──今回のAkusaさんとクボタカイさんの3人はグループ名を渋谷音楽製作所と言っていいのでしょうか?

「この名前のきっかけはMCバトルでした。昨年、『戦極MCBATTLE 39 YOKOHAMA -TEAM OF 3on3-』にこの3人で出演した時に、渋谷でよく飲んでいたって(笑)だけなんですけど、“じゃあ渋谷って付けて音楽っぽい感じの名前にしよう”という感じでこの名前になったんですけど…そう呼んでもらって大丈夫です(笑)」

──それぞれ普段はソロ活動をしている3人が一堂に会したのはそのMCバトルがきっかけですか?

「そうです。元々仲は良かったんですけど、がっつり一緒に何かイベントに出るきっかけはMCバトルでした。僕とクボタが出ることは決まっていて、“3on3のあと一人、誰にする?”となって、“じゃあいつも一緒に飲んでいるAkusaでいいよね?”ってAkusaを誘いました。その流れもあって以前から言ってはいたんですけど“EPも作ろうか?”という話になりました」

──改めてRin音さんから見たクボタさんとAkusaさんはどんなアーティスト/ラッパーなのか教えてもらえますか。

「クボタカイは音楽的な面で言うとリリックが文学っぽくて、独自の視点で表現しているのがすごく面白いです。“そのシチュエーションでそこを見てるんだ”とか、“そのシチュエーション伝えるためにそういう道具とか名詞を使うんだ”というのは毎回ハッとさせらます。でも、人間性としては引く程ポンコツというか(笑)、本当に救いようがないです。沖縄にMV撮影に行くことになって、東京から沖縄に行く段取りだったんですけど、まず羽田に遅れて来て。飛行機が遅れていたから乗れたものの、乗り込んだ先で“携帯電話の落とし物があります”ってアナウンスが流れて(笑)、まさかと思って隣を見たら“携帯がない!”と言っていて…それがクボタのでした。迷惑をかけずに生きる方法知らない(笑)、そういう人間です。そういう意味では愛されキャラというか可愛らしい人間だと思うんですけど」

──Akusaさんは?

Akusaは音楽の面で言うとラップの技術であったり、僕にない発声のパワーとか声の力は強いものがあると思います。同じようなフロウだったりメロディを僕が使ってもここまでパワフルにはできないです。人間的にも多分、3人の中で一番しっかりしていると思います。見た目はすごくファンキーですけど(笑)、一番しっかりしていて優しさがある人間なので尊敬しています」

──昨年、渋谷音楽製作所の自己紹介的な配信シングル「SHIBUYA MUSIC LABO」をリリースした後はどういう感じだったんですか?

「“次はEPを作ろう!”という話があったわけではないです。作品を作る時に、誰かとフィーチャリングしてやる場合、僕はその人の方に入ることはあっても、自分の作品でがっつりそれをテーマにしてやることが意外となくて。だから、そっちに重きを置いて作るEPも面白いと思って、まずは仲のいい友人とやってみたくて一緒にやり始めた感じです」

──Rin音さんのソロはポップミュージックとしての完成度がどんどん高くなっていって、それはソロならではの方向性だと思いますが、今回のEP『HATAKE』は“グループって楽しそう!”という第一印象です(笑)。

「ハハハ。そうですね。個人的にも使い分けている感覚はあって、ソロ曲は、どれだけ作り込んだ世界観を見せられるのかが試せるというか…チャレンジできる部分ではありますし、人をコントロールして“ああしてこうして”としなくていいので、とにかく自分の作りたい世界を作るように向き合っています。でも、今回のEPはもう各々持っているありのままの世界観をそのまま出せるかどうか?みたいな。そういう意味ではラフに取り組んだので等身大です」

──グループ的になることで書けるリリックとかテーマも変わってくるのでしょうか?

