――昨年の夏にシンガーソングライターとして本格的な活動をスタートさせてからちょうど1年が経ちました。矢作さんにとって、この一年間はどんな日々でしたか。

「めちゃめちゃ成長したなと思います。去年の7月に1st ライブ「Rebirth」をやって、配信シングル「Don’t Stop The Music」をリリースしたんですけど、それが果たして私なのか?と思いながら作って。だから、去年の10月にリリースした1st EP「spilt milk」の時は、どれが私っぽいのか、どれが求められて、どれがたくさん聴いてもらえるのかが本当にわかんなかったんですね。でも、この一年、インストアイベントをしたり、ライブしたり、いろんなメディア出てみたりして、少しずつ“あ、こっちなんじゃないかな?”って思うようになって」

――その「こっちなんじゃないかな?」は、どんなものが見つかりましたか。

「前作は明るいポップソングやバラード、普通のJ-POPっぽいものも入ってて。自分ではいろんなジャンルを入れたなと思ってて。それに比べると、2枚目のEP「愛を求めているのに」はフォークっぽい楽曲が多いので、より自分らしさが出たなと思ってます」

――いろいろ活動する中で、自分にはフォークが似合うと思った?

「直球のフォークではないですけど、歌ってる時も、やっぱり自分を投影しやすいなと思いますね。そっちの方が自分は表現できるかなと最近は思ってます。ただ、私、みんながどんな私を求めているのかをすごく気にするタイプなんですね。明るい曲がいいのか? 流行るような曲がいいのか?どうなんだろうって思ってるうちに、なんか完成したのが、こんな感じだったから。“ああ、私はこっちでやっていきたいのかも!”って思って」

――自分に何を求められていると感じてますか?

「デビュー当時は、タオルを振り回せる曲も作ったりして。もともとアイドルだったという経歴があるし、そこから来ているファンの方も多いので、その人たちの求めている私とのギャップが心配だったんです。でも、この1年で、ライブをしているうちに“歌が好きで来てます”って言ってくれる人も増えてきて。そこで、私、普通に歌ってていいじゃんって思えるようになったというか。ありのままの歌でみんな聞いてくれるんだってホッとしたし、自信がついたので、そんな曲たちになってます」

――サウンド全体だと生のバンドっぽさも増してますよね。

「今回、休日課長とTHE ALFEEの坂崎幸之助さんに協力していただいて。1年目にして、もう豪華すぎるぜ !!と思うんですけど(笑)、一緒にやってるバンドマスター兼音楽プロデューサーの宗本康平さんが坂崎さんと番組で共演していて。私も何回か呼んでいただいたんですけど、そこで気に入っていただいて。私が白いギターのホワイトファルコンを使ってて。“すごく珍しいね”って話しかけてくださったことがきっかけで、ライブに呼んでいただいたり、昭和女子人見記念講堂で行われたライブ「ディア・ビートルズ」に出させていただいたりして。しかも、この間は爬虫類ショップに一緒に行ったんですよ!」

――坂崎さん、多趣味ですもんね。

「マジで趣味が一緒なんですよ。坂崎さんはカメラも詳しいんですけど、私もフィルムカメラにハマってたんで、カメラを一つお譲りしていただいて。爬虫類も大好きみたいで、私の記念すべき一匹目をお迎えするって時に一緒に行ってくれて。坂崎さんは今まで200匹以上飼われていたそうで」

――200匹 !?

「そう。爬虫類界の大先輩なんです。爬虫類クラブっていう老舗名店の社長さんをわざわざ呼んでくれて、みんなで最高の一匹を選んだ。その時の一匹目が<むち>君では、今は2匹目の<がち(君)>も飼ってます。そして「18歳の私へ」っていうスリーフィンガーの楽曲でギターを弾いてくださって。レコーディングは30分ぐらいでもうバババっと終わって、その後、ギターレッスンを2時間くらいしていただくという貴重な経験をしました。すごく思いやりのある大大大先輩で、一生ついてきます!って感じです」

――はははは!休日課長との慣れ初めは?

「それも宗本さんがたまたま呼んでいただいて。で、私ラランドさんのファンで、礼賛の曲をよく聴いてたんですけど、ある日のレコーディングに来ていただいて。“え?休日課長!やばい”ってなりました(笑)。このベースは休日課長にしか出せない感じがして。そこからは礼賛のライブに呼んでいただいたり、ちょこちょこ連絡とったりしていて。大先輩ですね」

――ちなみにこのEPの中で最初にできた曲は?

