少し内幕話をすると、USENで放送している番組やこういった原稿の作成は基本的に私の経営するジャズ喫茶いーぐるで、営業時間内に作っている。ジャズ喫茶の現場の感覚をそのままお伝えするためだ。とはいえ、ミュージシャン特集など、同じミュージシャンのアルバムが2時間続くときなど、営業時間外に作ることもある。

ところがジャッキー・マクリーンの場合は、2時間マクリーンが続いても、営業に何の差しさわりも生じない。特に、今回お送りするブルーノート時代のマクリーンは、むしろジャズ喫茶らしい濃密な気分を漂わせた時間が心地良く過ぎていくのだ。改めてマクリーンはジャズ喫茶のミュージシャンであることを実感した次第である。

1曲目の、アナログ時代は茶色一色のジャケットが強烈な印象で迫ってきた『ジャッキーズ・バッグ』(Blue Note)は、B面のブルー・ミッチェル、ティナ・ブルックスをサイドに従えた3管セクステットが聴き所。名曲《アポイントメント・イン・ガーナ》はジャズ喫茶のテーマ曲と言っても良い。

続いてブルーノート時代の幕開けを象徴するワンホーンの傑作、59年録音『スイング・スワング・スインギン』(Blue Note)では、プレスティッジ時代の若干くすみ色のアルトの音色に、明るい力強さと艶が加わったことが実感されるだろう。

そして、リーダーこそピアノのフレディ・レッドだが、同じくワンホーンで吹きまくる『ザ・ミュージック・フロム・ザ・コネクション』(Blue Note)は、マクリーン・ファンならゼッタイ外すことのできない必聴盤である。全曲フレディ・レッドのオリジナルだが、この哀愁を帯びた曲想がマクリーンの気分にピッタリなのだ。

あまり取り上げられることはないが、フレディ・ハバードとの2管アルバム『ブルースニク』(Blue Note)のアナログB面は、タイトルどおりブルージーなマクリーンが堪能できる傑作。サイドのフレディもフュージョン時代しか知らないファンには意外な渋い味わいを出しており、マニア好みのアルバムと言えるだろう。

『ティッピン・ザ・スケール』(Blue Note)は、未発表アルバムとして後から出されたためいまひとつ知られていないが、これはソニー・クラークがサイドを務める唯一のワンホーン。もちろん演奏も冒頭の曲を聴いただけでナットクのお買い得盤。

マクリーン・ファンなら先刻承知のことと思われるが、サイド物にも傑作が多い。リー・モーガン名義の『リー・ウエイ』(Blue Note)は、ハードバップ・マニア好みの曲目《ジーズ・アー・ソウルフル・デイズ》、そしてブルーノートのプロデューサー、アルフレッド・ライオンと、彼の相棒であるカメラマン、フランシス・ウルフにちなんだ曲《ザ・ライオン・アンド・ウルフ》が並び、ジャズ喫茶での使い勝手が極めてよいアルバムだ。

そして最後を飾る63年録音の『ワン・ステップ・ビヨンド』(Blue Note)は、ヴァイブのボビー・ハッチャーソン、トロンボーンのグラチャン・モンカー3世を従え、新たな60年代シーン到来を予告する意欲作。いわゆる“60年代新主流派”に近づきつつある時期の演奏だ。

こうして59年から63年に至るジャッキー・マクリーンのブルーノート時代の前半をまとめて聴いてみると、この時期マクリーンは完全に自分のスタイルを確立させ、リーダーでも、サイドでも快調な演奏を続けざまに発表していたことが実感される。まさにマクリーンの絶頂期と言って差し支えないだろう。

文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)

USEN音楽配信サービス 「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」

東京・四谷にある老舗ジャズ喫茶いーぐるのスピーカーから流れる音をそのままに、店主でありジャズ評論家としても著名な後藤雅洋自身が選ぶ硬派なジャズをお届けしているUSENの音楽配信サービス「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」。毎夜22:00~24:00のコーナー「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」は、ビギナーからマニアまでが楽しめるテーマ設定でジャズの魅力をお届けしている。

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