「これだけお互いの私生活も知っていたり、恋愛の様子とかを知っていることもあって、友だちではないアーティストさんとコラボするときよりももっと各々を細かく描写できるテーマにポイントを当てて作れたので、そういう意味ではマイクリレーにはなってないと思います。それなのに楽曲として完成された世界観を出せているのはやっぱ相性はいいんだと思います」

──Rin音さんのバックボーンの1つにRIP SLYMEとかがあると思いますが、そういう日本語ラップや洋楽のラッパーからのリファレンスはありましたか?

「今回はどうかな?…でもそういう意味ではいわゆるローファイヒップホップみたいな、僕が原点として始めたものでその頃に聴いていたものでいうと唾奇さんであったり、もちろんRIP SLYMEさんもそうですけど、アングラカルチャーにある僕が好きだったポップな部分もリファレンスにはしています。今回、特にそこは意識しました」

──1曲目の「サニーレタス」からしてもうティーンエイジャーの夏休みチューンの感じがあるので、皆さん、実年齢より振り返っているのかもしれないですね。

「そうですね。確かに中身的にはかなり若い焦点で書きました」

──今10代の人に向けているのか、それとも10代のマインドで書いてみたかったのかで言うと、どちらなんでしょうか?

「それで言うと、その景色をやっと達観できるようになったというか…少し前の僕だったらビーチにいる自分からの感情でしか見えていなかったと思います。自分以外のところで起こっている出来事を振り返ってみて、“ちょっとこれ面白いよな”とか“これ、あるあるだよな”って、どこに僕は感じるのかを落ち着いて考えられるようになったのはここ最近な気がします。シンプルに疲れです(笑)」

──当事者意識が“しんどすぎる”ということですか?(笑)

「本来、僕も楽しいですよ。“友だちがナンパしてる”とか全然楽しいですけど、だんだんこう疲れてきまして(笑)。そういうシチュエーションを一旦“やめたい!”とかではないですけど、シンプルに“ややこしいことやめよう”みたいな(笑)、そんな感じです」

──そこから始まる恋愛模様というよりは夏の景色を作家的に見ているのでしょうか?

「そうですね。“夏、こういう場所で何が起こっているのか?”という視点から曲を聴いた時に“あ、夏だな”って思ってもらえるかどうかみたいな。だからタイトルの「サニーレタス」も、普通に野菜ですけど、“サニー”は太陽的な意味合いですごくキラキラしていて、レタスはみずみずしいですし(笑)。この単語ってすごく夏っぽくて、そういうニュアンスを突いて夏を表現したくて…やっぱり夏って、花火とか水着とかプールとかを書きたくなるじゃないですか。だけどそうではないところから夏を表現したくて「サニーレタス」にしました」

──3人のキャラクター設定も効果的ですね。

「基本的にデフォルトで3人バラバラなキャラクターなんです。根本は似ていると思うんですけど、それがどう向くか…僕は割と今流行りの冷笑?(笑)的な感じのポジションが多くて。Akusaはパリピ系のイケイケのタイミングにイケイケできるタイプ。で、クボタカイは常に不思議なんですけど(笑)」

──不思議というか…時々落ち込んだりしながらロマンチックにもなったりしますよね。

「はい(笑)。でもそれを全部一人でやっているんです。一切僕たちを巻き込んでくれないので(笑)。“何してんだろ?こいつ”というキャラクターなので、そういう意味でも変にキャラクターを作らずともキャラ分けができちゃってるところはあります」

──「トトノウ」のテーマもRin音さんですか?

