Hernia
この日のトッパーは大阪を拠点に活動中の4人組バンド、Hernia(ヘルニア)。この日はピアノのメンバーが事情により不参加のため同期を走らせていたが、何よりの特徴は男女ツインボーカルが作り出す声の重なりが生むエモーション。エンタメポップな「夜詩メランコリック」はオーケストラヒットなどフックのあるSEもテンションを上げ、ちょっと懐かし味わいもある16ビートナンバー「scramble」ではボーカルYurielの起伏のある歌いこなしでフロアを惹きつける。展開の多いJ-POPらしさが海外チャートでも注目されることに納得の1曲だ。
ボーカルの大谷駿介がMCで大阪弁の人懐こいトーンを繰り出すと一気に場が和むのが分かった。目一杯曲を詰め込んだセットリストのため、もう少し彼のトークを訊きたかった気も。
代表曲「キカザル」のラテンテイストのポップに乗る男女の心の機微のやりとりを聴いていると、前述のちょっとした懐かしさは90年代の米米CLUBに近いものかも、という気がしてくる。だが、最新曲「city city」はミディアムのネオソウル調で、またメンバーが揃った状態で聴きたくなる一曲だった。ラストはボーカル2人のユニゾンがフレッシュな青春感満載の「恋愛バイアス」。曲調のレンジの広さで楽しめたが、バンドのキャラが分かるMCがあればさらに親しみを持てたかも。それぐらい凝縮したセトリで挑んでくれたのだろう。リスナーの世代を超える可能性を見た。
■SET LIST
M1. 夜詩メランコリックポップ
M2. scramble
M3. キカザルポップ
M4. city city
M5. 恋愛バイアス

Hernia PROFILE
2021年結成、大阪を拠点に活動中の4人組バンド。 大谷駿介(Vo.)、Yuriel(Vo.)、大谷俊喜(Gt.)、笠谷彩夏(Pf.)。現在ベーシスト募集中。「どこかポップで、どこかロックで、どこかジャズ。」ジャンルの境界線を縫うように、柔らかくもエッジの効いた楽曲たち。ツインボーカルが織りなす声の重なりと、リアルな言葉がリスナーの“今”をそっとすくい上げる。ライブでは、その振れ幅ある音楽性と熱量で観客の心を一気に掴む。代表曲「キカザル」は YouTube で19万回再生を突破、「scramble」は TikTokで1万いいねを獲得。YouTube総再生数は約70万回。オーストラリア、アメリカ、イギリス、韓国など海外チャートでも注目されている。

Hernia「city city」DISC INFO
Hernia「city city」
2025年6月18日(水)配信
Hernia
深夜枠深夜枠
続いては「真夜中ポップ系」というコンセプトを掲げる兄妹ユニット深夜枠が登場。サウンドチェックの印象は技ありのポストロックの印象だったが、歌始まりの1曲目「ピエロ」でAmi(Vo.)の細かい譜割りを巧みに乗りこなすボーカルに一気に興味が集中。ギタリストで作詞作曲、アレンジやサウンドメイクも手掛けるAyatoの気の利いたオブリガートをはじめ、サポートメンバーの小気味いいライブアレンジも高いレベルにある。
ユニット名も相まって東京事変の少なからぬ影響を感じていたら、続く新曲「夢宙旅行」のボーカルにも瞠目。サビの転がるような言葉数の多さはボカロカルチャー以降のいわゆる“真夜中系”アーティストと符丁する部分も感じる。それでいて海外のインディーポップ・バンドともリンクするバンドサウンドで届けられるのだから、両方の旨味を好むリスナーにはたまらないのでは?さらに豪雨のSEにピアノが乗るイントロがワクワク感を煽る「雨恋」ではAmiのスキャットの安定感に唸らされる。
淡々とした歌唱が刹那の恋の終わりの描写をベタつかせず、むしろ乾いた怖さに転化するのもいい。その迫力は「強気の本音」でさらに高まり、ラストの「eye」ではAmiもテレキャスターを携えて、Ayatoとともに鋭いリフを刻む。マイナーの16ビートやグルーヴィな曲が続いてきた後のソリッドなロックをセットしたのも新鮮で、文学的だが青春を感じる歌詞とともに、「サイコかつポップ」を自認する世界観以外にも触れることができた。22歳と20歳とは思えないスキルと新世代のポップ解像度に大きな期待感を残した。
■SET LIST
M1. ピエロ
M2. 夢宙旅行
M3. 雨恋
M4. 強気の本音
M5. eye

