──まずはこのタイミングで初のカバーアルバム『CITY POP LOVERS』をリリースした経緯を教えてください。

「もともとカバーアルバムを作りたいという気持ちはありました。その中で、単なるカバーからテーマを絞ることで、さらにコンセプトがあるアルバムにできるなと思ったんです。僕は、シティポップと言われているジャンルの音楽が好きだし、シティポップにフォーカスすることで、アルバムとしてぐっと聴きやすいものになるだろうなと思いましたね。シティポップがブームだからアルバムタイトルにも“CITY POP”とつけましたけど、自分が影響を受けてきた音楽をカバーしたいと思うと、この時代の音楽に集中するんです。1970年代から80年代のシティポップって、日本人にしか作れない洋楽みたいな音楽だと思うんですよ。古い話にはなりますけど、日本が戦争に負けて、でも経済は見返してやろうとみんなですごく頑張って、だんだんと日本の社会が豊かになっていった。でも、急に豊かになったし、競争社会になったからしんどいじゃないですか。そんな時代で、都会で暮らすサラリーマンの方やOLの方を励ますのがシティポップだったと思うんです。励ますといっても、露骨に“頑張れ!”とか“負けるな!”とか“お前は大丈夫だ”と歌うんではなくて、音で癒す都会の大衆ミュージックというか、競争に疲れた若者が癒しを求めていたのがシティポップだったのかなって。だから、シティポップはただのオシャレな音楽じゃない。僕は、そう感じるんですね」

──その名の通り、街そのものや街で暮らす人々の心をちょっとポップに、軽やかにしてくれる音楽というか……

「ポリティカルな曲もないですからね。ちょっといい夢を見させてくれるような、心地のいい音楽。音楽的な部分では、誰か一人の才能一発じゃなくて、職人的な要素も必要になってくる。耳馴染みのいい音楽ほど、裏側の努力がすごく必要なんですよね。シティポップはアレンジャーやプロデューサー、ミュージシャン、エンジニアがチームとして一体にならないといいものができない。なおかつ、その人のファンじゃなくても聴けるもの。日本の四季折々の侘び寂びが音楽の中にあって、本当に日本独特のものだと思います」

──『CITY POP LOVERS』はさかいゆう&origami PRODUCTIONS名義ですが、チームで作り上げる音楽というシティポップの構造的な特徴を形にするためにorigami PRODUCTIONSと共作ニュアンスもありますか?

「ありました。以前からorigami PRODUCTIONSとは一緒にやりたかったんですけど、彼らは無茶くちゃ個人プレイを聴かせる人たちではないんでね。本人たちも自分たちをただのプレイヤーだとは思ってなくて、mabanuaなんかプロデューサーとして自分にドラムを叩かせている意識ですから。それは、みんなそう。だから、曲に合った演奏をする。常に音楽全体を見渡して、演奏している集団。そんな彼らとカバーというコンセプトがあるアルバムで共演すれば、それぞれの力もより発揮しやすいんじゃないかという狙いもありました。ボーカルは僕だし、基本のベースは僕が作ったりしてたんですけど、それも0から0.1ぐらいまでです。そこから先は任せるようにしました」

──自分以外にそこまで任せて音楽を作ることは、今までなかったですよね?

「そうですね。基本的に自分の音楽は自分でプロデュースして、自分でアレンジするので。今回は、自分でやったら「プラスティック・ラブ」は絶対にこうならないというアレンジを、自分でも楽しんでやった感じですかね。シティポップって、編曲家が主役の音楽なので」

──選曲は悩みましたか?

「本当に好きで聴いていた曲ばかりなので、特に悩みはしなかったです。自分の種明かしみたいな感じですね。サウンド的には1990年代から2000年代のR&Bや打ち込みのファンクの色が出るのかなってイメージもありましたけど、自分たちなりに“2022年のシティポップ”が作れたと思っています」

──先ほど名前が挙がった竹内まりやさんの「プラスティック・ラブ」や松原みきさんの「真夜中のドア~stay with me」、山下達郎さんの「SPARKLE」など、近年のシティポップブームを代表する楽曲がカバーされている一方、ムッシュかまやつさんの「ゴロワーズを吸ったことがあるかい」や鈴木 茂さんの「砂の女」など、ともすればシティポップというカテゴライズでは括れない楽曲も収録されています。それが、シティポップの意味を少し広げてくれている気もしました。

「そんな大それたことは思ってないですけど、誰かといる時間があるから孤独が生まれるように、カテゴライズがあるからこそ解釈の自由は生まれると思うんです。だから、いろいろ賛否を言ってもらっていいと思っています」

──今回、ずっと好きだった曲たちをカバーして、あらためて感じ取ったこと、新たな発見はありましたか?

