最高級の素材を開発し、「完璧な日常着」をアップデートし続ける
サンスペルは1860年に英国ノッティンガムに創業。ストッキングやソックス、アンダーウェアを生産する工場としてスタートしたが、初代トーマス・A・ヒルが目指したのは最高品質の素材を使った日常着を作ることだった。良質な原材料を求めて世界中を訪ね、最新の素材を開発。彼のビジョンは1890年頃には実現され、最高級のカシミヤやメリノウール、シルク、コットンによるラグジュアリーなオリジナルの日常着を英国はもとより、グローバルに供給する工場へと成長を遂げた。
後にサンスペルを象徴する素材となるシーアイランドコットンが加わったのは、20世紀初頭のこと。当時も希少だった最高品質のカリブ産シーアイランドコットンを輸入し、製造したのはTシャツだった。シンプルなデザインで、従来のアンダーシャツよりも軽量かつ涼しいトップスに仕上げ、世界最高級のTシャツとして特に暑い気候の国々で人気を集めた。シーアイランドコットンにはこだわりが強かったのだろう、シーアイランドコットン社を名乗った時期もあった。その生育に適した雲から晴れ間が覗く天候を意味する「sunny spell」を略して、社名・ブランド名を「SUNSPEL」に改めたのは、1935年のことだった。
2年後にはロングイートンに工場を移設し、生産力を向上。この工場では今も、超長繊維スーピマコットンのみを使った最高級Tシャツ「クラシックTシャツ」が手仕事により生産され、そのタグには最終検品を担った職人の名が記されている。
アメリカで普及していたボクサーパンツを英国に紹介したのもサンスペルだった。当地を旅行中にその存在を知った創業者の曾孫ジョンは、基本的な形状を生かしつつ、バックパネルを追加、縫い目を平らにして滑らかさを向上させ、生地に最高品質の長繊維コットンを使うことで穿き心地を格段に高めた。ラグジュアリーなアンダーウェアへと進化させた「ブリティッシュ・ボクサーショーツ」として1947年に英国で発売した。しかし、ブリーフが主流の英国気質は根強く、日の目を見たのは実に38年後。「コインランドリー」を舞台にしたリーバイスの85年のテレビCMがきっかけだった。女性たちでいっぱいのコインランドリーに現れたのは当時の人気モデル、ニック・ケイメン。彼は女性たちを気にすることもなく、1枚また1枚と服を脱いではランドリーに入れていく。最後にリーバイスのジーンズを脱ぐと、女性たちの目の前に現れたのは、サンスペルの白いボクサーショーツだった。このCMが放映されるや、ボクサーショーツは英国のみならず世界でブレイクし、サンスペルの定番アイテムへと育っていった。現在はシーアイランドコットンでも生産されている。
ポロシャツもサンスペルのフィルターを通すと、クワイエットラグジュアリーな一着へと昇華される。「リヴィエラポロシャツ」は、地中海の灼熱の太陽の下でも快適に涼しく着られるアイテムを目指して開発され、50年代に発売された。2006年に公開された映画「007 カジノロワイヤル」で初めてジェームズ・ボンドを演じることになったダニエル・クレイグの衣裳制作を依頼されたサンスペルは、リヴィエラポロシャツをモダンクラシックなデザイン、スリムフィットなシルエットへと再構築。生地の原材料にはカリフォルニアの単一農場で栽培された最高品質のスーピマコットンを使い、ノッティンガムの伝統的なレース編機でメッシュ素材へと編み上げた。通気性が良く軽量ながらソフトな肌触りのメッシュ素材は、このポロシャツの特別な魅力の源だ。007モデルのリヴィエラポロシャツは商品としても販売し、今日までロングセラーを続けている。リモデルから20年を迎えた今年はスペシャルモデルを展開中だ。
「ループバックスウェットシャツ」は、サンスペルのアイテムの中で比較的新しいアイコン。スウェットシャツをベースに、生地やカッティング、ディテールを見直し、シンプルなシルエットにサンスペルらしい美意識と技術を凝縮した。首元にはV字ガゼット、ネックや袖口、裾にはリブを施し、アスレチックウェアとしてのスウェットのディテールを踏襲しつつ、洗練された一着へとアップデート。ボディの裏側に上質なコットンによるループを編み込んだ生地を配すことで、着用時の肌当たりを滑らかにし、保温性と通気性を両立した。25年に公開された映画「F1(エフワン)」で主演のブラッド・ピットが着用すると人気が再燃、新たなサンスペルファンを増やしているアイテムだ。
英国以外で初めて海外展開した日本に、次の成長を目指す直営拠点
アンダーウェアの製造に始まったサンスペルだが、日常着の分野でアイコンアイテムを生み、さらに完璧にするためにアップデートを重ねながら、最上級のカジュアルファッションのトータルブランドへと成長を遂げた。単一農家での原材料の栽培に始まり、編み、織り、染め、縫製といったサプライチェーンの全ての工程で環境や倫理に適う方法を採用し、透明性を維持するなど、現代に通じる社会課題を解消する仕組みも早くから構築してきた。世紀を超えて築いてきた服作りの基盤の上に、10年から本格化したのが直営店の展開だ。
