ピアノジャズ、中でもピアノトリオは日本のファンにもっとも好まれるフォーマットだと言われていますが、その理由はわかるような気がします。私もジャズを聴き始めたばかりのころは、聴き慣れた楽器の音色でメロディラインが聴き取りやすく、しかもジャズならではスインギーなリズムが楽しめるピアノトリオが大好きでした。

そして、相当ジャズを聴きこんだベテランマニアも、たとえば「パウエル派」と呼ばれる、バド・パウエルの影響を強く受け、表面的には極めて似たピアニストたちの微妙な個性の違いを聴き分けて楽しんでいます。私などもその口で、ノリが良くいかにもジャズっぽい彼らの演奏が大好きです。

ケニー・ドリューは代表的なパウエル派ピアニストで、初期のアルバムには本当にパウエルそっくりな演奏がありますが、代表作である『ケニー・ドリュー・トリオ』(Riverside)は、彼ならでは個性が発揮された傑作です。聴き所は明るく快適なスイング感と、初めてジャズを聴く人でも楽しめる、わかりやすさでしょう。入門ファンに薦めて間違いの無い名盤です。

同じパウエル派でも、ソニー・クラークともなるとちょっとマニアっぽい雰囲気が漂ってきます。調律された楽器なのに、クラークが弾くと重心が下がって聴こえるのは、不思議なことです。その独特のピアノの音色が醸し出す、ダークな気分がいかにも黒っぽい。『ソニー・クラーク・トリオ』(Time)は彼のオリジナル曲を集めたアルバムで、それだけに彼の個性が十分に発揮された名演集です。重いタッチからくりだされるマイナーな曲想は一度聴いたら忘れられません。

「名盤の影にトミフラあり」などと言われたトミー・フラナガンは、ジョン・コルトレーンの『ジャイアント・ステップス』(ATL)やソニー・ロリンズの『サキソフォン・コロッサス』(Prestige)など、歴史的名盤と言われたアルバムに数多く参加しています。そういうところから「名脇役」と呼ばれるのですが、それは彼の柔軟な姿勢が評価されているからでしょう。

もちろんリーダー作でも素晴らしい作品があり、70年代後半にヘレン・メリルのプロデュースによって録音された『プレイズ・ザ・ミュージック・オブ・ハロルド・アーレン』(DIW)など、彼の思いのほかダイナミックな魅力が発揮された隠れ名盤と言って良いでしょう。

パウエル派で忘れてはいけないのがバリー・ハリスです。地味な存在ですが、一度彼の魅力に開眼すると、サイドマンに入っているアルバムまで探すことになってしまうこと請け合いです。『アット・ザ・ジャズ・ワークショップ』(Riverside)は、ライヴならではのくつろいだ雰囲気の中で、ハリスの快適な演奏が堪能できます。聴き所は名演《ロリータ》の出だしなど、微妙なタメを利かせた絶妙のリズムの乗り方で、この気持ちよさにはまるとなかなか抜け出せません。

パウエル派ばかりが続きましたが、もちろんほかのピアニストも大好きです。中でも一番の大物、ビル・エヴァンスは外せません。スコット・ラファロがサイドに参加している、いわゆるリヴァーサイド4部作はすべて愛聴盤ですが、日常的によく聴くのは『ワルツ・フォー・デビー』と同日録音の『サンディ・アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード』です。抑えの効いた叙情が素晴らしい。

ソロ・ピアノで一世を風靡したキース・ジャレットの作品はみな高いレベルを維持していますが、どちらかと言うと「甘さ控えめ」が『ステアケース』(ECM)の魅力ではないでしょうか。キースのソロ嫌いな方に一度聴いていただきたい名演だと思います。

文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)

USEN音楽配信サービス 「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」

東京・四谷にある老舗ジャズ喫茶いーぐるのスピーカーから流れる音をそのままに、店主でありジャズ評論家としても著名な後藤雅洋自身が選ぶ硬派なジャズをお届けしているUSENの音楽配信サービス「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」。毎夜22:00~24:00のコーナー「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」は、ビギナーからマニアまでが楽しめるテーマ設定でジャズの魅力をお届けしている。

USEN音楽配信サービス ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)

関連リンク

一覧へ戻る