6月28日、ねぐせ。が結成5周年イヤーを締め括る横浜アリーナ公演『愛問愛答』を開催した。

横浜アリーナ内には、『愛問愛答』という公演名を載せた巨大なフォトスポット、「2026.6.28 愛問愛答」の文字をあしらったカーヴミラーの写真撮影ポイントを複数設置。さらに、新曲“僕 love you”にかけた「僕 love 〇〇」のコーナーには膨大な数の付箋が用意され、観客それぞれが愛するものを自由に記述してペタペタと貼っていく。ねぐせ。と観客が「共に作る」ライヴなのだと伝えるための施策がズラリと並び、『愛問愛答』の通り、ねぐせ。と観客の想いが交錯することで形作られてきた5年であることを空間全体で伝えようとしていた。そもそも「愛」とはねぐせ。がこれまでに発表してきた楽曲に通底するテーマであり、過去の恋慕を美しい思い出に昇華する歌にせよ、何と言われようと愛するものを突き通す勇気の歌にせよ、夢見る心へのエールにせよ、愛によって駆動していく人生を目一杯歌ってきた。そういった意味で、愛を問うて愛に答えるという本公演は、単なるアニヴァーサリーを超えて「ねぐせ。とは何か」を突き詰めるライヴなのだ。だからこそ、観客にも「あなたの愛するものを全部持ち寄って欲しい」という願いを託しているのだろう。

ライヴのオープニングは、まさに上述したことを表す演出が施されたもの。スペイシーなSEと共にネオンカラーで「ngs.」のロゴが映し出され、LEDの裏側からメンバーが登場。すると秒針の映像がLEDに流れ、カチカチという音がビートに変貌し、タイムスリップを想起させる映像の上に過去楽曲のコラージュ音声が重なる。となれば、オープニングナンバーはズバリ“タイムマシンにのって”だ。ねぐせ。の歴史をすべて見せるという宣誓がこのオープニングであり、“タイムマシンにのって”のスウィングするリズムから生まれるFunな空気と歴史を遡るエモーショナルな感情とが絡まり合って、あくまでポップに切実な感情を歌に託し続けるねぐせ。ならではのライヴ空間がすぐさま完成した。さらに「始めるぜー!」のひと言で“アタシのドレス”をプレイ。8ビートのパンクロックに気恥ずかしいほどのラヴをめいっぱい載せた“キスがしたい”は、一見青くさいラヴソング。しかしその実は、傷と棘だらけの世界だからこそラヴで包みたい!というねぐせ。の真髄たるメッセージだ。曲ごとに質感は異なれど、皮を一枚めくれば、すべてに通底するのはやはり切実なほどの「〇〇が好き」という感情を思い切り掲げる姿勢である。

「半年以上前から横アリ、横アリと言い続けてきて。前から後ろ、上のほうまで……ありがとうございます。とても大事に思ってきた1日だから、みんなからもらってきた愛を返す、ラリーみたいなライヴにしたいと思ってます」(りょたち)

りょたちが話した「もらった愛を返す」という姿勢はそのまま、ねぐせ。にとってファンがどれほどの仲間であるかを端的に表している。ステージという仕切りはあっても垣根はない。愛とは一方通行のものではなくお互いに与え合うものだーーそんな人懐っこくて親密なライヴ空間は、言わずもがなねぐせ。の楽曲自体が生み出しているものだ。フォーキーなメロディが印象的な“猫背と癖”、“独占愛は、りょたちの中で色を放ち続ける慕情を赤裸々に綴った楽曲。切実な想いに満ちたパーソナルスペースだからこそ暖かなメロディで包みたい、という願いが、観客と歌の近さになっているのだろう。そんな近さ物理的にも表すように、“恋と怪獣”ではギターを置いたりょたちがゆったりとセンターステージの先端へ赴き、観客と交感を楽しむ。ガンガン曲をプレイしていくライヴだが、それはアグレッションというよりも「音楽を通じたリスナーとの対話が止まらない」といった感覚で伝わってくる。

“スーパー愛したい”では巨大な合唱が巻き起こり、とにかく歌、歌、歌の応酬によってライヴが進んでいく。どっしりした重厚感を湛えるようになったリズム隊、以前にも増して歌心を増したギターもまた、りょたちと観客の歌の交感を後押しするようだ。結成間もない頃から一気に追い風が吹いたねぐせ。の5年はあっと言う間と言えばあっと言う間だが、ステージの規模が上がれば上がるほど自分達の実力とのギャップを感じてきたことも以前4人は語ってくれたし、等身大の姿とバンドの状況の間に生まれるプレッシャーに落ち潰されそうになったこともあっただろう。しかしこの日のステージの演奏は、それらを何度も乗り越えることで培ってきた技術と自信を存分に響かせるもので、ひたすら頼もしかった。