「そうです。「トトノウ」はもともと僕のソロで作ろうと思っていたトラックでした。1ヴァース目を書いたときにサウナと自分の人生観を絡めながら表現したいと思っていたのが割とバシッと決まったので、2バース目も自分で書くと少しダレそうだと思ったので、このEPを作るタイミングでAkusaにお願いしようと思って頼みました」

──サウナに限らず“整う”という概念が一貫していますね。

「“整”という単語はもちろんサウナが最初に浮かぶトピックだと思いますけど、それ以外に整理整頓もそうですし、自分の心の中の問題もそうですけど、“整った状態”ってすごく気持ちがいい状態なので。曲のキーワードとして耳に入ってくる感じも、トラックのテイストとも相まって重くないから良かったです。派手に聴こえる言葉とか強いラップはあまりしたくなかったですし、BGMになるような曲をイメージしました」

──Akusaさんのヴァースはまんま移動記録ですね。

「そうですね。福岡に来たタイミングにアホほど飲んでサウナに入ったっていうだけの(笑)、歌詞なので“俺の1ヴァース目、聴いた?”っていう。でもそれはそれで面白くて。僕は福岡に来た時のAkusaを見ていたので、歌詞に何一つ嘘がないと思いましたし、それもある種ヒップホップに求められるリアルが詰まっていて面白かったです」

──飲みの話が続きますね…「三軒目の本音」もそうですし。

「この3人が集まると飲んでるんでしょうね(笑)。思い出がもう全部そうですから」

──付き合いの長いRin音さんとクボタさんのリアルすぎる三軒目って感じがします。

「ハハハ。ほんとうですよね。多分このEPの中で唯一と言ってもいいくらい、シリアスなテーマも扱っていると言うか…。最初はそれこそ“大学生が”とか、“若さ”みたいなことところでやっていたけど、だんだんと歳をとって思った以上に音楽を主体に生活をするようになって、その中で感じる漠然とした不安感とか、もちろんわくわくもあって。いつだってポジティブだけど少しネガティブになってしまうようなシーンが「三軒目の本音」には詰まっています。紆余曲折しながら音楽友達に“どうしたらいいかな?”みたいな相談をしたり、そういう描写も入れて本当にありのままを書いた感じです」

──それこそ、初期にお2人とも“それはヒップホップじゃねーよ”みたいな言われ方をして、そういう時も通り越した今というか…。

「不思議と、最近はそう言われなくなりましたよね。そういう意味ではあの頃は当事者すぎて達観して見れなかったですけど、そういう悪口の中に“ガキ向けのラップ”みたいな意見もあったけど、今はどちらかというとアンダーグラウンドなヒップホップを若い子たちが聴いていますし、どちらかというと僕のお客さんは僕より年上の方もかなりいて。別にそのガキ向けのラップが悪いとかではなく、達観して見たら“そうでもないな”、“事実と違うな”と思えるようになったので、あまりそういうことを言われても喰らわなくはなりました」

──手段としてラップを使っている人がたくさんいるだけに、そこから抜けていくのか、それともそれを続けていくこと自体が大事なのか、を感じる曲ですね。それもあるのか、結論を急がずに曖昧にしておこうというリリックがいいですね。

「そうですね。“考えないでやりたいことをやろうよ”というニュアンスでもあると思いますし。考えている時間がもったいなくはないと思うんです。もったいなくはないですけど、それ以上に自分が望む理想を叶える手段があって、それをやった方がいいかもしれない。そんなぼやっとしたポジティブな考えだと思います。一見ネガティブそうに聴こえますけど、何よりも最終的にポジティブな考え方なんだと思います」

──楽しいだけのEPではないんですね。

「(笑)。ここがね、一番重いところなので」

──そしてラストの「マチウケ」です。この待ち受けは一体誰だったのか?って素朴な疑問が湧いてきます。<ミワサン>って“どのミワサン?”って。

「ミワサンですよ、あの金運が上がると言われる(笑)。確か中学くらいの頃に男の子2人女の子2人で映画を観に行ったんですけど、その頃、ギリ、ガラケーで。で、好きな女の子のガラケーの待ち受けがミワサンだったんですよ(笑)」

