――encore初登場のリトルブラックドレスさんですが、こういうときって何て呼ばれていますか?
「んー……最近はリト黒さんって呼ばれることが多いですね」
――リト黒さんっていい響きですね。じゃあ、今日はリト黒さんで行かせてもらいますね。
「いいですよ。リト黒でよろしくお願いします(笑)」
――名付け親はピチカート・ファイヴ 、フリッパーズ・ギター、MISIAさん作品でおなじみのアートディレクター、信藤三雄(しんどう みつお)さんだそうでが、リトルブラックドレスって、どストライクですよね。もはや理由なんか必要ない感じ(笑)。
「ありがとうございます(笑)。信藤さんと初めてお会いしたのが2016年9月に開催されたMisia さんの「Candle Night」というイベントだったんです。奈良の春日大社で写真を撮っていただいたり。そのときオープニングアクトのステージに立つからって用意していった私服のワンピースが真っ黒のミニだったので、そのまんま名付けてくださいました。本当、黒が好きでその服を着ていたので。好きな色が自分の名前に入っているってうれしいですよね」
――リト黒さんはそのとき、何歳でした?
「17です。高校3年生です」
――高3の女子にリトルブラックドレスって名付けてしまう信藤さんのセンスってすごいですね。
「本当、そう思います!アーティストの名付け親になったのはBonnie Pinkさん以来って言ってました」
――どちらも色が名前に入ってるんですね。リト黒さんのメジャーデビューは2021年7月ですからちょうど1年前?
「はい、意外にも(笑)」
――あ、やっぱり意外に思われますか?
「そうなんですよ。デビュー前の活動が長かったので。インディーズの作品リリースもありますし、MISIAさんやさまざまなアーティストさんのオープニングアクトに呼んでいただいたりもしていますし。“あれ!まだデビューしてなかったんだっけ?”って」
――YouTubeに上がっている「MISIA 平成武道館 LIFE IS GOING ON AND ON」のオープニングアクトが2019年ですからもうずいぶん前ですね。あのときって緊張しましたか?
「めっちゃ緊張しました!人生でいちばん緊張してたかもしれないです。YouTubeの動画が3デイズの3日目なんですけど、MCのときは顔が強ばってますよね(笑)。でも歌い始めると緊張が解けるんです」
――すごく初々しいというか、緊張感が画面から伝わってきました。僕が初めてリト黒さんを見たのは、2021年7月のBillboard Live YOKOHAMA「リトルブラックドレス ワンマンライブ Special Guest 成田昭次」だったんですが、その時点でデビュー直後の感じは全くなかったです。
「本当ですか?デビュー前に武道館のステージに立たせてもらったり、そういう時間を経ていまがあるのかなと思います」
――アルバム『浮世歌』ってメジャーデビュー前のリリースじゃないですか?
「はい。「夏だらけのグライダー」の前、2021年5月リリースだからインディーですね」
――実は、わりと最近まであの作品がデビューアルバムだと思い込んでいて。完成度の高さもそうですし、リトルブラックドレス全部入りっていう印象があって。
「ああ、そうですね。確かに出し惜しみはしていないです。何て言うんでしょう……いまもっているものをすべて詰め込んだというか、この先どんなことがあろうとも、ここに立ち返ってこれるという原点が欲しかったんですね。あのアルバムの楽曲は、ほぼほぼ10代の時に作った楽曲なんですが、歌謡曲っぽい曲もあれば、そうじゃない曲もあり、いまでもよく聴き返していますし。いま、次のアルバム制作に入っていますが、あのときとメッセージ性とか自分のなかの軸みたいな部分は変わっていなくって。メジャー1stアルバムも『浮世歌』と同じ延長線上のテーマで書こうかなと思っています」
――『浮世歌』でいちばん最近書かれた曲はどれですか?
「えーと、「野良ニンゲン」かな。「双六」と「野良ニンゲン」は上京後に書きました」
――「野良ニンゲン」と「ちょーかわいい」、マイフェイバリットです。
「あ、すいません!「ちょーかわいい」がいちばん最近の曲でした。あの曲は原宿のカフェで、ガールズが“ちょーかわいい”ってフレーズだけで会話しているのを見て(笑)。“ちょーかわいいだけでちゃんと会話が成立するんだ”ってメモっていて。それがちょうどコロナ禍になったころで、私にとってちょーかわいいものってアマビエだったんですよ。だから<長い髪をウェットにきめ><ウロコを シャラシャラ>ってアマビエのことを歌ってるんです。かわいいものにはパワーがあるよって。ライブで歌うと盛り上がりますよ」
――成田昭次さんに<ちょーかわいい>って歌わせてましたね(笑)。リト黒さんって、コロナ禍中のどまんなかにデビューしているので、いまの状況がニュートラルなのかもしれませんが、いろいろな制約があるなかでのストレスとかマインドセットってどうですか?
「もちろん影響はあると思います。だから、去年1年はいろんなことを考えさせられましたし、ライブもリリースも延期されたりして、イレギュラーというか、先行きの見えない不安というのは常にありましたね」
――メジャーデビューから約1年が経過しましたが、この間振り返ってみていかがですか?少なくとも退屈している暇はなさそうに見えますが。
「心が忙しかったですね。いろんなことを考えなくちゃいけなかったので。今回の「逆転のレジーナ」も発表はいまなんですけど、本当は1年前から取り組んでいて、ライブの裏側でずっと制作していましたから。やはりコロナを境に新しい常識が生まれたじゃないですか。だから自分と向き合う時間が多かったですね。思いついたことをぱっと歌詞に書くっていうよりは、そのテーマと向き合って何が答えなのか探す時間が必要でした」
――「逆転のレジーナ」は、アニメ映画『怪盗クイーンはサーカスがお好き』の主題歌ですが、はやみねかおるさんの原作はリト黒さんも読まれていた?