「「死に花に、生命を」ですね。18歳か19歳かな。グループを卒業して2年ぐらい経ったぐらいに書きましたね」

――ピアノのバラードですよね。

「そうですね。最初のデモはピアノ一本で作ってました。私が高校生の時に身内が自死してしまって。ふと、そのことを歌にしてみようと思って。私の周りもアイドルしていた子だったりとか、芸能界で苦悩してきた友達がすごく多くて。やっぱり不安定な時期が多かったり、メンタルがやられてる子が多くて。その人たちを救えるというか、むやみに傷つけないでっていうストップソングを作りたいと思って出来上がった曲ですね」

――ご自身が一番伝えたかったことというのは?

「本当に全行、捨て行がないです。全部、私の体験から出てる言葉なので、この曲は。例えば、<夢に見たもの全て/押して押しつけられ>が、大人への18、9歳なりの文句というか、頑張って子供ながらに客観視して書いた言葉ですね。大人に対して嫌だと思う思春期の子たちにも共感してもらえると思うし」

――ライブのショート映像が260万再生を記録してます。

「ありがたいですよね。やっぱりいろんな人に響いてくれるんだなって実感して。それこそご両親が亡くなった方もいれば、いろんな経験からこの歌詞に共感してくれる人がたくさんいて。いろんな人に届いてくれたら嬉しいなと思います」

――<生きることに意味があること/愛があること 届いてほしい>っていうメッセージがまっすぐに届いてるってことですよね。

「嬉しいです。そうなんですよ。生きてるだけで丸儲けだよなって思ってて。今はすごく軽く言ってますけど、すごく悩んでて。それこそ死にたいって思うことも毎日あったし、本当に追い込まれてる時期に書いてて。この間、その時の手帳を見つけてみたら、もうぐちゃぐちゃにすごいことを書いてて。すごい精神状態だったんだなって。だから、本当に生きてるだけでいいんだよっていう、自分へのメッセージもあるなと思ってますね」

――矢作さんはその絶望や苦悩をどうやって乗り越えました。

「……どうやって乗り越えてきたんだろう。でも、その時の思いは絶対に忘れないように日記に必ず留めてあって。悩んでる時って、何かの決断に悩んでたり、何か原因があって悩んでることが多かったので。後悔しないように、自分がこの時、こんなに辛かったんだと振り返れるように、日記に吐き出しました。それがまあ、この曲につながってるんですけど」

――タイトルはどんな意味で付けましたか?

「もうほんとにそのまま。つぶれた花に水をやろうやって。私のイメージは、別に生き返るとか、咲き誇れとは思ってなくて。踏まれてもそのままでも生きてるっちゃ生きてるよなっていうイメージです」

――死に花っていうのは私なんですかね?じゃあ。

「この時の私だったかなと思います」

――1曲目の「満たされない」はどんなところからできた曲でした?

「これは、現代女子に聞いてほしいって思って。言い方悪いけど、消耗品くさい恋愛してる。そういう歌が増えてんるなって思ってて。私もそんな歌を書きたいと思って書いてみた曲なんですけど、友達の恋愛話を聞いてて、“え? そんなんでいいのか!? 自分をもっと大切にしてほしいな”って思うことがあって。都合よく扱われたりとか……」

――世の中には本命になれない二番目の歌が多いですよね。

「多いですよね。でも、二番目になる歌詞はあんまり好きじゃなくて。私は、自分が二番目にする歌詞が好きなんです(笑)。だから、これは、フラフラしてる女の子が、軽い関係の男の子を都合よく扱ってて。いろんな人に浮気してみたけど、付き合ってくれなくて泣いちゃった男の子の涙が一番綺麗だったかもなって、後になって思い返すっていうストーリーを自分の中で作って書きました」

――そっちの目線なんですね。

「そうなんです。過去を振り返って、結局、昔思ってくれてた人が一番だったなって思う女の子」

――この歌詞にある<君の愛情>の<愛情>はどんなイメージですか?

「まっすぐな愛情を思ってますね。駆け引きとかない、そのまま好きですって言う。「付き合ってほしい」って言われてたのをずっとのらりくらり交わしてきた女の子が、離れちゃった後、後悔するっていう。本当にまっすぐな愛情」

――一方で、「I was born to love you」は、一見、ウェディングソングに聴こえます。

「え、嬉しい!打って変わってめちゃめちゃ純愛ソングなんですけど、これは作ったきっかけが面白くて。すっごい昔に、姉がGReeeeNさんの「愛唄」が好きって言ってて。<歳をとっても笑い合っていたい 歳をとって 声が枯れてきたらずっと 手を握るよ>って言う歌詞がめっちゃ好きで、“マジでこういう歌詞弱いんだよね”って言ってたんですね。それもお姉ちゃんが中学生で、私は小学校二年生の時だったと思うんですけど(笑)、パソコンに向かって作曲作業をしてるときに、たまたま思い出して。まあ、ちょっと作ってみようと思って作ったんですけど、お姉ちゃんは全然聞いてくれない」

――まだ聴いてないの?

