――現在、好評オンエア中のTVアニメ『転生貴族の異世界冒険録〜自重を知らない神々の使徒〜』のオープニングテーマを担当することになった心境から聞いてください。

「“オープニングテーマだよ”って聞いたときには、“責任重大だ!”というドキドキ感がありました。エンディングテーマは作品を見終わった後の余韻を感じながら聞いていただけると思うんですけど、オープニングテーマはテレビアニメの看板というか、その作品をイメージ付ける大きな要素になるなと感じていて。いろいろな人が作品を見る入口になる責任感を感じつつ、久しぶりのオープニングテーマだったので、ワクワクする気持ちもありました」

――ご自身もシルク・フォン・サンタナ役で出演されている作品ですよね。

「はい。でも、実はレコーディングをさせていただいたときはまだオーディションの最中だったんです。“私はそもそも受かるのだろうか?”、“何役なんだろうか?”、みたいなところにいて」

――オープニングテーマを歌うことが先に決まってたんですか?

「そうなんです。歌のお話が先でした。なので、“シルク役で出るんだ、よし!”というよりは、原作を読んで作品の雰囲気を知って、レコーディングでは“素で歌おう”といった気持ちが強かったです」

――それは、内田さんとしては珍しいアプローチですよね。いつもは“登場人物の気持ちを代弁する”、“作品の彩りになるように考える”とおっしゃっているので。

「はい。歌入れも、アフレコの空気感を知る前に録音したので、本当に自分だけの感覚で録らせていただきましたね」

――歌の話にいく前に、原作を読んだ感想も聞かせてください。

「この作品の主人公の男の子はまだ子供で、10歳〜12歳ぐらいのお話がメインになっていて。ヒロインもちっちゃいですし、“ほんわかした、とってもかわいらしい雰囲気に包まれているな”と思いました。あとは、王様や偉い伯爵、おじさまやおばさまとか、みんなに好かれる主人公のドタバタ要素もあって、“すごく親しみやすい作品だな”と思いながら、原作のコミカライズ版を読んでいました」

――原作の雰囲気を掴んだ上で、楽曲を受け取った時はどう感じましたか。

「イントロからもうすごくワクワクして、“これから冒険が始まっていくんだ!”というキラキラ感が“オープニングっぽい!”と思って、すごく嬉しかったです。コロナ禍では、どちらかというとしっとりした曲を歌う機会が多くて、ライブもなかなかできていなかったんです。無観客のオンラインライブだったり、オーケストラさんとのライブだったり、“どうしたらみんなに寄り添う形で楽しめるんだろう?“っていうことを模索していた期間が長かったので、王道のアニメソング楽曲は久しぶりでしたし不安もあったんですけど、気持ちが若返ったような感じがありました」

――歌詞はどう捉えましたか?

「まだコロナ禍でどうなるかわからない時期だったんですよ。主人公は人を助けて、現世では死んでしまうんですけど、“暗闇から抜け出したい、抜け出せない”みたいな感じが、世の中のムードに合ってるなっていう気持ちがして。転生して、知らない世界に飛ばされるんですけど、“そこから一歩ずつ進んでいこう”という原作のストーリーと歌詞が、早くコロナ禍から抜けだしたい葛藤とか、“みんなと早く会いたい”私個人の気持ちと重なったような気がしています」

――特に共感したフレーズはありましたか?

「1行目から<思った通りの展開なんていらない/イマイチな昨日にはバイバイ 遠い過去にしちゃいたい>にグッときて。<小さな希望/きみと分け合いたい>もそうで、気持ちが乗るような歌詞でした。ちょうど、ソロデビューして5周年を記念したライブの日がコロナ禍に入って最初の自粛期間とかぶってしまって、中止になっちゃったんですよ。それが本当に悲しくて、悔しくて。でも、“負けたくない!”という気持ちから、スタッフさんと相談して、会場から無観客配信をやることになって。5周年ライブをそのままやるのではなく、急遽セットリストを新しく作りなおして、配信だけでも成り立つようにしたんです」

――あの時、声優アーティストによる無観客配信ライブは内田さんが一番最初だった記憶があります。

「新しい感覚を見出せたところもあって、そこから、みんなが声を出さずに楽しめる方向を模索するようになりました。一つ一つを“負けない!”っていう気持ちで、いろんなことがあったけど、ファンのみんなとも思いを分かち合えた気がしたし、それがこの曲の歌詞の1つ1つのフレーズに詰まってる気がして」

――歌詞には<数えるくらいの大事にしたいもの>というフレーズがありますが、内田さんにとって<大事にしたいもの>ってなんですか?