「小学生時代に出会っていますね。そのことを忘れるくらい時が経って、主題歌のお話をいただいて、“あ、これ読んだことある!”って。それが大人になって読むと全然印象が違っていて、結構メッセージ性があるんだなと感心させられました。実は、林 哲司さんの楽曲は、主題歌とは別に、アルバム用の楽曲として同時期に制作していたんです。杏里さんの「悲しみがとまらない」、杉山清貴&オメガトライブの「ふたりの夏物語 -Never Ending Summer-」もそうですが、林さんの書かれたシティポップが大好きなので“曲を書いていただけないでしょうか?”とずっとラブコールしていて。やっと林さんとミーティングさせていただく機会があって、その次の日にはもうこの曲が送られてきて。そのときからこの曲の<悲しみが変えた世界>の部分のメロディを「悲しみがとまらない」に重ね合わせてしまって。主題歌のオファーをいただいたのに、怪盗クイーンと林さんの楽曲への愛が強すぎてなかなか詞が進まず(笑)。及川眠子さんに“実はいまこういう曲を書いていて”という相談をしたところ、書いていただけることになり……そこからいろんな運命が重なって、物事が進み始めました」
――及川さんといえば「残酷な天使のテーゼ」でアニソンでの実績もありますし。
「そうなんですよ。めちゃめちゃ勉強になりました。なんとなく、この主題歌のためっていうよりも、なるべくしてなった出会いという気がしています。これは眠子さんも私も同じで、リトルブラックドレスとして長く歌い続けていける曲になったらいいなという思いがあります」
――サウンド的には、これまでのレパートリーと比べるととっつきやすいというか、転調する感じにちゃんとアニソン的なセオリーもあったりして。
「映画の制作サイドのかたからは、サーカスだから華やかな印象と、ブラスが入ったゴージャスな感じと疾走感が欲しいというお話をいただいたんです。アレンジの本間昭光さんも楽曲のシンプルなコード進行は変えずにおしゃれなウワモノを積んでいくっていう手法で主題歌らしさを出してくれたと思います」
――ボーカルは、ちゃんといつものLBD節みたいなニュアンスが感じられます。
「そもそも「野良ニンゲン」みたいな曲を作りたいなと思っていたので。たとえば「逆転のレジーナ」の<孤独さえ武器にしたら>っていう歌詞が象徴的ではあるんですが、ネガティブを武器にしてポジティブに生きていく……みたいなテーマって、私のテーマでもあるし。コロナ禍のせいで、<悲しみが変えた世界>の果てに何があるんだろう?ってみんなが考えていることでもあると思うので、この歌がヒントになればいいなという思いもあります」
――そうした新曲のリリースはもちろんですが、たとえば「CITY POP NIGHT@Blue Note Tokyo」といったコンセプトライブだったり、Inter FMの「TOKYO MUSIC SHOW」といった取り組みも、リトルブラックドレスというアーティストを形成する大切なファクターですよね。
「ライブも、ラジオも、こんな好きなことばっかりをやらせていただいてすみません!みたいな感覚です(笑)。音楽制作をしているというよりも、趣味の要素が強く出ていると思います。ただ、ライブにいらっしゃるお客様も、ラジオを聴いてくださるリスナーさんもコアな歌謡曲ファンのかたが多いので、選曲には相当こだわってます」
――リトルブラックドレスのストロングポイントって、まさにそこにあると思っていて。リト黒さんの音楽的嗜好をきちんとエンタテインメントとして成立させていることかなと。だって、凄腕ぞろいのバンドメンバーとのおしゃべりがめっちゃ楽しそうだし、お客さんも盛り上がるじゃないですか。
「ははは!ただただ楽しいばっかりで。いや、皆さんにも楽しんでいただけているのならよかったです。私には、リアルタイムで70年代、80年代のシティポップを知ってらっしゃる世代のかたの目線もありつつ、私と同世代の、シティポップを新しい音楽として聴いている人たちがキュンとなるのはどんな曲だろうっていうバランス感覚もあると思っていて」
――前回のCITY POP NIGHTでいえば、角松敏生さんのレパートリーで「CAT’S EYE」はともかく、「After 5 Crash」を持ってくるセンスがさすがだなと。たとえば同世代でシンパシーを感じるアーティストはいますか?
「いまだと海外のアーティストさんが日本のシティポップをフィーチャーしていたりするじゃないですか」
――イックバルとかNight Tempoみたいな?
「そうですね。Night Tempoは韓国ですが、アジア圏だとタイのPolycat(ポリキャット)というバンドが好きで最近よく聴いているんですけど。あとGinger Root(ジンジャー・ルート)って知ってますか?カリフォルニア出身のマルチクリエイターなんですが、Spotifyとかで偶然見つけたんだっけな……メンバーはアジア系の人なんですけど、サウンドもそうだし、たぶん髪型も山下達郎さんをリスペクトしてる感じで。Polycatはタイ風マッサージ屋さんでかかっててShazamしました。「たくさんの花」っていう彼らが日本語詞で歌っている曲があるんですけど、日本の私たち世代が解釈するよりもシティポップを客観的に聴いているような気がしてすごく刺激をもらいましたね。世界的にはラップとかが流行っていて、サビメロとかイントロとか転調がなかったりする曲も多いですけど、私は歌謡曲のよさ、日本らしさを残していきたいなっていう気持ちがありますね」
(おわり)
取材・文/高橋 豊(encore)
写真/Santin Aki
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