今季は、「生物の体は絶えず新陳代謝を続けており、衣服が人間の体の一部であると捉えるならば、変化できる状態が理想なのではないか」というテーマから構築された。

このテーマを形にするため着物からヒントを得て、長方形のパターンや取り外し可能な機構などのアイデアが取り入れられた。

TYPE−1と名付けられたユイマナカザト考案の衣服システムが採用され、針と糸を使わない特殊な付属により衣服を組み立てるため、何度でも繰り返し素材同士を付けたり外したりすることができる。

そのため、一人一人に合わせてデザインを変化させる事で、1点物のデザインを多くの人に届ける事ができるとしている。

また、劣化した部分のみを交換し、長く使い続ける事ができ、特別な技術がなくても、誰でも服を作る事が可能なため、様々な人が生産者になることも叶えられる。

着る人と作る人の多様性を実現するシステムだ。

素材に関しては、日本のバイオ・スタートアップ、スパイバー社が生み出した人工合成タンパク質である「Brewed Protein TM」が使用された。

これは天然染料による染色が可能かつ形状記憶が可能な素材で、天然由来繊維と石油由来繊維の双方の特徴を持ち合わせた新しい表現を可能にしている。

そのほかにも生地関連の企業の余剰在庫を活用し、水の使用量が少ないデジタル捺染のプリントを施すことで環境に配慮したコレクションとなっている。

デザイナーの中里唯馬はこのコレクションへの思いについて「この半年間、インターネットを通じて世界中から飛び込んでくる様々な事象に心痛め、右往左往し、そして、どうすることもできない無力感に苛まれながらも、そっとスマートフォンを見るのを止めることしかできなかった。ただ、何かを創る手だけは止めてはいけないと、紙とペンでひたすら絵を描き、粘土をこね、古い布を裂いて布を織り、手で染めてみた。デジタル化が急速に進む時代の流れに逆らうように、自らの手で試行錯誤し創り出すことに安心感を抱いたのかもしれない。ふと、このコレクションの色を何色にしようと考えた時に、青い色をつけたいと思った。地球の青である。空や海は青く見えるが、それは現象として青いだけで、海の水に布をつけても青くは染まらない。目には見えているのに、まるで存在していないかのような不思議な存在なのだ。私は、青い服を纏うということは、化身たちが私たちに届けるメッセージを纏っているような、そんな感覚になれるのではないかと考えた。最後に、このコレクションは、役割を与えられなかったデッドストックの素材を集めて制作した。倉庫に眠ってしまう理由は、傷があるものや、多く生産してしまい余ってしまったものまで、様々である。これらの素材は、ものとして素晴らしいにも関わらず、一般的にはなかなか価値を見出しにくい。しかし、視点を変えれば、物事の善悪は入れ替わり、全く別の物に変化することがある。価値が付かないものから、人が美しいと感じるものを創り出したい、そんなチャレンジをしてみたいと思ったのだ。東京のビルの隙間から見える青空から、私はまだ見ぬ青い地球の姿を想像し、そして祈るようにこのコレクションを創っていった。」とコメントしている。

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