日本市場におけるサンスペル商品の販売は並行輸入に始まった。その後、セレクトショップのビショップがライセンスを得て同社の店舗を軸に販売し、ブランドの単独店舗も出店。15年にはTSI傘下のアングローバルが日本における輸入・卸・小売り・ライセンスの独占契約を結び、16年春夏シーズンから22-23年秋冬シーズンまで店舗展開も含めブランドを運営した。この間、英国本社は本国に直営店を広げてリテールを強化し、アメリカにも出店。小売りのノウハウを積み上げる中で、販売実績のある日本でより顧客に寄り添った提案・対応に向け、22年にジャパン社を設立し、23年春夏シーズンから自らブランドを運営してきた。その拠点として今年3月5日にオープンさせたのが、日本初の直営店であり、アジア初の旗艦店と位置づける「SUNSPEL OMOTESANDO(サンスペル表参道)」だ。出店に寄せてラウル・ヴェルディッキCEOは、「日本は英国以外で最初に展開した重要な市場であり、今後の成長においても欠かせない存在」とコメントしている。
表参道店は世界では17店舗目。リニューアルオープンした商業施設「原宿クエスト」の1階に立地する。天然素材を最重視するブランドの哲学を反映し、什器や床に自然木を多用してナチュラルで洗練された空間を創出した。「サンスペルの店舗は本国のデザイナーがデザインし、各国・地域のカルチャーを踏まえ、ディスカッションしながら仕上げています。全店舗が基本的なデザインは同じでも空間の構造や調度などが少しずつ異なる」と、セールスマネージャーで表参道店長の熊崎光さん。売り場面積は約80㎡。ガラス張りの正面エントランスを入るとメインの売り場が広がり、右側に伸びる通路は階段へと続き、店奥の扉に通じている。もともと店奥は壁面で、扉は装飾としてあったが、新たに階段を設けることで空間に奥行きを増し、2方向からの出入りを可能にした。階段の壁面にはアーカイブのTシャツやアンダーウェア、英国の工場における服作りの写真、ニットの編み立てに使われた指示書などがギャラリーのように展示され、ブランドヒストリーに触れることができる。
エントランスを入ってすぐの売り場
店奥へと伸びる通路にもカラフルなウェアが並ぶ
階段の壁面にはプロダクトのアーカイブなどを展示
商品は、メンズウェアはシーズンコレクションのフルラインナップ、ウィメンズウェアは一部アイテムを集積し、男女とも定番アイテムも品揃えする。「これまでポップアップストアも展開してきましたが、紹介できるアイテムは自ずと限られます。そのため日本ではTシャツやアンダーウェアのブランドという認識がまだ一般的なんですね。海外ではトータルファッションブランドとして浸透しています。サンスペルの世界観を見せることで、日本市場での認識を変えていきたい」と熊崎さんは話す。
日本では欧米店舗よりもカジュアルなスタイルをビジュアル表現
ブランドの世界観を発信していくに当たって、重要な役割を担うのがVMDだ。サンスペルのVMDは本国が計画し、大きくは春夏と秋冬、各プレシーズンの4シーズンで構成する。ただ、「品揃えは全店舗が同じように変化していくのですが、表参道店は欧米の店舗よりもカジュアルなスタイルを前面に出しています」と熊﨑さん。「欧米ではレストランやホテルなど様々な場でドレスコードがあるため、店舗でもスーツとか、ジャケットとパンツのセットアップにポロシャツを合わせるなどフォーマルなスタイルを打ち出しているんですね。一方、日本はビジネスシーンでもライフスタイルにおいてもカジュアル志向が強まっているので、よりリラックスしたスタイルのVPを組んでいます」。
また、サンスペルのアイテムはベーシックでタイムレスなデザインに施されたカラーバリエーションが魅力。その見せ方の軸としているのが、シーズンごとに設定した「フォーカスカラー」だ。旬のカラーのアイテムが目に留まりやすく、手に取りやすいようレイアウトし、他のカラーとの比較もしやすくハンガー陳列されている。オープン時の春夏シーズンはベージュ、盛夏にはグリーンと水色を打ち出し、秋口からはベークライトを軸とした茶系へとシフトしていく。「ある色のアイテムが売り切れると、また別の色が入るので、2カ月ほどで見え方がかなり変わる」ことで、売り場の鮮度を維持している。
取材時は夏物を展開しながら、徐々にプレフォールのアイテムが入荷し始めていた。注目は、今春夏に投入した新素材。「シルクコットンTシャツ」は、イタリアの専門紡績業者と密に連携して生み出したマルベリーシルク62%、スーピマコットン38%の混紡糸によるジャージー素材を使い、ロングイートンの自社工場でシルクの光沢とドレープ、滑らかさ、コットンの柔らかさと耐久性という、それぞれの魅力と特性が共存するアイテムに仕上げた。「これ以上は無いと思えるほど肌触りが良く、洗濯機で洗えるのもの大きな魅力」で、テーラードスタイルにも馴染む上品なTシャツだ。
