――力強いエールソングが多かったアルバム『from here』のリリース後、「ヒトコキュウノ」、「シークエル」と、また違うタイプの楽曲を配信リリースされている印象があるのですが、どんな心境の変化があったのでしょうか?
「楽曲をリリースさせてもらい、アーティストと呼んでもらっている以前に、僕は“声優”という職業だからこその視点があるって再確認したんです。それは具体的にどんな視点だろう?と考えた時に、キャラクターとの親和性や感情移入という部分だと思いました。もともと僕はディズニーが大好きなんですが、それは歌に感情を乗せることで物語を感じるからなんだっていうことにも気づいたんです。なので、デジタルシングルに関して、もう少しファンタジー要素を強めていこうと思うようになりました。CDでリリースする楽曲には、青春や、リアルな感情、さらに等身大な気持ちを曲にしているので、デジタルとCD、そこで違うラインを作って行こうと考えました。そうすることで、いろんな人に“こういう面もあるんだな”と思って聴いてもらえるきっかけにもなりますし、裾野が広がるのかなと思ったんです」
――なるほど。デジタルとフィジカルでジャンルを分けるという試みは初めて聞きました。確かに、すごくいい発想ですね。
「ありがとうございます。デジタルって、なんとなくファンタジーの雰囲気もあるじゃないですか」
――たしかに! ちなみに、小さな頃からディズニーが好きだったんですか?
「はい。声優になるきっかけを作ってくれたのがディズニー映画なんです。小さな頃に、母親がディズニー作品のビデオを買ってきてくれて。そこには、日本語吹替えと字幕スーパー版があることに初めて気づいて、同じキャラクターなのに声が違うことに驚きました。さらに、キャラクターたちが、歌を通して成長していく姿に、すごく勇気づけられたんです。それからは、ディズニーの曲を歌うのも聴くのも大好きになりました」
――当時からよく歌っていたんですね。
「歌っていましたね。お母さんにモノマネをした歌を聴いてもらったりしていて(笑)。今思うと、一番最初のお客さんは、お母さんでした。ちなみに、今でもよく見直すのは、『アラジン』で、中でもジーニーが大好きなんです。ジーニーは魔法で声も変えられるんですよ。のちにその声が山寺宏一さんだということを知ったんですが(笑)、当時から食い入るように見ていました」
――『アラジン』で好きな楽曲は何ですか?
「「フレンド・ライク・ミー(ボクは大親友)」です。今聴いてもウキウキしますし、ワクワクします。この曲を聴くと、次はどんな魔法が出てきて、どんなところに連れてってくれるんだろう?という子供心をくすぐられるんです。それに、ジーニーのポジティブなマインドはすごく素敵ですし、一番の宝物は友だちなんだということも教えてくれました。…ジーニーの話だけであと何時間も話せちゃうんですけど(笑)」
――ちょっとこのあたりにしておきましょうか(笑)。
――新曲「プラシー」も、すごく物語性がある曲ですよね。
「はい。この曲からは、『トイ・ストーリー』の世界観を感じてもらえるんじゃないかな?と思っています。今年の初めに実家に帰った時に、ふと“小さな頃に大事にしていたぬいぐるみがあったな”って思い出したんです。キツネのぬいぐるみだったんですが、どこに行くにも、眠るときもずっと一緒だったんです。でも、そのキツネの子は、一体どんな感情だったんだろう?と思って、そんな心情を表す楽曲を作ってみたいと思ったんです」
――素敵ですね。ちなみに名前は付けていたんですか?
「名前はつけてなかったですね(笑)。でも、どこに行くにもその子がいてくれたら百人力になれる気がしていて。相棒、兄弟のような存在でした。でも、自分が成長するにつれて、他に友達ができたり、部活が始まったりして、自然と離れてしまっていたんです。もちろん、それは当たり前のことだけど、ぬいぐるみからしたら、とっても寂しい事なのかな?、それとも嬉しい事なのかな?と思って。そんな気持ちでレコーディングに臨みました」
――聞いただけで泣きそうになります…。
「あはは。誰にでもそういった存在がいるでしょうし、子育てをしている方には子供たちに重ねて聴いてもらえたら嬉しいです」
――楽曲制作はササノマリイさんですが、楽曲を制作する際に、どう気持ちを伝えたのでしょうか。
「もともとササノさんが作る楽曲はファンタジー要素が強くて、感情がグッと動く物語性の強い曲が多いですし、すごく温かい曲を作られる方なんです。聴いていると温度が穏やかに上がっていく曲が多いと思ったので、今お話ししたように伝えたら、最高の楽曲を届けてくれました。僕が描いていた以上の素敵な曲だったので、“まさにこういうことを言いたかったんです!”とお伝えしました」
――世界観がしっかりしているからこそ、歌うときもすごく楽しかったのではないでしょうか?
