──深夜枠は兄妹ユニットということ自体がすごく珍しいと思いましたが、音楽を一緒に作っていくくらいですから音楽の趣味が似ていたりしたのでしょうか?
Ami「育っている環境が一緒なので、なんとなく聴いている音楽も見てきているものも一緒なので好みは一緒だと思います」
Ayato「車の中でかかっている音楽もずっと一緒の音楽を聴いているので、“曲を作って一緒にやろう”となった時もそんなに方向性の障害はなかったです」
──小中学生の頃のヒーローは誰だったんですか?
Ami「SEKAI NO OWARIとかゲスの極み乙女とか…」
Ayato「THE YELLOW MONKEYとか、中学生の頃はJUDY AND MARYとか…」
Ami「あと、親が聴いていたので、斉藤和義さんとかですね」
──高校生デビューされた頃とユニットとしてやっていく上での心構えは変わりましたか?
Ami「始めたての頃よりもっとはっきりと、“深夜枠として、どうなっていこう?“ということを細かく決めるようになりました」
──当初からテーマに沿って曲を作ることもやっていましたよね。だから最初からしっかり方向性を決めているユニットだと思っていました。
Ami「ユニット名を深夜枠とした時点で、“もうこれは夜系の曲を作るんだろうな“というのは決まったので」
Ayato「ふわっと“夜系の曲かな?“みたいな。最初の頃はコード感もそういう雰囲気で作っていました」

──そもそもその深夜枠というユニット名はどういうところから決めたのでしょうか?
Ami「私が東京事変のアルバム『深夜枠』をすごく好きだから。それだけで決めてしまったんですけど(笑)、あとは語呂がよかったので」
──深夜枠ってテレビ番組でもディープな企画や尖った内容がのことができたり、そういうニュアンスもありますよね?
Ami「そうです。その意味合いは後から気付いて、“すごくラッキーかも”と思いました(笑)。このユニット名だと、“なんでもあり”という意味で曲も作っていける…と思って。“夜”にとらわれずに曲作りもできるって最近になって気づいたんですけど(笑)」
──いわゆる真夜中系のアーティストの音楽の影響もありますか?
Ayato「音楽的な影響を受けたというよりは、深夜枠というユニットを作ってから積極的に聴くようになったように思います」
──というのも、Ayatoさんが作られる楽曲のボーカルの譜割りや言葉数の多さにボカロを通ってきた人なのかな?と思えるところがあって。
Ayato「ボカロは一切通ってきてないんですよ(笑)。たぶん川谷絵音さんの初期のラップっぽい言葉の入れ方に影響されているのかもしれません」
──今年は特に配信シングル6曲をコンスタントにリリースしてきましたが、どうしていこうというビジョンになったのでしょうか。
Ami「いろんな曲の幅を見せて聴いてもらいたい。たくさんの人にできるだけ届いて欲しいから、いろんな曲を作ってみよう。そんなきっかけでした。それで今年最初の曲として「強気の本音」をリリースして、毎回全然違う感じの曲をリリースしてきました」
──深夜枠のファンの人もいますが、それぞれの楽曲のファンも多いと思います。
Ami「“この曲も深夜枠だったんだ。でもこの曲もいいね”って言われるとすごく嬉しいです」
Ayato「あと、深夜枠の認知度がもう少し広がれば…と思っているんですけど」
──王道のJ-POPのプレイリストの常連になりそうですよ?
Ayato「基本はやっぱり王道のJ-POPを目指して頑張って曲を作っている感じはあります」
──今の時代の“王道のJ -POP”って、どんなイメージがありますか?
Ami「最近の王道はキャッチーだけど裏ではすごい変なことしていたり…というのが流行っていたりすると思っていて。メロディーとか歌詞は聴きやすいのに、楽器がちょっと面白いことしているとか。そういう曲をみんなが面白いと思って聴いているのかな?と思います」
Ayato「普遍的なメロディというのはあって、トラックが新しい感じと懐かしい昭和っぽいようなテイストを混ぜたのが流行っていたりとかもするので」
Ami「新しすぎないけど古すぎない…ちょうどいい懐かしさがありつつ、そんな居心地の良さをみんなが求めている気がします」
──では今年リリースされた楽曲について訊いていきたいのですが、まず1月に「強気の本音」というかなり強い曲をリリースしました。この曲を今年最初の曲にしたのはどうしてですか?
