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「オフィスオーガスタ」チャンネル by SMART USEN
──3月にリリースされた最新アルバム『Touch The World』に収録されていた「Soul Rain」が、アコースティックバージョンでシングルリリースされました。
「アルバムバージョンはストリングスも入ったゴージャスなサウンドだったんですけど、「Soul Rain」って、実はアルバムの中でもいちばんパーソナルな楽曲なんです。死生観というか、生きる死ぬの、死のほうにフォーカスした曲で、完成までに10年ぐらいかかっているんですよ。そんな「Soul Rain」の歌詞によりフォーカスしたアコースティックバージョンを、この雨の季節にリリースするのはいいかなって」
──1曲の完成に10年もかかっていたんですね。
「原型ができたのは2009年か2010年ぐらいで、そのときにはもう歌詞のコンセプトも決まっていました。僕は、“死”というものにすごく興味があるんですけど、日本で死ぬと火葬されるじゃないですか。死んで燃えたあと、蒸発して、次の生き物のために雨になって。そう考えると、“死”っていうのは“循環”だなって僕は思うんですよ。だとしたら、すごくロマンティックだなと思って、それを音楽に落とし込もうとしたんですけど、そのためにはすごく時間がかかるなあと思って、結局7、8年放ったらかしにしてたんですね。でも、最近になってこの曲を完成させたいなと思って、また向き合い始めたんですけど、すごく思い入れがある楽曲だったこともあって、なかなか歌詞ができなかった。だったら自分以外の誰かにコンセプトをしっかりと伝えて歌詞を書いてもらう方がいいのかなと思って、売野雅勇さんにお願いしたんです。結果的に自分が言いたかったことというか、音楽で伝えたかったことを表現してくれて、すごく良かったなと思います。売野さんと話してみて、自分と同じことを感じてるって、すごく思いました。年齢は離れているんですけど、長い歴史の中で考えたら、僕と売野さんは同じ世代ですしね」
──ひとつの楽曲が生まれてから完成するまでに、それだけの時間が費やされることはよくあるんですか?
「いや、ないですね。だいたいの曲は、そういうふうに作るとダメになっちゃいます。曲にも賞味期限というものがあると思っていて。でも「Soul Rain」に関しては期限がないというか、サウンドの流行り廃りが関係ないし、どんなアレンジでどういうふうにやってもこの曲になるなって。「イマジン」とか「レット・イット・ビー」とかもそうだと思うんですけど」
──長い間、自分の傍らにあった楽曲が完成して、アルバムに収録され、さらにサウンドを変えてシングルとしてリリースされることで、感慨もひとしおなんじゃないですか?
「ほっとしたっていうのが、いちばんの気持ちですね。でも、それはこの曲だけじゃなく、どの曲でも、いつでもそうです。単に曲をお腹に宿らせることは才能だけでもできることですけど、お腹に宿らせて外に生み出すためにはそれなりの熟成期間と、栄養と、ちゃんとした生活が必要で。なので、今回もちゃんと生み出せてよかったなって、ほっとした気持ちです」
──もちろん、これまで作られてきたすべての曲に、それぞれの意味合いがあるとは思いますが、長い年月をかけて完成させたことも含めて、「Soul Rain」はさかいさんの音楽人生にとっても大きな一曲になったんじゃないでしょうか?
「間違いなく、そういう曲ではあると思います。今までで言うと、「ジャスミン」とか「君と僕の挽歌」みたいな……死を匂わせた曲だし、不特定多数のいろんな人に対して歌っている曲じゃなくて、一人ひとりのパーソナルな部分に向けて歌っている曲ですね。僕はライブをして僕とお客さんの間に澄んだ空気が流れて、そこでみんなの思いが固まるみたいな、そういう体験をしたいから音楽をやめたくないんですけど、そういった体験ができる曲になりました。大事な時間をいっしょに過ごす曲というか……」
──「Soul Rain」の限定生産盤CDは、アルバム『Touch The World』のインストゥルメンタル盤との2枚組ですが、これはもともあったアイデアですか?