「そうですね。自分の中にしっかりと歌いたい世界観が定まっていたからこそ、すごくスムーズに歌うことができました。それに、1つ1つの歌詞のワードを丁寧に歌いたいと思っていて。ぬいぐるみからすると、人間とのコミュニケーションで、円滑に進めるために嘘をついたり、自分を良く見せたり、そんなことをしなくていい。だからこその歌い方があるんじゃないか?と思ったんです。それに、歌にもいろんな技術がありますけど、そういったテクニックをできるだけはぶいて、大事なところだけアクセントとして入れられたら…と思って、すごく丁寧に聴こえるように、そして“聴き手にとどきますように”という祈りのような歌い方でレコーディングをしました。ポツポツと歌いながらも、そこに感情がしっかりと入るような、そんな歌になったと思います」
――ものすごくしっかりと“伝わる”曲になりましたね。
「ありがとうございます。きっと、みなさんにも大切な思い出ってありますよね。自分の中に残り続けて、輝き続けるものって、これから先に進むときに大きな栄養になります。それに、お子さんがいる方なら、その輝きを子どもにバトンタッチする意味もあり、繋がっていく絆のようなものを届けていきたいと思いました」
――きっと、こんなにも共通した体験を持つ思い出ってあまりないと思うんですよね。
「僕もそう思います。だからこそ、いろんな世代の人に届いてほしいです。どうしても忘れてしまうことってありますよね。毎日忙しいですし、余裕もないですし…。でも、こういったことを思い出し、自分が拠り所にしたい温かい部分を思い出して、豊かな気持ちをもう一度思い出してくれたら嬉しいです」
――まさにそのあたたかな部分を表現するかのようなジャケットもすごく素敵ですね。
「とってもかわいいですよね。よくみると、くまちゃんと男の子、どちらも同じマントをしているんです。そこに“ヒーローごっこをしたのかな?”とか、“いろんな夢があるんだろうな”など、考察してもらえたらより楽しんでもらえると思います。さらに、このジャケットのイラストはMVとすごくリンクしているので、一緒に楽しんでもらいたいですね」
――これまで山下さんのMVは考察しがいのあるものが多かったですが、今回はいかがですか?
「今回は、驚くほどストレートなものになっています。ちゃんと伝えたいという気持ちが大きかったので、これまでは答えを出さないMVでしたが、しっかりと答えが出た作品となりました。きっと、みなさんがこのMVを見て、一緒に“楽しいね”って共有できるものになっていると思います。この曲を聴いて、大事だったもの、大切にしていたものを思い出してくれたら嬉しいです。やっぱり、物ってすごく思い出が宿るんです」
――わかります。
「でも今は、すごく便利な時代になってしまって、流行り廃りも早いですよね。でも、こういった大事なものがひとつあると、大人になってもそれが勇気づけてくれるんです。そういうことも伝えていきたくて、姪っ子、甥っ子には積極的にプレゼントを渡すようにしています。この前も、プリンセスの洋服を贈ったら、すごく気に入ってくれました。“これ着て保育園に行く!”と言ったみたいで(笑)」
――それもいい想い出になりますしね。
「そうなんですよ。たくさんの思い出をいろんなものに宿してもらいたいです」
――そして9月7日には『Daiki Yamashita 2024 DAIKING Festa Vol.3』が開催されます! どんなイベントになりそうですか?
「これまでのDAIKING Festaは、トークがメインだったんですけど、今回は楽曲も増えたことですし、歌をメインにしたいと思っています。喋る場はかなりあるんですが、僕自身が歌っている姿を披露することは多くなかったんです。なので、トークよりも、歌っている姿をたくさん見てほしいと思って、今回は構成を変えてみました。みなさんに喜んでもらえたら嬉しいです。そして、ゲストに仲が良い畠中祐くんを迎えます!」
――これは豪華ですね!
「話していて気をつかわなくていい、砕けて話せる数少ない友だちなので、深いところまで話せるんじゃないかな?と思っています。さらに祐くんも歌っているので、ちょっとしたコラボもできるのでは…と思っていて。楽しみにしていてほしいです」
――そして、もう下半期に入り、年末が見えてきていますが、今年のうちにやりたいことはどんなことですか?
「僕は食べるのが大好きで、いろんなところを食べ歩いているんですが、最近は朝の5時からやっているラーメン屋さんに興味があるんです。一体どんな客層なのか?って純粋に気になります。あとは、大好きなかき氷をたくさん食べたいですね。最近お気に入りのお店があるんですが、ちょっとこれは教えられません(笑)。 とはいえどのお店もかき氷は特色があって美味しいので、みなさんも、自分好みのかき氷を探してみてください(笑)」
(おわり)
取材・文/吉田可奈