「名曲ってなんだろうとか、普遍性ってなんだろうってことは考えたし、今回のアルバムで学びましたね。文句のない名曲に文句なしのアレンジをして今の息吹を入れて、しかもどうやって普遍性を持たせるか……今回のアルバムでカバーした曲たちって、要するに息の長いヒット曲なわけじゃないですか。でも、最初はエバーグリーンで普遍性を帯びる曲になるとは、本人たちはきっと思ってない。ただ、いい音楽を作ろうとしただけというか。だから、曲に長い旅をさせなきゃ普遍性は生まれないのかなとか」

──今回のアルバムを通して学んだ、自分なりの「名曲とは?」という問いへの答えは?

「名曲とは、言葉では説明できない何かが働いているものだと思います。ヒットしているわけだから、時代の周波数に合っていて、しかもそれが30年も40年も続いている。それは、自分ではコントロールできないこと。自分でコントロールできるのは、真心を込めて、一生懸命に細部にまでこだわってしっかり音楽を作るということだけ。それは、今回のカバーアルバムを作る中で、あらためて原曲を聴いて思いました。だから、自分にできるのは真面目に音楽をやること。そうすれば、いつか音楽の神様が“こいつにミラクルを起こさせてやろう”って思ってくれるかもしれない」

──『CITY POP LOVERS』が完成した今は、カバーした名曲たちを超えていくような楽曲を作りたいという意欲も高まっていたりしますか?

「そういう心境の変化は……あまりないです。当然、いい曲は作りたいけど、僕は淡々と音楽を続けていくかなって思いますけどね」

──2023年4月8日には、origami PRODUCTIONSをゲストに迎えたライブが、日比谷野外音楽堂で開催されることが決定しています。

「まだ細かいことは決まっていませんけど、今回のアルバムの曲たちはほとんどやりたいなとは思っています」

──さかいさんに分析してもらうのはちょっと違うのかもしれないですけど、近年、欧米やアジアで日本のシティポップがブームになっている背景には、どんな理由があると思いますか?

「明らかに今の音楽とは音像が違うんだけど、今聴いても廃れていない。洋楽のようなんだけど、日本人にしか作れない。すごくきめ細かいですからね。そういうところって、日本人は一生懸命やるじゃないですか。シティポップは、チームプレイが感じられる音楽でもありますし、そんな“日本人のオリジナリティ”が感じられる音楽だから海外でも支持されているんじゃないかと思います」

──『CITY POP LOVERS』も、海外の音楽ファンに響く可能性があると思います。

「まったく考えてなかったですけど、あるかもしれないですよね。それは、配信が主流になったことによるポジティブな変化かもしれないです。誰でも、どこでも聴けるっていう。『CITY POP LOVERS』は2023年1月25日にはアナログLPもリリースするので、サブスクなどで聴いて気に入ったら、ぜひLPでも聴いてみてほしいですね。同じ曲ですけど、聴こえ方がまったく違うはずなので。それこそ、配信で映画を見るのと、映画館で映画を見る体験の違いみたいに、かなりの違いがあると思いますから、ぜひ!」

(おわり)

取材・文/大久保和則
写真/中村 功

LIVE INFOさかいゆう 野音ライブ

2023年4月8日(土)日比谷野外大音楽堂(東京)※雨天決行・荒天中止
GUEST/Ovall、Michael Kaneko、Nenashi a.k.a Hiro-a-key、Shingo Suzuki、mabanua、関口シンゴ、さらさ

さかいゆう(オフィスオーガスタ)

DISC INFOさかいゆう&origami PRODUCTIONS『CITY POP LOVERS』

2022年11月30日(水)発売
初回生産限定盤(CD+DVD)/POCS-23909/4,950円(税込)
newborder recordings / Office Augusta Co., Virgin Music Label & Artist Services

Linkfire

2022年11月30日(水)発売
通常盤(CD)/POCS-23029/3,300円(税込)
newborder recordings / Office Augusta Co., Virgin Music Label & Artist Services

Linkfire

さかいゆう&origami PRODUCTIONS『CITY POP LOVERS』

2023年1月25日(水)発売
限定盤(LP)/POJD-23002/3,850円(税込)
newborder recordings / Office Augusta Co., Virgin Music Label & Artist Services

Linkfire

関連リンク

一覧へ戻る