――メジャー1stアルバム『Love One Another』が完成しました。Love One Anotherというワードは、2023年リリースの「LOA」に引用されていて、前回のインタビューでもその意味するところを語っていただきました。

「そうなんですよね。隠せず出ちゃってました(笑)」

――溢れちゃってましたね(笑)。そのときすでにアルバムのタイトルとしても決めてたんですか?

「「LOA」ができたとき、“アルバムのタイトルもLOAにしたいんだよね”みたいなふうに言ったら、スタッフも“それなら「Love One Another」でいこう”ってなって。なので、そのときにはもう決まってました」

――もっと遡ると、アルバムの制作当初から全体のイメージとして、互いに愛し合うことというメッセージを意識していた?

「いや、今回のアルバムはずっとシングルを出してきて、それをまとめたものでもあるので。収録曲のうち6曲くらいは、“このあとアルバムにするんだろうな”と思いつつ、とにかく目の前の曲をしっかり作っていこうっていう思いでした。最後の2、3曲で、“このアルバムをより強くするには、どういうメッセージを込めたらいいか”を意識しながら取り組んだ印象です」

――その最後の2、3曲のうち、「Your Love」という楽曲が今作のリード曲となっています。この楽曲が生まれたきっかけを教えてください。

「もともとは、私のゴスペルの師匠であるSayo Oyamaさんが、“こんな曲できたよ”と言って聴かせてくれたのが「Your Love」のデモで。めちゃくちゃいい曲だったので、リリースを目指して作り始めたのが、2019年のことでした」

――結構前になるんですね。

「そうなんです。そのまま真っ直ぐ「Your Love」になると思ったら、作っているうちに違う形になって、まったく別の曲ができたんですよ。それが「We are」という曲で、実は、ところどころコード進行が一緒だったりするんです」

――そうだったんですね!でも、なぜ同じデモから2曲目の「Your Love」を制作することにしたんですか?

「最初に作った「We are」が、デモから結構変わってしまって。でも、やっぱりデモを活かしたものを作りたいっていうので、ずっと寝かせていたんです。というのも、デモを活かすとなると結構歌い上げる感じになって、アルバムに入っている他の曲とは色が違うような気がしたんですよね。「ピンクの髪」とかは無邪気さみたいなものがポイントになってるんですけど、私はもともとゴスペルとか、マライア・キャリー、ホイットニー・ヒューストン、アリシア・キーズといった女性R&Bアーティストが大好きで、ずっと歌ってきたという一面があって。そこから、自分らしさだったり、ユニークさ、個性だったりを出すために、今みたいなスタイルができてきたんです。でも、この曲に出会ったとき、一旦そこに立ち返ってみてもいいのかな、と。そこからずっとタイミングを図ってきて、“あ、今かもな……”って。Love One Anotherというメッセージを伝えるには、しっかりと歌い上げるほうが伝わるかもしれないと思い、改めてここでチャレンジすることにしました」

――“今かも”と思えた理由って何だと思いますか?

「昨年、立て続けに「Super Star」と「PSYCHO」をリリースしたんですけど、私の中でその2曲はサウンド感に重きを置いた曲という認識なんですね。でも、音楽って、そういうプロダクト感があるものだけじゃなくて、心に響くとか、聴くと元気になるとか、もっと生き生きとして流動的なものだと思うんです」

――「Super Star」や「PSYCHO」といった挑戦をしたからこそ、自分の原点に立ち返ろうと。

「本当、そうですね。いろんな挑戦をして、やっとそういうところに戻ってみようかなって思えたというか。自分のルーツに戻ろうっていうのは、実は「LOA」から思っていたことで、「LOA」と「Your Love」は近いところにある楽曲です」

――「LOA」は妹さんが泣きながら電話をしてきたことがきっかけで生まれた楽曲とのことでしたが、「Your Love」のモチーフとなったことはどんなことだったんですか?

「今年は年が明けていきなりいろんなことがあったじゃないですか。みんなそうだと思うんですけど、私も結構落ち込んでしまって……。そのときに思ったのは、2024年はより愛が必要な年になるんじゃないかなって。それはスキルとか外側の部分じゃなく、内側の、もっとハートフルで柔らかい、温かい部分。それを私は歌うべきなんじゃないかと、改めて気づいたんです。それこそ、『Love One Another』というタイトルは“互いに愛し合う”って意味なので、それをより明確に表現するためには、この曲を書かないことを避けては通れませんでした」

