――ニューアルバムの話題の前に、デビュー40周年、おめでとうございます。

「ありがとうございます!」

――歌番組やインタビュー、トークバラエティなどTV出演もたくさんありました。

「40周年というタイミングもあって、私を知らない方や、最近、今井美樹はちょっと聴いてなかったかも?みたいな方に改めて知ってもらえたらと。自分のヒストリーをいちから話すのは骨も折れるし、照れ臭さもありまました。”私、本当はもっと『smile』の話がしたいのに!”みたいなもどかしさもちょっとだけ抱えつつ(笑)」

――『smile』、とてもよいアルバムですね。仕上がりには美樹さん自身も手応えを感じていらっしゃるのでは?

「いや、そこもまずは本当に感謝しかないですね。ちょっとリアルな話になっちゃうけど、私一人がアルバムを作りたいと言っても、周囲のスタッフやレーベルがGOサインを出してくれなきゃ走り出せないわけですから」

――新作を作りたいという大きなモチベーションにつながった要因のひとつは、2023年と2024年のホールツアー「Our Songs !!」の経験だったそうですね。

「はい。コロナ禍を経て、たくさんのお客様がツアーに足を運んでくださって、盛り上がってくださった。観客の多くは、私と同世代や、和洋問わず80年代の芳醇な音楽を愛聴してきた方々だったと思います。あのツアーを通して、音楽を聴いて元気になろう。頑張ろうとする、私たちの心と体に刻まれた気持ちはまだ消えていないんだ、という思いを改めて確信しました。そんな皆さんと、これから先もご一緒させていただけるように、”私はもっと頑張って、こんなふうに生きていきたい”という思いを乗せた新曲を作りたくなった。つまり2026年の「Our Songs !!」を作りたかったんですね。実際、アルバムタイトルも「Our Songs !!」にしちゃおうかとも考えたんですが、そこは大切なツアーのフラッグとしてとっておくことにしました」

――”元気になろう。頑張ろう”は、美樹さんご自身も同じ気持ちだったのでは?

「誰しも年を重ねると環境の変化や大変な出来事が増えていきますよね。若かった頃は自分のためだけに生きていた人たちも、気づけば大切な誰かを守るために一生懸命に生きることになる。私も、娘が幼い頃は育児も家事もあるなか、都度、音楽活動があると集中はするものの、やっぱりそれだけにというわけにはいかなかった。いったん自分のことは二の次にして、家族第一という日々を送ってきました。でも、ようやく娘が育って、”さあ、これからかな?”というとき、自分の体の不調やコロナ禍が重なってしまった。ロンドンで暮らしていると、戦争や紛争といった不安な情勢もよりビビッドに感じられるし、今、何を歌っても嘘くさくなってしまうような気がしてしまって……しばらくの間、心身ともに辛くて動けなかった。でも、還暦を迎えた日、本当にパーッと霧が晴れたかのように楽になって、眠っていたエンジンがようやくかかり始めたんです」

――今回のアルバムは、制作に足掛け1年以上をかけたそうですね。

「初めての経験でした。若い頃、それこそフォーライフ・レコード在籍当時は、目まぐるしいスケジュールの合間をぬって短期集中型で作っていましたから。それはそれで全力でしたし、その良さもあるにはあったんですが、こんなにじっくり時間をかけることが出来たのは始めてだったかもしれない。本当の意味で、自分のことに集中できるようになったからでしたね」

――全10曲のトータルプロデュースは今井美樹さんと布袋寅泰さん。ソングライターやアレンジャーに岩里祐穂さん、川江美奈子さん、諸見里 修さん、カワノミチオさん、河野 圭さん、梅堀 淳さん、倉田信雄さん、そして布袋さん。アレンジャーとしてフォーライフ時代の名コンビだった佐藤 準さんが参加されて。さらに、さだまさしさんからの楽曲提供もありました。レコーディングはどのように進行していきましたか?