「聞いてないし、感想ももらってないので、いつかライブで聞かせたいなと思ってます」

――純粋なラブソングでいい?

「そうですね。まさにカップルに聞いてほしいなと思いますけど、自分ではちょっとどこか寂しさがあるなって思ってて。完璧に明るいソングでもないような……」

――<愛がある限り傍にいようね>って誓ってるけど、続かないのかな?

「私の中では続かないのかなと思ってます。あはははは!」

――だから、ウェディングソングっぽいのに、どことなく寂しさがあるのか。片方しか言ってない感じがするんですね。

「そういうのが大好きなんです。ヴォイトレの先生にも“この曲、なんか寂しいよ。本当は暗いの?”って言われました。でも、アレンジは、木村カエラさんみたいなサウンドにしたかったので、ドラムに柏倉さんに入っていただいて。“もう最高です! 大好きです!!”って伝えちゃいました。それぐらい、私のイメージにぴったりなドラムサウンドを作ってくださって。もう楽しすぎて、“オッケー!”ってたまたま私が言った言葉まで採用されました」

――バンドみんなでせーので録ってるような生の雰囲気がありますね。ちなみに、この歌詞にある<まるで愛みたいだ>の“愛”はどんなイメージですか?

「EPのタイトルにも通じてますけど、愛を求めてる系女の子の歌詞なので、これ愛なんだよなってめちゃめちゃ自惚れてるっていう。そんな恋愛の愛ですね」

――今あった「愛を求めているのに」というタイトルにはどんな思いを決めてますか?

「今回のEPに入ってる曲たちは、どの曲の主人公もみんな愛を求めてるんですよね。愛を求めているんだけど、いろいろあってうまくいかないというか。自分の思い通りにいかない女の子たち。いろんなかたちの愛が書けたんじゃないかなと思って、自分の中では、すごくしっくりきています」

――「わたしごっこ」はどんな女の子ですか?

「自分の中で新しい雰囲気の曲を作りたいなと思って。ループで作って、効果音も最初からデモに入れてて。めちゃめちゃヒップホップにしようかってなってたんですけど、ライブでやりづらいしなと思ってた時に。たまたまご縁があって、柏倉さんと休日課長のハッピーコラボが実現して、とんでもないイケイケバチバチ曲に仕上がりまして。歌詞の内容は結構、重くて。それこそさっき悩んでたことですけど、求められてる私をやってあげてるんだなって思う。みんなが思う可愛い女の子を演じてるけど、本当の私って何だろうっていうのが裏テーマかな」

――<馬鹿なふりする わたしごっこ中>で締めてますし。

「めっちゃバカなふりしますからね。バカなふり大好きなので、今後もいっぱいしていくと思う。わたしごっこをやめるには……スマホ捨てるしかないよねって思ってます。山奥住むしかないっしょ!って思ってますけどね」

――「18歳の私へ」のモチーフやアイデアはどんなところから?

「これ結構、思い出があって。初めて親友に聞かせた時に泣いちゃったんですよ。まさに私の18歳でしかないかも。だから、私の身近な人っていうか、私の今までの人生を少しでも知ってる人は、もっともっと深く感じてくれる曲でもあるし、高校を卒業する直前の女子高生にも共感してもらえると思うし、結構いい曲かけたって自分では思ってます」

――ご自身にとって、18歳という年齢はどんな年でした?