――なるほど。ちょっとした使命感というか思いやりですね。

「人って不安になったりすると、いっぱいいっぱいになるじゃないですか。私自身も全部1人で抱え込んでしまう癖があって、なかなか人に頼ることができなくて。たまに“助けて”と言ってみるけど、心の底では“結局解決するのは自分だし……”と思っていたり。だけど、世の中って不条理で。事故とか地震とか、自分がいつどこでどうなるかわからない世界の中で、“何を希望にして生きていけばいいんだ?”って思うこともたくさんあって。でも、その中で一つだけ確実に生きる意味があるのは、誰かと愛を分かち合うことだと思ったんです。サビの部分で<目を開けたらこうやって 忘れてた愛に気づいて>と歌っているのは、そういう想いがあります。普段は忙しくて、身近にいてくれる“大切な存在”に気づかないけど、でも本当に辛いときに支えてくれるのは、そういう人。見えていないだけで、そこには温かい愛が本当はあったんだなっていう歌になっています」

――ちなみに、目を開けたときに見えた光景、忘れてた愛に気づかせてくれたものっていうのは、具体的な何かがあったりするんですか?

「これがですね、東京のホテルなんです。北海道に住んでいるので、仕事で上京するときはホテルに泊まってるんですけど、忙しさも重なって落ち込んでいたことがあって。“ああ、もう助けて!”みたいな感じで、ベッドに寝転びながら天に向かって手を伸ばしたんですよ。で、パッと目を開けたときに、本当に気づいて」

――ということは、つまりFuruiさんが見た光景っていうのはホテルの天井?

「そう、ホテルの天井です。あそこにちょっとシミがあるなって思い出すような(笑)」

――どんな景色よりも逆にリアルですね(笑)。サビの前には<手を伸ばしてみたんだ>というフレーズもありますが、そういうフィジカルな動きが歌詞に落とし込まれることもあるっていうのも印象的です。

「そうですね。「Friends(Album ver.)」も、韓国の南怡島(ナミソム)という島で友達と自転車に乗っていたときに見た景色が曲の卵となってたりするので、私の場合は結構あると思います」

――そういう意味では、「SAPPORO TOKYO」こそ、Furuiさんの経験がベースになった楽曲と言えますね。

「まさしく。長いこと活動してきて、その間いろいろと1人で模索しながらやってきたんですけど、なかなか自分が思い描く活動ができなかったんですね。どうやって自分を売り込んでいいかもわからず、闇雲にいろんなことをして、その中にはやりたくなかったこととかもあって、帰り道に悔しくて泣いたこともあって。その景色を思い出しながら、移動中の飛行機で書きました」

――<人混みはいつだって 私を孤独にする>という歌詞もありますが、当時は東京が嫌いだった?

「嫌いでしたね(笑)。でも、音楽で売れるためには東京に行かなきゃいけなくて。そういう状態で来てたから、毎回胃が痛くて……。東京にいるときは、カフェでアイスティーを飲んで一旦気持ちを落ち着けてからじゃないと、人混みに出ていけなかったんですよ。でも、そういうのをなんとか乗り越えながらやっていくうちに、帰る場所が北海道だけじゃなく東京にもできてきて。むしろ今は、東京に来たら仲間がたくさんいるっていう。最初の孤独だった状態から今の幸せまで、すべてがこの曲に詰まってます」

――<ただいま>という言葉は、今や北海道だけじゃなく東京に対しても言える言葉になったんですね。

「そう!本当にそうなんです。伝わってよかった(笑)」

――昔に比べたら東京にいる時間が増えてると思うんですけど、それでもFuruiさんが北海道に住み続けるのはなぜ?

「んー……やっぱり北海道は本当の自分でいられる場所なので。北海道だとオフができるけど、東京にいるとずっとオンのままというか。それが自分の精神的に結構キツいんですよね。やっぱり健康的に生きたいじゃないですか。なので、北海道で本当の自分にリセットして、心身ともに健康になったら、また頑張りに東京に行って。そういう生活が私にとっては必要だから、ずっと北海道にいるって感じなんです」

――曲作りは北海道と東京のどちらが多いんですか?

「どっちでも作りますね。でも、今は北海道でのほうがいい曲が作れる気がします。東京だとどうしても勢いで作っちゃうところがあって。滞在中はスケジュールがタイトなこともありますし、あと、なんかモヤがかかって、本当の自分を見つめられないんですよね。かと思えば、飛行機の機内で歌詞が生まれることも結構ありますし。私には今みたいなスタイルが合ってるのかなって思います」

――前回のインタビュー時点では、まだ「LOA」を妹さんに聴いてもらっていないというお話でした。後日談として、「LOA」を聴いた妹さんの反応っていうのを教えてもらえますか?