「2024年の秋から楽曲を聴き始めて、それから打ち合わせをスタートしました。2025年2月、喉のトラブルで声が出なくなってしまったんですが、そのせいで、オープニングはこうでラストはこうで、と、より全体像のイメージが頭のなかで固まりました。そこからスタジオ作業に入ったんですが、喉のせいで全体の進行が1ヵ月遅れてしまったので、サウンドプロデュースを河野 圭さんにお願いする曲を決めて、ほかの曲の選定をしているうちに、布袋さんが途中から、よければ入るよ?と全体のプロデュースワークをまとめてくれて、全体の景色が見え始めたのが夏以降でした。結果的にはアトランダムな進行でしたね。制作中は周年のことはあまり意識していなかったのに、結果的にはとても周年らしい内容になりました」

――『smile』は、前述のダンサブルな洋楽黄金期のグルーヴを体現した2015年の『Colour』や、同じ空の下、同じ時代を生きているという思いを綴った2018年の『Sky』で提示されたメッセージやサウンドアプローチの集大成でもあり、かつてのワーナー時代の再解釈もあれば新機軸もあって。シンガー、今井美樹が新たなタームを迎えた意欲作だと感じられます。

「そう感じてもらえたらうれしいです。私としても、たくさんのトライアルがあったので。自分からだけでは絶対に出てこない発想もサウンドも言葉もたくさんあるし。それのすべてがちゃんと“いい曲”というシンプルな結論に繋がってくれたと思います」

――さださんからの初めての提供曲「美しい場所~Final Destination~」が誕生した経緯は?

「2024年の冬にさださんのツアーにおじゃましたんです。噂通りのMCの面白さと、噂以上の歌の素晴らしさで、ぜひともお願いしたいと思い、ほぼおまかせでオファーをさせていただきました。さださん、最初は、”え?美樹ちゃんが!”とびっくりされていたそうで(笑)。曲をいただいて、なんて大きな曲で、なんて大きな御方だろうかと感動しました。サウンドは布袋さんと相談して、古田たかしさん、根岸孝旨さん、黒田晃年さん、倉田信雄さんたちにお願いして、力強いバンドサウンドとストリングで固めました。さださんのバイオリンとコーラスが入ったとき、つぼみだった花が見事に咲いて、”ああ、こんなに綺麗な花だったんだな”って。自分がこれからも歌っていくための大きな一曲をいただけましたね」

――そして岩里さん、川江さん、布袋さんという作家陣は、シンガーであり一人のリアルな生活者としての美樹さんに当て書きをしてくれて。アーティスト、今井美樹の大きな武器であり大切な宝ですね。

「とてもありがたいですね。皆さんと会話もたくさん重ねていますし、今の私が歌いたいこと、歌わせたいことを曲に込めてくれています。作家として、”美樹を攻略したい”と力を振り絞って面白がってくれている感じもあるのかもしれない(笑)」

――佐藤 準さんは「One more smile」、「あの頃の自分」の編曲で参加されています。改めて、佐藤さんはどんな手腕の持ち主ですか?

「フォーライフ時代、プロデューサーの松田 直さんが、いちばん信頼していたアレンジャーが準さんでした。準さんは常にその曲に合ったミュージシャンを的確に揃えてくださる名手。魔法をかけて違うものを、ではなく、その曲とミュージシャンのいちばんいいところをもれなく吸い上げてくださるんです。「One more smile」では、スーパーバンド、山木秀夫さん、高水健司さん、今剛さんを集めてくださいました。彼らの演奏を聴いて、現在のスタッフのみんながとても感動していました。かつてご一緒していた私としては”ふふん、私は知ってたもんね!”って、かなり誇らしい気持ちでした(笑)。レコーディングを終えて帰られるとき、高水さんがぼそっと、”ありがとう。俺たち美樹ちゃんとできたのもうれしいし、準さんのアレンジ、本当に好きなんだ”と言ってくれて、もう、胸がいっぱいになっちゃいましたね」

――その一方で、「青空とオスカー・ピーターソン」には石若 駿さん、なかむらしょーこさん、真壁陽平さん、「私のアリア」には作曲・編曲も手がけた諸見里 修さんらが参加されています。大ベテランと脂の乗った世代のプレイが一度に聴けるのも、このアルバムの楽しさです。

「しょーこちゃんや真壁くんはツアーにも参加してもらっているし。石若さんは河野さんからのリコメンドでした。そこはやっぱり河野くんの嗅覚の鋭さですね。これも結果的にですが、大ベテランが放つ本物の光と、若い世代が放つスピード感のあるエッジィな光に彩られたアルバムになりました」

――無事リリースを迎えて、5月からは「今井美樹 40th Anniversary “Our Songs!!” TOUR 2026 ~smile~」がスタートします。改めて、『smile』は美樹さんにとってどんなアルバムになりましたか?