Ayato「1月にリリースするにあたって、デモ曲をたくさん作ってAmiと相談した結果、“やっぱりこれくらいパンチがあった方がいいんじゃないか?“と方向性を決めて、作り始めました。曲調的にも割と夜系のバンドとかユニットに近い雰囲気を取り入れた記憶があります」
Ami「2024年の3月に「光の陰」という曲をリリースしてから楽曲をリリースしていなかったので。久しぶりの新曲で、いわゆるシティポップのような楽曲をリリースしても、あまり印象には残らないかな?と思って、ギャップを感じてもらえるように一発目は強い曲をリリースしようと考えていました。それでみんなに深夜枠のやる気を表明しようという感じです(笑)」
──次は「雨恋」です。これは春という季節の感じがある楽曲ですね。
Ayato「そうですね。これはもう昭和歌謡をリファレンスでたくさん聴いて、それを深夜枠っぽく落とし込んだ曲です」
──昭和歌謡はどういうところからの影響なんですか?
Ami「私が高校の頃に中森明菜さんとかにはまった時期があって昭和歌謡をすごく漁っていたんです。それで、「雨恋」のデモをもらったときに“いや、この曲、すごい昭和歌謡じゃん!”と思いました(笑)。なので“これ、リファレンスにしたらいいんじゃない?”というのを何曲かお勧めしたんです。そしたらより昭和歌謡っぽく完成しました」
──そして6月には「ピエロ」をリリース。この曲はどちらかというとエレクトロニックなサウンドですね。
Ayato「最初にメロディーとコードが出てきて…今までにない感じが自分の中から出てきたのでで、“これをどうやってうまく形にしようかな?”と思った時にちょうどNewJeansとかが好きで聴いていたので、“このテイストを入れたい”と思いました。UKガラージとかを聴いて作った感じがあります」
──250(イオゴン)のテイストですね。少しジャズ寄りですが、言葉数の多さはいわゆる夜系以降という感じですね。
Ayato「そうですね。頭で作っていることもあって、どうしても(苦笑)Amiに負担がかかるようなメロディになってしまって…」
Ami「基本楽器もそうです。Ayatoが頭の中で組み立ててから打ち込むみタイプなので、弾いて作っているのがあまりないです。だからライブをやるときもかなり大変だったりして(笑)」
──そして9月リリースの「eye」はAmiさんも作詞に参加しています。これもまた全然違うタイプの楽曲で基本、ギターロック的です。
Ayato「この曲は以前、僕がバンドをやっていて、持っていた曲をAmiに聴かせるとかなり反応が良くて…Amiが推して決めた曲です」
──どういうことを歌詞で書きたかったのでしょうか?
Ayato「歌詞は元々あったんです」
Ami「「君の口ずさむ詩」(from 00 feat.深夜枠)という曲があるんですけど、その続きというか…同じ世界線の話にしたかったんです。「君の口ずさむ詩」は私が歌詞参加していたので、その感じで歌詞をもらって自分のイメージしている曲の内容をすり合わせながら何回かやり取りしてできた曲です」
──青春感がありますね。
Ayato「コードのキーとかも「君の口ずさむ詩」と同じキーなので、さわやかな仕上がり、曲調になっていると思います」
──そして10月には「夢宙旅行」がリリースされました。アートワークが可愛いですよね。あれはお2人の小さい頃の写真ですか?
Ayato「そうです(笑)」
Ami「曲を聴いてもうそれしか思い浮かばなくて。イラストにするには現実感がかなりある曲というか…。普段の夜系よりもっと現実っぽい感じだったので、私たちの小さい頃の写真にしようかな?って」
──お二人の思い出が入っているのでしょうか?
Ayato「そうですね。“僕とAmiで音楽をこれからもやって行きたい“ということも含めて、小さい頃の僕たちが旅をするというテーマで歌詞は書きました」
──実際に二人で面白いものを探しに行くことも多いんですか?
Ayato「二人で行動することが多い…というか、映画とかも二人で観に行くし」
Ami「友だちみたいな感じです」
Ayato「“最近の曲、これ聴いた?”って話もしますし。旅はしなくても日常でずっとしゃべっている感じです」
Ami「小さい頃から割と仲良かったです。ずっとこんな感じで生きてきたから“喧嘩しないの?”とかよく言われるんですけど…喧嘩、ねえ?(笑)」
──喧嘩にならない?
Ayato「地味な小競り合いとかはありますけど(笑)、ブチギレみたいなのはないですね」
──羨ましい限りです、共同制作者が近くにいるのは。では、音楽的な好みだけではなくて歌詞などの言語表現も言わなくても分かる感じですか?
