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――新作『Sky』は3年ぶり、通算20枚目のオリジナルアルバムです。シンプルなワンワードのタイトルですね。

「ギリギリまで悩んで、こう名付けました。早い段階から頭には浮かんでいた言葉だったんですが、あまりにも直球なのでむしろ“これはないな”と避けていたんです。でもやっぱり、ある意味、アイコンとしての響きを持った“空”でいいなと思えました」

――詞曲でも参加していますが、プロデューサーには初めて亀田誠治さんを迎えました。

「一点の曇りも持ち込まない、明るくて朗らかな方です(笑)。ちょうど制作を開始する時期に、たまたま制作スタッフの入れ替かわりが生じたこともあって、どうせ環境が新しくなるならば、新しい試みもしてみたいなあと思って。布袋(寅泰。今井のパートナーであり本作のプロデュース、詞曲も手掛けている)さんもよく知っていたのでお願いしようと」

――亀田さんは、言わばJ-POPのど真ん中で活躍している代表選手ですが。

「達人ですよね。私は近年のJ-POPというものをあまりよく分かっていませんし、私と布袋さんはそもそもJ-POPという感覚をあまり持ち合わせていない。だからこそ、いまの日本の市場に私の音楽が上手く届くよう、その術を持った亀田さんに船長を委ねました」

――レコーディングはどのような様子でしたか?

「私は初めての方にお会いすると、必ず“千本ノックで遠慮なく鍛えて下さい!”とお願いするんです。キャリアを重ねると、どうしても気を遣われる場面が増えていきがちになるけど、私はそういうのが要らない人なので。で、亀田さんが“いまのテイクでOKです!”と言っても私の方が“まだまだ!”とねばって、何度も歌入れをやり直したりしていたので、レコーディングを終えた亀田さんから“千本ノックされたのは僕のほうでしたね”と言われてしまいました(笑)」

――パワフルな今井さんらしいエピソードですね(笑)。今回の楽曲提供陣には、これまでも今井作品を手掛けてきた布袋さん、そして「瞳がほほえむから」、「PIECE OF MY WISH」の岩里祐穂さん、「愛の詩」、「あなたがおしえてくれた」の川江美奈子さん、さらにいしわたり淳治さん、川口大輔さん、そして初の顔合わせとなった大橋トリオさん、蔦谷好位置さん、土岐麻子さん、BONNIE PINKさんといった、豪華かつバラエティ豊かな面々が参加されています。

「蔦谷さんは、1曲目の「同じ空」をごいっしょさせていただきました。いしわたりさんの歌詞を、メロディのスピード感を落とさずに歌うにはと考えた時、亀田さんが蔦谷さんを推薦して下さったんです。土岐さん作詞の「Misty」を作曲して下さった川口さんとは久し振りの再会でした。彼らとの仕事はいろんな意味で新たなトライになりましたね」

――岩里さん、川江さんについては?

「岩里さんは素晴らしい言葉のセンスを持った長年の大事なパートナーですね。今回の「Greatest Moments」という曲では、同世代の女性の毎日をミュージカル仕立てのストーリーで描いてくれました。川江さんとも、もう10年以上のお付き合いです。着慣れたシャツのような心地良い曲を提供して下さいます。彼女と私は体温がとても近い気がします。女性ボーカルというものをしっかりと研究されていて。今回の「雨上がり光る花のように」は、パリッとしているけど、決して明る過ぎず、憂いも帯びていて、それでいて前を向いて歩いて行こうとする女性の姿を描いて下さいました。制作のやりとりの中で、彼女は“この曲は私なりの反戦歌なんです”と話していました。また、離れている人へ届けたい想いを描いた「Little Tiny Songs」は、日頃は遠く離れているけれど、私はいつも“あなた”へ歌っていますという、私が抱くリスナーのみなさんへの想いでもありました」

――土岐さんや大橋トリオさんについては?

「彼らはみんな、私自身がかねてからのファンだったのでお願いしました。土岐さんには「Misty」の作詞をお願いしました。年齢こそ彼女のほうが下ですが、私は彼女に憧れにも似た感情を抱いていて。たとえばカバー曲の選曲や、その取り入れ方のセンスの良さ、そして何より音楽と声に対する嗅覚が本当に素晴らしい。「Misty」はちょっと都会的な雰囲気の曲で、かつて自分が上京した頃の原宿や青山界隈の、ちょっと胸がキュンとするキラキラとした情景を思い出しました。大橋トリオさんも大好きなアーティスト。以前、カバー曲でごいっしょしましたが、今回は彼のオリジナルです。「Blue Rain」で叶って本当にうれしかったです。たとえば木々が綺麗だとか、日々の何でもない時間の中に、多くの感動がありますよね?もちろん、それを自分の日記に書いたり、写真を撮って保存してもいいんですが、でもそれ以上の何かを感じる時がある。私の場合、それが歌へと繋がっていく。そうした心情を、これほど丁寧に掬ってくれたことが本当に嬉しくて、曲を聴いた時には思わず涙が溢れてしまいました」

――BONNIE PINKさんについては?

「BONNIE PINKさんとは以前から面識はあったんですが、亀田さんネットワークで久々に繋がりました。数年前にイギリスのO2アリーナでビヨンセのライブを観たんですが、あの圧倒的な迫力を持つ彼女が、ものすごく美しい曲を歌った時に、お客さんが一体になった様子に感動しました。それを亀田さんに話したら、“BONNIE PINKちゃんでトライしてみようよ”ということになりました。この「Free to Fly」という曲のデモが届いた時、もちろん彼女は、彼女の中の“今井美樹”にあてて書いてくれているんですが、聴いてみると、シェリル・クロウみたいなカッコいい曲で“これは彼女の新曲でもいいんじゃないか !?”と言ってしまいました(笑)。私としてはちょっと怖いもの見たさでチャレンジした曲でしたね。聴いていて、思わず身体が揺れるような曲だと思います。私はリスナーの皆さんからバラードのイメージが強いそうなので、何となく自然と首や身体を振ってもらえるような曲がほしかったんです」

――こうした様々な物語を歌うにあたって、ボーカルで意識したことは?

「意識するというよりも、土岐さんも大橋トリオさんもBONNIE PINKさんも本当にファンだったので、彼らの歌が入ったデモ音源が届く度に、私は“これはもう彼らの新曲!このままがカッコいい!”、“どうやって自分の曲にしていけばいいの?”などと、嬉しい悲鳴を上げていましたね(笑)」

(つづく)

取材・文/内田正樹



後編は6月20日(水)公開予定です。





今井美樹『Sky』
2018年6月6日(水)発売
TYCT-60116/3,000円(税別)
Virgin




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