オスカー・ピーターソンは前回の巨人、バド・パウエルとは対照的なピアニストです。若干気難しいところもあるパウエルに比べ、ごくふつうの音楽ファンにも受け入れられるポピュラリティがピーターソン人気の秘密でしょう。それを支えるのは、圧倒的なピアノの演奏技術と快適なリズム感によって生み出される、陽気な音楽性です。

パウエルに限りませんが、どちらかというと「ブルージー」という言い方に象徴されるちょっとダークなテイストがジャズの魅力でもあるのですが、人種差別が希薄なカナダ生まれということもあるのか、ピーターソンの音楽はとことん陽気。

まずは、ロンドン・ハウスでのライヴ・レコーディング。「ロンドン・ハウス」というとイギリス録音かと思いきや、場所はシカゴ。サイドマンはピーターソンに長年付き従ったレイ・ブラウンとエド・シグペンの黄金のトリオ。「ザ・トリオ」とまで呼ばれただけあって息の合い具合は完璧。ライヴという寛いだ雰囲気の中でピーターソンの魅力が全開です。選曲も「アイ・リメンバー・クリフォード」「枯葉」など良く知られたナンバーで、まさにライヴ名盤と言っていいでしょう。

ピーターソンというと弾きまくる印象が強いですが、ピーターソンが一目置いていた大歌手フランク・シナトラの愛唱曲を弾く「フランク・シナトラの肖像」(Verve)は実に趣味の良いアルバムです。メンバーは例のザ・トリオですが、こちらはパリでのレコーディング。先入観かもしれませんが、演奏全体から醸しだされる雰囲気がどこかお洒落。あまり言及されませんが、これもまたピーターソンの一面を切り取った名演です。それにしても選曲の趣味がいいですねえ。

ピーターソンはヴァーヴ・レコードのオーナー・プロデューサーであるノーマン・グランツに見出されので、彼の主催するJATPで名のあるホーン奏者たちとの共演はお手のもの。「オスカー・ピーターソン・トリオ+ワン」(Mercury)は、クラーク・テリーを迎えたワン・ホーン・セッション。

さきほど、ジャズマンは黄昏感覚というかマイナー調を持ち味とする人が多いと書きましたが、クラーク・テリーは例外。独特の笑っているような陽気なトランペットは、ピーターソンの明るいキャラクターと実に良くフィットしています。

60年代後半、ピーターソンはそれまで長く在籍していたヴァーヴを離れ、当時の西ドイツMPSレーベルに移籍します。これはピーターソンに新境地をもたらしました。それはファンにとっても同じで、とりわけMPSの鮮明なピアノ録音はピーターソンのピアノ・テクニックをよりリアルに感じさせてくれます。「ガール・トーク」はその中でも人気の高かったアルバム。

MPSは好企画が多く、「ハロー・ハービー」は昔の仲間ハーブ・エリスを迎えた快適なギター・カルテット。ピーターソンならではのドライヴ感がエリスの参加で一層魅力を増しています。同じく「顔合わせ企画」の名盤が「リユニオン・ブルース」。こちらはヴァイヴのミルト・ジャクソンを迎えたカルテットですが、ピーターソンのキャラクターに合わせたのか、いつもはブルージーなミルトがのりのりですね。とてもあの「M.J.Q.」と同じ楽器編成の演奏とは思えません。もちろんピーターソンのピアノも絶好調。これもまた折り紙つきの名盤でしょう。

文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)

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