ライヴ中盤に設けられたアコースティックセットでは、4人がセンターステージ上で向き合うように座す。「ここからの数曲は、ゆったりとやります。………始め方がわからない」という初々しいMCには笑いが起こったが、それもそのはず。これまで、りょたちがアコースティックで数曲を歌い上げるセクションを設けたことはあったものの、こうして4人でアコースティック編成を組んで披露するのは(4月に渋谷で行ったフリーライヴ以外で)初めてのことだ。しかし、“スウェット”、“花束が似合う君へ”、“サンデイモーニング”を緩やかな空気で演奏する姿は板についている。りょたちは時に天を見上げて祈るような動きを交えて歌い、<しんどくて何もできない/日があってもいいんだぜ>(“サンデイモーニング”)というラインでは拳を握る。「頑張れ」というエールとは違う、カッコつかない自分を愛するための激励。ねぐせ。が歌い続けてきた「自分の愛するものを堂々と突き通す歌」は、等身大の自分を赦し愛するというテーマにも直結している。生活のリズムで緩やかに紡がれるファイトソング。そんな言葉が、ねぐせ。には似合う。

「曲を作る時は、このギター一本で作っているんです。いろんな曲を作ってきたから、このアコギを持つと思い出が湧いてきます。その思い出を掘り起こしながらひとりで歌いたい曲あるので、聴いてもらってもいいですか」(りょたち)

 そんな言葉から披露されたのは、“彩り”だ。<音楽が流れるこの部屋は/ライブハウスみたいだ>と歌うこの曲は、過去から今に至るまで、りょたちのパーソナルな空間から生まれる音楽が無限の空間に繋がっていることを伝え続けている。この横浜アリーナはまさにそんなことを実感する場所なのだろう。出発点はいつだってひとりの想い。ひとりの想いが目の前の世界を何度も変えていく。センターステージにひとり残って歌うりょたちの姿には、そんなメッセージが宿っていたように思う。あくまで自分自身の心と向き合うことからこの歌達が生まれ、そこに様々な人生が重なることで曲は完成する。センターステージから緩やかな風を吹かせたアコースティックセッションは、そんな「歌の旅」を伝えるようなひと幕だった。

後半戦の口火を切ったのは“愛のサブスク”。定額制であるはずがない「愛」にすがりついて自分をすり減らしていく虚しい恋心が明るいメロディで歌われる曲だが、演奏がアグレッシヴであればあるほど、メロディが明るければ明るいほど切なさが滲んでくるのが面白い。“彩り”までのアコースティックセクションで徹底的にしっとりさせておきながら、恋のおかしさと愛の裏面をグサグサと刺して後半戦に突入。情緒不安定な人間模様、喜怒哀楽の狭間で揺れ続ける人のおかしさが一本のストーリーになっていくセットリストだなと、改めて思う。そこから失恋の痛みをじわじわとバーストさせていくバラード“日常革命”、会えないけれど会いたいと願うこと自体が光になると訴えるような“織姫とBABY”を続け、いよいよねぐせ。の代表曲を連打するハイライトがやってくる。特に “織姫とBABY”はねぐせ。にとって最大のヒット曲だが、そのヒットの肝になっているのは、リリックはもちろん、日々の歩調に涼やかな風を吹かせる演奏の妙だ。“恋と怪獣”でポップスの定石をモノにして以降、ねぐせ。はより一層ポップな音楽キャラクターを増強させてきた印象が強い。その変化はもちろんバンドの状況を拡大させるためのものでもあるだろうが、この日の演奏を聴いていると、何より「どんな曲を鳴らそうともねぐせ。である」という自信から生まれた変化なのだろうなとも思う。

「横浜アリーナは大事な場所で、みんなに愛を返したいと思ってやっています。だけどここはゴールじゃなくて、ねぐせ。はねぐせ。なりのゴールを見つけて、みんなをそこに連れて行きたい。だから今日ねぐせ。を観て、何かがいい方向に転ぶようであれば、これからもついて来てください。……でも、ねぐせ。のファンはもっとやれると思うんだよな。俺の煽りが足りないかい? 自分でやれるだろ? みんなで作ろうぜ」(りょたち)