深夜枠PROFILE
「真夜中ポップ系」というコンセプトを掲げ活動する男女二人組ユニット。2022年結成、Amiがボーカルをつとめ、サウンドメイクではAyatoが作曲とアレンジ、トラックメイク、ギター、レコーディングなど全てをこなす。Ayatoが作る洗練されたサウンドにAmiの歌声が縦横無尽に泳いでいく。自身が「サイコかつポップ」と表現する世界観、自由な発想力により生み出されるクリエイティビティに注目が集まる。
モウソウキリン
サウンドチェックで松田聖子の「Sweet Memories」を披露したモウソウキリン。「レトロポップバンド」を自称する理由を垣間見せてくれたのだが、いざライブが始まるといい意味でそんな定義を越えてきた。
それぞれ異なるバックボーンを持つ専門学校の同級生で結成された彼ら。軽いセッションからポップな「モウソウメーカー」でスタートしたのだが、ギターの成瀬夢衣のオーセンティックなロックンロールギター、五弦ベースをグルーヴィに弾きまくるAsano、どんなポップチューンも歌いこなせそうなユウナはまさに三人三様。ジャズっぽいアレンジにも、終盤、ミュージカルスターか?と思しきパワフルな歌唱を聴かせたユウナにも軽くぶっ飛ばされてしまった。
1曲ごとの個性も明確で、「ブラックコーヒーは飲めない」は男性バンドならグソクムズとかYogee New Wavesを彷彿したのだが、ユウナのボーカルがこのバンドの個性を明確なものにする。さらに「生活」はフォーキー。素朴な中にもフックありまくりなフレーズでその景色を広げるギター、愛らしい声からザラつく高音までたくましい幅を聴かせるユウナに何度も圧倒される。想像を越えてくるアレンジに加えて、成瀬のMCもかなり斜め上。
次に演奏する「涙のあとで」の曲紹介が「プラネタリウムで三角形の星座を見たことから生まれたドロドロの三角関係の曲」だったことにツッコミたくなったのは私だけではあるまい。これが最新曲でプッシュしたいであろう曲なのも面白い。が、さらに面白いのはイントロからAメロでいきなり転調する意外性。往年のシティポップの端正なソングライティングを活かすい演奏とクラプトンばりのギターソロと、ぬかりない。ユウナのサイドギタリストのセンスも見どころで、オーセンティックなR&Rナンバー「今日は絶対KISSしたい」まで体感は爆速だった。
■SET LIST
M1. モウソウメイカー
M2. ブラックコーヒーは飲めない
M3. 生活
M4. 涙のあとで
M5. 今日は絶対KISSしたい

モウソウキリンPROFILE
“ちょっとでいいから耳を貸して”。2022年夏、専門学校の同級生で結成したレトロポップバンド。誰もが握りしめたことのある輝きやもどかしさ、純粋さや小さな嘘のような淡いハートをポップなメロディーに乗せて歌う。それぞれ異なるバックボーンを持つ楽器隊とVo.ヒグラシユウナの力強く透明感のある声があなたの心にすとんと入っていきますように。
安月名莉子
バンドが続いてきたこの日の「MUSIC NEXUS LIVE 導-SHIRUBE-」だが、存在感が光るソロアーティストがトリに登場した。アニソン界でも活躍中であり、ギター一本で勝負できるシンガー・ソングライターでもある安月名莉子だ。
1曲目はアイリッシュな世界観もある「かたち」だ。バックにオケを流すスタイルでのギター&ボーカルのライブアレンジは珍しいが、物足りなさは微塵も感じさせない。『メイドインアビス』OP曲だが、遠くまで届く明快な歌唱が彼女自身の勇敢な物語として響く。静かな歌い出しで惹きつける「シルバーフラワールド」では緩急の多い展開で圧倒した。MCでは普段とは違うオーディエンスとの出会いも意識して「全力で歌います」と意思表明。その言葉通り、サウンドチェックでも披露した「雨のち虹」では安定したファルセットと地声の高低差を乗りこなし、「Unheard Voice」ではシンプルなオケゆえに目立つギターカッティングも力強いところを見せてくれた。さらに目下のところ会場限定CD収録の新曲「GRASSHOPPER」も披露。「ガラッと雰囲気変えていきます」と曲紹介した通り、四つ打ちのダンスチューンに伸びやかなボーカルを乗せていく手法が新鮮だ。しかもギターリフで作るフックも小気味よく、彼女がMIYAVIやKTタンストールをお手本として見聴きしてきたというのも大いに納得。ちなみにアコギ演奏ではほぼ初披露だったそうで、「緊張しました」と素直な告白も。10月29日からフル尺で配信されているので、ぜひチェックしてもらいたい。
ラストはハンドマイクになり、全身を使ったパフォーマンスで見せた「Horizon」。緻密にメロディを積み上げていく巧みさと凝った構成を全力で届けてくれた。
■SET LIST
M1. かたち
M2. シルバーフラワールド
M3. 雨のち虹
M4. Unheard Voice
M5. GRASSHOPPER
M6. Horizon

安月名莉子PROFILE
幼少よりミュージカルやTVへの出演を通し、役者としての表現を学ぶ。大学進学と同時に自身の思いを形に残すためシンガーソングライターとしての活動を開始。2018年10月放送TVアニメ「やがて君になる」のOPテーマ「君にふれて」でメジャーデビュー。同時に「Re:ゼロから始める異世界生活 Memory Snow」の挿入歌「Memories」の歌唱に抜擢される。以降も人気アニメのテーマソングを手掛け、2023年3月には10曲以上のタイアップ曲が収録された待望の1st アルバム『BLUE MOON』をリリースした。2025年には石原夏織に「ムーンランナー」を楽曲提供し、作曲家デビューを飾った。熱量と繊細さを兼ね備えた歌唱力と、卓越したギターテクニックを武器に、シンガー・ソングライター、アニソンシンガー、作曲家、声優と枠に捉われず活動の場を広げていく。
より多様になってきたアーティストラインナップが新鮮だった今回。普段は出会えない音楽を発見したリスナーも多かったはずだ。拡張する邦楽シーンで起きていることに次回もぜひ出会いたい。
(おわり)
取材・文/石角友香
写真/平野哲郎

楽曲公募プログラム「MUSIC NEXUS」MEDIA INFO
「NEXUS=つながり」を意味する楽曲公募プログラム「MUSIC NEXUS」は、U-NEXT HOLDINGS各社が展開する「USEN MUSIC」「SMART USEN」といった配信サービスや、主催ライブイベント「MUSIC NEXUS LIVE 導 -SHIRUBE」によって新進気鋭のアーティストと音楽ファンのつながりを創出する。
…… and more!
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楽曲公募プログラム「MUSIC NEXUS」始動~NEXUS=繋がり。あなたの楽曲と才能をUSENで届けよう~
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