「本当に不安っていっぱいでした。高2の終わりぐらいにグループを卒業して。一気にみんな受験シーズンに入って。進学校に通ってたんで、大学行かないやつはダメだみたいな教育を受けてた中、私はレコード会社から声がかかって。デビューに向けて毎日、頑張っていたけど、みんなは普通に受験勉強してて。私こんなことしてて大丈夫なのかなってすっごい不安になった年齢だったんですよ。でも、みんなからしたら」

――これからソロとして華々しくデビューしていくっていう期待値の高い状況じゃだったじゃないですか。

「当時、それも素直に受け取れなくて。“応援してるね”が薄っぺらって思っちゃうぐらい思春期だったんで(笑)。どうせ成功しないって思ってるだろうなって。まあ、自分の自信のなさもあったんですけど、どんどんこうやってみんな普通になってて、大人になってっちゃうんだなと思って書きました。その時はもう一般人だったので、友達とも揉めたりとか、仲良い子と喧嘩したりとか、インスタのキラキラは作り物だよって言い放ったりしてて。これも捨てる行がないですね。高校の時の情景がすぐ浮かんでくるというか、こんなに当時の自分に戻れる曲っていうのは今まではなかったです。初めてですね」

――<青春と放課後と夕焼けと>のメロディとフレーズがいいですよね。

「懐かしい!すごく田舎にあった高校だったんで、まさに青春してて。夜7時ぐらいまで学校に残ってたんですね。高校時代は忙しかったから、ほとんど通えてなくて。でも、最後の高三の一年っていうのは私の中では青春の塊でしかなくて。みんな受験勉強するから、少しでも一緒にいたくて。私は受験勉強してないけど、自習室にみんなついてったりしてて。私もなんとなくはやるけど、別に受験するわけじゃないから。それもみんなにとってストレスになった瞬間があって。“これで萌夏が私たちよりがいい大学行ったら悲しい”って言われたりもして。あ、そうだよな、みんな頑張ってるのにと思って。そんなちっちゃい葛藤もあったうえでできた曲でしたね」

――この曲の<愛してほしい>っていうのはどんな思いですかね?

「両親にに何を言われようが、周りを見ずに、好きな人を好きになって、自分の好きなものを好きになってほしい。私が子育てするならそう育てる。好きなものを好きになっていいし、好きなものを食べて、好きなように育ってくれと思っているので。今の18歳の子と昔の自分へのメッセージかなと思います」

――これはもうありのままの自分って言っていいですか?

「まさに。プラスメッセージ。本当に若い18歳の子とかに聞いてほしいですね」

――18歳に<今の貴方は今が賞味期限なの>というフレーズは衝撃的すぎませんか?

「友達のみんなにも“悲しい歌詞すぎん? 萌夏がいうと重すぎん?”って言われたんですけど、別に悲しい意味で書いたんじゃなくて。昔の方が良かったなではなく、今のあなたが一番輝いてるよっていうことを伝えくて、この歌詞になったんです。常に今のあなたが一番美味しいよっていう。自信を持ってねっていうメッセージを詰めたかったんですけど、やっぱり私の負が入ってしまった。あはははは!」

――それはそれで必要な負だったんじゃないですか(笑)。さて全5曲完成して、ご自身ではどんな感想を抱きましたか?

「私、個人的には“やっと始まったぜ!”と思ってます。歌手を目指して、すごい人気が出たり、たくさんの人に曲を聞いてもらえるなんて、もうちょこっとの可能性しかない中で、私、これなら頑張っていけるかもって思えた。まあ、去年からも思ってましたけど、どこか不安な部分がやっぱりあって。こっちだったら自分でいられるというか。演じるではなく、素のままでステージに立てるなと思っていて」

――わたしごっこしないで?

「わたしごっこしない、もうしない。素敵なEPになったと思います」

――やっと始まって、これからの未来はどう考えてますか。

「自分が愛する楽曲がもっと増えたらいいなと思います。どこのステージに立ちたいとかは、大きな野望は、今は正直あんまりなくて。自信がないのもそうですけど、未来がどうなるかはわからない。だから、自分が“これ、いい曲なんだよね。愛してんだよね”っていう曲が増えて、それに共感する人が増えていって、いつか大きいステージに立ってる、みたいな。そんな将来がいいなと思ってます」

(おわり)

取材・文/永堀アツオ
写真/藤村聖那

Acoustic Live Tour 2024-2025 "愛を求めているのに"LIVE INFO

2024年11月7日(木)The Garden Room(恵比寿)
11月24日(日)ところざわサクラタウン ジャパンパビリオンホールB
12月3日(火)GRIT at Shibuya
2025年1月13日(月)TIAT SKY HALL(羽田)
1月22日(水)SHIBUYA PLEASURE PLEASURE

矢作萌夏「愛を求めているのに」DISC INFO

2024年9月25日(水)発売
初回限定盤(CD+Blu-ray)/PCCA-06326/6,600円(税込)
ポニーキャニオン

矢作萌夏「愛を求めているのに」

2024年9月25日(水)発売
通常盤(CD)/PCCA-06327/2,530円(税込)
ポニーキャニオン

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