日本の美意識をコンセプトに、独自のスタイルを発信し続けている服飾ブランド「matohu(まとふ)」。

その創作を追ったドキュメンタリー映画『うつろいの時をまとう』が2023年3月25日より、渋谷のシアター・イメージフォーラムほか、全国順次公開することが決定した。

時の記憶を、どう服ははらんでいくのか。

季節、風景、ことば、匂い、手触り、視点。服を創るということ、服を着るということを記録したアートドキュメンタリーとなっている。

本作は、まとふデザイナーの堀畑裕之と関口真希子の視点やその哲学を通して、日常の中に潜む美と豊かさを再発見していくドキュメンタリー。

まとふは「日本の眼」というタイトルのもと、「かさね」「ふきよせ」「なごり」など日本古来の洗練された美意識を表す言葉をテーマに2010年から2018年までの各シーズン、全17章のコレクションを発表してきた。

デザイナーの堀畑裕之は大学でドイツ哲学を、関口真希子は法律を学んでいたが手仕事や服作りへの思いからファッションの世界に飛び込む。

堀畑はコム デ ギャルソン、関口はヨウジヤマモトでパタンナーとしてキャリアを積む。

そして2005年にブランド「matohu(まとふ)」を立ち上げ、彼らは「長着」という独自のアイテムを考案した。

着物の着心地や着方の自由さから着想を得ながら、今の生活に合わせた形で作り出されたモダンなデザインの服である。

2018年、まとふは「日本の眼」最後のテーマとなる「なごり」コレクションの制作に取りかかり、伝統的な技術を持つ機屋や工房と協業しつつ、テキスタイルを作り上げていく。

堀畑と関口はアトリエで激しい議論を繰り返しながら妥協することなくデザインを完成させ、そしてファッションショーの日を迎える。

身近な風景や物から得たインスピレーションを、「ことば」に変えて服に昇華していく。たったひとつの「ことば」から形となって現れた服は、着る者の想像力をかきたてる。

二人の創作から見えてくるのは、日本人が長い歴史の中で育んできたものの見方であり、普段は見過ごしてしまいがちな足元の美を見つける心。

大量消費、情報過多の時代に、本当に大切なことは何か、 本当に必要なものはどこにあるのかを考えさせられる。

気鋭の服飾デザイナーのクリエーションを通して、日常の身近な気づきに出会う旅へといざなう、静かで豊かな発見に満ちたファッション・ドキュメンタリーとなっている。

監督を務めるのは、『躍る旅人‐能楽師・津村禮次郎の肖像』(2015)など、伝統芸能をテーマにコミュニケーションと身体のありようを描き続けてきた三宅流(みやけながる)。

今回新たに「ファッション」という分野に挑んだ珠玉の1本だ。

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