──微妙な感じですね(笑)。

「“あ、お金欲しいんだ”と思って(笑)。いや、まあ欲しいですよ、僕も。僕たちの世代では金運の象徴の画像だったので(笑)、“やっぱそうか、お小遣いが足りない時あるよな”と思ったんですけど、なんか恋愛中の相手のディティールに妙にリアルを感じた瞬間というか…。中学生だから想像の女の子でしかないから、“すごく可愛い”としか想像していなかったです。顔もそうですし、“服、可愛いな”とか“所作が可愛いな”とか、“すごいいい匂いするな”みたいな(笑)とかしかなかったんですけど、唯一、待受がリアルでした(笑)」

──こういう曲のリリックは、“そういうことあったの?”ってお互いに笑えそうです。

「これ、クボタカイの歌詞が特になんですけど、<クラス1の美女が自分に惚れたことが 分かった瞬間になんかすごく冷めた>ってあるんですけど、その好きな人ランキングの3位にいただけなんですよ、クボタカイって。“いや、惚れてないんじゃない?”と思うその自意識の感じがめっちゃクボタで(笑)、すごくおもろかったですし、Akusaは小学生の頃から奇想天外な人生をやっていて」

──奇想天外以上にハードな展開もありますね。

「ハードなんですよね。<高校の時の彼女はパンティー 同級生に売ってたよ>って、聞いたことない角度の経験談です。“強烈だな”と思いましたけど、“まあ、もういいんじゃない?”って思いました(笑)」

──“そういうことがあったよね”って話している、或る日の3人なんですね、この曲は。

「そうですね。過ぎた話だから別にそんな深く考えることでもないですけど、“ちょっと気になってること”ってあるじゃないですか。そういう思い出が詰まっている曲なんだと思います」

──ソロと違うアウトプットがある意義としては?

「“この方向の歌詞も書けるんだ”という発見もありましたし、“このニュアンスを増やした自分のソロもあってもいいかも”と思いました。もちろんバランス感覚を都度確かめながらですけど。そういう意味で発見もありましたし、確実に以前やっていた頃のラップよりクオリティが上がっている気もしますし、上げられている気がするので、そういう気づきはありました」

──ちなみにこの謎の『HATAKE』というEPのタイトルですが…。

「はい(笑)。“同じ畑”みたいな表現をするじゃないですか。似たようなジャンルをやっている系統みたいなことと、サニーレタスみたいな野菜が取れる場所が掛け合わさって“畑”というテーマが出て、それを使っています。でも、“深い意味があるのか?”と言われてもそれくらいしかないです(笑)」

──今は、あまりジャンルにこだわって曲を作ったり聴くことはないと思いますし、特にこの3人のことを言う時、似た畑としか言えないかもしれないですね(笑)。

「そうなんです。僕が今やっている音楽は何のジャンルなのか未だにはっきり分かっていないです(笑)。音楽番組を見ていてもどんどんどんどん聴いたことがないジャンルが出てきて、“お肉の部位?”、“そこも名前ついてるんや?”みたいなのがたくさんあるので、もうざっくりでいいですよね(笑)」

──そして7月、8月には東京と大阪で『Rin音,Akusa,クボタカイ THREEMAN LIVE』も開催されましたが、また3人でのMCバトルも見て見たいです。例えばストロングスタイルのバトルでクボタさんが機転の利く子供みたいな登場の仕方をしたり(笑)。

「ハハハ! 機転の利く子供ですね、確かに(笑)。僕はバチバチになったらバチバチいくタイプなので揉めるんですけど、その横でクボタは前転して地面に背中打って“うっ!”って言っていたようです(笑)。“何してるの?”みたいなことを全然するので」

──でも、そのことによって謎のパワーを生みますよね?

「なんなんですか?クボタのあのパワーって。でも、確実にあいつが生んでいるパワーってありますよね(笑)」

(おわり)

取材・文/石角友香

RELEASE INFORMATION

Rin音, Akusa, クボタカイ『HATAKE』

2026年78日(水)配信

Rin音, Akusa, クボタカイ『HATAKE』

Rin音 関連リンク

一覧へ戻る