Ayato「はい。Amiは文章的な歌詞というか…。僕はかなり内面の話が歌詞になりがちなんですけど、それをAmiが歌詞に作ると鮮やかな世界の色になるんです。それは僕には出せないので一緒に歌詞作っている時とか…」
Ami「曲によって使い分けるような感じです」
──そして最新リリースの「リコイル」ですが、ベースラインがすごく耳に入ってくる曲だと思いました。
Ayato「そうですね(笑)」
──この曲はどうやって制作されたのでしょうか?
Ayato「「リコイル」も2024年に作りためていた曲の中の1つです。最初、僕がベースを弾いて作ったんですけど、これも今までない曲だと思いました。少しダサカッコいいくらいの塩梅のベースラインができたので、“古臭いくらいロックした方がカッコいい”と思って、今までにないくらい歪んだギターで曲を作ったんです」
──バランスが不思議な曲ですね。
Ayato「変な曲です。トランスのようなパートが途中で入っていたり(笑)」
──デモの段階でこの感じに近かったのですか?
Ayato「デモが…というか、オケを本チャンに使えるように作っているので、元からこの感じでした」
──デモがそのまま使われるという話で納得したのですが、楽器のバランスやミックスも独特で、それ自体も曲の表現だと思いました。
Ayato「確かに後ろのインストもメインみたいな感じの作り方はしているかもしれないです。インストだけで聴いてもカッコいい曲だと思えるような曲の作り方をしているので、自然と少し不思議なミックスのバランスになっているかもしれないです」
──SEも特徴的ですね。
Ayato「はい。アルペジエーターで。あれはもう完全に東京事変の「電波通信」という曲へのオマージュだったりして、かなりいろんな要素を入れています」
──歌詞のテーマはどういうものからですか?
Ayato「僕、歌詞を書くときは口から出任せのような感じで書いていて、そこから“この曲は何が言いたいのか?というのを自分で考察して、そこからもう1回作り直すことが多くて。この曲では、最初の歌詞に焦燥感があって…”多分、僕は何かに焦っているんだ”と自分で考察して、そこから生き急いでるような、“深夜枠としてもっと広がっていきたい“というような歌詞にしました。あと、実はデモのタイトルが「リコイル」とは全然違っていて、「ハイスピードエアマックス」という超ダサい(笑)タイトルでした。”スピード感がある歌詞と曲調にしよう”という発想からできた曲です」
──“リコイル”の意味は、銃やゲームで撃った際に感じる反動のことですよね。
Ayato「そうです。曲の種が生まれた時の反動のようなものを歌詞に書こうと思って作り直したというか…「リコイル」というタイトルはかなり後に決まって」
Ami「最初の「ハイスピードエアマックス」の印象が強すぎて“他になにかあるかな? これ以上いいタイトルは出ないよね?”って。でもさすがにこのタイトルでリリースするのはアレなので、良いタイトルを探して、ずっと調べていて」
Ayato「F1の用語とかも調べました(笑)。“いや、でもこれじゃないんだよなあ”って。最終的にはAmiが「リコイル」というタイトルを考えてくれました」
──歌詞に<曖昧にしてる言葉>とありますが、会話でもSNS上でもそういう言葉が流れて行っている感じは確かにあって、“でも、実際の自分はどう思っているの?”という曲のように感じました。
Ayato「確かにそうかも知れないです。流されないというか、“自分はどうなんだ?”という曲だと思います」
Ami「今年リリースした曲には<曖昧>という言葉がほとんど入っています」
Ayato「そう。曖昧な言葉に踊らされそうになりながらも、“強気の本音”はこの曖昧な世界でどう生きて行くんだろう?というような歌詞ですし、「リコイル」はもっと意志を持っているというか…強い自分で駆け抜けていくような曲だと思っています」
──Amiさんはこの曲のボーカルで意識したところありますか?
Ami「今回はいつもより感情的に歌っています。「強気の本音」の時よりももっとはっきりした感情というか…」
Ayato「「強気の本音」は強いけど繊細な部分があって。でも、「リコイル」は声質的にも荒々しいと言うとアレですけど、そういう成分を多めに歌ってもらいました」
Ami「<愛してる>とか、単語を雑に言う感じとかが大変でした(笑)。でもやりすぎても胡散臭さが出てしまうのでそこはうまく抜いていかないといけないので難しかったです」
──では最後に2026年に向けての展望を訊かせてもらえますか。
Ami「2025年で深夜枠の幅を見せられたと思うので、もう少し間を埋めていくというか…深みを出して行きたいと思っています。ライブ活動も増やして、生で届けることも大事にしたいです」
(おわり)
取材・文/石角友香
photo by 八重代晃矢