「文字どおり、本当の自分の笑顔を取り返した一枚になりました。コロナ禍や心身の不調もあって、いつの間にかどうやって笑っていいのか分からなくなっていた私が、2回のツアーで、ようやく笑うことができた。誰もが誰かと共に生きて、誰かのために一生懸命尽くしながら、社会や家族の一員として生きている。そこで人や社会との接続装置のような役割をするのがスマイルだと私は思うんです。もっと音楽を味わって、もっと人生を楽しんで、もっと誰かに感謝を伝えて、もっと誰かにやさしくなるためにも、まずは自分自身の中にある喜びを、本当の笑顔をつかまえなければならない。そこに改めて気付かされたアルバムでしたね。リスナーの皆さんにも、そんなふうに聴いてもらえたらうれしいです」

――40周年のいま、”あの頃の自分”、デビュー当時の今井美樹に何か言葉をかけられるとしたら?

「えー!? そうだなあ……まずは何と言っても本当に皆さんのおかげです。私は本当に素晴らしい人たちとの出会いでここまで生かされてきたと思います。その時々で出会った人たちから授けられたバトンのおかげで音楽をやってこられた。当時の私は私のことをまったく理解していなかったけれど、出会った方々は私をちゃんと見てくださって、奔放だったり怖がりだったりした私の個性を面白がってくれました。だから、”迷わず行けよ”とまでは言い切れないけれど、”あなたは本当に素晴らしい人たちに囲まれているよ”とは言ってあげたいかな。”若気の至りは買ってでもしろ”(笑)。やっぱり恥って若い頃しかかけないし、臆しちゃダメだなって思います。恥なんてあとで絶対に取り返せますもん。あとは”へこたれず、よくここまで来たね、頑張ったね”と言ってあげてもいいのかな(笑)」

――たしかにそうかもしれませんね。最後に今後のビジョンをお聞かせください。

「正直、体と喉がいつまで持つかという問題はありますけど、できるだけ頑張っていきたいですね。あとは、今回のように大人数が関わる作り方と対称的に、いつか誰かと自宅でチクチクと裁縫をするような作業もしてみたい。私、アマチュア時代やバンドを組んだみたいな経験が無いままここまで来ちゃったので。スタジオに籠って、ロンドンの小道にある家の煙突から登る煙のようなコージーな音を目指してみるのもいいかもしれない。実は、還暦で霧が晴れるまで、本当に気弱だったので、”私はどうやって今井美樹にピリオドを打とうか?”ばかりを考えていました。でも、今は音楽をやれることが昔以上に楽しいし、もっとそう思えるようになりたい。新しいチャレンジを笑顔で楽しめる次の自分に出会えたら幸せですね。それが今はいちばんのビジョンです」

(おわり)

取材・文/内田正樹


今井美樹 40th Anniversary“Our Songs!!” TOUR 2026 ~smile~LIVE INFO

5月16日(土)サンシティ越谷市民ホール 大ホール
5月17日(日)クアーズテック秦野カルチャーホール(秦野市文化会館)
5月22日(金)アルカスSASEBO 大ホール(長崎)
5月24日(日)福岡市民ホール 大ホール
5月30日(土)倉敷市民会館
5月31日(日)ふくやま芸術文化ホール リーデンローズ 大ホール(広島)
6月4日(木)カルッツかわさき ホール(神奈川)
6月6日(土)やまぎん県民ホール 大ホール(山形)
6月10日(水)カナモトホール(札幌市民ホール)
6月13日(土)フェスティバルホール(大阪)
6月14日(日)フェスティバルホール(大阪)
6月20日(土)フェニックス・プラザ エルピス大ホール(福井)
6月21日(日)本多の森 北電ホール(石川)
6月26日(金)iichiko総合文化センター iichikoグランシアタ(大分)
6月28日(日)熊本城ホール メインホール
7月4日(土)アクトシティ浜松 大ホール
7月5日(日)栃木県総合文化センター メインホール
7月11日(土)愛知県芸術劇場 大ホール
7月12日(日)愛知県芸術劇場 大ホール
7月18日(土)新来島高知重工ホール(高知県立県民文化ホール) オレンジホール
7月20日(月)サンポートホール高松 大ホール
7月25日(土)仙台サンプラザホール
7月26日(日)奥州市文化会館Zホール
8月2日(日)Bunkamura オーチャードホール(東京)
8月6日(木)東京国際フォーラム ホールA

今井美樹『smile』DISC INFO

2026年2月11日(水)発売
初回限定盤A(CD+Blu-ray)/TYCT-69376/8,800円(税込)
初回限定盤A(CD+DVD)/TYCT-69377/8,800円(税込)
初回限定盤B(CD+Blu-ray)/TYCT-69378/8,800円(税込)
初回限定盤B(CD+DVD)/TYCT-69379/8,800円(税込)
通常盤(CD)/TYCT-60258/3,630円(税込)
ユニバーサル ミュージック

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