 この言葉はまさに、彼らが今のねぐせ。に対して抱いている自信の裏づけだろう。「みんなでライヴを作る」とは、単に全員がひとつの方向を向くことではない。自分の人生を自分なりに乗っけて、思い切り歌うことだと。そうして音楽はさらにカラフルに色づき、躍動するのだと。一人ひとりの愛を存分に解放させようとした「僕 love 〇〇」も、音楽に対して自由になり続けている姿も、どの曲も自分の人生そのものだと堂々と鳴らす様も、人に寄り添おうとする姿勢以上に「自分の人生を掲げよう」というメッセージから生まれているのだ。“グッドな音楽を”の2サビを丸ごと観客に預けてフロアの大合唱を生んだ後、「周りの人と仲よくなれた?」と訊くりょたちの笑顔は、たったひとりの歌が交錯することから無限の世界が生まれていくことに対する喜びだったのだと思う。そして、「あなたにとっての青春がねぐせ。なら、俺はその青春を守り続けたい」という言葉を交えて鳴らされたラストソングは“青春バイブレーション”。青春時代と呼ばれる季節が終わっても、ねぐせ。の音楽は人それぞれの青春のシェルターになり続ける。そんな未来に対する意志表明が、青くさく転がるビートに乗って跳ね回っていた。

 

そして、観客から“ずっと好きだから”の<wow oh>をリフレインしてのアンコールが巻き起こる(2024年の日本武道館公演以降、ファンとねぐせ。の絆を象徴するようになったひと幕だ)。大合唱に導かれてステージに再登場した4人は、新曲“僕 love you”をプレイ。りょたちがSNSで弾き語りヴァージョンを公開し、その後にデモヴァージョンをリリース、曲が完成に近づいていく様をそのまま横浜アリーナに向けたドキュメントにして、果たして横浜アリーナで完成版を披露するというユニークな段階を踏んできたのが“僕 love you”という曲だが、バンド演奏によるデモヴァージョンからは想像もつかないほどのアレンジが施された完成版には驚きの声も上がっていた。それもそのはず、なおとがドラムではなく大太鼓を打ち鳴らし、鍵盤と弦が楽曲を引っ張るファンタジックな曲調に大変身していたのだ。ハナからポップだった音楽性をさらに伸び伸びと解放し、もはやバンド編成に制限を受けないスタイルを獲得し始めている。そんなねぐせ。の進化を印象づけ、さらに“僕 love you”に観客の声を収めてさらなる進化ヴァージョンをリリースするという驚きのアナウンスもあり、観客の歓声、ハンドクラップ、コーラス部分のレコーディングを実施。ここにも「あなたの愛を持ち寄ってくれ」というメッセージを注ぎ込み、ねぐせ。が人の人生の歌になるまで何度も鳴らし続けるという強い意志が通徹していた。

「いろんな景色を一緒に観られるように頑張ります。これからもよろしくお願いします」(りょたち)

 そんな言葉から鳴らされた正真正銘のラストナンバーは、彼らの歴史の一歩目を刻んだ“恋夜”だった。タイムマシンに乗って、過去の恋を人生の跡として歌い、人それぞれの愛するものを大切に包むためのエールを歌い、そしてこの先も共に添い遂げたいという決意を真っ向から放つ。全30曲をかけた、ねぐせ。からリスナーへのプロポーズのようなライヴだった。

Text:矢島大地

Photo:タカギユウスケ・堤瑛史

■ねぐせ。 ONEMAN LIVE「愛問愛答」2026.6.28 at 横浜アリーナ セットリスト
1. タイムマシンにのって
2. アタシのドレス
3. キスがしたい
4. あの娘の胸に飛びこんで!
5. 片手にビール
6. めちゃくちゃ好きな人を愛すように世界を愛して!
7. 猫背と癖
8. 独占愛
9. 愛煙家
10. 恋と怪獣
11. ラブソングはとまらないよ (いきものがかり cover)
12. 一生僕ら恋をしよう
13. スーパー愛したい
14. 最愛
15. スウェット
16. 花束が似合う君へ
17. サンデイモーニング
18. 彩り
19. 愛のサブスク
20. デイズ
21. 日常革命
22. 織姫とBABY
23. 愛してみてよ減るもんじゃないし
24. 死なない為の音楽よ
25. ベイベイベイビー!
26. グッドな音楽を
27. 青春バイブレーション
En1. ずっと好きだから
En2. 僕 love you (新曲)
En3. 恋夜

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