「ソロデビューして歌わせてもらってるのが…大変なことも多かったんですけど、もう本当に楽しくて。現場でも大体、いつも“うるさい”って言われるぐらい盛り上がりながらやれているし(笑)、同業者の子にも、“いいチームでやれて楽しそうだね。仲いいね”って言っていただけることがすごく多くて。なんて恵まれてるというか、ありがたいんだろうなって…好きな仕事を好きな人たちと楽しくできるってなかなかないじゃないですか。それをそのまま、見ている人に届けられるって本当に幸せなことだと思うんです」

――そんな環境って素敵です。歌の仕事が大事なものになっているんですね。

「アニメ作品や吹き替え作品、ラジオやナレーションと、声優にはいろいろな仕事がありますけど、やっぱり作品や番組があって成り立つものだと思うんです。だから、役を演じているときは、その作品の伝えたいことや役の気持ちは話せるけど、自分自身の思いを伝える機会はあまりないんですよね。でも、ソロ活動をさせてもらってから、役じゃない、人間同士の関わりができていって、自分の思いも伝えられるようになりました。特に、コロナ禍は作品のイベントの中止が増えてしまって…、でもソロ活動だからこそ動けたことは強みだと思うんです。配信ライブだったり、オーケストラのライブだったり、自分に対しても、“私にはまだできることがあるんだ”と心の支えになっていました」

――それは、大きな変化ですね。コロナ禍に入る直前の2020年3月にリリースした4thシングル「Reverb」の頃は、“裏方の人間になりたかったので、こんなに自分が前面に出たくなかった”とおっしゃってました。

「当時は、本当にその通りでした(苦笑)」

――でも、今はソロで歌う場や一緒に楽曲やライブを制作していく仲間が大切になってるんですね。

「はい。失敗することも多くて…例えば、ライブ中にセットから落ちちゃうとか、何かハプニングを起こしても、とっさにバンドメンバーの皆さんがメドレー形式で繋いでくれたり、裏ではスタッフさんが整えてくれたり。何事もなくはないんですけど、ちゃんとその場を誰かが守ってくれる。今までは“私がやらなきゃ”みたいに思っていた部分にも、支えてもらっているという信頼感が生まれました。あとは、ライブができなくなったり、収容人数を半分にしたり、“声出しはしないで”ってなった時に、私がやりたいと思ったことをスムーズに叶えてくれる皆さんに囲まれていたので、心が折れずにやってこれたというか。“じゃあ、こういうふうにしてみよう”って、一緒にたくさん考えて、同じ方向を向いてくれる人たちがいるっていうのが本当にありがたかったですね」

――こうしてお話を聞いていると、「Preview」の歌詞にある<ひとりがふたりになって みんなになって 重なり合う声>というのも内田さんのソロ活動を表してるように感じます。歌入れはどんなアプローチで臨みましたか。

「オープニングで楽しい曲だったので、弾むように楽しく明るく歌おうかな?とか、最初はいろいろ考えたんですけど、どんどん自分の気持ちに重ねていって、まっすぐな表現になったと思います」

――アニメ絵についたのを見た時はどう感じましたか。

「私なりにいろいろ想像はしていたんですけど、出来上がったオープニングを見たら、想像以上に楽しい映像になっていました。だから、もし、映像を見た後にレコーディングしていたら、もっと違う歌い方になっていたかもしれません」

――アニメの映像と別にミュージックビデオも制作されています。

「MVとしては初めましての監督さんなんですけど、今まではリリックビデオを担当してくださっていたWAKAMEさんにお願いしました。これも、以前のインタビューで言っていたかもしれないですけど、やっぱり私は自分自身を見られるのが恥ずかしくて…(笑)」

――(笑)おっしゃってましたね。“いいです、私は…”というタイプだと。

「だから、歌詞と楽曲でリリックビデオを作ってもらえたことがすごく嬉しかったですし、映像もとってもお気に入りだったので、今回WAKAMEさんにMVをお願いしました。最初に送ってきてくださった絵コンテだけでも楽しみで、期待しかなかったですし、出来上がってみたら、“なんだこれ?”っていう不思議な世界になっていて」

――実際の撮影はどうでしたか?

「その場で“こういうのやってみよう”と相談しながら作れたので、それが自分の性分に合っていたし、すごく楽しかったです。細かな絵コンテがあって、そこにはめていくのが好きなんだなって思いました。あと、出来上がってみたら、思ってたのと全然違うシーンもあったり、“こういうふうになるんだ!?”っていう驚きもありました」

――想像と違ってたシーンというのは?