「それがですね、妹が初めて「LOA」を聴いたのは、ミュージックビデオが公開されたときだったんですよ」

――家族特権で一足先に聴けるっていうこともなく?(笑)

「ないです!ないです!(笑)。普通にみなさんと同じタイミングで聴いたみたいで。まず最初に、妹の旦那さんからLINEが届いたんですけど、そこにめちゃくちゃ泣いてる妹の写真が貼られていて。その後、妹からも連絡が来て、“これはヤバい”と。本当にありがとうっていうお礼と、“この曲を聴いて頑張ります”みたいなことを言ってくれて。でも、正直、私が書いた曲ごときで妹を前向きな気持ちにすることができるのか、すごく不安だったんですよ。結構悩むタイプの妹なので、ありがとうって言ってくれたのも、“自分のために描いてくれた曲”という意味で言ってくれたのかな?とか思ったりしたんですけど、最近うれしい続報が来て」

――おお!どんな報告だったんですか?

「今も「LOA」を聴いて前向きになれてる、と。時間が経っても、この曲のおかげで前を向けてるっていう事実を教えてくれたので、「LOA」を書いてよかったなって心から思いました」

――それは姉としても、歌い手としてもうれしいですね!妹さん同様、この曲に勇気をもらったり、救われた気持ちになったりした人って、すごく多いと思うんです。Furuiさんの楽曲はどれも隣で寄り添ってくれるような親密さがあって、心強いなって思うことが多くて。

「すごくうれしいです。昔は私、誰かを救おうって思ってたんですよ。でも、とある人に“Rihoにそんなことできると思う?”って言われて。もちろん、愛のムチなんですよ。でも、当時はそれに気づけなくて、すごいムカついて。“はあ?私だってできるし!”って思ってたんですけど、今ここにきて、“私ごときに人を救うことなどできません”っていうのをすごく感じるんです。振り返ってみると、あの頃私が誰かを救おうとして書いたり、歌ったりした曲って、そういう傲慢さが知らず知らずのうちに曲に出てしまっていて、だからこそ伝わらなかったのかなって。それが今、自分の弱さだったり、自分の弱さと向き合った先にある強さだったりをテーマに曲を書くようになって、自分が弱い人間であることを認め、それを提示しているからこそ伝わりやすくなったというのはちょっと感じています。だから、これからもみんなと同じ目線で、“私もそうなんだよね”っていうようなスタンスは変えずに、私が作る楽曲を通して、身近な出来事とか感情とかを共有できたらなっていうのはすごく思いますね」

――今年5月からは全国5都市を回る全国ツアーを開催されますが、昨年末から今年にかけてのツアーの感想を伺えますか?

「前回は5大都市っていうのが初めてで。正直ドキドキしたし、自分はどこまでやれるんだろう?っていう挑戦でもありました」

――初めて行く土地への緊張感ってありますよね?

「“受け入れてもらえるかな?”みたいな感じですね。東京とか札幌の場合は何度もライブしたことがあるので、こういう反応が来るだろうなっていうのは予想ができるんですけど。初めて行く場所はどういうノリで行っていいのか、そういうドキドキはありました。でも、蓋を開けてみたら全然そんな心配はいらなくて。名古屋とか、すごかったです。行く前は、名古屋の方々はシャイな人が多いって聞いてたんですけど、たぶん一番盛り上がったんじゃないかな。“こんなに !?”って、うちらもちょっとびっくりしちゃうくらい(笑)。でも、名古屋もだし、それ以外の都市も、たくさん盛り上がってくれてうれしかったです」

――それを経ての今回のツアーではどんなステージにしたいですか?

「今私がやってるライブは、自分の中での理想のまだ半分ぐらいで。もっといいものが私の頭の中にはあるんですけど、現状では私の力量が届いていなくて、できていないことも多いんです。なので、常に思っているのは、何年かかるかわからないけど、それを100にしていきたいってこと。次のツアーも、前回のものより絶対にいいライブにしたいと思っています。曲のアレンジとかも、どんどんアップデートさせていきたい。ライブを作る自信はあるので、そういうところを楽しんでもらえたらなと思います」

(おわり)

取材・文/片貝久美子
写真/藤村聖那


Furui Riho Live Tour 2024 -Love One Another-LIVE INFO

2024年5月3日(金)DRUM Be-1(福岡)
2024年5月5日(日)心斎橋 JANUS(大阪)
2024年5月15日(水)PENNY LANE 24(北海道)
2024年5月26日(日)ell.FITS ALL(愛知)
2024年6月7日(金)EX THEATER ROPPONGI(東京)

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Furui Riho『Love One Another』DISC INFO

2024年4月3日(水)発売
PCCA-06284/3,300円(税込)
LOA MUSIC / PONY CANYON

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