フリーマーケットからショールーム、ショップへ
アメリカでショップを開業し、日本への出店はいわば逆輸入の形になる。
「始まりは語学留学でした」と西山育貴さんは言う。
東京のファッション専門学校でデザインを学び、ブルックリンに渡ったのは2008年のこと。
2010年に現在のビジネスパートナーとフリーマーケットでの販売活動をスタートした。
商材は自らシルクスクリーンでシャツを作り、ウェアやバッグなどのビンテージ品を買い付けて揃えた。
共に販売をしながら知識を身につけ、仕入れを引き継いだ。
ウェブ時代の今日、アナログな商売だったが、そのセレクト眼が地元っ子の評判を呼ぶ。
ほどなく買い付けに来るバイヤーも増加した。
翌年にショールームを開業。
「ポロ・ラルフローレン」や「リーバイス」など著名なブランドやセレクトショップにも顧客は広がり、日本のマーケットを知るオーナーが選んだアメリカンビンテージとして、日本のセレクトショップとのつながりもできていった。
ビンテージを軸に培ったBtoCとBtoBの機能を集約し、2013年に出店したのが「フロントジェネラルストア(FGS)」だ。
店名は、アート・文化を集積するダンボ地区のフロントストリートに立地し、アメリカの伝統的な雑貨屋「ジェネラルストア」をコンセプトにしたことに由来する。
アメリカを中心にセレクトしたウェアの品揃えは、1910年代以降のビンテージから最近のものまで常時約4000着。
ジュエリーもシルバーを中心に、ゴールドも約150~200点を揃える。
1点1点を吟味して仕入れ、管理することで、古着とはいえ状態が良いことも支持される理由となっている。
2017年には雑誌『GQ』のウェブ版『GQ.COM(US)』による「世界のベストニューストア25」に選ばれるまでに存在感を高めた。
セレクト×オリジナルで生む「ここだけの価値」
昨年6月、代々木上原の住宅街に出店した「フロント11201」。
「都心からは少し離れた立地と、街のムードにひかれた」と西山さん。
11201の意味を問うと、ブルックリンにあるFGSの郵便番号だと言う。
1階ではレディス、地階ではメンズを展開。
両フロアをらせん階段がつなぐメゾネット構造の店舗は、探索気分でめぐる楽しさを促す。
品揃えはブルックリンの本店と同じラインナップで、ウェアはユニセックスで着こなせるアイテムも多く揃えている。
シルクやコットン、レーヨンなど様々な素材のハワイアンシャツや刺繍入りのウェスタンシャツ、デニムは「リーバイス」501をはじめとするビンテージからポピュラーなブランドまで様々。
メンズでは1940~50年代のレーヨンギャバジン生地で作られたシャツなど必見のコレクターズアイテムも、ぎっしりハンガー陳列された中に潜んでいたりする。
アメリカに本店があるため現地仕入れにより日本から買い付けに行くコストを無くし、全体としてリーズナブルな価格設定になっているのも特徴だ。
アイウェアも、ハンドメイドの仏ブランド「ジジファッツィ」、フランスのビンテージフレームの世界観を再現した鯖江製の「ギュパール」など心憎いセレクトとなっている。
- レディスとジュエリーを提案する1階売り場
- らせん階段を降りるとメンズのビンテージウェアが展開されている
- フランス製のハンドメイドなどアイウェアも見逃せない
- 階段下のスペースを活用したフィッティングルーム
他の古着ショップと一線を画しているのは、こだわりのオリジナル商品。
「ビンテージでは手に入らなくなったアイテムをモチーフに作り込む」と、アメリカンビンテージのテイストで、商品としてのクオリティーを高めている。
肌触りの滑らかなヘビーウェイトコットンのTシャツやタンクトップ、リーバイス519やラングラーのランチャーのシルエットが魅力のデニムパンツ、世界でも希少になった吊り編みのスウェット、絞り染めのソックス、両面染めのバンダナ、さらにキャンドルなどのライフスタイル関連アイテムも……。
ウェアから小物・雑貨まで、ベーシックなデザインながら、その背景を知ると愛着の深まる創意が注入されている。
- ヘビーウェイトコットンのオリジナルTシャツ
- ビンテージモデルのイメージをメイド・イン・ジャパンで作り込んだデニム
- 吊り編み機を残す工場と共に作ったカットソー
- ソックスやバンダナ、トートバッグなど身の回りの雑貨もオリジナルを揃える
- 自然の香りを楽しめるオリジナルのアロマキャンドル
ジュエリーは常時300点超、必見のラインナップ
1階で提案しているジュエリーは、ウェアと並ぶフロント11201のもう一つの顔。
ブルックリンのFGSがインディアンジュエリーを中心としているのに対して、フロント11201ではメキシカンジュエリーを中心に日本のトレンドを反映した商品構成になっている。
とはいえ、その数は常時300点超。
木とガラスで作られた欧米製のアンティークショーケースに整然と並ぶネックレスやブレスレット、リングはデザインも多様で、女性はもとより男性にも十分な選び応え。
シルバーをメインに1~3万円代中心とリーズナブルなのも嬉しい。
またゴールドジュエリーは、今は日本であまり作られていない14kを中心に揃え、「ギラギラしていない、落ち着いた色味が人気」。
オープンして1年余り。
分かりづらい立地ではあるが、「カップルでの来店が多く、北海道など遠方から同店を目指して来るお客様もいて、リピートが多い」と言う。
ファッション関係者の注目も熱く、「現時点で対応可能な範囲で卸も行っている」。
また今年7月には渋谷パルコでポップアップショップを出店し、注目を集めた。
今後、日本にどう根づいていくのか、楽しみなショップだ。
写真/遠藤純、久保雅裕、フロント11201提供
取材・文/久保雅裕
- 多様なデザインのシルバージュエリー。アンティークのショーケースがビンテージ感を高める
- ゴールドジュエリーは輝き過ぎない落ち着いた色味が人気
- 7月に渋谷パルコ1階にポップアップストアとして出店した。
- 普段接することの少ない若い客層とのタッチポイントになった渋谷パルコのポップアップストア
FRONT 11201(フロント11201)
東京都渋谷区元代々木上町21-9 SILHOUETT104
info@front11201.com
営業時間:平日13:00~19:30、土曜13:00~20:00、日曜12:00~19:00
※最新スケジュールはInstagramで確認してください
久保雅裕(くぼ まさひろ)encoremodeコントリビューティングエディター
ウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長。杉野服飾大学特任教授。繊研新聞社在籍時にフリーペーパー「senken h(センケン アッシュ)」を創刊。同誌編集長、パリ支局長などを歴任し、現在はフリージャーナリスト。コンサルティング、マーケティングも手掛ける。2019年、encoremodeコントリビューティングエディターに就任。