります。別れとは、新たな出発だなと思います。寂しさはありつつも、一旦リセットして、次に行く。その清々しさ。必ずしも悲しさだけの別れではないんだなと言うことを実感して描いた曲です」と語った「I love you so much forever」。これらの楽曲を歌う彼女は、阿部真央はこんなにすごいヴォーカリストだったのか! という驚きがあった。深くダークな歌声は哀しみとメランコリーを湛えている。孤独や喪失を抱えながらも、その根底には間違いなく愛が込められた圧巻のパフォーマンスであった。

MCでは、「新しい阿部真央を見てください」と語り、2020年11月にリリースされた9枚目のアルバム『まだいけます』の収録曲「pharmacy」の一節<誰にも譲れないもの 守る為変わっていこう>の一節を引用しながら、「ここ数年でちょっとずつ変化をしているところです。自分の譲れないものを守るために、変わらないものを変えないために、変わっていきたい」と心境を吐露した。変化というとネガティブに捉える人もいるかもしれないが、彼女は「変わらないために変わり続ける」ことを選択し、何よりも、新しいチャレンジにワクワクしている様子が伝わってくる。「心の底から楽しんでもらえるように全力でライブします」と意気込む彼女は終始、リラックスしていて、楽しそうだった。「今までの人生で一番楽しくフラットに歌えている」という言葉も本音だろう。彼女が楽しそうにピアノやアコギを弾き、スタンドマイクやハンドマイクで歌う空気感は観客にも自然と伝播し、会場は笑顔と多幸感で包まれていた。

もし、一度でも阿部真央のライブに行ったことがあって、コロナ禍を境にライブから足が遠のいている方は、ぜひ、このツアーに足を運んでもらいたい。テーマは“変化”ではあるが、それ以上に彼女が大切にしているのは、音楽を楽しむことだ。楽しむために、ちょっとだけ頑張ってチャレンジする。軽やかなやり取りの自然体のトークも含め、いつだって音楽を新鮮なものに変えていく阿部真央は、その生き生きとした姿勢そのものが、聴き手への最大のメッセージとなっているのではないかと思う。

(おわり)

取材・文/永堀アツオ
写真/上山陽介

LIVE INFO阿部真央TOUR2022“ Who Am I ”

9月3日(土)Zepp Sapporo
9月9日(金) 昭和女子大学 人見記念講堂(東京)
9月11日(日)NHK大阪ホール
9月24日(土)名古屋市公会堂 大ホール
9月25日(日)BLUE LIVE 広島
10月9日(日)福岡国際会議場 メインホール

BEA

DISC INFO阿部真央「Who Am I」

2022年8月26日(金)配信
ポニーキャニオン

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