今秋冬シーズンの推しの一つは「シーアイランド カシミヤ」シリーズ。その名の通り、世界最高級のコットンであるシーアイランドコットンと世界最高級のウールであるカシミヤを混紡し、ライトで柔らかく、唯一無二の滑らかな肌触りの生地へと昇華させた。「従来のサンスペルのカシミヤ製品は生地が厚く、日本で着ると暑いんですね。薄くてジャケットの下に着られるようなアイテムを要望し、コレクションに加わったのがシーアイランドコットン85%、ベビーカシミヤ15%のアイテム」と熊﨑さん。クルーネックジャンパー、ポロシャツの2型を展開し、いずれも1枚で決まるのはもちろん、薄手なので重ね着しやすく、夏以外の3シーズンに着られるのもうれしい。
冬に向けてはセーターも推す。「メリノウール バスケットウィーブニット」は、イタリアで紡績したエクストラファインメリノウール製のニットセーター。編み柄はアーカイブのメッシュ素材から着想し、中厚手のバスケット編みにより柔らかな風合いと奥行きのある表情を生み出した。リブ編みの襟元、袖口、裾がすっきりとしたシルエットを引き立て、メリノウールならではの優れた通気性と快適な着心地を実現した一着だ。
試着でアイテムの魅力を体感し、複数買い、リピートに
サンスペル表参道はオープン以降、40代を中心に20~60代程度まで幅広い世代の客層を確保し、日本人客が6~7割、外国人客が3~4割で推移している。メンズウェアの品揃えが大半なことから男性客がメインだが、女性の購入客比率も10%以上を占める。メンズのアイテムを自分用や父親などへのプレゼント用に購入する、10年以上着ているというサンスペルの服を持参し、同じものを求めて来店する女性客も少なくない。
ウィメンズウェアの品揃えは全体の10%ほどだが、女性客を一定確保していることには理由がある。メンズトップスのサイズ展開がシーズンコレクションはXSから、定番アイテムはXXSからXXXLまでマックスで8サイズと充実し、小さいサイズはユニセックスで着られる。パンツは28~38サイズ、レングスも32と34から選べるよう品揃えされている。
サイズに加え、Tシャツひとつをとってもクルーネック、Vネック、モックネックなど様々で、それぞれに太さや編み方のバリエーション、素材やカラー展開も充実し、客には個人的な好みや望むスタイルもある。それゆえ男女ともに試着が多く、「着てみると微妙なフィット感の違いを体感し、結果的に何枚も試してから購入されます」。一人ひとりの在店時間は長くなるが、Tシャツやポロシャツ、アンダーウェアなどは初回来店時に自分に合うサイズが分かると、次回からは色違いを購入したり、ECで注文したりとリピートする傾向が強い。
複数買いが多いこともサンスペルの特徴だ。訪日外国人客が「現地で買おうと思っていた」と手ぶらで来店し、自身のサイズのアンダーウェアを店舗にあるだけ購入することも珍しくない。日本人客も「1枚を選んで買うという感覚ではなく、日常に着るものを買い足すという感覚」と熊﨑さん。そのためサンスペルの接客では『どちらになさいますか』は無く、『何枚ご入用ですか』と最後に言い添える。「お客様は自身の日常に合う枚数が必要なのだから、私たちが決めてはいけない。そうした接客スタイルを身につけ、商品の知識や服作りの背景などを学び、正しく伝えていくため、研修や日々のトレーニングを徹底しています。なぜお店はあるのかを一人ひとりの販売スタッフが理解し、お客様に相対するという考え方です」。表参道店を含む最新の店舗ではレジカウンターを設けていないのも象徴的だ。来店客との境界を無くし、同じ目線でのコミュニケーションを通じてブランドや商品の魅力を分かち合うという姿勢が垣間見える。
英国の店舗ではTシャツのビスポークサービス、アメリカの店舗ではウイスキーを味わいながら買い物ができる「ウイスキーナイト」なども実施し、顧客との関係性を深めているという。だが、表参道店ではあえて、当面はシーズンコレクションと定番からなるMDに集中し、「Tシャツやアンダーウェアだけではないサンスペルの世界観をしっかりと伝えていく」と熊﨑さん。「オープンしてからは、顧客様にも『サンスペルって、こんなにいろいろなアイテムがあるんだ』と驚かれることが多く、初めてサンスペルを知ったお客様もたくさんいます。今後の出店も見据えながら、イベントなどに頼らず、品揃えと接客という素の状態で日本における旗艦店の基盤を固めていきたい」としている。
写真/野﨑慧嗣、サンスペル提供
取材・文/久保雅裕

久保雅裕(くぼ まさひろ)encoremodeコントリビューティングエディター。ウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長。元杉野服飾大学特任教授。東京ファッションデザイナー協議会 代表理事・議長。繊研新聞社在籍時にフリーペーパー「senken h(センケン アッシュ)」を創刊。同誌編集長、パリ支局長などを歴任し、現在はフリージャーナリスト。コンサルティング、マーケティングも手掛ける。2019年、encoremodeコントリビューティングエディターに就任。