「単純に僕が聴きたかったのもあるし、僕の友人が“インスト盤が欲しいね”って言っていたこともあって、今回こういったかたちでリリースすることになりました。僕自身、スティービー・ワンダーの『キー・オブ・ライフ』のインスト盤が欲しかったりするので、自分が欲しいものを人にも提供したいという気持ちもありましたし。それと、自分がふだん音楽を聴くときって、歌ものはあんまり聴かないんですよね。特に日本語の歌は。これだけ世の中は“意味”であふれてるのに、好きな音楽を聴くときぐらい“意味”から離れさせてよって(笑)。だから、自分の曲の歌詞も、歌詞の意味が音楽を超えないようにはしていますね」
──オリジナルの『Touch The World』は、ロンドン、ロサンゼルス、ニューヨーク、サンパウロを巡り、現地のミュージシャンやエンジニアとともに制作したアルバムでした。あらためて今このタイミングで『Touch The World』という作品を振り返ってみて、どんな体験だったと感じますか?
「アビーロードとか、それぞれの場所で歴史あるスタジオに行ったりしたんですけど、過去にその場所で鳴っていた音が聴こえてきそうな空気感があるんですね。音楽って、そういう空気感といっしょに作られているというか、目に見えないものを音にして、そこで感じるものがあって、音にならない音を持って帰ってきて、喜んだり悲しんだりしている。たとえば、サンバをレコーディングするためにブラジルに行く。でも、サンバって日本でも録れるんですよ。日本にも、サンバが得意なミュージシャンはちゃんといますから。ただ、『Touch The World』では、それぞれの場所を旅しながら、そのときの僕自身の、ドキュメンタリーな体験を集めてアルバムにしたいなと思ったんですよね。ロンドンにいるときは、次に行くニューヨークで録る曲が完成してなかったりもしましたけど(笑)。そのときそのときの情熱をパッケージして――初めてなので大変なこともあっていろいろ苦労もしたんですけど――それも含めてすごく幸せでした。自分の音楽人生を振り返ってもなかなかできることじゃないと思うし、本当に貴重な体験でしたね」
──コロナ禍も収束しきっていない、誰かと気軽に触れ合うことができない今、『Touch The World』というタイトルに感じ入るところもありますし、世界を旅して音楽を作ることも困難な状況になってしまいましたが、さかいさん自身はこういう新しい日常にどう向き合っていきますか?
「今は静観することも必要な状況ですし、発言は慎重にしないとなって思っているんですけど、タッチすることでしか感じられない体温ってありますからね。ライブもそのひとつで、内臓に直接伝わってくるような音があって、その場にいる人が、そういう生の歌に触れて音楽を体感する……それはどんなにいい音のヘッドフォンで音楽を聴いても得られない体験だと思います。もちろん健康第一ですけど、早くそうやって身近な人と触れ合えるようになればいいなと思っています。ライブもゆっくり始まっていくでしょうし、過去は過去だし、時間は必ず未来へと進んでいくので。ちゃんとリアルにタッチできるように、新しいタッチの仕方をミュージシャンとリスナーが生み出していければいいんじゃないかな。そんなふうに、僕もじたばたせずに天気を見守るような感覚で音楽とも向き合っていこうと思います」
(おわり)
取材・文/大久保和則
■2020年6月29日(月)~7月5日(日)の「B-65 アーティスト特集 WEEKLY J-POP 2」は、さかいゆう!(music.usen.com)
■さかいゆう DUO TOUR“Touch The World & More”
7月5日(日) Gate’s 7(福岡) ※2回公演
7月10日(金) ジョイアミーア(新潟)
7月12日(日) キャラバンサライ(高知)
7月16日(木) Sound Lab mole(札幌)
7月22日(水) NAGOYA CLUB QUATTRO(愛知)
7月25日(土) 仙台市戦災復興記念館 記念ホール(宮城)
7月28日(火) 磔磔(京都)
7月30日(木) Live space Reed(広島)
7月31日(金) MO:GLA(岡山)
8月4日(火) SHIBUYA CLUB QUATTRO(東京)
- さかいゆう「Soul Rain + Touch The World Instrumentals」
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2020年6月17日(水)発売
CD/POCS-23904/23905/2,000円(税別)
ユニバーサル ミュージック
- さかいゆう「Soul Rain(Acoustic Ver.)」
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2020年5月22日(金)配信
ユニバーサル ミュージック
- さかいゆう『Touch The World』
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2020年3月4日(水)発売/配信
通常盤(CD)/POCS-23003/3,000円(税別)
ユニバーサル ミュージック