「何かよくわからない謎の物体と私が向かい合ってるじゃないですか。何も知らなかったので、あれができてきたときにすごいびっくりして」

――あのペールブルーのモンスターは現場にはいなかったんですか?

「そうなんですよ、あれ、CGなんです。しかも、どうなるかなんて全然知らなかったので、“あれ?なんか可愛いモンスターがいる!”と思って」

――とてもカラフルでポップでキュートでシュールな映像になってますよね。ドーナツやオレンジが出て来たり、ホテルがピンクマゼンダだったりするのは、これまでの楽曲とリンクさせているんですかね?…ネギをマイクに見立てているのは、内田さんが群馬出身だからかな?と思ったりしましたけど。

「ネギは不思議すぎましたけど、監督さんが、今までの活動をプレビューしてくれてるんじゃないかな?って思いました」

――箱から飛び出すシーンもありましたね。

「ふふふ。私は昔からジャンプして撮影されることに定評があって。すごく綺麗にぴょんって飛べるんですよ。“よし、今回も来たぞ”と思って、その場で私はひたすら何回もぴょんぴょんと飛んでいたんですけど、意外と不格好な、びよい〜んっていうジャンプが採用されてました」

――(笑)ウエス・アンダーソンの世界のような質感もあって、何度も見たくなる映像になってました。

「アニメーションのように作り込まれた世界観に自分が入ってるような仕上がりになったので、アニメのオープニングを聞いて見に来てくれた方にも気に入ってもらえたら嬉しいです」

――もう1曲カップリングにアニメの挿入歌として使用される「Endless roll」が収録されています。

「これも「Preview」と同じく王道で、この2曲が1枚になるのはすごくいいなって思いました。最初はもうちょっと明るく歌うつもりだったんですが…2曲に共通しているのは、“今だから歌えた”楽曲かなと思います」

――今だから歌えたというのは?

「やっぱり7年やらせてもらったことが大きいですね。その中でいろんな思い出があるし、コロナ禍も乗り越えてきました。きっと、デビューしたばかりだったら歌えなかったかもしれません。“いっか、ちょっとベテラン感が乗っちゃっても”って気持ちで歌ってます(笑)」

――ある程度、経てきたものがないと深みが出ないですもんね。

「最初に“アニメの挿入歌に使われる”という話は聞いていたので、あんまり重苦しい感じには歌いたくなかったんですけど、コロナ禍のソロ活動の流れを思い返して乗せられた感情もあったりして」

――タイトルも「エンドロール」でありつつ、「エンドレス」という気持ちも入ってます。

「レコーディングは1年以上前だったので、まだまだ先の見えない状況だったんですよ。この楽曲を出して、”ライブで歌える日はいつになるんだろう?”とかいろいろと考えながら、とにかく後悔のないようにと気持ちを込めました。」

――旅の始まりを歌った「Preview」には<夢><未来><これからの続き>というワードがあり、終わらない旅の途中を思わせる「Endless roll」にも、過去に感謝しながら<これからもずっと刻み続けよう>と歌っています。アーティストデビュー8年目を迎え、どんな未来を見ていますか。

「この取材日が、世間的にはちょっとひと区切りついたような日なんですよね」

――そうですね。コロナがちょうど2類から5類になった日です。

「世間もちょっと明るくなってきた頃に発売できるということで、みんなにも直接会えるタイミングも多くなったので、私にとっても、皆さんにとっても明るい一歩を踏み出せるような1枚になってほしいと思うし、いつか以前のように戻って、ライブができるようになったらいいなと思いますね」

――先日、グランドオープンしたばかりのアニメイト池袋店で先行発表会も行いましたね。

「「Preview」を含む4曲を歌わせていただいたのですが、声出しも解禁になって、やっぱりみんなのコールが入るとすごく素敵な時間になって。スタッフさんも自分も、みんなが感動してしまって、急遽夜の部のセットリストを変更したくらい、やっぱりライブってみんなで作るものだなって感じたんです。まだまだ完全にとはいかないかもしれないですけど、たとえ規模はちっちゃくても、みんなが集まれる場がちょっとずつ増えたらいいな。年を重ねて変化することがあっても、それをプラスに変えつつ、これからも活動を続けていきたいなって思うようになりましたね」

(おわり)

取材・文/永堀アツオ

RELEASE INFORMATION

内田彩「Preview」

2023年524日(金)発売
限定盤(CD+Blu-ray)/COZC-2018-96,600円(税込)
日本コロムビア

限定盤購入はコチラ

内田彩「Preview」

2023年524日(金)発売
通常盤(CD)/COCC-181181,430円(税込)
配信リンク:https://ayauchida.lnk.to/Preview
日本コロムビア

通常盤購入はコチラ

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